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吸血鬼バルド7

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  オリジナル バルド×クラウス
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  残虐シーン、血が苦手な方はスルーお願いします
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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喉が渇く。
体にこびりつき、ローブに染み込んだ血の匂いに刺激され、
身体が血への渇望に支配される。
ノウエルの街で浴びた血ーーー。
喉が、渇く。
自分の手首を噛んでみる。
赤い、紅い、血が蝋燭の柔らかな明かりに艶を濃くして
白い肌を滑る。滑る。滑る。
血潮に染まった手首に真紅の唇をあてる。
ああ、やはり駄目なのだ。
人の、ひとの、ヒトの血でなければーーー。
ノドガ、カワク。
手首の傷口が癒えていく中、突然、目の前に「風」が現れた。
やがて、人影に変わり、長身の男に変わった。
凄絶な煌めきを伴った、麗しい黄金色。
何かを思い出しそうになったが、それとは別の
主の言いつけがあったことを思い出す。
きっと、この人のことだろう。
金色の青年がここへ来たら‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥ああ、そうだ。そうだった。

クラウスは腕を掲げた。

廃墟の村にある一際大きな屋敷がバルディンの住処だった。
村の家々は崩れた煉瓦をさらし、瓦礫となって、朽ち果てていたが、
その屋敷だけは、夜目にも美しい外観を維持している。
その地下室。鉄扉を開ける事なく、中に入り込んだバルドは、
部屋の中央、祭壇のような台に腰掛けている少年を見て息を呑んだ。

蝋燭の明かりに浮かびあがるのは、べっとりと赤い飛沫がこびりついた、
どこか艶だけが増した白い顔。
黒のローブを纏い、猛烈な血の香りを漂わせて、
こちらを見る少年は、あれから3年以上も経つというのに、
記憶にある姿とそう変わらず、成長を止めてしまっていた。
いや、もうわかっている。
何より、クラウスから感じる気配は自分と同じものだ。
漂う甘ったるい血の香りが、バルドの本能を刺激する。
胸を貫く衝撃と、欲求を振り払うように、
一度瞳を閉じたバルドが真直ぐにクラウスを見た。
「クラ‥」
名を呼ぶのを遮るように、虚ろな目をしたクラウスが右腕を持ち上げた。
ローブから覗く指の爪は鋭く伸び、仄かな明かりに光沢を帯びている。
その爪がクラウス自身の胸元に向けて、一気に走った。
寸前でバルドが腕を掴み取る。
クラウスが不思議そうにバルドを見上げる。
交差する瞳。
フッと息を吐きクラウスが破顔した。
紅に汚れた口唇がゆっくりと濃艶に動く。
「バ‥‥ル‥」
自分の名を呼ぶと思われた唇は、しかし、別の名を呼んだ。
「‥ディ‥ン」
その刹那、バルドが、掴んでいた手を強引に引っ張った。
クラウスの心臓への襲撃を外した閃光が、その脇腹をかすめて抉る。
血を撒き散らし崩れるクラウスを、片手で受け止め、
眼光を鋭くしたバルドが、前を見据える。
バルドの視線の先、指爪を赤く濡らしたバルディンが、
青い瞳をぎらつかせ、石の台に腰掛けていた。

バルドの片腕で、仰向けに撓垂れるクラウスが
かすれた苦鳴をあげ、口元から血を滴らせる。
脇腹の傷が再生していくが、深手な為、その治りは遅い。
金色の瞳の奥に、燦然たる紅が灯る。
瞬間的に放出された凄まじい気迫の奔流が、空間を疾走し、
ビリビリと地下室を振動させた。蝋燭の火が大きく揺れて消える。
ほどなくして、三人の髪を煽る疾風が止んだ。
気迫の激流にも顔色一つ変えずにいたバルディンが薄笑いを浮かべる。
「バルドの前で自害して終わり、だったんだけど、失敗か。
 ‥‥‥だけど事実は変わらない。こいつに受け止められるかな?」
クラウスを吸血鬼にし、街を襲わせ、幾度も犯してやった。
全てバルドの為とクスクス笑い、爪の血を舌で拭う。
「終わらせてあげようよ」
バルディンが腕を軽く横に払うと同時に、バルドが片腕を前に突き出した。
瞬時に形成された不可視の障壁に、クラウスに向かって放たれた
一条の閃光が弾け、四散し、消失する。
「フン」と鼻先で嗤ったバルディンが、一瞬の隙も見せず、
敏捷に、バルドの懐に入り込む。
そのままの勢いで、低い体勢を維持しつつ、爪を横に一閃させる。
咄嗟にクラウスを抱えて後ろに跳躍したバルドの胸元が裂けた。

