Top/23-501

背景/斗記逸

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  今期のドラマではまだ出てないようなので……
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  板前ドラマより。初投下です。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ヤサシクシテネ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

「お兄ちゃん、ここ出て行くの」

逸平より先に板場を去りアパートで待っていた斗記雄に、
息をつく隙もなく突然に訊ねられ、逸平は一瞬言葉を失った。
部屋は暗く、石油ストーブもつけないままで、部屋中に漂う冷気が、
逸平の背筋をぞくぞくと震わせる。

「……つーか、明かりもつけないで何やってるんだよ」
蛍光灯の紐に伸ばした逸平の手を、斗記雄の手が制する。
「今日の昼休み、真津子さんに聞いた。若女将がお兄ちゃんに、
ワンルームのアパートあてがうみたいだって。要するに、
『新差加史多』にお兄ちゃん引っ張って、ゆくゆくは
お兄ちゃんをお嬢さんの婿養子に迎えるつもりだって」
……ちっ。逸平は心の中で舌打ちをした。
真津子の情報収集力、そしてそれを伝播する速度、
いずれも見上げたものではある。「加倉坂では噂話は時速60㌔」とは、
まことに的を射た表現だと。

「俺、お兄ちゃんと居たいよ」
蛍光灯の紐にかかった逸平の手に自分の手を重ね、ぎっちりと握りしめたまま、
斗記雄はまっすぐな目で逸平を見た。
「差加史多」に来たばかりの頃の斗記雄は、仕事は出来ないくせに
調子ばかりやたら良い、役立たずのヤンキー崩れだとばかり逸平は思っていたが、
この頃の斗記雄は、仕事に慣れたせいもあるのか、
不器用ながら真面目でひたむきな奴だと、逸平も認め始めてはいたのだ。
「お兄ちゃんと、ここに居たい」
いつもは人一倍でかい声を張り上げては、仲居たちに窘められる斗記雄が、
ひそやかにそう囁き、逸平に向けていた視線を床に落とす。

「なんで?どうせ、俺がここ出てくと、俺にたかれなくなるからだろ?食いもんとか」
逸平はわざと冗談めかして明るくそう答えると、
重ねられた手をほどかないまま、ようやく部屋の明かりを点して、
「部屋、あっためようぜ」と、ストーブに火を入れた。
ぼっ、ぼっ、と小さな音を立てながら、ほのかに朱く灯り始めたストーブの
前にしゃがみこみ、逸平は手をかざす。
「そ、そりゃあさ、俺、お兄ちゃんの食い物とか、勝手に冷蔵庫から
取って食ってたけどさ」
逸平の隣の狭い隙間に、斗記雄は無理やり自分の身体を押し込める。
「全くだ。ジュースぐらい自分の金で買えよ」
斗記雄の肩に自分の肩を押され、顔を顰めながら逸平は言った。

「どうせさ、俺さ、『差加史多』が新しくなったら、出て行かなきゃ
なんねえだろ?」
「まだ、決まっちゃいないさ」
「いや、きっとそうだ。しょうがないよな、俺、新入りだしさ、少年院帰りだしさ」

板場を出る直前までの水仕事に冷えきっていた指先が、ストーブの熱で
ようやく暖まってくる。
それでもときどき両手を擦りあわせ、暖めた掌を自分の頬に押し当てながら、
逸平はぼんやりと考えた。
確かに、一見さんお断りののんびりした商売でやっていくには、
「差加史多」の現状は厳しかった。
多く人を雇い、板前の腕を若いうちからじっくり磨いてやる余裕など、
今の店には残っていないのが実情だろう。
まして、花板の龍二が店を去ると言い出し、
新築の高層マンションに店が移るともなれば、駆け出しの斗記雄に出る幕はない。
いつになく静かに、朱く燃えるストーブの炎を見つめる斗記雄の横顔を、
逸平は物悲しい思いで横目に見た。

「だから……店が無くなるまでは、ここでお兄ちゃんの側に居たい」
「…………」
「お兄ちゃんがここに居て面倒見てくれないと、俺、多分だめだ」

ストーブの前に膝を抱え座る逸平の背中を、
斗記雄は不意に後ろから抱きすくめた。

「……お、おい……何すんだよ……っ」
逸平は、あわてて斗記雄の腕を振り解こうとしたが、
背も高く、腕力もある斗記雄には歯が立たない。
華奢で非力な自分が、逸平は腹立たしかった。
「お兄ちゃんが、好きだった、ずっと」
ひとことひとこと、はっきりと区切るように斗記雄は言った。
「初めて東京に来て、ダチも居なくて、右も左もわかんなくて、
でも、お兄ちゃんが……面倒見てくれたから、優しくしてくれたから」
「斗記雄、あのな」
「俺、こんなだけど、ちゃらんぽらんでバカだけど……
お兄ちゃんの側、離れるのがこわいんだ」
「わかった……わかったから、まず離れろよ」
逸平はやわらかく告げると、ようやく斗記雄の腕をほどき、
ダウンジャケットを脱いで後ろに放り投げた。

