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暁は遠く

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                    |  タクミくんシリーズ新刊の隙間萌え
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 ギイが手を差し伸べる。
 葉山は、瞼をそっとおろした。
 まるきり、安堵したかと思うようなタイミングだった。求めていた助けを確認して、ほっと力が抜けたといったふうな。
 ギイはさっきから――葉山託生と視線を交えた瞬間から、高らかに鳴りっぱなしの鼓動を強いて抑えようとつとめつつ、そんな葉山を抱きかかえた。
 初めて懐にいだく、艶やかな黒髪。葉山は無意識にか額をギイの肩口へ押しつけた。密着していなければわからないほど些細なその仕草に、あっけなく、ギイは自分の心臓をコントロールできなくなる。
 葉山の耳には響いているはずだ。
 隠しようがない、抑えようのない胸の轟きが。
 それでも、おとなしく抱かれている。
 今だけ。このときだけだとしても。
 ――いやじゃ、ないんだな?
 気が抜けたからか、意識を手放したらしい。ゆっくりくずおれていく華奢な体。ギイは抱き支える腕に力をこめた。薄い背中へ手を回す。葉山が、冷たい壁にではなく自分のほうへ倒れこむように。
「ギイ、大丈夫か?」
 相棒の声に顔だけふりむき、短く答える。
「平気だ」
 章三は驚いたように目をみはった。その章三の反応に、ギイは自分が今どんな表情をしているのか把握できなくなる。けれどポーカーフェイスの十八番、柔和な笑顔で取り繕うことすらできなかった。
 わずかでも頬を緩めたら、そこからぼろぼろとこぼれでてしまいそうだ。
 葉山への思いが。
「一人で運べる」
「……そうか」
 章三は一歩退いた。
 ギイが裡に秘めているものへは立ち入らない。暴こうという気などまったくない相棒は、あくまでも自分なりに解釈したようだ。
「そうだな。葉山って、身長はそこそこあるくせに、体重はうちのクラスで一番軽いっぽいもんな、どう見ても」
「えー、でも、意識のない人間って、異常に重たいもんなんじゃないの?」
 麻生がのほほんとした口調で横槍を入れてくる。ギイは無言で、いっそう深く葉山を自分へと寄りかからせ、左腕を葉山の膝裏に差し入れて抱き上げた。

章三へもちらっとだけ一瞥をくれて、
「部屋に連れていくから。じゃあな、章三」
寸刻の猶予もない。完璧にそんなそぶりでギイは歩きだした。
取り残されたかたちになった章三は少々首をかしげ、麻生に意見を求めた。
「葉山の熱、そんなにひどいんだろうか。中山先生、呼ばなくていいんでしょうかね。ギイが僕にそんな基本を言い忘れていくはずないんですけど」
麻生は肩をすくめたが。
「ま、いいんじゃないの? 診てもらう必要性を感じたら、どうせ、ギイが、直接先生のとこへいくよ」
「そう、ですかね」
章三は口の中で呟いた。
それはちょっと、ギイらしくない効率の悪さだけど。
「……それにしても、筋金入りの級長体質だな」
後ろ姿を見送りつつそう漏らした章三に、麻生はぷっと吹きだした。
「級長体質、ねえ。たしかに、それふりかざして、持ってっちゃったけどさ」
油揚げを。

四階までの階段を、一段一段を、こんなに噛みしめるように確かめながらのぼったことなど、かつてない。
今だけ。今だけでいい。
このまま、段数を刻んでいたい。
抱きかかえた葉山を痛いほど感じながら、ギイは可能な限り静かに歩を進めていた。
シャツ越しに、ちょうど鎖骨の辺りに葉山の熱い頬がふれている。そこを中心に胸が痺れている。この世で最も大切なものを抱えた両腕は、不思議なほど軽かった。
もっと重くても全然いいのに、葉山。
もっと、もっと葉山の存在を感じたい。そう切望するギイだから、高揚のあまり重力の感覚が狂ってしまったのかもしれなかった。
――葉山。
部屋に着くまで。
着いたら、手放さなければならない。
ずっと、抱きしめていたいのに。
そんな不埒なことを考えながらの道中はあっという間に終わってしまった。
421号室。しんと冷えた室内で、ギイは小さく溜め息をついた。
葉山をそっと毛布へおろす。掛け布団へ伸ばした手を、しかしギイは途中で止めた。

