やまだたいちの奇跡 火の玉男×遊び人
更新日: 2011-04-29 (金) 16:13:49
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )
「ヤマダタイチの奇/跡」の火の玉男×遊び人
本編開始より一年前くらいの大捏造。4レスほどお借りします。
これは、やるか、やられるかの真剣勝負だった。負けるわけにはいかない。集中しろ、流れを読め、あせらずに
間合いを取れ。
八/木沼は深呼吸すると、おもむろに告げた。
「タイム、ターイム!」
「はぁ?」
ともに卓を囲んでいた連中が殺気だった形相でこちらを見るが、八/木沼はへらへらした顔で、
「トイレだよ、トイレ。このままじゃ漏れちまう」
とさっさと立ち上がり、手のひらをひらひらさせながらそそくさと部屋を出てこうとする。
「てめえ、勝ち逃げだけはゆるさねーかんな」
「さっさと戻ってこねーと、どうなるか分かってんだろーな」
などという軽い罵声を背中に浴びながら。
「うう、さぶっ」
廊下に出た瞬間、八/木沼は軽く震える。まったく、春とは名のみの風の寒さときたものだ。
卓を囲んで牌を打っていた時には気にも留めなかったが、廊下に出るとばらばらと雨粒が激しく窓を叩いている。
この大雨のおかげで、練習もそこそこに八/木沼たちは喜び勇んで麻雀大会を開催することが出来たのだった。
さっさと用を足した後、急ぎ足で大会会場へと戻ろうとする八/木沼は、向かいからゆっくり歩いてくる人影に気づいた。
「よう、八/木沼」
少しでもはやく卓に戻りたかったが、呼び止められて仕方無しに立ち止まる。
「ナンですか、監督」
「麻雀大会開催中らしーな。その様子だと本業とは違って大絶好調みてーだな」
「えへへへへぇ」
プロ意識皆無の最低最悪選手と評されることにすっかり慣れっこになっている八/木沼も
さすがに後ろめたさを感じたのか、わざとらしい笑い声を立てる。相手は肩をすくめ、顎を撫でた。
「まあ、今すぐやめろなんて野暮なことは言わないけどよ。すってんてんにされたって泣きつかれる
こっちの身にもなってみろってんだ」
その言葉に、盛り上がってきた大会途中に乱入してきた男のことを八/木沼は思い起こし、
軽く眉根を寄せた。
「いきなり下着姿の中年男に泣きべそかかれて、こっちは大変だったんだからな。いろいろ」
その言葉に八/木沼はぐにゃりと笑みを崩し、困惑の表情を浮かべる。
口やかましく正論を吐き麻雀大会阻止を図る大友を舌先三寸で丸め込み、卓に引き込んだのは
他ならぬ彼自身。
「だって、金品かけるのはご法度ですからねえ。ちょっと趣向を変えて脱衣麻雀しただけ……」
そして、さんざんカモにした挙句、口うるさいコーチどのに退場願ったのだった。せめて下着を残したのは武士の情け
というものだ。しかし、あのままの姿で監督に泣きつきに行くとは計算外だった。その場の様子を想像しかけ、八/木沼は
あわてて首を振ってその妄想絵図を振り払う。
その不意をつかれた。ぐいと力強く右手首を引かれて、つんのめった。一瞬、背筋に冷たいものが走る。そのまま彼の
胸の中に抱き寄せられるかのような錯覚を覚え、八/木沼は反射的に踏ん張り、腕を引き放そうと試みた。だが、彼の
大きな手のひらはしっかりと掴んだまま離さない。そのまま、ぐいと顔の間近まで手のひらを引き寄せると、
じっくりと値踏みするかのような視線を八/木沼の右手に向けた。
やがて、彼の左手が軽く握られていた八/木沼の手のひらを開かせる。冷や汗に濡れた手のひらの上を彼の節くれ
だった指がゆっくりと這う。じっくりと皮膚の感触を味わうように。指が、手のひらが、触れて、重なっていく。手のひらを
密着させ、強引に指を開かせ、こじ開け、互いの指と指を絡らめる。
八/木沼より背は低いものの、彼の手のひらは大きく力強く、重ねた年月の重さを感じさせる。
ぴったりと手のひらを密着させたまま、二人は無言を貫く。
強引な仕草と伝わる肌の熱さは彼の気性をそのままに表していたが、その意図するところが八/木沼には掴めない。
自分が緊張しているのか、脅えているのか、それも分からない。ただ、されるがまま、早鐘のように鳴る心臓の音が
時を刻み続けた。
相変わらず、雨の音が響いている。止む気配はまったく無い。
「まったくらしくねぇ、手のひらだよな」
その声に、八/木沼はようやく我に返る。腕の自由を奪われたまま、鋭い視線に射抜かれる。
彼の口調は冗談めかしていたが、決して瞳は笑ってはいない。その感情を押し殺した瞳の中に隠されたものは
一体なんなのか。
軽く身じろぎすると、それに合わせて彼は一気に間合いを詰めてきた。
唇が、耳たぶに触れるか触れないかというところまで近づく。
「やったら柔らかくて、これじゃあまるで箸より重いものなんて持ったこたぁねえって手だ。これがプロで飯食っていく男の手かよ」
お前の実力に見合った手か?
押し殺した低い声、吐息とともに注ぎ込まれる言葉が、八/木沼を嬲る。
突如として生じた胸の中のわだかまりに八/木沼は顔をしかめた。
不快、不愉快? 違う。率直に痛いところを突かれたという思いと、そして……不可解な感情。
けれども、八/木沼は己の中に生じたその感情と向き合うことを無意識に避け、湧き上がる戸惑いをごまかそうと、
わざとらしい笑い声を立てた。
「は、はははは。そーんなに柔らかいですか?」
おどけるように手のひらを広げて、これ見よがしに人差し指を指し示す。
「ほらほら、人差し指のとこに立派なタコがありますよ」
「バーカ。そりゃあ、おめえ、麻雀ダコってやつだろーが」
先ほどの態度とは打って変わって一瞥もくれずに彼はそう言い捨てると、くるりと背を向けて引き返していく。
足早に去っていく背中はみるみるうちに小さくなっていく。その姿が角を曲がって消える前に、八/木沼は俯き
、己の手のひらを見つめた。
らしくない、手のひら、か。
「……でも、まぁ、これが俺らしいと思うんだけどよ」
誰に向けられたものでもない言い訳めいた呟きは、相変わらず土砂降りの雨音に紛れて消える。
八/木沼は手のひらをぐっと握り締め、乱暴にポケットに突っ込んだ。手のひらを合わせた時の熱が生々しく残り、
掴まれた手首がずきずきと疼き続けている。
冷え切った空気が身体を蝕んでいるはずなのに、彼に触れられた部分全てが熱くてたまらなかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
勢いはあっても、萌えを形にするのは難しい…。
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