「そうは言っても、お前さ」
ストーブの前に正座して、可笑しいまでに身を固くする斗記雄に、
楽にしろよ、と声をかけながら逸平は言う。
「いずれ俺ら、それぞれ板前として一本立ちするんだぜ?
俺もいつまでも、お前のお兄ちゃん代わりをやってるわけにも
いかないだろう?」
さっきまでの逸平と同じに、膝を抱えストーブの火を見つめる
斗記雄の肩を抱き、頭を撫でてやりながら、言い含めるように
逸平は言葉を継いだ。
「だから、この部屋はお前に譲る。お前一人のほうが、広く
使えんだろ?女の子も呼べるしよ」

「……嫌だ……俺は、お兄ちゃんがいいっ……!」

逸平の両肩に負荷がかかる。
ストーブを背に、逸平に向き直った斗記雄が、やおら逸平を
畳の上に押し倒し、圧し掛かってきたのだった。
いきなりの衝撃を、二つ折りにしたままの布団がやんわりと
受け止めたため、逸平は思ったより痛い思いをせずに済んだが、
思いのほかがっしりとした斗記雄の重みに、一瞬息詰まった。

「な、おまっ、なに……」
焦れて言葉が継げないでいる逸平の唇を、斗記雄がその唇で塞いだ。
夢中でもがき、いましめから逃れようとすればするほど、
斗記雄の腕は強く、逸平の背に絡んでくる。
中卒で板場に飛び込み、修行一筋だった逸平にとって、
実はそれが初めてのくちづけだった。
自分以外の誰かの体温を、ここまで身近に感じたのも、
感じやすい粘膜をそっと吸われ、歯の上を他人の舌先が滑る感覚を
味わうのも、全てが未経験だった。
よりによって年下の同性にそれを奪われ、されるがままになりながらも、
思っていたより嫌悪を感じていない自分が、逸平は不思議だった。

「んっ……」

声にならないほどにかすかな声を、逸平が漏らすと、
「お兄ちゃん」
それを合意のサインだと受け止めたのか、斗記雄の手が、
パーカーの中に潜り込んできた。
「んんっ」
小さな乳首を指先で弄われ、逸平はびくりと肩を震わせた。

斗記雄の手の動きが、少しずつ大胆さを増していく。
逸平のパーカーの前を捲り、すべらかな胸から脇腹へのラインを撫で、
やがてあちこちを貪るように甘く噛み、痕に残るほどのくちづけの雨を降らせた。

痛みのあとに、じわじわとやってくる快感の甘さに身を捩り、
逸平は斗記雄の短髪を撫でながら、
脳裏では、先日の母との会話を反芻していた。

「あんた、若女将に取り込まれかけてるわよ」

つまり自分は、今決断を迫られているのだ。
今まで関わってきた全てを断ち、新店に残るのか、
恩ある人々への義理を選ぶのか。
板前としてそれなりの経験を積んだとはいえ、
まだ23の若者にすぎない逸平にとって、それは重すぎる選択だった。

「……ふっ!」
知らず知らず、ジーンズのジッパーを下ろされ、トランクスの上から
隆起を探られて、逸平は思わず声を上げた。
 
おにいちゃん……おにいちゃん……

幼子のように自分を求め、囁き続ける斗記雄の声に、
逸平は我に返り、また快感に身を委ねる。

「棄てられない」逸平は、だんだんに纏まりをなくしていく
思考の混沌の中で強く思った。
あの店も、尊敬する花板も、かしましくも人の好い仲居たちも、
自分を兄のように慕い求めるこの斗記雄のことも、自分は棄ててはゆけない。

そうすることで、全てを失うことになろうとも、
自分には何一つ棄てていかれない、かけがえのないものたちなのだ。

「斗記雄」
自分でも驚くほどに優しく、柔らかい声で、逸平はその名を呼んだ。
「?」きょとんと目を丸くし、愛撫の手を止めて自分を見上げる斗記雄の
頭を引き寄せ、今度は自分から、逸平は斗記雄にくちづけした。

「はぁ……」

息をついた斗記雄の頬に、安堵の笑みが浮かぶ。

「なあ、笑うなよ」
「何、お兄ちゃん」
「俺さ……初めてなんだよ、こういうの」
「……マジ?」
思わず吹き出した斗記雄に、
「笑うなっつってんだろ」言葉こそ荒いが、柔らかさを留めたまま逸平は告げた。

「だからさ……ゆっくり、してくれないかな」
「……うっす。わかった。やさしくする」

上体だけを起こし、逸平は点したばかりの蛍光灯を再び消した。
夜はまだ長く、カーテンの隙間越しに、冬の月がさえざえと光っていた。

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 以上です。中途半端スマソ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP