案邪っ種:綿×子
更新日: 2018-08-26 (日) 11:16:00
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| NDSの工フ工フ3のCMより、リーマン設定。エピは捏造だよ。
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| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| MacなのでAAずれたらスマソ。
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| | |> PLAY. | |  ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 駅名も出身地付近だけどウソッパチ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
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昼前の会議が終わり、何とはなしに窓の外を見下ろす。
小さく見える人、人、人。昼食が終ればまた自分はあの中に呑み込まれることになるのだ。
窓からの光景は入社したての頃と変わったと言えば変わったし、変わっていないと言えば変わらない。
向かいのビルが建て直されて小綺麗になったり、その横のビルに入っていた小売店がフランチャイズ化されてコンビニになってみたり。
それでも一本先の道にあるボロい定食屋はあいかわらず頑張っているし、その角のタバコ屋の婆さんもどうにか健在だ。
そこそこの大学をそこそこの成績で出て、それほど大きくはない出版社に入社したのは数年前のこと。
配属された編集部の机で雑誌の小さな記事を書いたり、写真にキャプションをつけたり。
仕事はそれなりに楽しくて、〆切前にボロボロになったりしつつも何だかんだで笑っていられたのだ。
ところが最近やってきた人事異動で、自分はポイッと営業部へと放り込まれてしまった。
まあ確かにどちらかと言えば人当たりのいい性格で、口も達者だったから何とか新しい仕事をこなしてはいる。
でもこの新しい仕事は、どうにも自分には向いていないと思ってしまうときが多々あるのだ。
さっきの会議でだってそうだ。編集部の人間が寝ずに考えた本のタイトルを「これじゃ売れない」と突き返す根っからの営業畑の同僚。
そりゃあちょっと地味かもしれないが、この本ならこういう堅いタイトルだっていいと思うんだけど。
でも売れないんだろうなあ。だけど売れる本がいい本ってわけでもないと俺は思う、いやしかし…。
そんなことで悩む自分と、精力的に仕事をこなす彼らとの間には、やっぱり埋められない溝があるような気がしてしまう。
はあ、とひとつ溜息をついて振り返れば、会議室に残っているのは自分ともう一人だけになってしまっていた。
みんなもう昼飯を食いに外に出かけて行ったのだろう。貴重な休み時間を無駄にするバカはそう多くない。
そんな数少ないバカの一人は、先ほどから何やら携帯用のゲーム機をいじって遊んでいるようだった。
「会議にそれ持ってきてたのかよ」
「ん、ポケットに入れてた」
「しょーがねえな、お前…」
古島は高校時代からの親友で、もちろん会社でも一番仲のいい男だ。この間までは編集部で机を並べて仕事をしていた。
腐れ縁だか何だか知らないが、今度の人事異動でこいつまで営業に飛ばされて、またも机は隣なのだ。
とはいえ外回りも多いから、並んだ机に座ることは編集部の頃より随分減ったのだけれど。
それにも寂しさを感じるといえば感じるのだが、口に出すのも変な話なので、本人に言ったことはない。
まあ、たとえ言ったところで、照れ笑いしつつ「俺も」とか言ってくれそうな奴ではあるのだが。
営業部に机ができた日の夜、飲み屋で早々に愚痴った俺に対して、あまり飲めない古島はちょっと困った顔で冷や奴をつついていた。
何だお前、編集の仕事に未練はないのか、営業の方がいいのか、酒が入っていたこともあってそんなふうに問いつめた俺。
「んー、でもまあ、綿部と一緒なわけだし、どうにかなるんじゃねーかなあ」
なのに古島はそう答えて、ちょっと照れたように笑った。全くずるい奴だ、そんなこと言われたら愚痴も言えなくなる。
すっかり毒気をぬかれて、ああもうお前に愚痴った俺が馬鹿だった、でもまあお前一緒でよかったわ、なんて答えて。
暢気な親友は笑いながらウーロン茶を注文し、俺が黒霧島をロックで、と言うと飲み過ぎるなと注意してきた。
その忠告をさらっと流して、結局いい感じに出来上がった俺は終電を逃し、古島宅にお泊まりと相成ったのだった。
しらふで酔っぱらいの相手をさせられてさぞかし面倒だったことだろう。とはいえ昔からよくあったことだし、今さら悪いとも思わないが。
ちなみに目が覚めたら見事にシングルベッドで男二人が就寝というむさ苦しい状態が出来上がっていて、二人で凹んだ。
何でこんなしょっぱい朝むかえにゃならんのだ!と逆切れした俺とこっちの台詞だ!と珍しく迎え撃った古島のせいで朝6時半に軽く殴り合い。
社会人としての節度をもって顔だけは互いに殴らなかったが、結構痣だらけになってさらに凹み、7時ちょうどに何となく和解。
7時15分に朝食をとる暇もなく慌てて二人で家を出て、滑り込みセーフ。なんとか新しい上司のお叱りは免れたのだった。
古島といると自分がとっくに三十路に突入していることを綺麗サッパリ忘れてしまう。困ったもんだ。
数ヶ月前のそんなくだらない小事件を思い出しつつ、また窓の外を眺めていた俺に、古島が軽い調子で言った。
「ジョブ変えよっ」
…え、お前この間俺と一緒ならどうにかなるって言ったばっかりじゃねーか、っていうかそんな軽いの?なあ?
