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流石兄弟 ネタなし

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                     | 流石兄弟
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ネタなし
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 地味
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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 陽が沈もうとしていた。
 雲は茜に染まり、空はグレイを含んだ妖しい紫。
 もうすぐ紺色に染まるその前に、真紅と最後の戯れをしている。
 普通ならオレはこの時間の空を見ることがない。
 大抵バイトを入れてるし、そうでなければテスト前だ。

 だが今日は、何もかも面倒になってさぼってしまった。
 そのくせ狡猾で小心者だから、きちんと雇い主に連絡している。
熱が出た、とかお決まりの嘘を。
 普段の信用で、あっさりそれは了承された。

 ぽっかりと空いた夕暮れの時間。
 それは自由というより牢獄めいて、暗い空白としてそこにある。
 悪友を誘って遊ぶ気も、女を呼び出して味わう気も起きない。
 仕方なく、のろのろと家路をたどった。

 帰りたいのか、帰りたくないのかよくわからずに、自宅前で自室を見上げた。
 西側の窓が開いている。そこに人影が佇む。
 落ちていく陽光の最後の一閃を受けて、輪郭がほのかに光って見える。
 兄者はオレに気づかずに夕陽を眺めていた。

 パソコンの前にいる姿か、ベッドで眠っているか、マンガでも読んでいる姿ぐらいしか
見ていなかったので、少し驚いた。
 彼でも、外を眺めたい気分のときがあるのかと。
 というか、箱を通して以外に外が存在することを知っているのかと。

 考えてみれば当たり前の話で、やつだって引きこもる前は普通に外に行き、
どうにか他人とも接していたのだ。
 あまりに間抜けで脳天気なので、考えたこともなかったが、己を悔いたり、
外に憧れたりすることもないことはなかろう。
 きっと今までも、こうして窓を開けて外を眺めることがあったに違いない。

 夕陽が沈むまで、彼を見ていた。
 姿はオレに似ていて、性格はオレと違っている。
 思いっきりとんまだが、オレの邪悪さをやつは持たない。
 別に天使のように清らかな心を持つわけじゃないが、誰もが持っていて特にオレに濃い、
ズルくて黒くて淫猥な部分が少し、人よりも薄い。
 だから、外に出られないのだろう。

 このところ、オレとあいつの関係性は変だ。
 幼いころから慣れ親しんだ通常の兄弟としてのポジションから、明らかに逸脱しかけている。
 きっかけは冗談としてのキス。
 ベッドを共にし、家にいる間はいつも一緒だなんて恋人同士か夫婦のようだ。
そんな軽口を叩き合っているうちに、遊び心でそれを与えた。
 酔芙蓉の花みたいに膚が染まっていくのを見て、そういやこいつ、女づきあいがまるでなかった、
どう考えてもファーストキスです、ありがとうございました、と考えた瞬間、こっちまで赤くなった。
 軽口にまぎらしていつものようにふるまったが、なんだか二人してぎこちなくなった。

 忘れたふりをして、2,3日過ごした。
 相手も当然そんな顔をしている。
 だが、オレの視線は今までと違う。あいつの、意外にやわらかかった唇や、
少し細い首の線などにあてられる。
 最近ではそれが進んで、無防備に投げ出される体のラインや、
まだ誰も知らないはずの腰のあたりに目がいってしまう。

 まずい。無茶苦茶まずい。
 体の中で警告音(アラーム)がなる。
 あいつは年子の兄で、DQNでニートで引きこもり。
 マイナス要素のてんこもり。
 おまけにオレは女好きで、男に興味を持ったためしがない。

 街灯がいつのまにか灯った。
 窓を閉めようとしてオレに気づき、少し微笑ってこちらを見た。
 オレは笑わずに彼を見た。
 見つめあう男同士。はたから眺めるとさぞや滑稽なことだろう。
 しかもこの位置じゃ、とんだ笑えるロミジュリだ。
 無表情に右手を上げてみると、あいつは左手を上げる。鏡のような左右対称。
似ては見えても真逆の二人。

 真逆であることに感謝している。
 心までオレに似ていたら、オレはあいつを誰よりも憎んでいただろう。
 その上、オレの中の闇を止める者がいなくなる。

 たとえば姉者。
 女を見ると無意識に分類・評価してしまうオレは、実の姉さえその枠から外さない。
 容姿・スタイル一流品で、キャラクターはビッチでヴァンプ。その上えらく切れる女だ。
 しかも、彼女はオレに似ている。そしてそれは外観ではない。
 心の中に抱く闇。それはオレの比ではないほど深く、重く、澄んだ美しい結晶だ。
 あの女の闇が虚無の細い触手と絡み合って、時たまちらり、と姿を現す時、
オレの躯はぞくり、と震える。
 もし他に兄弟が無く、二人きりだったとしたら、少しやばかったのではないだろうか。
いや、兄弟がいたとしても、それが兄者でなかったら、大いに苦しかった気がする。
 しかし運良く彼がいるので、俺は彼女に家族以上の愛情も執着ももたず、
冷静にみつめていることができる。
 もちろん彼女はストイックに自分を制御できるので、めったにその闇を露出させることはない。
それでもその希少な機会に、うっかり眩惑されそうになるオレに気づきもせず、
なんだか外した言動でその闇を一瞬のうちに追いやるのはいつも彼だ。

 あるいは、妹者。
 幼いなりに美の片鱗を見せる彼女を、そのまま自然に育つのを眺めるのではなく、
少し手を加えてみたらどうなるか、と考えてしまう。
 ほんの少しずつ毒を滴らせて、姉者とは違う別種の闇を水晶のように抱かせてもいいし、
反対に過剰にピュアに育てて、世の汚れに涙させるのもいい。
 優しくして慕わせて、時おり冷たくして、惑わせるのも楽しそうだ。

 心の底から難破船のように浮かび上がるよくない想い。
 もちろん実行するわけがない。
 けれど無邪気に笑う彼女の横で、優しい兄を装いながら、
邪気だらけの想いを一つ、二つと数えている。
 そんな時大抵、フリーズしただのブラクラgetだのの騒ぎを起こし、あっという間にそれを払う。

 いや、そんな騒ぎも言動もいらないのだ。
 あいつがあいつとしてそこにいれば、その空間に邪悪なモノは潜むことが出来ないのだ。

 それならばあいつに対するこの感じは、いったい何だと言うのだろう。
これは、悪ではないのだろうか。

 右手を下ろして歩き出す。
 玄関に向かうオレへの彼の視線を感じる。
 それは羽根のように軽く、やわらかい。

 雑用を済ませて上がっていくと、いつもどおりにディスプレイの前だ。
 ふり向きもせずに、お帰り、と言うから、いきなり椅子を回してこちらを向かせた。
 少し驚いてオレを見る。
 何の疑いも持たない瞳。
 突然いたずらを仕掛けてきた、親しい兄弟を見る眸。
 オレの中の濃い闇は、払われる前に挑みかかった。

 冗談では済まされないキス。
 強引に舌を絡めて、ちゃんと両腕で抱きしめて。
 今までのどんな女に対してより、本気になって唇づけた。

 目を開けたまま硬直している。
 それをいいことに椅子を動かしてベッドに寄せた。
 肩を押してそこに転がし、上から覆い被さった。

 体の一部が脈打っている。心臓の鼓動と同じリズム。
 多分これは、やはり欲望。
 認めたくはないが、情欲そのもの。
 オレはこいつとやりたいらしい。
 …………なかなか、笑えない冗談だ。

 ため息をついて離してやり、ごろりと横に転がった。
 兄者はコトを理解していない。逃げもしないで横にいる。
 隣でオレが獣になろうか、人のままでいるか、悩んでいるのに気づかない。

「………バイトは?」
「さぼった」
「今のは?」
「本気」

 引かせるつもりで答えた。
 何かをひどく壊したかった。
 困り果てた兄者の顔。そりゃそうだろう。オレだって困っている。

 拒否やなぐさめやからかいや恐怖だったら、襲っていた。
 嫌悪だったら、部屋を出た。
 だが彼はそのどれも選ばず、困ったままで横にいる。

 どんな欲望が正しいのか。
 年ごろの男女だったらそれでいいのか。
 そんなカードはダースで引いた。
 そのどれもが、取替え可能。華麗な手つきでシャッフルできる。
 なのにこいつはとんだJorker。ルールを外して忍び込む。

 恋という字に下心。
 悪という字も下心。
 惑っていても下心。
 忍んで患い悲しくて、懲りずに憑かれて忘れられない。
 怒ってくれてもいいけれど、恐れと怨みはどうしよう。
 念じて感じて想うだけ。
 慰めてほしい愚か者。

 かってなことを考えて、困った人を抱きしめる。
 やはり逃げずに途方に暮れる。
 全くおまえはバカなやつ。
 突きとばして逃げればいいのに。

 堅くしたまま、ただ抱きしめていた。
 一触即発、限界間近。綱渡り気分でそれに耐えた。
 そのうち鼓動が重なって、二つの音が一つになった。

 ………気がつくと、腕の中で眠っていやがる。

 ほんとにおまえは大バカ野郎。
 凶悪なケモノになりそこなったじゃないか。
 仕方がないからこのままで、夢の守人になりきってみようか。

                             了

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ オシマイ
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