『車達』稲妻×医者前提の医者と保安官
更新日: 2011-04-29 (金) 11:25:42
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. // 生 || ∧(゚Д゚,,) < DVD記念!
//_.再 ||__ (´∀`⊂| < 『車達』稲妻×医者前提の医者と保安官
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| | / , | (・∀・; )、 < リハビリします
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せっかくだから使わせていただきますノシ
「こりゃ医者保安官医者ktkr」そう思っていた時期が確かにありました
再び簡単自設定↓
・保安官は通常は一人称「俺」。だけど医者の前じゃ一応「私」
・医者は普段は結構気を張ってるので一人称「私」。
・だけど内部テンション上がると「俺」。年の近いシェリフの前だったりして気が緩んでる時も「俺」。
・て言うか字幕吹き替え小説で一人称統一激しくキボンヌorz カッテニイロイロヤッチャウゾ
観光客や、稲妻の名を冠するルーキーか伝説と讃えられたレーサーかで
お目当ては違えどもレースマニア、小さな凄腕ピット・クルーや塗装の魔術師目当ての客。
ラジエーター・スプリングスは賑わっていた。それはかつて地図から消えた街とは
到底信じられないほどで、彼らを相手に商売をしている住人達は日々忙しく
立ち働いていた。それまでの退廃的な安らぎこそ失われたが、皆はその喪失を
たまに懐かしく思いこそすれ恋しがりはしなかった。今のこの状態こそ、
住人達が夢に見たラジエーター・スプリングスの本当の姿なのだから。
しかしこの日のラジエーター・スプリングスは静かだった。今、イノリイ州で
開催されているレースはかつて八ドソン・ホーネットもライトニング・MACィーンも
参加して、それぞれが好成績を収めた新人レーサーの登竜門とも言える伝統ある
レースだ。参加資格はデビュー後2年までだったが、期待の若手レーサーと騒がれ
ピストン・カップではキングらと優勝まで争ったMACィーンは参加を控えていた。
それでもMACィーンはいつか自分を追ってくるのだろうルーキー達を見物して
おくべく、レースを見たいとはしゃぐメーターを伴ってサーキットへと出掛けていた。
ツェリフは久々に喧騒の収まったメインストリートを眺めながら、フ□ーの
カフェでのんびりとオイルを啜っていた。無論、本来は派出所なり標識裏なりに
詰めていなければいけないのだが、平和な田舎勤めで培われた長年の勘が
『今は休憩時だ』と告げている。
ちびちびとオイルを楽しみながら、ツェリフはぼんやりと時を過ごしていた。
その内、標識裏に詰めている時によく襲ってくる良く知った感覚に捕われている事に気付く。
すなわち、睡魔。昼下がりのぽかぽか陽気にフ□ーご自慢のオイル。
それに加えて呑気で穏やかで静かな通り。昼寝には、持ってこい。
「…………――」
ずるずると狭くなる視界を無理矢理押し上げる努力を、ツェリフがついに放棄
しかけた時だった。
「――ツェリフ」
「おおぅっ!?」
急に呼ばれた名前にばちっと視界が開け、強風に当てられた煙が晴れていく様に
眠気が掻き消える。
慌てて巡らせた視線の先にいたのは、濃紺色の流れるような気品のある
ボディラインを持つ旧型フルサイズ・クーペだった。
「すまんな、驚かせたか」
程好い距離を保っているドック・八ドソンは、ツェリフの上げた声に面食らったようで、
少し怪訝な表情だ。
「いや……助かった。危うく寝てしまうところだったよ」
ツェリフは頭を振って答えた。
町の保安官の居眠り癖はさりげなく住人達公認になっていたりする。
