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餓狼伝説 ギース×ビリー 『未来』

一月半ばの凍えるような夜、タワー最上階のぎしぎしとなる板張りの床を俺は歩いていた。
周りを見渡せば見慣れた朱い柵や東洋の彫刻、…あの人の趣味だ。センス自体は俺にはさっぱりわからない。
ただ彼が好き好んで収集していたものだから今でも業者を雇って手入れはきちんとしている。
俺自身、ここに来るのは1年ぶりだ。黒いスーツを着て白い花束を持って、この日だけはここに来る。
一部分、朱い柵が途切れ盛大に壊れた場所。
そして眼前に広がる…あの人が愛した街の灯火。

ここであの人は死んだ。情けをかけられた手を振り払い、死を選んだ。

「勝手な人だよな、あんたは。」
そんな独り言をつぶやいて俺はそこに腰を降ろし、足を伸ばす。花束を隣に置き、空中に足をぶらぶらさせてなんとなく思う。
今、ほんの少しでも体重を前にかければ、俺は確実に死ぬだろう、あの人みたいに。
正直さ、あんたが死んだとき…一緒についていこうかとも思ったんだ。
でもそんなことをする暇すらあんたは俺に与えてくれなかった。コネクションの管理やらなにやら、めまぐるしいくらい忙しくて。おまけに夢にまで出てきて「あとはまかせる」なんて言いやがって。
それに俺にはまだ守るべき妹がいる。あんたみたいに人のことも考えないで勝手に生きて勝手に死ぬなんて、してやるもんか。
だから俺はあれから一度も涙は流してないんだ。…本気で笑うことも無くなったけど。

そんなことを思いながらスーツのポケットを探り、葉巻を取り出し火をつけ思いっきり吸い込む。
俺の肺を満たす、いつもと違うクセのあるキツイ煙。…あの人の好きだった葉巻。
これを吸うと、今でも鮮明に思い出せる。
ただ俺を見る、深く蒼い瞳も。
意地の悪いことをいう低い声も。
俺の髪をなでる冷たい掌も。
軽く口付けた、唇の感触も。
俺の口内をかき乱す舌も。
背中に回された俺を抱く腕も。
汗ばんだ傷だらけの体も。
俺の体を侵食する、その存在も。
…その孤独な心も。
あの人は常に「力を求めた、餓えた狼」であろうとしてた。
情を捨て「孤高」であろうとした、強く、悲しい人。俺はそんなあんたに惹かれたんだよ。
でも…辛かったんじゃないかって思うんだ、孤独であることが。
あんたはそんなこと、きっと認めないだろう。認めたらあんたはあんたじゃなくなるから。
だから俺は気づかないフリをして、ただあの人のそばにいた。
あの人の一番近くにいて、体だけのようなフリをして、少しでもあの人の孤独が安らぐように。

それが俺の「望み」だった。

…そんなことを思い出して、妙に感傷的な気分になってしまう。
俺も歳をくっちまったか?って自嘲して葉巻を消し、花束を持って立ち上がる。
…あと30秒で1月21日。
あの人が遺したこの街を見て、ふと思う。
時間が何もかも洗い連れ去ってくれれば、きっと生きることはたやすいだろう。
でも俺は忘れない、絶対に。
その道が辛くても…あんたがいない道でも、俺は進むだろう。
でも、その道が終わったら、あんたと同じ地獄に堕ちたら。
「またそばにいても、いいですか?」
そんな勝手なことを言い、あの人が落ちたその場所に花束を放り投げて、またつぶやいた。

「Happy birthday…Geese Howard」

                                    end


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