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流石兄弟 流血沙汰あり

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                     |  流石兄弟
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  …なんと表記すればいいのか…
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 流血沙汰あり
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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 めったに外に出ることがないので、いい年をしてお土産が嬉しい。
 それがアイスやプリンの甘くて冷たくておいしいものだと、自然に顔がにやけてしまう。
 でもこれが毎日だったら、流石にこんなにとろけていない。
 弟者はこういうあたりの加減が上手い。
 ほどほどに間隔をあけて、こちらが全く期待していないときにそれを取り出す。

「おお、これは○×堂のキャラメル・プリン!」
 喜びのあまり下げ進行のスレを思いっきりプリンあげしてしまい、住人の総攻撃をくらう。
 そんなの無視してプリンにとびつく。
 そこで弟者に押し留められる。
「なんだ?これ一個でカラダは売らんぞ」
「大量だったら売る気か」
「まさか。さすがにあきらめる」
 気のせいか弟者ががっかりしたように見えた。
「そこまで無茶は言わないが、何か見返りがあってもよくないか」
「うむ。そこのフィギュアをくれてやろう」
「……女装したダディクールのフィギュアなどいらん」
「一品ものだぞ。めったに手に入るものではない」
「もらってくれと頼まれても欲しくない」
 趣味の範囲のせまいやつだ。
「それではおまえが何らかの理由で自作自演が疑われたとき、弁護してやろうではないか」
「意義あり!逆ならともかくありえない」
 世の中、どんな陰謀に満ちているのかわからぬのに無用心なことだ。

「では、何が欲しいのだ」
 珍しいことにあのひねくれた弟者が、赤面しつつ口ごもる。
なんだがかすれた声で、音を出す。
「……キ」
「キツツキ?持ってないぞ、そんなもの」
「違う!」
「北枕?縁起が悪い気がするが」
「…どうやってそれをくれる気だ」
「簡単だ。いつもの枕を北に置くだけ」
 何を怒っているのだろう。

「吉祥天女。神々しいとはよく言われるが、流石にそこまではうぬぼれておらん」
「誰が言うんだ、誰が」
「金斗雲。キアヌ・リーブス。金閣寺。どれも無理な気がするが」
 なんだか頭を抱えていた弟者が、小さな声で何事かつぶやいた。
「アーアー∩ ゚д゚)∩キコエナーイ」
「………キス」
「おお、それは良い考えだ」
 弟者の顔が明るくなる。
「だが、それは母者に頼んでくれ」
「母者と?!」
「ああ。出来れば天ぷらにして欲しい」
 よろめいた拍子に机のスタンドに頭をぶつけている。挙動不審なやつだ。
悪いものでも食ったのだろうか。

 机の端につかまって、しばらく痛みに耐えていた弟者がどうにか立ち直る。
ずずい、とこちらにより、真剣な顔で俺を見る。
「なに?」
「オレはあなたが心配なのですよ」
「そうなのか」
「DQNで甘ったれでヒッキ―で、人づきあいは出来ないし、先のことなど全く考えていない。
この先路頭に迷うことになるのではと思うと、いてもたってもいられない」
「えらい言われようだな」
「弟として、この現状を打破するために少し考えてみた」
「大きなお世話だ」
「練習、してみないか。コミュニケーションの」
「不要」
「いや、ここは一つ、よりよい明日を築くため、あんたは努力する必要があるのだ。
現代社会では人間関係が希薄化したためさまざまな問題が……あ、こら、まだ食うな」
 ちっ、バレたか。
「現代社会の問題点まで俺のせいにされても困る」
「困ることはない、出来の悪い兄を心の底から心配するこの弟が、身を持って社会復帰の手伝いをしてやろうと」
「いや、いいから」
「よくない。あんたは典型的な引きこもりだ。つまり全国3千万のヒッキ―を代表した存在といえる」
「その数字にソースはあるのか」
「大事なのはそこじゃない。あんたの位置の意味する社会的状況が…」

 なんだかやたらと話が長い。せっかくのプリンがぬるくなるではないか。
俺は迷惑そうに弟者の熱弁をとばし聞いた。やつは途中こぶしを振り上げたり、声を大きくしたり、
まるでギレンの大演説だ。

「……ということでわれわれは現実的な肉体を持って、その虚構の空白を埋めねばならない」
「わかった。じゃ、いただきまーす」
 スプーンを突っ込んだ瞬間、取り上げられる。
「あ、こら、返せ!」
「…オレの話、聞いてたか?」
「えーと、人づきあいは大事だってことをなんか小難しく言ってたな」
「間違いとはいえないが、それを食べる前にまず練習しようと言ってるのだ」
「食べたあとにしよう」
「そうはいくか」
 俺のプリンは本棚の上にのせられてしまった。

「冷たいうちの食べたいのだが」
「長くはかからん。まず、目を閉じろ」
「他者とのコミュニケーションとやらはそうは始まらないであろう。
害意のないことを示しあうことがファースト・コンタクトとして必要ではないのか」
 弟者がぽかん、とこちらを見る。
「やはり目を開けたままごあいさつが基本だろう……こんにちは」
「はぁ、こんにちは」
 兄弟間で頭を下げあってみる。
「できた。プリンくれ、プリン」
「いや、まだだ。この先が重要なんだ」
 俺にはプリンのほうが重要なのだが。
「わかった。初めまして、私は流石兄者というものです」
「弟者と申します」
 もう一度おじぎをしあう。
「弟者さんは毎日、どう過ごしていらっしゃいますか」
「はぁ、学業とバイトに忙しい日々です。あなたは?」
「萌え画像探索とブラクラゲットに忙しい毎日です」
「どこが忙しいんだ、どこが!」
「モチつけ、単なる練習ではないか」
 ぽんぽん、と肩を叩いてなだめてやる。そろそろあきらめて食べさせてくれないだろうか。

