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『車達』稲妻×医者

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                    |  ピ草『車達』。今度は稲妻×医者。例によってネタバレあり。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  レポートからの現実逃避だゴルァ!
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 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ スゴイネ、トウヒエネルギー
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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「何故、レースを捨てた?」
ドック・八ドソンの問い掛けに、先を進んでいたMACィーンは小さくタイヤを
軋ませて止まった。
 今やMACィーンとドック・八ドソンはレーサーとピット・クルーチーフという
間柄を越え、弟子とその師であり、そして格好のレース仲間としての関係も
確立していた。MACィーンに誘われた今日も、ドック・八ドソンは自身の博物館の
世話は×ーター達に丸投げして荒野の真ん中に作られた小さなサーキットを
思う存分に突っ走った。それは勝ち負けにはあまり関係しない、MACィーンが
ドック・八ドソンのテクニックを盗んで行く場でもあれば八ドソン自身が
ひたすらに走る場でもあり、二人じゃれあうように抜きつ抜かれつ遊ぶ場でもあった。
 夕日のオレンジが、最近リペイントしたMACィーンの車体を照らし、僅かながらに
色味が変化している。街一番のカスタム狂ラモーソによるキラキラと輝く深みの
ある赤は、相変わらずの芸術的な仕上がりを見せていた。
 さんざん走って、いい加減に日も暮れてきた。喉だって渇いたから、
フ口ーの店に行こうと言う話になった。
 そんな帰り掛けに、何故そのような質問をしたのか――正直八ドソン本人
にだって分かりかねた。ふいに口をついて出たのだ。

 クラッシュは確かに惨事以外の何者でもない。クラッシュした車はおとなしく
救急隊員かピット・クルーを待ち、他の車はこれ幸いと順位を上げて行くものだ。
 大クラッシュを体験した『八ドソン・ホーネット』ですらそう考えるのだから、
MACィーンにだって似た思いはあったはずだ。日頃の思いやりとレースは違う。
下手をすれば心ない連中に甘ちゃんとそしられたかもしれない。

 捨てた事を責めているのではない。それはドック・八ドソンの純粋な好奇心とも言えた。

 問われたMACィーンは、居心地悪そうにタイヤをぐりぐりと動かしている。
そのバックフロントを眺めながら、八ドソンは答えを待っていた。

「――――キソグが、クラッシュした時」
MACィーンが切り出した。

「コースアウトして、あんな大怪我しながら、それでもまだレースに戻ろう
としていたキソグに……あんたが、被ったんだ」
「…………」
ドック・八ドソンは思い返す。何の事はないささいなミスが引き金になり、
自分は何もかも失った。無くした地位や名声などはどうでもいい。が、走る事
そのものまで奪われたあの絶望は今でも胸を刺す。

 まだ、走れたのに。
 走る事が、全てだったのに。

「後何センチかって所で、フラッガーの顔だって見えた。優勝カップは確かに
オレの眼の前にあったけど…………どうしても、行けなかった」
ぎゅっと素早い動きでハンドルを切り、MACィーンはドック・八ドソンヘと向き直った。

「あんたを、置いて行きたくなかった」
「…………!」

ドック・八ドソンは眼を丸くした。思いも寄らない一言に、思考が停止してしまう。
 そんな八ドソンをよそに、MACィーンは初めから真っ赤なボディの赤を
いくらか濃くしながら、つらつらと話し続ける。
「全盛期に姿を消した伝説のレーサー……オレ達ルーキーはずっとそう思ってた。
けど本当は違った。あんたはスポンサーや世間に捨てられたんだ――たった
一度のクラッシュで!オレはあんたを捨てた連中を許さない。あんたが今どう
思ってようが関係ない、あんたを……あの素晴らしい走りが出来るあんたを
全盛期に握り潰した連中は最低最悪だ!」
ギリと歯を噛み締めてMACィーンは沈黙した。こみあげて来た怒りを必死で
こらえている――そう見えた。
「……だから」
ふっとMACィーンの身体から力が抜けていく。

