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>108の続き/稲妻×医者Ⅱ

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )>108の稲妻医者、続き。まだまだ長いので今回は中編。

「ドック、ドーックーってば、おーい?」
「うん?」
はたと我に返ったドックが最初に見たのはラモーソが自分の眼の前でちらちらと振るスプレーガン、
最初に聞いたのは熱の篭った遠いざわめきだった。
「――すまん、聞いていなかった。何の話だった」
「いーや、大したこっちゃねェ。あんたのカスタムは3分前に終わったぜっつー話」
半眼でさらりと言ってのけたラモーソはスプレーを元の位置に戻す。サーキット内のカスタムブースに
移っても、本日メタルレッドにトライバル風味にアレンジした黒い稲妻を走らせた塗装の魔術師の腕に
狂いはちっとも見られない。何とかはタイヤを選ばずという事かもしれない。
「毎回すまんな」
「今更気にすンなよ、あんたには世話になってるし――っても、町からこのまんま来りゃオレも楽なんだけどなァ」
「……それは勘弁してくれ」
 車体をすくめ微笑った八ドソンを、ラモーソは顔をしかめて見つめた。
「――ドック、調子でも悪いのか?」
「いや?……何でだ」
「ノリが悪いったらなかったぜ、これが全身ペイントなら日を改めてもらいてェところだ」
「……カスタムペイントにのりのいい悪いがあるのか?」
タイヤのカバーや車体のあちこちを包むマスキングビニールを少しでも剥がすべく、もぞもぞと
タイヤをよじらせながら八ドソンは尋ねた。
「あるとも、ドック。ボディとスプレーは正直だ……今日のあんたはどうにもよくねェ。
いつもなら眼ェ瞑ってたって完璧に出来る自信があるんだが――今日と来たらちょっと油断すれば
ステッカーはよれるわスプレーにムラは出るわ。おっと、オレの腕がどうかしたとかはナシだぜ?」

ラモーソの軽口とともに、カバーが外されていく。光を照り返す滑らかな仕上がりのボディとは裏腹に、
八ドソンには『どうにもよくねェ』原因が不本意ながら分かっている。

『大好きだよ』

「――――……」
「……おいドック、本当に大丈夫か?あんたに『医者の不養生』なんて言葉は似合わねぇぞ」
「!――気にするな、心配ない。今日は暑いな……」
思い出したようにボンネットに篭る熱を何でもいいから放出したい衝動に駆られながら、
八ドソンはいつもの『冷静なクルーチーフ』の表情であり続けていた。

「――いいか、何度も言うが丁寧に走れ。1m1mを大切にすれば知らない内に勝てる。それと」
「『目標は目標であって絶対ではない』だろ?ドック、本当に何度も言い過ぎだよ」
いつものように生意気なしたり顔でそらんじると、ライトニング・MACィーンは大仰にフレームを上下させた。
その口振りと見慣れた仕草が妙に可愛らしく、八ドソンは無意識に相好を崩した。
「言うじゃないか坊や、だったら無駄なパフォーマンスも控えてみせるんだな……無論、アレも」
アレすなわちお馴染の稲妻パフォーマンスまでに停止令を出され、MACィーンは思いきりふくれた。
「あのね、ドック。勝つのが全てじゃないって僕も学んだつもりなんだけど?」
「その分をパフォーマンスに回していいとは言ってないぞ」
「ちぇー…………それじゃ、行ってくるねドック。帰ったら、映画でも行こうよ」
「――ああ」
八ドソンが頷いたのをきちんと確認し、MACィーンはコースへと向かう。途中メーター達と行き合い様に
しっかりタイヤを打ち合わせ、今日この日の勝利を祈る。
「頑張れよ!」
「ああ!」
全員とそんな感じの短い会話を交わしてしまえば、MACィーンはただ一台。
 その顔が笑んでいるのを、八ドソンは中央のスクリーンで見届けた。

 至極普通だ――何もかも。だが、八ドソンには予感があった。
 それは、稲妻を秘める一面の黒雲に似ている。

『さてじきに100周に手が届く頃合いですが、キングの記録を更新しジンクスの新たな一ページになるのは――』
『ちょっとまだ気が早いんじゃないかいボブ?けどまあそれは置いとこう、今回の大本命と言えば
やっぱりこいつだライトニング・MACィーン!』
スクリーンにMACィーンのイメージ映像が流される。
『あの八ドソン・ホーネットをクルーチーフに迎え入れた事でも話題のルーキー……そろそろこの呼び方は潮時ですかね!?』
『その走りはまさしく溢れんばかりの実力によるもの!只今トップを独走する彼はあのジンクスを
信じているかどうかが気になるところですが――』
『ともあれ運命のフラッグまで残り100周、MACィーンは伝説となりうるのかーっ!?』

 狙うなら、最終ラップ以外になかった。
 当たる保証がまるでないジンクスよりも、八ドソンはまず勝利を確保する事を優先した。一クルーチーフとして当然の判断だ。
タイムを更新するだけして後は力尽きられてはあんまりにも情けない。
「坊や、次でタイヤ交換だ。急加速は出来るだけするな」
『ドック、それじゃコーナーで離される!』
「ピット通過直後にバーストされるよりマシだ。グイ├゛、頼むぞ」
グイ├゛がきりりと頷く。ちらりとスクリーンを見上げれば、赤いボディが独走するのが眼に入る。
その走りと順位には先程から変化はなく、ある意味ではつまらない展開だろう。チッ9・ヒックスでも
いれば嫌な方向で面白くなっただろうが、風邪をこじらせていては無理な相談だ。
 一周はすぐに終わる。ピットに滑り込んだMACィーンはタイヤ交換を済ませて最近のお気に入りな
オーガニックオイルで喉を潤す。
「これなら周回遅れさせちゃうかもね!」
「無茶はするな、自分からトラブルに突っ込んでやる義理はない」
「わかってる!」
短いやりとりに掛けられる時間すら惜しいと見え、爆音と共に走り出すMACィーン。
あっと言う間にサーキットの彼方へと遠ざかる赤いボディをしかめ面で見送る。

 サーキット内は、何とも言えない空気に満ちていた。増えるラップ数につられて零れる溜め息のような音。
気のせいか、他のレーサーの解説に勤しむダリルとボブの口調も上の空に聞こえる。

 MACィーンのタイムが、伸びない。

 無論一レーサーとして、またマックィーンがルーキーである事を鑑がみれば、素晴らしいの一言に
尽きるタイムだ。だが、走るコースがいけなかった。日頃タイムより一着が誰かが焦点となるはずの
レースなのに、余分なジンクスなどがあるとこうなる。八ドソンは恐れていた事態にも関わらず冷静に
スクリーンを見上げた。サーキット側が外観を重んじる故にマスコミ用のスペースが用意出来ず、
中央に急遽立てられた電波受信用の貧相な鉄骨がやけに気に障る。
 やがて八ドソンは、決してMACィーンにこちらの空気を伝えぬように口を開く。
「焦るな。いいか、お前は今一位なんだぞ」
『…………けど』
インカム越しのMACィーンの声は沈んでいた。その走り方も、焦りで雑になっているのが一目で分かる。
『あと10周しかないのに?』
「あと10周もある。その程度の気構えもない癖に、良くも今まで走って来れたな」
すかさずぴしゃりと言い返した八ドソンに、MACィーンの声が力無く笑った。
『もう、ひどいなぁドックは。そこまで言われちゃ、名レーサーの名が泣くね」
「『未来の』が抜けているな」
『――あれ、『未来の』付けるだけでいいの?』
「…………そうでなきゃ――」
そこまで言い掛けて、八ドソンは黙る。
「……走りが雑になってるぞ」
改めて口にしたのはまるで違う内容だ。MACィーンが何事か言い掛けたのも無視して、
次のピットインだけ指示して通信を切った。

 残り、後10周。

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チュウダーン!ルールとか細かいことは無視してくださいorz


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