だって葉山、ジャケットを着たままじゃないか。
その手がひしと握りしめていた財布も、気になる。
「なあ……何か、欲しかったのか?」
答えないのを承知で、いや、ここに、こんな至近距離にギイがいることを知らない葉山にだからこそ、恋人にするようにやさしく囁ける。なめらかな額に散らばる黒髪を甘く梳ける。
葉山にふれたい指先を止められない。
けど。
最低なことをしてるな。
ギイは頬に自嘲を浮かべた。
本当ならば、今すぐ退出しなければならないところなのだ。
真実、葉山のためを思うなら。
葉山がギイに許したのは、あくまでも、ここまでに違いなかった。ギイは葉山の目にも、誰の目にも非常に面倒見のいい級長なのだ。それだけなのだ。
それとも?
ギイはふと気づいてしまった。
先刻の、あの眼差し。ギイを視界に捉えて、助けを求めてくれていたのが仮に事実だったとしても、葉山は風邪のせいで素直になった――非常に弱っている、だけだ。証拠に、乱暴な緒方の手を払いのけられないでいた。……そう。
同じように、近づいてくるギイの手は内心いやがっていたのに、避けようがなかっただけかもしれない。
あのとき。
ギイが手を差し伸べたとき。
葉山は目を閉じた。
あれは、承諾などではなく。
かすかに残っていたいつもどおりの葉山の、精一杯の拒絶だったのかも、しれ、ない。
脳裏にある真新しい記憶の光景が、明から暗へくっきりと反転した。
極上に柔らかな頬をなぞる指がかすかに震える。
熱でどうにかなってしまった葉山の、常にないギイに対する譲歩は、ここまでだ。
無事ベッドへ寝かしつけたら、すみやかに出ていかなければならない。
ならない、のに――
「……う…」
葉山がか細く呻いた。うっかりしていたら聞き逃してしまいそうな、小さなちいさな悲鳴。
ギイは自分もつらく眉をしかめながら囁いた。
「葉山? どうして欲しい? 何が欲しいんだ?」
絶不調をおしてまで買いにいこうとしていた品。

教えてくれよ。
頼むから、今だけ、だから。
……助けたいんだ。
じんじんと熱い額に手を置く。雪の塊を溶けるまで握りしめてからこうしたら、少しはこの額を冷やせるだろうか。せめて、流水に晒してみるか。
そんな馬鹿なことをちらりと考え、ギイは苦笑した。
「――あ…!」
水。そうだ。水だ。
飲み物が欲しかったのか、葉山は。
玄関前の廊下の一角には自販機が列をなしている。パジャマの上にジャケットを一枚羽織っただけの軽装、葉山は寮から出るつもりなどなかったはずだ。
「白湯でいいか? ――ごめんな」
ギイは素早く立ち上がると、ポットからマグカップへ湯を注ぎ入れ、それを水で適度に冷ました。
「葉山、悪い」
もう一度押し殺した声で謝ると、細い首の下にそっと手を滑り込ませる。ベッドへ下ろしたときよりも、さらに慎重に、ゆっくりと、葉山の上半身を抱え起こした。自分もベッドの端に腰かけ、小さな頭を胸板で支える。
「……飲んでくれるよな?……」
唇にそっとマグカップを沿わせたが、意識のない、あるいは限りなく朦朧としている葉山が自力で白湯を喉に流し込めるわけはなかった。
卑怯なのは百も承知している。
最低なのも、重々わかっている。
だけど、どうしても、こうしていたい。
閉じた腕の中、胸の奥に、大事に大切に包み込んで、離さないで。
今だけ。――今だけ。ギイは祈った。
意識がほとんどないうえに、発熱のせいで接触嫌悪症から引き起こされる防御反応もろくろく機能していない葉山だから、ギイの腕に抱かれているのだ。
葉山にとって、いくつもの悪条件が重なった結果、こうなっている。
ありえないシチュエーション。
その状況につけこんでいる自分自身を、ギイは、頭では許せないのだが。
動けない。
葉山に水分補給させることすら、口実にすぎない。
ふれていたい。
抱きしめていたい。
葉山の、そばに、一瞬でも長く、いたい。

