92の続き 劇場王と死神様
更新日: 2011-04-29 (金) 17:00:06
三部作の完結編です。
途中でスランプ入って、何が伝えたかったのかよく分からなくなってしまったorz
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
もし今この扉の外を何者かが通り過ぎたとして、
この部屋の中に人がいるとは、全く思いもしないだろう。
机の角を挟んで対峙するお互いの微かな呼吸さえも耳に響いてくるような、
そんな静寂の中で、雅はただ素直に驚いていた。
こんな展開を、一体誰が予想しただろうか。
先の見えない展開作りは本来なら雅の十八番であるはずなのに、
今は雅自身がその中にいるという、この状況。
視線を重ねて、一瞬見つめて、急いで逸らして、またそっと視線を戻す。
それを何度も繰り返しながら、そろそろ十分近くが過ぎようとしていた。
それぞれの思いは揺れに揺れ、室内の雰囲気を物々しくしていた。
「で、何の用だよ」
雅が観念したようにぼそりと呟くも、目の前の死神は何も答えなかった。
ゆらゆらと揺れる自分の視線の先には、
いつもとは違う。幼い子どもか、はたまた修験者を思わせるような、
柔らかい眼差しが、ただこちらを見つめている。
「何の、用、なんですかー」
ゆっくりと言い聞かせるように、雅はもう一度同じ言葉を口にした。
先ほどから視線が重なる度に、言い知れぬ居心地の悪さを感じていた。
そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、
死神は一つ、力の抜ける様な細長いため息を落とすと、ふいと目を伏せた。
「自分でも、よく分からない」
「は? 訳分かんねぇよ」
「でも、そういう事なんだ」
「アホらし。俺はもう帰るぜ」
やれやれ、と首を振りながら立ち上がろうとした雅の瞳を、
死神の視線が、静かに射止める。
それにいつもの様な厳しさは欠片も無かったが、雅は動きを止めた。
気持ちが一気に高ぶり、揺れるのを感じた。
それが寝ている死神の姿に接した時と、同じ様なものだという事に気づくと、
更にその感覚は強さを増して、身体中に震えが走った。
「お前も、何かあるんじゃないのか」
雅は、何も答えることができなかった。確かにその通りであった。
あの時、心の奥から湧き上がったのは、伝えたい、というそれだけの思い。
一体何を?――分からない。それは、あまりに突発的で瞬間的な願望だった。
「何だか、ひとちゃんらしくねぇな」
「俺らしいとは、どういう事だ?」
何かに突き動かされているかの如く、溢れる想いは正直に自分の外へと飛び出して、
隙間のない室内に、複雑な絡まりを作っていく。
熱い何かを飲み込んだ様な感覚にほだされ、つっかえた物を取り除こうとするかの如く、
ぶっきらぼうに吐き捨てられた雅の言葉とは対照的に、
死神の問いはとても落ち着いた響きを持って伝わった。
逸らすことの出来ないもどかしさに、焼ける様な火照りはどうしようもない苛立ちに変わってゆく。
「冷酷な、孤高の死神様らしくないなってことさ」
いつも他人に厳しくて、少しの妥協も許さないあんたは、
知らず知らずのうちにいろんな奴を傷つけてるんじゃないのか、と。
だから馬腹だってイヤんなって、こっちに来たんじゃないのか、と。
自らの意思とは関係なく、つらつらと口から流れ出る険しい言葉は、
もうどうにも止めることができなかった。
頭の先から足先まで、身体全体が燃えているようで、
吐息すらも上気しているのが、はっきりと感じられた。
「そう、か」
取り乱す様子など億尾にも出さず、死神がぽつりと呟いたのは、
否定や弁解などではなく、凛とした響きを持った、たったそれだけの短い言葉だった。
確かにそうなのかもしれない、と死神は思う。
不思議と、穏やかな気分だった。ただ、真実を受け入れようと思った。
項垂れて瞳を閉じれば、瞼の裏の薄闇に、去っていった若い候補生の姿が、浮かんでは、消える。
そんな死神の姿を見て、まるで真冬の月の様だと雅は感じた。
同時に、それが儚く消えてしまいそうだという衝動に駆られ、どうしようもなく焦り始めた。
本当は知っている。彼の厳しさの裏にはいつも優しさがあって、
激しい叱咤の後には、細やかな気遣いを忘れなかった。
だからあんなに仲間に恵まれ、皆から慕われているのだろう。
自分にはない沢山のものを、あの死神は持ち合わせていた。
そして、自分はそんな死神の姿に、小さな憧れのようなものを、確かに抱いていて、
確かに、そう確かに、俺は彼のことが――
それなのに、そんな彼に、自分は何を叫んだ?