それでも医者であり判事、更に最近はレーサー達の間で伝説となっている事が
判明したこの良識溢れる二つ年下の紳士に見られてしまうのは気恥ずかしいものがある。
そんなツェリフの胸中を知ってか知らずか、八ドソンはツェリフの隣に滑り込んで止まった。
「ガスケットの調子はどうだ?」
「相変わらず。高速を突っ走ったのなんざ何十年振りだったんですよ?……
せっかく治りかけていたんですがねえ」
そう言ってツェリフが意地悪く睨んでやると、八ドソンは車体を僅かに揺らして笑った。
MACィーンが唐突にいなくなり、町の誰もが多かれ少なかれ沈んでしまっていた
あの日、いきなりカリフォルニアへ行くと言い出したのは誰あろうドック・八ドソンだ。
『カリフォルニア!? 一体どうしたんだドック……あの真っ赤なレーサーじゃ
あるまいし』
『訳は追い追い話す。グイド、それにルイジ――悪いが付き合ってくれ』
『MACィーンに会いに行くんだな?じゃあオイラも行くよ。だってオイラ、
まださよなら言ってないんだ!』
ドックの頼みとあらばと快諾したタイヤ屋コンビとうきうきとはしゃぐメーター。
慢性的なホイールの軋みが治まらないリジーと引っ込み思案なレッド、
『出来る事は無いから』と遠征を辞退したサリーを尻目に、完全に小旅行
気分のフィノレモアとそれに引っ張られた形のサ一ジ。ドック・八ドソンの
いきなりの告白にいち早く順応したラモ一ンは手早く商売道具一式をまとめ出し、
フ□ーは旦那についていく格好になった。
クーペからフォークリフトに至るまでの高速道路には余りにも不釣り合いかつ
バラエティに富んだ面々を先導し、パトランプをがんがん鳴らしながらひたすらに
爆走したのはツェリフだ。
お陰でようやく治まり掛けていたバックファイアが再発し、ツェリフは
数メートルも静かに走れなかった。その銃声にも似た破裂音に驚いた他車が
道を空けたのはラッキーではあったが。
「あの時は迷惑を掛けた。何分急いでいたものでな」
「だったらあの若僧の事をわざわざタレ込まずに、最初から素直に一緒に行けば
良かったじゃないですか?そうしたらあそこまで急ぐ事もなかったし、私も
上からイヤミを言われる事も無かった」
警察当局にも存在すら忘れられていた町ではあったが、『ハイウェイを発砲
しながら走ってるマーキュリー・ポリス・クルーザーがいる』と通報されては
どうしようもない。
この話はドック・八ドソンには初耳だったようで、驚きに見開かれた眼をツェリフへと向ける。
「上から?大丈夫なのか」
「いや、電話を寄越したのが昔の部下でしてね。適当に理由を聞かれて、
後は思い出話に終わりましたよ」
懐かしそうに眼を細めて笑うツェリフに八ドソンも安心したように笑んだ。
それからふといつものきりっと引き締まった顔に戻り、ツェリフへと視線を投げ掛ける。
「なあ、ツェリフ」
「何です?」
ツェリフが訝し気に視線を返す。
八ドソンは自分のオイルで喉を潤してワンクッション置き、やや躊躇い勝ちに切り出した。
「なあ、ツェリフ。今、眼の前に自分を好いてくれているだろう車が現れたとしたら
――どうする」
ツェリフにも、八ドソンにも妻や恋人と呼べる存在はいない。『いい男が揃って
もったいない』が町の最年長リジーの二人を見た時の口癖だった。が、あの
人見知りで引っ込み思案なレッドが、大柄で野生的な魅力を醸し出す可燃性
燃料用のトラックガールと電撃一目惚れに始まる遠距離恋愛をしていると発覚して
以降、彼女はそちらに掛かり切りになった。女が喜ぶ男のあれこれや、レッドが
町を出るのではなく彼女を町へと連れて来させる手練手管を伝授する一方で、
それに伴い変化した口癖が『あのやもめコンビみたいになっちゃダメよ』と
いう容赦もへったくれもないものになってしまったのだけが頂けないが。
「どうするか?それを私に聞く意義は何ですかな、ドック?」
「…………」
珍しい事に、歯切れ悪く黙ってしまった八ドソンにツェリフは軽く息を吐いた。
穏やかな笑みを向け、続ける。
「ドック、そりゃ無意味な仮定ってもんですよ」
「――無意味?」
「ああ、無意味ですとも。……その仮定された事態がこの身に振り掛かると
しましょうか。果たして私は、突如眼の前に現れた一途な彼女、もしくは『彼』に」
いきなり八ドソンがむせた。
「げほっ、ぇほっ……」
「どうしました?冷却液でも逆流したとか」
「いや……!何でもない、続けてくれ」
「ふむ――――どこまで話しましたっけ? ああ、彼だか彼女だかにあなたが
好きですとでも告白された時、俺はどうするかという話でしたね」
「そうだ。それで、どうするんだ?ツェリフ」
ようやくいつもの悠然とした己のスタイルを取り戻した八ドソンが先を促す。
ツェリフはそんな八ドソンをちらりと見遣った。
「――――聞いてどうするつもりで?」
「……? 何だって?」
「聞いてどうするかと訊いたんですよ。今後の参考にとか?万一こいつが
心理テストの類なら謝りますが……どうも違うみたいですし」
「――…………」
ツェリフの思わぬ言葉に八ドソンは沈黙した。うつ向いて、次の言葉を模索
しているかのようだ。
「仮にですよ、私の答えが『受け入れる』だったらどうするつもりでした?
『断る』なら?『発砲する』だったら?」
「ツェリフ、俺は」
ツェリフは片眼をしかめた。
「こんな事、言っちゃあ何ですが……人にすがるなんぞ、らしくないですよ――ドック」
「…………」
黙したネイビーブルーのクーペを横目にツェリフは、ドック・八ドソンが町に
現れた日の事を思い返していた。
珍しく雨の降った日だ。緩やかなスピードで走ってきた濃紺色のクーペは、
かつては手入れの行き届いていたであろうに泥まみれで、タイヤはパンク
寸前ガソリンは既に尽き掛けていた。何を聞いてもうんともすんとも言わない
見るからに訳ありな彼を手厚く介抱したのは、気のいいラジエーター・ス
プリングスの住人だった。それから回復した彼はドック・八ドソンとだけ名乗って、
町医者としていつしか居ついていた――ここはそういう町だった。
しかし、今も昔も変わらないのは八ドソンの他人との距離だ。常に一歩引いて
町を、住人を見守っているこの冷静で落ち着き払った年下の町医者の存在を、
ツェリフは町の保安官としては頼もしく思っていた。反面、どこか危うげなものも感じていたのも確かだ。
だが、それが、最近変わった。
八ドソンが他車と距離を取るのは、その過去ゆえだった。詳しくは聞いていない。
ツェリフを始め誰も、聞こうとも思わない。ただ、『かつてはレース界の頂点に
いた伝説の男』という簡潔な一文だけあれば十分だ。それさえも多すぎるかもしれない。
彼が『誰』であったとしても、ドック・八ドソンはドック・八ドソンであり、
それは揺るぎようのない真実だからだ。
それをあの日ツェリフが代表して八ドソンに告げた時、何故か八ドソンは
ひどく意外そうな顔をした。戸惑いと言い換えてもいい。それからすぐに
ふと笑って、『すまない』と言ったのだった。
八ドソンの変化の直接の原因は、最初は街に混乱と騒音を、次にひとときの繁栄を。
そしてかつての賑わいをもたらしてくれた稲妻の名を持つレーシングカーだった。
彼のクルーチーフに落ち着いてからというもの、八ドソンは傍目にもますます
忙しくなっていた。本業の医者業に加え、引き受けてはいたもののほとんど
休業状態に近かったはずの判事業の仕事量が跳ね上がったからだ。繁栄は
いい事ばかりを呼ぶものでもない。この前紛れ込んできたド派手な暴走族どもがいい例だ。
それでも、八ドソンは楽しそうだった。
MACィーンとサーキット上でのパフォーマンスについて揉めに揉めていても、
食あたりを起こしたキャリーカーとその荷台に乗せられた車達が大挙して
診療所に駆け込んでも、丸一日交通裁判所に詰める羽目になっても、
ドック・八ドソンの顔には疲労の色が見られない。いや、見られるには見られるの
だが、決して深刻さを感じさせられるものではない。かつての彼なら、まるで
手負いの獣のような精神で鉄面皮を保つ事を選んだだろうに。
ツェリフはその変化が嬉しかった。古傷など、いつまでも抱えているものではない。
それが心のものならば、余計に。
だがいくら変わったと言っても、ドック・八ドソンが軟弱になったと言うわけでは
ない。あのレッドでさえきちんとあのトラック娘を捕まえているのだから
(実は案外とそちらの才能があったのか、それともよほど相手がレッドに首ったけ
なのかはいざ知らず)彼より遥かに知識も経験もあるはずの八ドソンがこんな
らしくない『例え話』をするなんて事はないはずなのだ。
「……ツェリフ」
八ドソンがぽつりと呼んだ。ツェリフは慌てて思考を引き戻しながら返事をし、
こっそり思った。やれやれ、年を食うと繰り事ばっかり出てきて困る。
「ツェリフ、分からないんだ……自分がどうすればいいか」
何に対して、などとは尋ねない。警官と言うのは聞くのも仕事だ。
無言のまま先を促すツェリフに、八ドソンは短い、しかし重い溜め息をついた。
「昔の私は……あいつと同じものを持っていた。栄光、称賛、将来への展望。
――馬鹿だったよ。それらが永刧自分の物で在り続けるものだと信じて疑わなかった」
もはや先の例え話が吹っ飛んでいる。ツェリフは思い出したようにオイルをすすった。
八ドソンはどこか遠い眼をして、ゆらゆらと前後へタイヤを回す。
全てが180度変わってしまったあの日。変わったなんてものではない。全てが
消え失せた。ボディの傷は治っても、もう取り返しがつかなかった。八ドソンの
周囲が、取り返す事を許さなかった。
それから彼は静かに生きて来た。優しくて暖かいRSの住民達と寄り添いすぎず
離れすぎず、程好い距離を保った生活。自分の正体を明かす事もない。
誰かが自分を覚えているかもしれないと言う可能性が捨て切れなかった。
その誰かからかけられるだろう、過去の遺物に対する空虚な労いの言葉が
とにかく恐ろしくて、切なくてならなかったのだ。
誰からも忘れられたままゆっくりと『ドック・八ドソン』として朽ちる。
それが一番良い余生の送り方だと自分に言い聞かせていたはずなのに。
しかし、その不可侵領域にエンジン音を轟かせて乱入してきたのは、何を
隠そうライトニング・MACィーンだ。遠い昔に放り捨てたはずの希望が、自分から
舞い戻ってきたのである。とびきり傲慢だったけど、一皮剥ければ誰よりも
一途なレーサーと一緒に。
……つまるところ、ドック・八ドソンは恐れている。
その一方的とも言える思いに応える事。応えて、またその距離を詰められてしまう事。
しかも、八ドソン本人はMACィーンの一途な行為自体は憎からず思っているのだ。
時折やらかす過ぎたスキンシップは流石に怒っているが。
「――正直、自分でも整理がつかない。あいつを跳ね除けたいわけじゃあない。だが……」
「一気に距離を詰められるときついって事ですね」
「……そうだな」
ある意味で身も蓋も無い纏め方をしたツェリフは、するりと定位置から離れて
八ドソンの隣に並ぶ。そのゆるやかな前後運動に付き合うように、タイヤを
ぐりぐりと慣らした。
「ドック、誰だって好意を向けられて悪い気はしないでしょうよ。けれど、
好意に対してどう対応するかは人様々です――無条件でその好意に報いる者、
心地よい距離でそれを享受する者……その永遠性を過信して、おざなりにする者」
八ドソンは怪訝そうにツェリフの横顔を盗み見た。歳を重ね、とろりと眠たげな
目線はここではないどこかを見ている。
「『失って初めて気づく』って奴ですね。陳腐にも程がある。しかし……
それが陳腐なのは、本当に『よくあること』だからです。無難なエピソードは
どんな形態にも変わる。だから、我々の回りに溢れている。溢れすぎていて、
よもやそれが自分の身に降りかかるなんて、誰も予想していない」
ツェリフは、ゆっくりと視線を上げていく。気持ちよく晴れたキャブレーターの
青空を見上げた。
「馬鹿な事をしましたよ。仕事仕事でろくろく構ってやらず……今は忙しいから
そのうちに、と先延ばしにしていたら――――可哀想なメル。ダンプと正面
衝突して跡形も無し、だ」
ツェリフの、いつしか独白にも似てきた言葉を八ドソンは沈黙して受け取った。
都会から赴任して来たというツェリフ。ガスケットの調子が良くないから、
と診察した内側は、並大抵ではつかないような傷にまみれていた。一連の事情を
今の今まで黙していたツェリフの心情を、八ドソンは理解出来たつもりだ。
皆、何かしらの不可侵領域というものを持ち合わせて生きているのだ。
そして、互いのレッドラインを踏まないように、出来る限り身を寄せ合って生きている。
「年寄りの繰言になってしまいましたな。つまりドック、簡単に言えば
『貰えるものは貰っとけ、但し粗末にはするなよ』という事で――」
「あら~、ツェリフにドック、来てたの? ごめんなさいね、つい盛り上がっちゃって」
ツェリフの言葉はフ□ーの声に遮られた。夫婦揃ってドライブに繰り出していた
カフェの女主人と本日全身をいぶし銀シルバーで決めた塗装屋は、なめらかな
アスファルトからカフェの敷地内へと乗り上げた。
「気にするなフ□ー、たまにはのんびりしたかったんだよ」
「ったく、何をそうしっぽり語り合うネタがあるんだか……このいい天気によ」
陽光に燦然と輝く自らのボディを満足げに点検し終えたラモ一ンはツェリフの
返事に大袈裟にフレームを沈めて溜息をついた。その後くるりと二台の先客の
周りを流した後でラジオのスイッチを入れる。
「せめてイカしたBGMでも聴こうとは思わねぇのかよ? やだねぇフ□ー、
俺ぁこんな歳の取り方しねぇから!」
「いやぁねラモ一ン、わざわざ宣言しなくてもあたしはあなた一筋よ!」
店の奥から届く愛妻の言葉にラモ一ンはにんまりと頬を緩めて、ラジオの
チューナーをいじる。いくつかのノイズが流れた後、チャンネルがかちりと
合ってスピーカーから小気味いいマシンガントークが溢れ出た。
『ここイノリイ州で開催されたルーキーズ・カップ!只今トップ三台のインタビューも
終わり後は静寂が帰ってくるのを待つばかりですが、観客の興奮は未だ冷めやらず
――うん? あれ、カメラさんちょっとそこの席に寄せて!』
『何とォ!?MACィーンです、みなさん、あの奇跡のルーキー、ライトニング・
MACィーンがこのレースを見に来ていたのです!今回のルーキーズカップには
出場辞退をした彼ですが、やがて己を追ってくるルーキーたちの視察でしょうか!?』
レースは既に終わったのに再びテンションが上がるダリルとボブの掛け合いの
背後で、確かに観客の新たな歓声が聞こえる。その歓声の只中にいるのは、
誰あろうMACィーンだ。眼には見えずとも、その赤いボディ、キザったらしい
笑顔を主に女性に向ける様子がありありと浮かんで、八ドソンは知らずひっそりと
微笑んだ。
ざわつく音を断ち切るように、女子アナウンサーの凛とした声が割って入る。
『こちら観客席です!MACィーンさん、どうでした今回のレース?やっぱり
出場したかったでしょ?』
『うーん、やっぱり軽い気持ちで見に来るものじゃないね! ボクも走りたくて
走りたくてたまらなくなっちゃったよ!』
観客に負けず劣らず興奮の渦中にあるらしいMACィーンが、熱の篭った口調で
電波に乗った。その背後ではフラッシュの焚かれる音。めくらめっぽうに向けられる
カメラに何やら嬉しげにメーターが歓声を上げているのが聞こえた。
『貴方には次のレースが控えてるわ! その時は是非その稲妻の走り、見せて頂戴?