「えーい、このままじゃキリがない。いいか、人間関係でもっとも深い関係はわかるか?」
「加害者と被害者」
「違う。恋人同士だ」
 きっぱりと断定された。
「親子関係とか、もっとあるのではないか」
「いや、なんと言ってもこの関係に尽きる」
「恋人といってもいろいろあろう。二股とか、不倫カップルとか、遊びのつもりで深みにはまったものとか」
「この際それは別にして、コミュニケーションの基礎をごく一般的な恋人同士においてみることにしよう」
「はぁ?」
「それが人間関係を極める早道だ」
 なんだかすごい勢いで押し切られる。
「いや、オレはどうでもいいのだが、あんたをこのままにしておくのは心配だから。
で、設定としてオレとあんたは恋人同士だ」
「………無理がありすぎないか」
「いや、いいんだ。とにかくそういうことにして会話してみる」
 強引なやつだ。
「わかった。……ねぇ、ダーリン、プリン食べたいんだけど」
「はっはっは、ハニー、おねだりかい?」
「キモいを通り越して怖いぞ、弟者」
「とにかく会話を続けるんだ……えい、席を代われ。膝の上にのって、首に手を回せ」
「なんでそんなことをせねばならんのだ?」
「物事はまず形から入ることにより、おのずから心も造られていく」
「いや、別に造られなくていいから」
「あんた、全国3千万のヒッキ―たちを見捨てる気か!」
「別にかまわんが」
「なんと情けないことを。いいか、今この国は未曾有の危機に面しているんだぞ」
「ほう」
 なんだかニートと年金問題についてまた演説を始めた。心の中の早回しスイッチを押しておく。

※流血注意
「……と、言うわけであんたはそうする必要があるんだ」
 これ以上反論するのも面倒なので、黙って膝の上にのってみる。
生温かくて気持ち悪い。弟者もさぞかし懲りただろうと見下ろすと、
なんとうっとりと目をつぶっているではないか。 
 かわいそうに、この間彼女と別れてからよほど飢えきっているとみえる。もう相手が人間なら、実の兄だろうが何でもいいのだな。
いや、もしかしたら人間でなくとも、犬とか猫とかコモドドラゴンとかでもOKな気分なのかもしれぬ。
 全く、困ったやつだ。
彼にはぜひ彼女イナイ暦=年齢でも、微塵も動じないこの俺の気品と気概を見習ってもらいたいものだ。

「ところでプリンはまだ―?ダーリン」
「すぐにあげるよ、ハニ―」
「焦らさないで。今すぐ欲しいの。お願い。……おい、大丈夫か」
 なんだか鼻のあたりを抑えて慌てて立ち上がり、ティッシュの箱に飛びついている。
「ビタミンCやたんぱく質が不足するとそうなりやすいそうだ。
バイトにかまけて食事をおろそかにしているのではないか」

 しばらく上を向いている。
 ようやく落ち着いてティッシュを捨てる。
 さっさとプリンをよこさないからバチが当たったのかもしれぬ。

「いや、もう大丈夫だ。………ほら、すぐあげるから代わりにして欲しいことがあるんだ」
 続けようとした彼を押し留める。
「それ、恋人同士の会話なのか?」
「……そのつもりだが、何か」
「相手に何かを与えるのに、いちいち見返りを求める。
商売相手ならともかく、恋人の会話とは思えんが。少なくとも俺はそんな相手はいやだな」
 弟者はピタリ、と固まった。
「で、続けるのか」
「いやいい。………悪かった」
 プリンを目の前に置いてくれる。
 そして自分はベッドに行き、どさり、と体を投げ出した。

 キャラメルプリンはやはりぬるくなっていた。
 そのせいかあまり美味しくない。
 甘くて、なめらかで、ぷるんとしているのに、なんだか味気ない。
 一つを食べ終わって振り返ると、弟者はぼんやりと天井を見ていた。
 その横顔がひどく寂しそうだ。
 さっきまでの熱気が失せて、影だけが色濃い。
 別れた彼女のことでも思い出しているのだろう。
 もしかしたら、さっきの俺と同じようなセリフを言われたことがあるのかもしれん。
 だとしたら、悪かった。
 いや、同じバカを繰り返す弟者も悪いが、その傷に塩を塗るつもりはなかった。

 空のプリンカップの前で、俺はしばらく考える。
 不肖の弟をなんとか浮上させる手はないか、と。
 そして、一つ思いつく。

「弟者、弟者」
「………ん」
「目を閉じて」
「……………」

 ―――――― Kiss。
                                  了

 ____________
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 | | □ STOP.       | |
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 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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  • 死ぬほど萌えた -- 2012-06-20 (水) 00:56:53
  • 生きてて良かった -- 2012-12-27 (木) 16:20:37
  • 何だろう…この感じは… -- 2014-05-11 (日) 04:59:09
  • 本当にありがとうございます -- 2015-02-11 (水) 04:31:10

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