Top/23-89

サンチョーメの夕日

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | サンチョーメ投下ラッシュに便乗!
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| おっきくなったジュソ→チャーさんだお
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

いつの頃からか、ジュソノスケは俺を“おじさん”と呼ばなくなった。
かと言って“おとうさん”とか“親父”とか呼んでくれる訳でもなく、
まこと他人行儀に“先生”だとか、ふざけたみたいに“リュウノスケさん”だとか、そんな風に呼んだりする。
先に言っておくが、別に“おとうさん”と呼ばれたい訳じゃない。
大体俺は結婚だってしてないし、子供だって作った覚えはない。
5年前、ほんの成り行きでジュソノスケと暮らす事になったけど、あくまで俺達は赤の他人で父でもなければ息子でもない。
したがって“おとうさん”などと呼ぶ必要は全くないのだが………でもちょっと生意気だ…。
生意気ついでにもうひとつ。
ジュソノスケは随分でかくなった。
やせっぽっちの小さなガキだったくせに、いつの間にか俺よりデカく、たくましくなった。
例えば一緒に本屋に出掛けたとしよう。
棚の上の方に俺が欲しい本があったりすると、ジュソノスケが俺の後ろから手を伸ばして取ってくれたりする。
例えば町中を一緒に歩いてるとするとだ。
ジュソノスケは俺を道の内側に寄せ、自分は車道側を歩く。
へたくそな車が、万が一歩道に突っ込んできた時に俺を庇えるからだと言う。
人とすれ違ったり、自転車がよろよろと近寄ってくれば、長い腕で俺の肩を抱いて引き寄せる。
例えば、鱸オートが例の如く例にもよって俺をからかいに来るとする。
広い背中の後ろに俺を隠して、ニコニコ笑いながら鱸オートを追い返す。
俺だってもう四十の呼び声も聞こえて来たいい年した大人なのに。
恥ずかしいことにここ最近のジュソノスケからの扱いには、どうにも守られてる感がひしひしとする…。
これまで少なくとも5年の間ジュソノスケを養ってきた男として、これでいいのだろうかとふと思う。

さらにはだ。
学業も優秀、運動もそつなくこなし、飯の支度も掃除も洗濯も、何もかも完璧。
正直、自慢の息子だ。
あ、いや、息子なんかじゃないんだけど。
そんなジュソノスケがいつだったかもらした言葉をふいに思い出す。

『先生をお父さんと思ったことは一度だってありません。』


……
………
くそ…思い出すだけで腹が立つ。
書き損じの原稿を丸めて投げ捨て、文机の後ろに引きっぱなしにしてた布団に上半身を倒した。
大体誰のお陰であんなにでかくなれたと思ってんだ。
子供相手の駄菓子屋なんかじゃ大した稼ぎにもならず、書きたくも無い子供文学や、
それこそ文学のぶの字も無いような下劣なポルノ小説なんかに日々神経をすり減らして、
どう考えても向かないって解ってるのに工事現場なんかでも働いて、
それでもどうしようもない時は鱸オートに頭まで下げて金を工面して、俺なりに必死であいつを育てて来たのに。
なのに1人ででかくなったような顔して、いっちょまえに大人ぶって…。
生意気なんだよ、ばか。
別におとうさんって思ってもらいたい訳じゃないけど。
だけどやっぱりちょっとむかつく。

**

下校の鐘がなると少し憂鬱になる。
あぁもう家に帰らないといけない。
出来ることならもう少し学校にいたい。
何故って家にはあの人がいるから。
チャガワリュウノスケ。
職業、小説家。
5年前、一人ぼっちだった10歳の俺を助けてくれた、感謝してもしきれない大切な人で世間的には俺の父親。
信州の良い家の生まれで所謂お坊ちゃんだったんだろうに、
小説家になりたくて実家を飛び出して、そうして出逢ってしまった俺を苦労して育ててくれた。
先生は、本当は純文学が書きたかったのだといつか聞いた。
だけどそれじゃあお金にならないからと、元々持っていた少年冒険団の連載の他に、
俺には見せてくれないけど大人向けの小説を書いたりしてこの5年間やってきた。
それだけでも十分なのに、ここ半年は小説家の仕事の他になにか別の仕事もしてる様だった。
俺が寝付いたのを見て取ると、そっと抜け出して、明け方俺が目を覚ます前に帰ってくる。
倒れるように布団に潜り込んでものの数秒で寝入ってしまうあの人の顔は、すごく疲れていて。
ペンより重たいものなんて持ったことないんじゃないかって思えるくらいの細い腕と、
綺麗だった指先は落ちきらない泥に汚れて、小さな傷とささくれで酷く荒れていた。
きっと、夜間の工事現場ででも働いているんだろう。
あんな細い身体で、どう考えても向いてる訳ないのに。
無理をして働いて、朝俺が学校に出掛ける頃には、小さな背中は本当に書きたいものなんて何一つ書けない状況で、文机に向かっている。