「バルドっ!」
空間に「風」が生じて、マーティスが現れた。
追撃の閃光をマーティスの築いた障壁が弾く。
「邪魔するなっ、マーティス!」
「ふざけるな、バルディンっ!!」
バルディンの怒号を返したマーティスが、錆びた鉄の匂いの激しさに呻く。
鼻を手のひらで覆い駆け寄ったマーティスに、クラウスを預け、バルドが前を見据える。
視線を受け止めたバルディンの表情が、ふいに苦悶に満ちた。
「‥なんで‥‥‥なんでそいつなのさ!」
「「俺」にとって掛け替えのない存在はクラウスだ」
感情が見えない、いつもの平坦な声だが、一人称を変えて言い切ったバルドに、
さらに顔を歪ませたバルディンが鋭利な爪の先端を掲げた。

痛い。
脇腹の傷口はまだ完全に塞がっていない。
さらに、脳裏に響く音の波がクラウスを翻弄していた。
『クラウス』
‥‥‥‥‥‥‥‥何かが、胸に充溢していく。
自分を抱く赤髪の青年が「バルド」と叫んだ。
頭痛が走り、心臓が跳ね上がる。
何かを思い出さなくてはならない。『ハヤク』
あの、声を‥‥‥『オモイダセ』
あの金色の青年は‥『タイセツナ‥』
ーーー大切な‥‥‥『・・・』
虚ろだった瞳が、急速に生気を帯びていく。
クラウスはマーティスの手を振切り駆け出した。

「バルドっ!‥‥‥あっ、オイっ!!」
駆け出すクラウスにマーティスが狼狽した声を上げた。
祭壇の台上で、バルドにのしかかったバルディンが、構えた指爪を振り下ろす。
横に反らして躱そうとしたバルドの首筋を鋭い先端が掠める。
噴き出す鮮血に染まり、それでも鋭く細めた瞳で見上げてくるバルドに、
バルディンが青瞳を爛々と輝かせ、発狂したように嗤い、声を張りあげた。
「もう、いいよっ!おまえなんか要らないっ!バルドっ!!」
首を刎ねんと再び腕を振りかざしたバルディンが、
ヒュッと短い悲鳴を上げて唐突に硬直した。
一刹那の静寂。
バルドが、マーティスが、その双眸を見開いた。
バルディンが、のろのろと衝撃が貫いた胸元を瞠視する。
心臓を貫通した爪が胸元から生え、赤い血が滴り落ちていた。
ゆっくりと肩越しに振り返る。
揺れ動く青瞳が、腕を突き出しているクラウスを映した。
クラウスが爪を引き抜くと、その傷口から流れ出る血が、
銀砂に変化してサラサラと零れていく。
「き‥‥‥さまあああぁぁっ」
地下室を切り裂く、獣のような咆哮をあげ、バルディンが標的を変えた。
身体を砂に変えながらも、振り向き様に腕を振り払い、光の刃を放つ。
瞬間、もう一条の閃光が闇を劈いた。
胸元を裂かれたクラウスがゆらりと傾くと同時に、
バルドの横薙ぎの爪に刎ねられたバルディンの胴が、崩れ落ちる。
駆け寄りクラウスを抱き起こすバルドを、瞳に映したのを最後、
バルディンの身体の全てが銀砂となり、崩れ、やがて、その砂も消散した。

「クラウスっ」
片膝をついたバルドの腕の中で、蒼白な顔を、身体を、
真っ赤に染めたクラウスが浅い呼吸を繰り返している。
バルディンが斃れた事により、血の呪縛から解き放たれ、再び時を刻み始めた身体。
だが、再生能力が失われた今、流れ続ける鮮血が絶望の道へと導いている。
「バルドっ」
同胞の死に様を目の当たりにして、息を詰めていたマーティスが、
血塗れの少年を見て、気付いたようにバルドを急かした。
バルドにもわかっていた。
この状態のクラウスの命をつなぐ方法は一つ。
もう一度、吸血鬼にする事だ。
だが‥‥‥。
迷うバルドの耳にかすかな細い声が届く。
「バ‥ルド‥」
ハッとしたようにバルドがクラウスを見る。
痛みは疾うに過ぎ、異常な寒さに震えるクラウスの
赤く濡れた手が、バルドを探している。
虚空を見つめるその目はもう見えていないと、悟ったバルドの顔が歪んだ。
血の気を失った冷たい手をバルドが強く握る。
「クラウス、ここにいる」
クラウスが指に僅かな力を込めて握り返す。
「‥‥お、俺‥‥‥た‥くさん、人を‥こ、殺した‥」
息を乱し、切なげな声が告白する。
「‥‥‥それが‥「俺達」だ」
苦痛を堪えるように瞼を伏せたバルドが、ぐったりとした体を抱き寄せた。

バルドの肩先、頬を預けたクラウスの耳が、苦渋に満ちた声を捉える。
「すまない」
「なんで、バル、ドが謝るんだ‥よ‥‥
 ‥‥ず‥‥ずっと、会いた‥‥かっ、たんだ‥っ」
喘鳴を繰り返すクラウスが咳き込み、血を吐く。
胸元から止まる事なく滴る血が、バルドの体をも伝って、
床の血溜まりを広げていく。
死の影はすぐ背後に迫っていた。
「バルド!」と、マーティスが焦れた声を荒げる。
「俺、あ、あんた‥が、好、きだ‥‥‥本当、に、好‥きな‥んだ‥」
クラウスが震える唇を必死に動かし、これが最後と、心急くままに想いを告げる。
吐息のようなか細い声がつむぐ想いの熱さに、胸を締め付けられる。
「知っているっ!」
唇を噛み締めて、堪えきれないように叫んだバルドが
少年を抱きしめる腕に力を込める。
失いたくないっ!
捕われているのはクラウスだけではないのだ。
彼に絡み付いた糸は確かにバルドにも巻き付いている。
『受け止められるか』
わかっている。傷つき心を痛めるのはクラウスだ。
だが、それでも、クラウス、おまえに‥‥‥

「そばにいてほしい」

遣る瀬ない気持ちを金の瞳に滲ませて、静かに絞り出された声。
クラウスの瞳がゆっくりと見開く。
胸を衝く沸き上がる激情に、目頭熱く、身を震わせた。
揺れ動く瞳が大きく歪み、溢れた熱い雫が頬を伝う。
こびり付いた赤を、一筋の涙が押流していく。
バルドの意図を汲んだクラウスがその瞳をそっと閉じる。
壊れる程強く抱きしめる腕に応えるように、麻痺した指を無理矢理動かし、
バルドの背を持てる力の限りに掴む。
「バ‥ルド」
肩先に顔を埋めたクラウスが、小さくささやいた。

「『連れて、行って』」

少年を掻き抱く腕の力が強まった。

『感情のままに突っ張れたら‥』
マーティスは洞窟での思考を再開しようとして‥‥‥やめた。
もう、答えは出たのだから。
きっと新しく目覚めた彼は、現実と向き合い、傷つき、
胸を痛めては苦悶するのだろう。
必ず側にいるであろう、この金色の友人と共に‥‥‥
辛苦を共にする二人、それ以上の悦楽がある事を望んで止まない。
フゥとため息をついたマーティスは、血の匂いに刺激されたのか、
喉が渇いている事に気付いた。

結局、俺達は最後まで「吸血鬼」でしかない。

空に浮かぶ真円が、夜の静けさに包まれたチェスティアの村を照らしている。
月光を頼りにヴィリーは田舎道を急いでいた。
その片手には、祝いの品をたくさん詰めたバッグが握られている。
村を出た彼の元に、先週届いた、双子の妹の一人が結婚するという吉報。
仄かに蒼く浮かぶ村は自分が出た時のままで、懐かしいぬくもりに心満たされる。
ーーーサワっと風が吹いた。
夜空にひらひらと何かが舞っている。
蒼く、黒く、月光に濃淡を変えながら、
ゆるやかに舞い降るそれを手に取ってヴィリーは首を傾げた。
「‥花弁‥‥‥薔薇?」
『空から花が降ってくるって』
ふと、昔、妹達が語った物語を思い出した。
それと同時に、苦い記憶も蘇る。それは、予感だったのかもしれない。
花弁を放し、視線を上げて、‥そのままヴィリーは目を見開いた。
小道の脇、葉を茂らせた大木の枝の端に、花束を抱えた少年が座っていた。
動けないヴィリーに気付く事なく、「記憶の中の彼」に良く似た少年は、空を見上げている。
少年の前に「風」が生じた。
夢か、幻か。ヴィリーの瞳がありえない光景を映し出す。
蒼い月光を弾いて、煌めく黄金色の髪を軽く踊らせながら青年が現れ、そして‥
ーーーーーー少年を、呼んだ。
その見知った名前にヴィリーは驚愕する。
青年が再び風となり夜空に溶けるのを、追いかけるように少年が立ち上がった。
「クラウスっ!!」
叫ぶ声に少年がこちらを向き‥‥‥目が、合った。
両腕に抱えられた花束から、ヒラヒラと零れた花弁が舞う。
輪郭を蒼く照らされた少年が、フワリと微笑んだ。
風が鳴る。
舞い上がる花弁。
少年が、風となる。
小道の真ん中で一人立ち尽くすヴィリーを、風が優しく撫で、村を吹き抜けていった。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 完結 おつきあい下さった方ありがとうございました。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
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