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やまだたいちの奇跡 矢島×たいち

やまだたいちのミラクル。
矢島×たいちのつもりだけど、矢島さん最後にしか出てきません。
6レスほどお借りします。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 あさってからの三連戦に向けてデータをまとめていた平田は、ようやく一区切りをつけたところでウンと伸びをし、席を立った。
さて、これから軽いストレッチでもして身体をほぐそうかと思ったところへ、こんこんとノックする音が響き、平田が口を開くより前に、
ドアがすっと開く。わずかな隙間から顔だけだしたのは、たいちだった。
 大きな瞳をきょときょとさまよわせ、
「今、平田さんだけ?」
 と頬を紅潮させて、必死な形相で訊いて来る。
「ああ」
 平田はたいちの前に立って答えた。それでもたいちは、用心深く、
「八木沼さんはいない?」
 と重ねて問いかけてくる。平田のルームメイトは、おそらく屋上で素振りでもしているに違いない。一体なにがあったんだと平田は
戸惑いつつ、
「大丈夫、とうぶん八木沼は戻ってこないよ」
 そう言ってドアを開け放ち、たいちを部屋の中に招き入れる。それにしても、いったいたいちは何の用でここに来たのだろう?
 八木沼には聞かれたくないことなのか?
 そんな平田の疑問は、すぐさま氷解することになる。そして、すっかり保健体育の先生になった気分になった。
もしくは子どもの悩み相談室の相談員。まかり間違ってもプロ野球選手の先輩という立場ではない。
 あぐらをかいたまま頭を抱えた平田の前で、たいちは正座をして畏まっている。
「だって平田さん、東大出で頭いいってみんな言ってるもん。おれの千倍は頭いいって!」
 最上級の褒め言葉を贈られ尊敬の眼差しを向けられても、平田の困惑は深まる一方だ。

「だから、どーやったら生えるのかおしえてよー」
 涙と鼻水で顔をぐちゃくちゃにしてたいちは平田の肩を激しく揺さぶる。そして、返答に窮する平田はされるがままになるしかなかった。
 18にもなって、未だにアンダーヘアが生えない。そもそもアンダーヘアどころか……というのがたいちの最大のコンプレックスだ。
トイレや風呂、もちろん練習中でもさんざん「つるちん」ネタでおちょくられるのは、気持ちのいいものではないに決まっている。
 もちろん、そんなことは「つるちん」命名者である八木沼を初めとするチームメイト全員分かってはいるのだ。
分かっていても、やめられない。プロ野球というある意味男らしさを誇り競う世界において「つるちん」という存在。これは面白すぎる。
おまけに、一々顔を真っ赤にしてムキになるたいちの反応も面白い。これでは、おもちゃになるのも当然である。
だが、当然とは言え、おちょくられる当事者が納得できるはずがない。
 しかし「生やせ」といきなり言われても、なにをどうすればいいというのか。
「そもそも、俺は法学部で医学部じゃないし」
 医者でも、おそらくはお手上げだろう。陰毛が生えるというのは、第二次性徴を迎えるということだから
『性腺刺激ホルモン分泌ホルモンの増加が生じ……うんぬん』という堅苦しい保健の教科書のフレーズがぱっと頭に浮かんだが、
これをたいちの小学生並の頭で理解させることが出来るのか。司法試験ではなく教員試験を受けるべきだったかと平田は後悔した。
「ええーと」
 困り果てた平田は、ついにやけになって手にしたノートと鉛筆で、おしべとめしべを描きはじめる。