『気をつけてなー。』

眼鏡の奥の黒目がちな瞳を細めて、そう笑顔で送り出してくれるあの人を、それでも俺は父親だなんて思えない。
たとえあの人がそう呼ばれる事を望んでいても。

「ただいま。」

橙色の夕日が差し込む小さな部屋で、先生は眠っていた。
文机からそのまま倒れたような具合に痩せた身体を布団に横たえて、眼鏡もかけたまま。
太陽の明るい色に照らされて尚、血色の悪い青白い頬に触れる。
親指の縁で、薄い口唇をそっと辿る。

「…リュウノスケ…さん…。」

このひとに恋をしないでいる方法があったのなら、誰でもいいから教えて欲しかった。

**

おどろいた。
…と言うより、自分が何をされたのか、ジュソノスケ俺に何をしたのか。
気付くまでに相当時間がかかった。
ただいまって、学校から帰ったジュソノスケの声が聞こえたから、起きなきゃって思ったのに。
なんとなく身体が重くて、目も開けられなくて、脳みそはちゃんと起きてるのに、身体は寝てるようなそんな不思議な感覚で。
疲れ、さすがに溜まってるのかなって思ってたら、

『…リュウノスケさん…。』

って、いつもは茶化してそう呼ぶ声が、やけに甘く、優しく俺の耳元に響いて、でかい手のひらで頬を撫でられた。
そのまま親指で口唇に触れられて、そうしてまた当たる別の何か。
柔らかく、少し湿っていて温かいそれが、ジュソノスケの口唇だって事になかなか気が付かなかった。

だって、どうしてジュソノスケが俺にくちづけなんてするんだ。
おかしいじゃないか。
なんで?
どうして?
俺はジュソノスケのおとうさんで、ジュソノスケは俺の息子で、俺達は親子で…。
そりゃ血は繋がってないけど、でも俺はちゃんとあいつを育てて…。
どんだけ生意気なんだって思って、蹴りの一発も入れてやろうと思ったのに、目を開けた
らどう言う訳か涙が零れた。

「なんだよぉ、今の…」

子供の前でみっともなく泣き出す自分を恥じたけど、それがどうにも止まらない。
悔しいのか、むかつくのか、情けないのか、何がなんだかもうさっぱり解らなかったのに、涙だけは馬鹿みたいに溢れ続ける。
ジュソノスケの学生服の襟元を両手で掴んで揺さぶると、奴は酷く困った顔をして、それからそっと俺の手に触れた。

「ずっと…あなたが好きでした…。出逢った時からずっと…。」

あぁ、もうこいつ何言ってんだ。
そんなの解ってる。
親を嫌いな子供なんているはずない。
血は繋がってなくても、俺達は親子なんだから。
好きで当たり前だ。

「ごめんなさい…お父さんと思えなくて。あなたを好きになってしまって。本当にごめんなさい…。」

なんだよばか。
そんなこと言うなよ。
誰がなんて言おうと俺はお前のおとうさんなんだよ。
泣きたいのも、むしろ泣いてるのも俺のはずなのに、震えてるのはジュソノスケの方で。
搾り出した声も、俺の手を握る大きな手も、泣き出す前の子供みたいに震えてて。

「…ごめんなさい…。お父さん…。」

ついに零れたジュソノスケの涙を見て、あぁ抱き締めてやらなきゃって。
その後の事なんて何も考えられずに、ただ抱き締めてやらなきゃって、そう思って腕を伸ばした。
昔は俺の胸の中にすっぽり納まるやせっぽっちの小さなガキだったのに。
本当にでかくなった。
引き寄せて抱き締めた身体は、俺より二回りくらいは大きくて、むしろ抱き締められてるのは俺のような気さえしてくる。

「いい……お前が嫌ならおとうさんなんて呼ばなくても…。」

広い背中を優しく撫でてやると、強い力でぎゅっと抱き締められて。
もう一度、口唇に触れられた。

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧スマソ、5レス以内に収まらなくてはみ出た。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP