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numb*3rs 工ップス兄×弟 続き

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                     |  numb*3rs 工ップス兄×弟の続きだって
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  1さんスレたて乙!
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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>1さんオツカレ!私も立てようとしましたがアクセス規制で駄目だったので
困ってました。本当にありがとう!
そういうわけでnumb*3rs兄弟やおいの続きです。今回は中編にあたります。
コメントくれた方々ありが㌧!ラストまで楽しんでもらえるといいな

 最近のチャ―リーはおかしかった。といっても、ガレージに何日間もこもって数式を解き、
誰とも口を利かなかったりするわけではない。チャ―リーは普通に生活をし、父親と一緒に食
事を摂り、大学にもきちんと通っているようだった。ただト゛ンへの態度がおかしいのだ。
 例えばト゛ンのアパートに二人でいるとき、前はよく、おずおずと、しかし積極的にト゛ン
の身体に触れてきたのに、最近は妙によそよそしくなった。表情もどこか暗く、言葉も少ない。
キスやセックスも躊躇いがちで、行為への迷いが見える。ト゛ンはそのことに気づき、それが
自分の気のせいなのかどうか、注意深く考えた。ト゛ン・工ップスは捜査官で、人を観察し、
その人物の真意を読み解くことが仕事の一つだ。だからト゛ンは自分の洞察力には自信があっ
た。そして優秀な捜査官であるト゛ンは、弟を観察した後、一つの結論に達した。チャ―リー
は前ほど自分との関係に乗り気ではない。
 「チャ―リー、最近どうなんだ?」
 ト゛ンのアパートで二人で食事を摂った後、ト゛ンは弟に聞いた。チャ―リーはちょうどシ
ャワーを終えて寝室に入ってきたところだった。このままでいると抱き合うことになるだろう。
だがチャ―リー自身がそれほど望んでいるわけではないようにト゛ンは思えたし、そうだとし
たらただの惰性でセックスすることになる。ト゛ンとしては惰性で実の弟とセックスするよう
なことは避けたかったので、彼はさりげなく弟を探り始めた。
 「……どうって?」
 濡れた巻き毛をタオルで拭きながら、バスローブ姿のチャ―リーが怪訝そうに問い返す。チ
ャ―リーが着ているバスローブはト゛ンのもので、また勝手に人のものに触れたなと思いなが
らも、ト゛ンは手を伸ばしてその襟元を直してやった。「お前の生活だよ。アミー夕とはどう
なんだ?上手くいってるか?研究は?」
 アミー夕の話をすると、チャ―リーは動揺したように瞳を動かした。だが数秒後にぎこちな
く微笑んで頷いた。「上手くやってるよ。研究も……大学での人間関係も」
 「そうか」
 

 ト゛ンはそう言い、肩を竦めた。チャ―リーはベッドの上のト゛ンの隣に腰を掛け、落ちつ
かなげに自分の髪を撫で付けたりしていた。ト゛ンはぼんやりとそれを眺めていた。チャ―リ
ーには他の恋人ができたのだろうか?だからト゛ンのことがもうそれほど必要なくなったのか

 いつかチャ―リーは自分にとってト゛ンは基点なのだと言った。今後誰かと深い関係を結べ
たとしても、それがト゛ンがいるからだと。それはきっと事実なのだろう。だが、チャ―リー
が成長し、他の誰かとの関係も成熟するにつれて、ト゛ンとの行為が必要なくなったとしたら
?ちょうど子供が親から離れるように。ト゛ンへの愛情が薄れたわけではなく――ト゛ンにも
それはわかっていた。何故ならチャ―リーは行為を積極的に求めないにせよ、ト゛ンには会い
にくるからだ――ただ求める関係が変わったとしたら?それは自然なことではないか?
 そしてそんな日がいつか来ることを、自分自身はどこかで知っていたのではないだろうか?
ト゛ンはそう考えながら、まだ傷が完全に癒えていない右肩を動かして、チャ―リーの髪を撫
でた。濡れた柔らかい感触。ト゛ンはその感触に慣れた自分の指先を嫌悪しながらも、一方で
その感触をいとしんだ。チャ―リーはびくりと肩を揺らし、視線を上げた。「ト゛ン?」
 「チャ―リー、アミー夕や誰か俺以外の人間との関係が上手くいってるなら、そう言ってい
いんだ」
 「……何?どういう意味?僕には――」
 髪を撫でる手を振り払いながら、チャ―リーが問うた。「何なの?突然」
 「お前は最近、そんなに望んでいないように見える。……行為を。俺たちがしているような
ことだよ。誰か別に相手がいるなら、それでもいいんだ。言えよ。兄弟だろ?」
 ト゛ンの言葉にチャ―リーは動きを止めた。そして口を微かに開けたままト゛ンを見返した。
しばらくしてチャ―リーは唇の片端だけを上げた。「兄弟だから?」
 

 ト゛ンは両腕を軽く広げてみせた。
 「どうなったって俺たちは兄弟だし、お前は俺の弟だよ。関係が壊れるってことはない」
 「――だから、だから他に相手ができたなら言えって?ト゛ン、何なの?突然。僕にだって
その気になれないことはある。無神経な兄といるとね!それなのにト゛ンは別の相手がいるか
らだと思ってるの?ト゛ン、原因は僕にあるんじゃなく、自分にあるって考えたことはないの
?」
 「――原因?俺が?」
 思いも寄らない言葉に驚いていると、チャ―リーは立ち上がって苛々と手を振ってみせた。
「『別に相手がいるならそれでいい』なんて兄貴ぶって言わないでよ。……あまりにも、あま
りにもひどいよ」
 「兄なんだから仕方ないだろ?」
 半ば怒り、半ば呆れて言うと、チャ―リーはかぶりを振った。聞きたくない、というように。
彼はト゛ンの言葉を無視して早口で続けた。「本当にト゛ンは僕を傷つける。――正直に言う
と、僕だって他の相手を見つけたいよ。ト゛ンじゃない相手がほしい」
 その言葉にト゛ンは思わずかっとなって言った。「ほらな!お前は嫌になったんだよ。こん
なまともじゃない関係が。だから、それならそう言えばいいじゃないか」
 「――僕が嫌なのは、これがまともじゃない関係だからなんかじゃない!そう思ってるのは
ト゛ンだ!僕が嫌なのはト゛ンが僕を必要としてないことだよ。ト゛ンにとって僕はなんなの
?セックスするのは僕のため?僕を対等に扱わないくせにト゛ンは僕にキスしてセックスして、
――僕を支配してる。そのくせいつでもそれが終わってもいいって態度だ。ひどいよ。フェア
じゃない」
 チャ―リーは叫び、それから唇を噛んだ。ト゛ンは答えに困り、唇をただ動かした。チャ―
リーは自分の手が震えていることに気づいたのか、もう片方の手でそれを押さえつけるような
仕草をした。「その怪我――肩の怪我だってそうだよ。どうして平気な振りをするの?まだ痛
むんだろ?なのにト゛ンは僕に助けを求めない。このアパートの家事だって、ト゛ンの怪我が
治るまで手伝ったっていいんだ。なのに、ト゛ンはちっとも――」
 

 チャ―リーは言いよどみ、それから手のひらで口を覆って目を瞑った。「……誰にでもそう
なの?それとも相手が僕だから?……僕は、僕は少しうぬぼれてた?FBIの捜査に関るよう
になって、ちょっとはト゛ンに必要とされるようになったって思ってた。でも違う。違うよね
?ト゛ンは僕の才能が役に立つ場合もあるって知っただけだ。僕のことなんて必要としてない。
僕の才能だって……僕より役立つ人間がいるならそれを使う。犯罪社会学者とか。求められて
るのは僕自身じゃない」
 一人で勝手に捲くし立てて、一人で結論にたどり着いたらしい弟を、ト゛ンは苛立ちながら
見つめていた。ト゛ンは落ち着けと自分に言い聞かせながら、低い声で返した。
 「仕事よりお前への愛情を優先させるわけにはいかない。そんなの当たり前だ。お前だって
俺を共同研究者にはしないだろ」
 それを聞いてチャ―リーはあの、神経質な笑いを喉から響かせた。
 「そうだよ。僕はト゛ンを共同研究者にはしない。ト゛ンは数学者じゃないし、第一僕の共
同研究者になることなんて求めてもいない。逆に僕はト゛ンのパートナーになりたいから、自
分の能力を使って捜査に協力してる。求めるのは僕で、受け入れるのはト゛ンだ。いつもね。
……でも一度くらい僕自身を必要とされたいよ」
 チャ―リーはそう言うと俯いた。ト゛ンは戸惑いながら彼に向かって手を伸ばしかけたが、
かぶりを振って拒否された。以前恋人に、あなたは自分で何でもやりすぎる、と言われたこと
を思い出した。自分ですべて解決しようとして、仕事も完璧にやりとげようとするから、私生
活を簡単に後回しにするのだと。ト゛ンはそれを自分が義務感が強いせいなのだと思い、恋人
の恨み言を受け逃していた。だが今回は弟の言葉を簡単に受け流す上手い方法が思い浮かばず、
ただチャ―リーを見ていた。
 肩がまだ微かに痛む。確かに傷を抱えたままで洗濯や料理や掃除をするのは大変ではあった。
けれどもそもそも働きづめで、チャ―リーが会いにくるときしかアパートには帰らないくらい
だし、ト゛ンは自立した人間として自分で何でもやりたかったので、自分で家事もやった。そ
れだけのことだった。

 「……僕が必要だって言ってよ。ト゛ンの人生に必要だって言って。一度でいいから」
 チャ―リーがぽつりと言う。ト゛ンはまだ迷っていた。必要だといえば、チャ―リーはまだ
悲しそうな目をしながらも、ト゛ンの傍らに来て濡れた柔らかい巻き毛ごと頭を預けてくれる
だろう。だがト゛ンには言えなかった。何故なら何も、誰も必要としないことがト゛ンの主義
だったからだ。小さな頃からそう自分に言い聞かせて生きてきたのだ。一人で何でもやってみ
せる、と。
 部屋の中が静まり返る。暫くして、沈黙を打ち破ったのはやはりチャ―リーだった。
 「――僕は自分にとって必要な人に、同じように必要とされたい。……僕に必要なのはト゛
ンだけど、ト゛ンはそうじゃないなら他の相手に逃げたいよ。……でもみつけられない。ト゛
ンの代わりはいない。――決めた。僕は今度こそP≠NP問題を解く。それくらいしか代わり
はみつからない」
 ト゛ンは何も言い返せなかった。でも何かしなければ、と思った。弟を引き留めるために。
だから彼は立ち上がり、まだ迷いながらもチャ―リーの肩を抱き寄せた。チャ―リーは始め抗
うようなそぶりを見せたが、すぐに大人しくなってキスに応えてきた。ベッドに押し倒してバ
スローブを剥ぎ取る頃には諦めきったように従順になり、ト゛ンの首に腕を巻きつけて愛して
いるとか細い声で言った。ト゛ンが怪我をしたり、突然死んでしまうことを考えると気が狂い
そうになるとも。チャ―リーを抱いた後、快楽のせいなのか泣き疲れて眠る彼を見ながら、ト゛
ンは自問した。これは卑怯な振る舞いなのか?チャ―リーの言うとおりフェアではないのだろうか?
 

 ト゛ンは自分がチャ―リーとの行為に慣れてしまったことに不意に気づいた。そしてチャ―
リーにも慣れさせてしまったことに。それを一番恐れていたというのに、今の彼はチャ―リー
を宥めるにも慰めるにも、いつも彼を抱いている。ト゛ンはチャ―リーに他の相手が見つかっ
たら、大人しく自分はそれを受け入れ、もっと別の、まともな形で弟を愛そうと思っていた。
でも他に方法を知らないということに、チャ―リーの寝顔を見ながら唐突に気づいた。何故な
ら「まとも」な兄弟がどんなものなのかを知らなかったし、ト゛ンはチャ―リーの共同研究者
になれる数学者でもなかったからだ。だからこうして抱き合うことでしか満たされない。手元
に弟を引き留めておくために、この行為が不可欠なのだ。
 ト゛ンは愕然としながらも、眠る弟を見つめていた。この弟には自分の気持ちなどわからな
いだろうと思った。

 大学に通うほかのすべての時間を、チャーリーはガレージにこもって過ごし、P≠NP問題
に取り組み始めた。今回はちゃんと父親に研究に没頭したいということを説明し、可能な限り
食事も摂ったのでアランは止めなかった。止めたのはト゛ンだ。ト゛ンは仕事帰り、深夜に実
家にやってきては、俺のせいでこんなことをするならもうやめてくれと何度も言った。だがチ
ャ―リーは頷かず、代わりにト゛ンに説明した。自分には数学の才能しかなく、それくらいで
しか人を惹きつけられないと。「僕は数学の才能だけでちやほやされてきた」。チャ―リーが
言うと、ト゛ンはそれは違うと言い返した。
 そこでチャ―リーは肩を竦めた。「そうだね。ト゛ンは違う。僕の才能になんか興味はない」
 だから長いこと不安だったとチャ―リーは告白した。ト゛ンはチャ―リーの数学の才能には
興味がないし、チャ―リーにはそれしかない。だが事件の捜査を通してト゛ンを振り向かせ、
引き止めておくことに成功するには、やはり数学的能力が必要だったのも皮肉だと。

 「だけどこのP≠NP問題はまた別だよ。僕がこれを解こうと解くまいと、ト゛ンにはどう
でもいいんじゃない?それは僕がよく知ってる。それなのに僕がこれを解こうとするのは、僕
自身のためだよ。僕はもう30歳で、数学者としてはピークと言われる年齢なんだ。この間の
学会でも言われたよ。今回の研究は素晴らしい、流石だ、だけど例のあれはどうしたってね。
P≠NP問題さ。僕くらい才能があるなら、あれを解くべきだってね。それでこの間思ったん
だ。もし事故や何かで――僕を必要としてないト゛ンの心変わりで――ト゛ンを失っても、P
≠NP問題を解ければまだ慰めにはなるって。僕は周囲から認めてもらえるし、歴史に名前を
刻める。ト゛ンがどれだけ僕を無視しても、僕自身にきっと何かが残るはずだ。……今までも
ずっとそうだった。母さんが死んだときも、事件でしくじって死者を出したときも、P≠NP
が解ければ許してもらえて、僕も精神的に安定できる気がしてた。だけど実際には僕を引き上
げてくれたのは、父さんやト゛ンだよ。……ト゛ンなんだ。僕はこれまで、P≠NP問題は解
けなかった。でも許されるような気がしてた。ト゛ンのおかげで。だけど、そのト゛ンに必要
とされてないなら、せめてP≠NP問題を解きたい。そして自分の価値を感じたいんだ。……
それに考えてる間は、何も感じずに済むしね」
 音を立ててチョークで黒板に数式を書きながら言い、チャ―リーは降参するように両手を広
げた。「僕のカードはこれで全部。手の中にあるものは全部見せたよ。さあ、ト゛ンは何を返
してくれるの?」
 そう問うとト゛ンは疲労の滲んだ表情で眉間を擦った。ため息を吐くとト゛ンは手を伸ばし、
チャ―リーを抱き寄せてキスをしてきた。チャ―リーは一応型どおり抗い、それから彼と寝た。
ト゛ンはチャ―リーを抱いた後、何も言わずに帰っていった。ちょうど最初に彼らがガレージ
で寝たときのように。チャ―リーはそれを見届け、その後はまた服を着て数式に取り組んだ。
 

 何度かそういうことを繰り返した。ガレージでチャ―リーを抱くト゛ンの手はいつも荒っぽ
くて、少し暴力的ですらあった。でもチャ―リーは抗うつもりなどなかった。何故なら相手が
ト゛ンだからだ。それなのにガレージで抱きすくめられると、チャ―リーはいつも抗うふりを
した。だが本当はそれすらも過程に組み込まれていて、最後には自分から望んで彼に貫かれた。
ト゛ンはそんなチャ―リーに苦しげな目を向け、チャ―リーは抱き合いながら、彼を失くすと
きのことを考えた。
 一年ほど前、最初にガレージでト゛ンと寝た次の朝、チャ―リーは自分がト゛ンを汚したと
思った。完璧な形で円を描くト゛ンという数式を自分のものにしたくて、その結果正しくない
ものにしたと。本当にそうしてしまった、とあるときチャ―リーは思った。何度も繰り返した
ようにガレージでト゛ンに乱暴に抱かれ、きっと以前ならト゛ンはこんな抱き方はしなかった
と感じたときだ。きつく掴まれた手首や足首にはドンの指跡が残り、冷たいガレージの床に強
く押さえつけられたせいで身体のふしぶしが痛んだ。しかもその抱かれ方にチャ―リー自身は
満足していた。ト゛ンがチャ―リーをなんとかまともな生活に引き戻したくて、こういう手段
を取っているのだということはわかっていた。でも彼は少しは必要とされているような気にな
れて、それが錯覚だとしてもト゛ンと寝ている間は幸福だった。
 「ト゛ンが好きだよ。死ぬほど好きだ。だから失う準備をしてる」
 ある晩、ガレージで行為が終わったあと、チャ―リーはト゛ンの手を取って、指先を舐めな
がら言った。野球のバットを握り、銃を持ったかと思えばチャ―リーの髪を梳き、そして本当
に稀だがピアノを弾くこともある指。この指もト゛ンの短髪も、小さな頃から彼のすべてが好
きで、これが自分のものにならないと受け入れるなら、それに耐えられるような準備をしなけ
ればならない。ト゛ンの肩の傷はほとんど完治しつつあったが、チャ―リーはまだそれを直に
見つめられなかった。その代わり指を傷跡に押し付け、ト゛ンが微かに痛みで眉を顰めるのを
見て、甘い苦痛を覚えた。

 「チャ―リー、いい加減にしてくれ。こんなことはやめよう。もう十分だろ?」
 ト゛ンが掠れた声で言う。チャ―リーはかぶりを振った。まだ十分ではなかった。「駄目だ
よ。僕はまだ満足してない。問題もまだ解けてない」
 解けたら解放してあげるよ。囁いてト゛ンの耳を噛むと、ト゛ンは疲れを伺わせる声で呟い
た。
 「――俺はお前が望んでいるようにはなれないよ。チャ―リー、無理だ」
 チャ―リーはその言葉に驚いてト゛ンを見つめた。ト゛ンは自分の傷口を擦りながら、静か
に繰り返した。「俺はお前が望むようにはきっとなれない。お前が望んでいるような兄じゃな
いんだ」
 その言葉はどこか奇妙に聞こえた。これまで相手の期待に答えられないと零すのはいつもチ
ャ―リーだった。だが今、ト゛ンは――チャ―リーにとってはほとんど完全とも言えるト゛ン
が――チャ―リーの望むようにはなれないと言った。チャ―リーはうろたえ、ト゛ンから身体
を離して言葉を探した。
 「どういう意味?ト゛ンはト゛ンだよ。僕は何も望んでない」
 そう言うとト゛ンはかぶりを振った。そして周りに散らばった服を集めながら答えた。「い
いや。お前は俺が変わることを望んでるんだ。最初から――ガレージのあの晩のもっと前から
そうだった。お前はわかりあえる兄がほしいんだ。数学をやっていて、自分の話が通じて、一
緒にいても不安にならないような。でも俺はそうじゃない。俺はお前が望んでいるようにはな
れないし、お前のことが必要だとも言わない。絶対に。何故かわかるか?多分それはお前が俺
を必要としていないからなんだ。小さい頃からずっとそうだった」
 淡々としたト゛ンの言葉を理解するのに暫く掛かった。その間にト゛ンはシャツに袖を通し、
ズボンをはいて、ネクタイを締めていた。チャ―リーが誕生日にあげたネクタイだ。そんなこ
とに今更気づいて、ぼんやりとそのネクタイを眺めながらチャ―リーは唇を動かした。「……
意味がわからないよ」

 ト゛ンはそれを聞いて眉を上げてみせた。そして簡単なことだ、という表情で説明した。
 「お前には俺がいなくても数学がある。そうだろ?P≠NPがそのいい例だよ。否定するな、お
前自身がそう言ったんだから。お前はいつもそうだった。俺がいなくても数学の問題さえあれ
ば幸せで、俺は兄としてお前にやれることなんか何一つない。……このクソみたいな行為のほ
かには。小さな頃からきっとそれがわかっていたから俺は、自分で何でもやろうと思ったのさ。
他の恋人にだってそうだよ。あなたは自分ひとりで何でもやろうとするってよく言われた。仕
事の成功を追うばかりで、私を必要としてないって。でも俺はそうやって育ったんだから仕方
ない」
 ト゛ンはそう言って腰に下げていた銃を装着し直すと、肩を竦めた。「お前は自分には数学
の才能しかないって言ったけど、それが何なんだ?俺はお前のように特別な才能もない。野球
もやめた。自分で何でもできるようにならないと、生きていけない。母さんや父さんだって、
そうでもしないと安心させられなかった」
 「ト゛ン」
 チャ―リーが震えた声で呼びかけると、ト゛ンは片手でそれを制した。「そんなに深刻な話
じゃない。お前のせいでもない。ただお前が俺といていつも不安で不満足なのは、求めている
ものの原型がそもそも俺じゃないからだよ。それだけだ」

 そう言い捨ててト゛ンは静かにガレージを出て行った。チャ―リーは呆然としていた。追い
かけなければ、と彼は思った。追いかけてそれは誤解だ、自分に必要なのはト゛ンなのだと言
わなければいけないと思った。だがあまりにもト゛ンの言葉が衝撃的で、チャ―リーは思考が
追いつかないのを感じた。これまでいつもト゛ンは完璧な存在で、もし乱れたものになったと
しても、それはガレージで初めて彼と寝たあの晩以来、自分のせいでそんなふうに変わってし
まっただけだろうとチャ―リーは思っていた。だが、もしそうでなかったとしたら?チャ―リ
ーは壁一面に掛けられた黒板と、そこに記された数式を見た。もしト゛ンが初めから完璧な数
式ではなかったとしたら?それはチャ―リーにとって世界の根本を覆すようなことだった。も
しそうならすべての式を立て直さなければいけない。
 チャ―リーは愕然としてガレージの中を見回した。彼は恐ろしくなった。世界と自分との不
調和を不意に強く感じ、そして次の瞬間、ト゛ンも同じように感じている可能性を考ると、世
界がぐらりと揺れた。

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 | | [][] PAUSE      | |
 | |                | |           ∧_∧ 中編オワリ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
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新スレをたててもらって早々にスペース占領しちった
あと一回投下したら終わるのでご容赦を。


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