期間銃 叔父甥
更新日: 2011-04-29 (金) 11:30:39
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )女子高制服と期間銃の叔父甥。5~6レスお借りします。
「おじちゃん、朝メシできたよ」
菜箸片手に声を掛ければ、広縁の金蔵がおう、腹を掻いて読みかけの新聞を畳んだ。
股引に腹巻、ラクダのシャツ姿の金蔵は極道というよりそこらの御隠居のようだ。
丸めた背中越しに小さな冬の庭が見える。
何の手入れもしていないはずの椿が見事に赤い花弁を広げているのを見て
そろそろおじちゃんの半纏を出す頃合いかと考える。
どこに仕舞っただろう。
「今日は朝から鰤かい。豪勢じゃねえか」
「昨夜魚八さんに顔出したら、売れ残りだけど持って行けって」
「そりゃ有難い」
小さな丸い卓袱台に二人分の朝食が並ぶ。
白飯と青菜と油揚げの味噌汁、沢庵と鰤の照り焼きという簡素な献立だが、二人にとっては立派な食卓だ。
やもめ暮らしが長かった金蔵とひきこもりだった建次にとって
誰かと向かい合う食卓はそれだけで貴重に感じる。
金蔵が箸を手に両掌を合わせて「いただきます」と頭を下げて、それに倣う。
箸をつけようとして、ぎょろりとした金蔵の目が一層ぎょろりとして食卓を見回した。
「おっと大根おろしがいるな」
「あっごめん、忘れた」
「いい、いい。俺がやろう」
急いで立ち上がろうとした建次を目で制して金蔵が台所に立つ。
「また指まで擦りおろされちゃたまらねえからなあ」
「…また言う」
「白い大根おろしが真っ赤になっちまってな」
「もう!おじちゃん!」
口を尖らせた建次をカラカラと笑い飛ばして持ってきたおろし金は銅製の年季ものだ。
鈍く光る刃先に指を引っ掛けたのはもう二年近く前のことなのに
おろし金を手にする度に金蔵は今でも笑う。
笑うくせに、その時一番慌てふためいたのは建次ではなく金蔵だった。
*
金蔵の家に引き取られたばかりの頃、慣れないおろし金を使って指を擦った。
感触の割に多かった出血に、金蔵は「ケソ坊の指が!指が!」と叫び散らしながら
筋張った体のどこにそんな力があったのか建次を米俵のように担ぎ、有無を言わせず最寄の医者へ運んだ。
行った先は時間外の上小児科だったけれど、そんなことは問題じゃないくらい怪我は軽いもので
医者は黙って絆創膏を一枚ペタリと巻いてくれた。
ようやく静かになった金蔵に文句のひとつも言ってやろうと建次が顔を向けると
金蔵の目は今にも泣き出しそうに潤んでいた。
マル暴上がりのやくざ者で仏だの鬼だの言われている金蔵がこんなにも取り乱すのが
おかしくて嬉しくて切なくて、建次は何も言えなくなってしまった。
ただ笑いながらちょっと泣いた。
するとまた金蔵がケソ坊痛いのか大丈夫かと慌てて、建次はますます泣き笑いした。
*
「ケソ坊よう。大根おろしってのは怖い顔してちゃっちゃっと擦らなきゃ駄目なんだ」
金蔵が飛沫を上げるほどの速さで大根をおろしていく。
「おじちゃんはちゃっちゃとしすぎだよ」
飛び散る飛沫を建次が台布巾で拭っていく。
「お前みたいにニカニカ笑いながら擦ってたんじゃ甘くなっていけねえ」
ニカニカした顔は血筋だし、甘いのはそっちじゃないか。
大根を握り締めた節くれの目立つ手が忙しなく動くのを見ながら、喉まで出掛かった言葉を飲み込む。
あれから金蔵は一度も建次におろし金を触らせない。
秋刀魚を買った時など、魚屋の店先から「そう言や昔…」とあの時のことを茶化して
建次を拗ねさせて端っからおろし金を持たせないほどの徹底振りだ。
ここまでひどくはないけれど、ちょっと前までは煙草のお使いを頼まれては駄賃だと釣銭を渡されたり
夏場にはどの面下げて調達したのか冷蔵庫にカルピスがあって「腹壊すまで飲むなよ」と言われたりした。
いざ「おじちゃん」から「キソさん」になれば建次の胸倉を掴み上げて横面を張り倒したりもするのに
家では「仏のキソさん」どころじゃない。
甥っ子に滅法甘いただの爺だ。
「どうすりゃあいいのかなあ」
聞こえるか聞こえないかの声に顔を上げれば、いつの間にか大根は器いっぱいにおろされていて
金蔵が建次を見てもう一度漏らした。
「どうすりゃお前を幸せにしてやれるんだろうな」
「…幸せ?」
「俺んとこに連れてきちまって、極道の道なんざ染まらせて。お前の幸せはもっと広くて真っ当で明るい表の世界にあったのかもしれねえのに」
金蔵の手が僅かばかり残った大根を置けば、卓袱台の上の水滴が揺れる。
「お前を堅気にしてやりてえ、お前を表の世界に戻してやりてえ……ただなあ」
長く吐かれた息に、金蔵が泣き出すんじゃないかと思った。
それほどに声は深く静かだった。
けれど、金蔵は笑った。
「俺ぁお前が可愛くて可愛くて仕方ねえんだよ」
笑みが深くなる。
「ケソ坊を誰よりも幸せにしてやりてえのに、俺はお前と一緒にいると本当に幸せなんだ」
しょうのねえ老いぼれだよなあ、と歯を剥く顔に瞼が熱くなる。
猫背越しの寒椿、半纏だけじゃなく炬燵布団も出さなくちゃ、ふた切れの鰤に触らせてもらえないおろし金。
ねえ、おじちゃん。
俺はもう十分に幸せだよ。
泣き出したのは建次の方だった。
小さな嗚咽に、お前はいつまで経っても餓鬼で困ったもんだと苦笑いする掌が不器用に金色の頭を撫でた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )ラストの叔父と甥の幸せそうな笑顔に思わず打ってしまいました…スマソ
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