 その様子をドアの隙間からこっそり覗いているのは、八木沼だった。左手にはバットをぶら下げ、中腰で覗き込んでいる。
正当な部屋の住人であるにも関わらず、こうしてこそこそしているのは「二階堂みたいにボーボーになりたいんだいっ」
というたいちの喚き声がドアの向こうから聞こえたからだ。
 そこでドアを思い切り開こうとしていた八木沼の手の動きがぴたりと止まる。先ほどの悲痛な訴えに続いて、
平田の「うーん」「ちょっと落ち着けよ、な」というその場しのぎの取り繕いの言葉が聞こえてくる。
 これはなにか面白いことになるだろう。間違いない。
 八木沼は一人にやりと笑い、ノブを用心深く開けて中をうかがうと、まさに想像通りの光景が繰り広げられていた。
悩めるたいちの性相談室だ。
 講師役の平田がへたくそなおしべとめしべのイラストで講義している。しかし、生殖について学んでも結局「生えて」
くるこたぁないわなあ、だいたい、そんなこと知らなくても勝手に生えてきたし、などと思いつつ、無駄に真面目きわまる
二人きりの性講座を熱心に覗き続ける八木沼だった。だが、寮の廊下でいつまでもそんな不自然なことをしていられるはずもない。
 何者かが八木沼の肩を叩いた。
「うへっ」
 思わず八木沼は飛び上がって後ろを振り向くと、そこにはトムと二階堂と大山がそろって並んでいた。
三人そろって、にやにや笑っている。
「なんで自分の部屋なのに入っていかないんだ?」
 と八木沼の驚きようをおちょくるように、トムはさらにぽんぽん肩を叩く。
「他にだれかいるんだなー、きっと。はっはっは」
 好奇心まんまんで二階堂が八木沼を押しのけようとする。
「けけ。まさか平田さんが女でも連れ込んでいるとか?」
 八木沼の傍らをすり抜けて、いきおいよく大山が部屋の中に入っていった。
 平田の講義はいよいよ佳境を向かえ、「受精」の説明に差し掛かっていた。

「でていけーっ」

 たいちの絶叫が寮内いっぱいに響いた。だが、もちろん、出て行くはずがない。
逆に中にずんずん押し入り、たいちに詰め寄っていく。
 必死になって八木沼たちを追い出そうとするたいちと、それを適当にあしらう四人を尻目に、平田はあわてて、
おしべとめしべの次の段階を描いたイラストを破り捨てて屑篭に投げ入れる。
 とうとう、二階堂の右脚がたいちの身体を踏みつけ床に押し付けた。そして、
「そんなに下の毛が欲しーっつんなら、おれさまのをやるよ。はっはっは」
 無造作に己のパンツの中に手を突っ込むと何本か引っこ抜き、たいちに見せ付けるように振ってみせる。
「あ、それなら俺も俺も」
 お調子者の八木沼がさらに続いて自分の毛を引っこ抜き、
「じゃあ、俺もだー」
 とトムがいそいそとたいちに差し出すと、
「あ、キンパツじゃねーか。俺が欲しー」
 ものほしげに八木沼がそれを見つめた。
「バカ言ってんじゃねーっ」
 耳まで顔を赤くしたトムが八木沼に殴りかかるが、あっさりとかわされ、そのまま壁に衝突し、そして、この俺も、と大山が
ベルトを緩めかけたところへ、
「このハゲちびのは下のより上の毛の方がきちょーだよなっ」
 という二階堂の声とともに、ぶちぶちと無慈悲な音が大山の頭上を襲ったのだった。
 あまりに不埒な二階堂のふるまいにショックを受けた大山は二階堂へ身体ごと突っ込んで行き、さしもの巨漢二階堂もぐらりとよろける。
こうして、たいちは息絶え絶えになりつつ二階堂の足元から這い出すことに成功し、おもむろに身体を起こした。
 そして、未だ乱闘騒ぎを続ける連中に向かって、
「そんなもん、いらないもんねー」
 と力いっぱい怒鳴りつけた。なにが悲しくて他人の毛を見せびらかされなくてはならないのか。
その気迫に気おされて、ようやく四人は殴り合いをやめてその場に直立不動する。

「まあ、たいち。あまり怒るなよ」
 つられて自分も陰毛を引き抜きかけた平田だったが、たいちの怒鳴り声で思いとどまりベルトを
締めなおした。そして、八木沼たちとなにより自分の行動をフォローしようと、
「いいか、たいち。下の毛はな、古来より縁起のいいお守りとされているんだ。みんなお前のことが心配なんだよ」
 ともっともらしい言葉を並べ立てた。
 もちろん、先ほど下の毛を差し出したのはそんな理由ではないのだが、
「お前のことが心配だ」という言葉自体には嘘はない。
 たいちは、じっと平田の目を見つめ、そして、八木沼、トム、大山、二階堂の顔を順ににらみつけていった。
 なにやらモノ言いたげな四人だったが、たいちの後ろにいる平田ににらみ付けられ、ぎくしゃくとそろってうなずく。
「そうだよ、たいち、ホームランを打ってくれよ」
「そんで、エラーしないよーにってな」
「明日、おめーが大活躍するよーにってこった」
「で、ちゃーんと生えるといいなー。けけけ」
 これでようやく事態が収拾しかけたと、平田は安堵のため息をつきかけるその寸前に、
「だがよー、そのお守りってーのは処女のじゃねーと効力ないって、知ってたか。お前ら」
 そう言い放ったのは、いつの間にか全開のドア前に陣取っていた三原だった。しっかと腕を組み、
意味深な不敵な笑みを浮かべている。
 たいちを除く全員が、この不埒な乱入者の発言に、
(一体全体、誰のせいで効力なくなったと思っているんだっ)
 と思ったのだが、さすがに口に出せる剛の者は存在しなかった。
 それぞれがそれぞれの思いを胸に、改めてベルトをぎゅっと締めなおすのが精一杯だ。
いきなり静まり返った部屋の中、たいちの声が響く。
「ねー、なんでお守りにならないの、ね、ね。なんでーどうしてー」
 興味津々で平田に尋ねるが、彼は頬を赤くしたまま沈黙を守り続ける。仕方ないので、八木沼、トム、二階堂、大山に
対しても同じように質問をしたが、誰も答えてくれない。最後にようやくたいちは、待ち構える三原の元へやって来た。
「ねー、なんでー?」
「それはなー、たいち」

 好奇心丸出しで三原に詰め寄るたいちの頭を撫で回し、三原は満を持して解説しようとした。
平田たちの背に冷たいものが走り抜ける。
 ゆっくりと三原の口が開き……。
「たいち」
 横から口を挟む穏やかな声は、矢島のものだった。一体いつから、その場にいたのか、さすがの三原も動揺を隠せない。
その声音は激しくはなかったが、何者にも口を挟ませぬ迫力があった。
「いいか、毛が生えていないというのはな『ケガない』に通じるとして縁起がいいものなんだからな。たいちはな
生えなくてもいいんだ。ケガをしないのが一番大切なことなんだから」
 その言葉にたいちは顔を輝かせた。今までからかいの対象でしかなかった自分の「つるちん」を全面肯定してくれる
言葉を初めて与えられたのだ。感激のあまりに瞳まで潤ませ、鼻水を盛大に垂らす。
「分かったか、たいち」
「うん、矢島さん。おれ、すっごーくよく分かっちゃった。ケガなんてしないよ、ぜったいにねっ」
 ずるずるとたいちは鼻水を勢い良く啜り上げ、矢島に飛びついた。矢島のシャツにべったりと鼻水がついたが、
少しも動じることなく、彼はポケットからティッシュを取り出すと、丁寧にたいちの鼻を拭いてやる。
「ああ、そうだな。じゃあたいち、二人で一緒にストレッチでもしようか」
「はーい」
 たいちはすっかり上機嫌で、矢島の手をぐいぐいと引っ張る。何事も無かったかのように矢島は一礼し、
たいちに手を引かれるまま去っていってしまった。
 そして、後に残された者たちは、
(それは……つまり、一生つるちんでいてくれってーことなのか)
 と、矢島に対して形容しがたい敗北感を抱くのだった。

 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

初投下なので、改行等おかしかったらすいません。自分で書くと801っぽさが薄いけど、
こんな感じが一番萌える二人です。


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