「……ん」
少し濡れた唇を、葉山は、ゆるゆると舐めた。
ギイはそのようすを、呼吸するのも忘れて見つめた。
誘うみたいに薄くひらいた唇。恋心を煽るように桃色の舌が覗く。
違う。それは違う。眩暈がする。
葉山の舌は、湿り気を欲して動いているだけだ。
葉山は今、無意識なんだ。
葉山は、……葉山は、……、…………
「――託生」
その声は、喉に絡んで掠れた。
さらなる湿りけを求めている唇に視線を当てたまま、ギイはマグカップを自分の口元へ運んだ。一口分、白湯を含む。
もはや心の中で謝罪する余裕すらなかった。
尖り気味の顎に指を添えてあお向けさせると、ギイはその唇へ、ゆっくりと唇を落とした。
口移しで白湯を与える。
軽くついばんでうながすと、託生は素直に口をひらいた。ギイの舌ごと滑り込んでくる白湯もすんなり受け取って、こくりと喉を鳴らす。
「……ん、ん」
託生が小さな声をあげて、ギイははっとわれに返った。唇を離す。
いつしか、キスするのに夢中になっていた。
頬が熱い。耳朶も熱い。首筋は焼けるようだ。唇は痺れたようになっていて、その甘い痺れは下半身の一点に直結している。体中が、火照っている。
ギイはまた白湯を口に含むと、これ以上はないやさしさで唇に唇を押し当てた。
誘導されるまま、ギイの唇の隙間に潤いを見つけた託生の唇は、それを欲してゆるくひらく。求めてくるのに応えて与えたうえで、甘い水はこっちにあるからとそっと託生の舌を引きずり込む。舌の上に残る水分を好きなようにまさぐらせる。
たどたどしい舌遣いがいとおしい。
託生の唇を味わうことしか考えられない。
ひそやかに、けれど熱く。奪うというよりは盗む口づけを、ギイは繰り返した。
何度そうして長いながいキスを交わしただろうか。
ちゅっと湿った音を立てて名残惜しく託生の唇を離したギイは、マグカップをあおり、それがすでに空なのに苦笑した。
これ以上は駄目だ。
ここで踏み止まれなかったら、もうどこまでも際限なくむさぼってしまう。それがあまりにもくっきりとわかってしまったので、ギイは大きく息をついて無理やり視線を逸らした。

託生の唇はすっかり色づいている。けれど、その唇は、己が深く愛撫されていたのだとは知らないようすだった。
ギイの体は制服のズボンの上からでも一目ではっきりわかるほど変化している。一方託生の下半身は、パジャマの柔らかい布地の下で平らなままだ。
恋情にまみれたギイの口移しに、無垢に応えた。
託生は、きっと、キスを知らない。
――だから、接触嫌悪症という厄介な病を得てしまったのかも、しれない。
もしもこの直観がただしいのだとしたら。
ギイは懺悔した。
「愛してるよ、託生」
愛してるんだよ。
この思いを、許してくれとは言わない。
ギイは、なめらかな黒髪をやさしく、死ぬほどやさしくなでた。
ずっと、ずっと。おそらくこの世に生まれるより先から、こうしてやりたかった。
息が止まるくらいきつく固く、しあわせが胸を埋め尽くす。
だけどこれだけじゃ終わらない。
終わらせられない。
肌をふれ合わせることは痛みでも苦しみでもないと、実感させてやりたい。それから、叶うのならば、いつか。重ねるごとに体が芯から燃え上がるキスを教えてやりたい。
「託生――愛してる」
この罪は、ただ。
一生、背負っていくだけだ。

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