あの死神が傷つくなんて事、考えたこともなかったのに、
見通すことの叶わなかった彼の漆黒の瞳の奥を、初めて、確かに垣間見た時、
今、目の前に静かに座っている彼が、どうしようもなく脆い存在の様に見えたのだ。
心の底から、怖い、と感じた。どうしようもなかった。
「でも俺、ひとちゃんのそんなトコ嫌いじゃねぇんだ」
口元に浮かんだ自嘲の笑みと共に、雅の口から再び言葉が毀れ落ちた。
誰に宛てる訳でもなく、自らに言い聞かせるかのような口調だった。
何を言っているのか全く分からない、と、頭の中では理解しているのに、
心はその葛藤を何としてでも形にしようとするかの様に、一つ一つ言葉を紡いだ。
「むしろ、すげぇなって思ってるくらいでさ。だから」
ひとちゃんは、ひとちゃんのままで、いてよ。
せわしなく頭を掻きながら俯いた雅を見て、死神はす、と目を細めた。
まるで幼い子どもの様だと思った。
普段は怖いもの知らずで飄々としているくせに、こういう場面では極端に弱くなる。
人を本気で傷つけることの出来ない、優しくて、寂しがり屋な男の姿がそこにはあった。
掠れながらもはっきりと聞こえた彼の言葉を、素直にうれしいと感じた。
そして、心の奥からどっと沸きあがった想いに、どうしようもなく込み上げた。
「バカだな」
自身を落ち着かせる様に、小さく息をついた死神の、
口元には、薄っすらと笑みが浮かんでいた。
「それでフォローしたつもりか」
「別に、そんなつもり、ねぇよ」
「かなり焦っていたようだったけれどな」
「だってひとちゃん、泣きそうだったじゃん」
「そっちだって真っ赤な顔してプルプルしていただろ?」
「うるせぇよ!」
いつもと同じような会話の後、死神が、
雅の前で、雅の為に、初めて浮かべた笑顔には、
今までなかった強さの様なものが確かにあって。
――他の道の存在を知り、意識することで、
かえって自分の道を迷わずに進んでいけることもあるのだと、
死神は感じていた。あまり認めたくはないのだけれど、それが多分正直な気持ち――
「でも俺はお前のそんな所、結構好きだぞ」
お前に負けるつもりはないけどな、と言って、差し出された死神の白い右手。
思ってもみない不意打ちに、雅は一瞬、呆気に取られた様に硬直した。
一度は醒めた火照りが、また全身を包むのを感じたけれど、
もうこれ以上格好の悪い所を見せる訳にはいかないと、
へ、と笑ってそれを振り払った。
ほんのりと紅の差した温かい手を握り締めながら、心の中で繰り返しているのは、
"よろしく"なんて馴れ合いじゃなくって、"負けない"という強い意志。
多分こんな気持ちになるのは、これが最初で最後になるだろう。
身を焼き尽くす様な熱情と引き換えに、手に入れたものは、
今までは正反対、だけど本当は同じようで、だけどやっぱり正反対。
だから絶対に負けたくない。そんな、最高のライバルが一人。
ライバル? ――うん、多分ライバル、だよな。
「ひとちゃん、そんな事言っちゃっていいのかなー」
「ん、怖気づいてるのか? マーくん」
「ちょ、今なんて」
「マーくん」
そんな真顔で言われても、対応に困ってしまうわけで。
どこかくすぐったい様な、複雑な気持ちで、雅はへらりと顔を崩した。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
一応これで完結ですが、もう1つサイドストーリーみたいなのがあるので、
そちらも近いうちに投下しようと思います。色々ミスってるのは気にしない方向で…。
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