しかも「ジョブ」って。英語かよ。お前受験のときも全然英語できなかったくせに何カッコつけちゃってんの?何なの?
と心の中ではいろんな思いがぐるぐるしたものの、自分も先ほどの会議の一件でまた、この仕事はむいてないと痛感したところだ。
むしろお前と一緒なら転職も何とかなるかもだしなあ、いっそ一緒に転職してしまおうか、なんて。
「営業向いてないしなー…冒険するかぁ」
そう言った俺に返ってきたのは古島の能天気なセリフ。
「戦士系? 魔導師系? 俺も迷ってんだよねー」
「…そっちの冒険かよ!」
古島の手元をのぞき込めば、小さなゲーム機の画面では架空の世界の冒険らしきものが始まっている。
ああ、ジョブでもなんでも勝手に変えろ!とちょっと腹が立ったものの、ニコニコしている古島を見ていたら気が抜けた。
昔からずっと、こんな感じで俺の怒りはすっと消えてなくなってしまう。わりあい短気な俺と古島が続いた理由はこれかもしれない。
「それさ、何のゲームやってんの?」
「工フ工フIII」
「へえ…」
そう聞いてもあまりゲームをしない自分には、華やかな勇者の冒険譚を想像するのがせいぜいだ。
かなりインドア派の古島とアウトドア派の俺は趣味もあわないし、仕事をのぞけばそれほど共通の話題があるわけでもない。
そのくせ昔から、こいつの隣が一番居心地がいいのだからおかしな話だ。
お互いにやりたいことをやって傍にいるだけ。今までつきあったどの彼女といても感じられなかった絶妙の距離感。
自然に二人でいる時間は長くなっていって、いい大人の男がこうして毎日、昼も夜も一緒に飯を食っている、不自然な状況。
そういえば高校の頃もよく屋上で二人並んで昼飯を食ったもんだ、古島はさぼることも結構多かったけど。
学校が嫌いだった古島と、好きだった俺が仲良くなったのは確かそう、ゲームの中の勇者とは比べ物にならない小さな冒険がきっかけだった。
もうずいぶんと昔のことのように思える高校時代、あれは2年生の秋、いや冬だったろうか。
年月を経て少しずつぼんやりし始めた、小さな小さな冒険の記憶をたぐりよせる。
放課後にふざけてやっていたバスケで右手を痛めて、腫れたので保健室に行ったら、もしかすると骨折してるかも、と言われて帰りに病院へ。
レントゲンを撮ってもらうと幸い骨は無傷で、痛めた筋を冷やす湿布を貼られて包帯を巻かれた。
大したことがなかったのでいつもと少し違う帰り道を楽しんでたどり着いたのは、普段よりひとつ先の大きな駅。
夕暮れのオレンジの光が消えかかる中、よく目をこらしてみると、学校には来ていなかったはずの古島が駅の券売機の前に佇んでいた。
「古島…だよな?」
「…あれ? 綿部? 何だよお前、隣の駅だろ?」
「俺は病院に寄ってたんだよ、お前も俺と確か駅同じじゃねーか、ここで何してんの?」
「あー…」
「何だよ、言えよ」
「いや、ちょっとやってみたいことがあったんだけど…」
「やってみたいこと?」
そうたずねると、古島はJRの路線図を指差した。
「相模線ってさ、ずっと乗ってると茅ヶ崎着くじゃん」
「…おう」
「俺、夏以外に海って見たことねーんだ」
「いや、俺もねえけど」
「行ってみようか考えてたんだけど、帰りの分の金が足りないんだよ」
「…それは諦めるべきじゃねーの?」
「でもふた駅歩けば帰れないことはないから」
「それでどうするか悩んでた、と」
「おう」
「…お前、バカだろ」
「俺も薄々感づいてた」
そう言って古島はちょっと笑って、財布の中の千円札と小銭を出してみせた。
「ほら、270円足りねーの」
「え、いくらなんでも上溝のあたりからは歩いて帰れねーだろ」
「違うって、八高線180円だろ」
「あ、そうか、ここからじゃねーんだ…片倉から歩きってことか」
「そうそう」
「あー、それでもギリギリだろ、あそこからだと」
「そうなんだよなー」