今回の出場者も何台か参戦予定なの。もちろん、今日のトップ3も。他に貴方の
注目している選手はいるかしら?』
『そうだなあ……全員かな! みんな順位が付けられないぐらいに輝いてる
ものを持ってる。彼らと戦うのが楽しみだよ――あ、ねえ、これってアメリカ中に
放送されてるの?』
『ええ、どこもかしこも余すところなく生放送よ!』
『そっか、じゃあちょっと貸して!』
それを最後にスピーカーの向こうでは一瞬ではあるが慌てた気配が走った。
しかしそれもすぐに掻き消えて、次にスピーカーを振るわせたのはMACィーンの声だった。
『ドック!今これ、聞いてくれてるかな!?ねぇ、聞いてた、見てた? 今年の
ルーキーは凄い連中が揃ってる! こっちもうかうかしてらんないよ、帰ったら
ミーティングとタイヤのチェックと……試走行ももちろんね! 今回もよろしくね、
ドック。もちろん次レース以降もずっとずっとずーっとだけど!あんたを
信じてるからさ! えもう時間?ちょっと待って、えーとえーと、愛してるよーーーー!!』
それを最後にMACィーンの声は途絶えた。『相変わらずの素敵なパフォーマンス
ですね!』とコメントするアナウンサーの声を聞きながら、ドックは俯いて
車体を震わせた。
「……っ、全く、あの坊やは!こっちが反論出来ないと思って調子に乗りおって」
その声音はどこか心地良さそうだ。そこに先程までの沈鬱な色は、無い。
八ドソンはその場で綺麗なドーナツターンをしてツェリフに向き直った。
「……ツェリフ、俺は無駄な時間を過ごさせてしまったようだ」
「大したことではありませんよ、ドック。俺もどうも余計な忠告をしてしまった
らしい……あの若造があんたの前から消える日は、アメリカ大陸が沈む日だ!」
タイヤを振ってからから笑うツェリフに、八ドソンは眼を細めてゆるゆるとボンネットを振った。
「ありがとう、ツェリフ。じゃあ、ちょっと行って来る」
「お気をつけて、八ドソン」
ツェリフの言葉を背に、八ドソン・ホーネットはいきなりエンジンを吹かした。
そして現役時代をびりびり感じさせるスピードで走り向かうのは、あのダートコースだ。
それを見送ったツェリフは再び日陰へとバックした。
「フ□ー、もう一杯貰えないか?」
そう主人に呼びかける。おかわりのオイルが来るのを待つ間、ツェリフは
ゆったりと眼を閉じ、のんびりとした時へと再び身をゆだねた。
日が傾きかけた空の下、真っ赤な稲妻を待つフルサイズ・クーペの姿を思い描きながら。
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. // 止 || ∧(゚Д゚,,) < テラナガス
//, 停 ||__ (´∀`⊂| < カンがいまいち
i | |,! ||/ | (⊃ ⊂ |ノ~
| | / , | (・∀・; )、 < 戻ってこない!
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
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| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
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|_____レ"
要するにやもめ萌えです、と。
そろそろレッカー車呼ぶべきですか。
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