古島の手のひらの上の小銭を数えながら、何となく会話が盛り上がりはじめる。
そんなふうに話しながら、気づけば自分も尻のポケットから財布をとりだしていた。
「あ、俺のと足したらここまでは戻ってこられんじゃん」
「お、ホントだ」
「地元までじゃあと60円足りねーけどさ、八高線のひと駅だけなら歩けんだろ、行こうぜ」
「え、マジで? おごってくれんの? っつーかお前も来てくれんの?」
「いいよ、90円くらい…面白そーだし俺も見てみてーもん、冬の海」
「うわ、すげー嬉しいわ、サンキュ! でもあれだ、1時間くらいかかるぜ? 綿部んちって夕飯とか平気なの?」
「ああ、うち今日両親とも帰り遅いんだよ、お前んとこは?」
「あー、うちもそんな感じ…丁度いいな、多分帰り腹減るけど」
「おう、じゃあ行こうぜ」
「おし!」
そうして俺たちは結構な長距離の切符を買って、電車に乗ったのだった。
たまたま空いていた席に二人並んで座り、ぽつりぽつりと話をする。
「古島さ、あれだよな、今日学校いなかったよな?」
「あー、うん」
「つーかお前、なんであんま学校こねーの?」
「や、何つーか…好きじゃねえんだよ、そんなに友達とかいねーし」
「ふーん…でも、制服は着てんのな」
「…出てくるとき親にバレないようにだよ、いいだろ別に」
「…まあな」
「…」
「…」
よく考えてみれば、元々たいして仲も良くない二人が1時間強も電車で揺られているのに、そうそう都合よく話題などあるはずもない。
結局テストやら俺の怪我やらの話がたまに出る以外は沈黙の時間が続いて、二人でむかいの窓の外を風景が流れていくのを見ていた。
不思議なことに、その静かな時間は息が詰まるような重苦しいものではなく、とても自然に流れて、互いを落ち着かせていたのだ。
今思えばあのときから、今まで続く居心地のいい距離はできあがっていたのかもしれない。
そのうちにうとうとしはじめた古島の頭が肩にのっかって、その体温を感じながら俺は線路脇の家々の屋根を眺めていた。
地味な色合いの続く町並みに少しばかりの退屈を覚えながら、胸にわく謎の高揚感にひたってしばらくゆるやかな時間が流れる。
「…古島、次だぞ」
「ん…、あ、悪い、寝てた」
「いいよ、ほらさっき北茅ケ崎出たからもうすぐだぜ」
「おう」
そうして到着した茅ヶ崎の駅。見慣れない扉の開閉ボタンを押して降り、案内板を見ながら南口に出た。
もう日はすっかり落ちていて、あたりに夜の空気が満ちはじめている。少し先に、海が見えた。わずかに鼻にとどく潮の香り。
何も話さずに、二人でまっすぐ、海を目指して歩いた。15分もすると海岸にたどり着く。初冬の夜の海。灰色で、冷たそうな海。
砂浜にも人影はなく、夏のにぎわいがまるで嘘のように静かだ。波は穏やかに打ち寄せて、優しい音が規則的に響く。
「…静かだな」
「ほんっと、何もねえのな」
「そうだな…」
また沈黙が降りてきて、俺たちはただずっと、砂浜に立ちつくしていた。波の音を聞きながら、ひたすらに無言で。
それから少し経つと、古島が波打ち際へと歩いていった。砂浜に残る足跡のつくる曲線が、まるで映画のワンシーンのよう。
軽く身体を折ってさし出した古島の指先が、海水に触れる。その光景がとても綺麗だと思った。
「綿部、水、すっげえつめてーよ」
こちらを振り返って笑う古島に引き寄せられるように、波打ち際へと歩く。
触れた水は冷たくて、浸した指を舌先でなめると刺すように塩辛かった。
「…やっぱ塩辛ぇのな」
「当たり前なんだけどさ、何か感動すんな」
「ホントだよな」
そんなたわいもない会話をしているとき、ぎゅるる、と古島の腹が大きく鳴った。
パッと顔を赤くした古島に思わず吹き出す。ぎろりと睨まれたけれど、そんな赤い顔ではちっとも迫力がない。
「古島」
「何だよ!」
「腹減ったしさ、帰ろっか」
「…ん」
笑いながら言った俺に古島がうなずいて、二人仲良く帰途についた。
電車で夜の9時前には出発したあの駅まで戻って、そこからコンビニの安いパンをかじりつつ1時間ほど歩いて帰宅。
家に着いたときにはぐったりと疲れていたが、何だかとても清々しい気分だった。
懐かしい思い出がよみがえり、ちらりと隣の男を見る。
相変わらず古島はゲームに夢中で、三十代の男とは思えない無邪気な顔をして勇者の冒険譚を楽しんでいた。
「冒険か…あのころみたいだなー…」
「…あのころって?」
ぽつりと呟いたセリフに、少し間を空けて古島は返答した。いまだ視線はゲームに向いたまま。
「お前さ、覚えてる? 高2の時、冬に海行ったの」
「ああ、茅ヶ崎? 覚えてるよ、俺あのときお前と初めて喋ったんだぜ?」
「え? あれ初めてだったか?」
「そうだよ、俺あの前に学校とかでお前と喋った記憶ねえもん」
「マジで? 何か全然違和感なかったぞ?」
「俺は結構びっくりしたんだよ、お前がいきなり声かけてきたから」
「そうだったのか…俺すげえ普通に話しかけてたよ…」
「だろうと思ってたよ、何か綿部らしいわ」
くくっ、と古島は小さく笑って、何やら機体をいじってデータを保存すると、ゲーム機からやっと目を外した。
それをポケットにしまうと、古島は俺の首元にスッと手をのばす。
「ちょっと歪んでる」
そう言って俺のネクタイを軽く整える指先に、一瞬なぜかドキリとはねた胸の辺りを、古島がポンっと叩いた。
その拍子に俺の腹がぎゅーっと音を立てて、あのときのことを思い出す。今度は二人で笑った。
「綿部」
「何だよ?」
「腹減ったしさ、飯行こっか」
「…俺、あそこの焼き魚定食がいいわ」
「オッケー」
少し減った昼休みを充実させるために、俺たちは歩き出す。あの定食屋の婆さんのつくるみそ汁の味を賞賛しつつ。
いつのまにか仕事への不満や疲れは、朝靄のかかる街のようにぼんやりと薄れてしまっていた。
こんな穏やかな日々の中で、いつかまた小さな冒険に出るときは、こいつとパーティを組んでいられたらいいと思うのだ。
…そう、世界を救うような大冒険じゃなくていい。日常の中の小さな冒険を、できるなら一生、お前と二人で。
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| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ 計算より短かった…コレで終わりです
| | | | ピッ (・∀・;)
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| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
CMに萌えた勢いで書いた。休みを半日近く無駄にした。後悔はしていない。
- 案邪綿×子大好きなんでこんな素敵な小説を読めて良かったです!!また、もしよければ案邪綿×子の裏なんて書いていただければ嬉しいです♪では失礼しました! -- 初めまして観那と申します!? 2009-11-21 (土) 01:54:19
- この小説すごく好きです。何回も読み返しています。ネクタイを直すシーンが萌え! -- 2011-03-01 (火) 15:41:38
- 綿子大好きなんで、 -- 2013-02-01 (金) 21:06:59
- 素晴らしいお話に巡りあえて幸せです。 -- 2015-07-25 (土) 23:16:44
- CMって昔のアレですか!素敵なモノを読ませていただきました。わたしもwtkj大好きです。 -- 2018-08-26 (日) 11:16:00
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