「あそこでキソグを見捨てたら、オレはそいつらと一緒になってたんだよ……」

 だから、戻った。
 優勝カップをふいにしてまで、助けたのだ。
「――そうか」
ドック・八ドソンはそう言って微笑んだ。
「馬鹿な事を聞いた。許してくれ坊や……さ、帰るぞ」
そう言い置いて、MACィーンを追い越す。ゆるゆるとしたスピードは、ちょっと
彼が急げばすぐ並べる距離だ。

「待てよ」
「?」
MACィーンの制止にドック・八ドソンは方向転換して顔をそちらに向けた。
「オレに聞くだけ聞いといて……そりゃあナシでしょ、おじいちゃん」
知らず八ドソンは顔をしかめた。MACィーンが自分を『おじいちゃん』扱い
した時はあまりいい事がない。
 事実こちらを見つめるMACィーンの顔は、不敵な笑み一色だ。

「……じゃあ、どうしろと?」
「オレの話も聞いてくれ」
妙に簡単な要求だったが、そう深く考える事なくにドック・八ドソンは
軽く息をついた。
「それだか。分かった、日が暮れるまでな」
「そんなに掛からないよ。すぐ終わる」
しかし、そう言った癖にMACィーンはそれから優に三分沈黙した。先程の笑みは
どこへやら。時折何がしか言いたそうに口を開くのだが、すぐに俯いて黙ってしまう。
「……何が『そんなに掛からない』だ?」
「うるさいな、こっちだって心の準備ってもんがあるんだ」
言い返してから、再び赤面して押し黙る。後一分経ったら先に行こう、と
ドック・八ドソンは考えた、が。

 ゆっくり夕陽が沈んでいく。オレンジの光が眼に痛い。MACィーンの赤は
鮮やかな光沢を見せる。反対に八ドソンのネイビーブルーはどんどん色を濃くし、
遠目に見れば黒とも取れる深い色に変わっていく。

「――あんたが好きだ」

 風景に気を取られていた八ドソンは、慌てて視線をMACィーンに戻した。
「……何だって?」
「何度も言わせるなよ! あんたが好きだって言ったんだ!!」
「…………な」

 好き。意味なら二通りある。ラブか、ライクか。失礼ながらこれを言ったのが
×ーターならば、八ドソンは当たり前のように『ライク』と取っただろう。

 だが目の前にいる真っ赤なボディの持ち主は、誰もが天才と讃えるルーキー、
『稲妻』の異称を持ったライトニング・MACィーンだ。

 こんな分かりやすいシチュエーション。
 さっきまでのもどかしい逡巡。
 それらが指し示す結論が理解出来ないほど、ドック・八ドソンは子供ではなかった。

「こんな『おじいちゃん』がお好みとは、正しく驚きだ『ライトニング』」
「茶化すなよ、『八ドソン・ホーネット』」
真剣な声音が紡いだかつての名前に、八ドソンは全身がわななくのを感じた。
「歳とかあんたが伝説の『八ドソン・ホーネット』だとか、もうそんな事
関係ないんだよ。とにかく好きなんだ。あんたの走りを見てるとゾクゾク
するのは、テクニックが素晴らしいだけじゃない。あんたが走ってる。
あんなに楽しそうに――その事がもうオレにとっては特別なんだ」
八ドソンの言葉を封じるように、MACィーンは立て続けにそう言ってのけた。
それから話す種を無くし、捨てられる子犬のような哀れっぽい目で八ドソン
を見つめた。こいつはこんな表情もするのか、と他人事のように感心する。
「…………」

 断るのは簡単だ。
「何の冗談だ」とたったそれだけで、終わる。
 しかしそれが出来ないのは――

『諦めろ、八ドソン。もうお前の居場所はない』
『八ドソン? そんなのより見たかよあのルーキー! ピストンカップ優勝も夢じゃないぜ!』
『お前は終わったんだ。どんなレーサーにだって終わりは来る。そうだろう?』

 ――――……

『あんたを、置いて行きたくなかった』

「――ッ」
嫌な記憶とほんの少し前に胸を突いたMACィーンの言葉が交錯する。
「八ドソン」
MACィーンが哀れっぽいを通り越し既に『悲痛』ともいえる表情で八ドソンを
見つめている。
 何か言わなければ、と八ドソン・ホーネットは柄にもなく焦った。そして
混乱の末についに口をついて出たのは、一言。

「――――勝手にしろ」

否定でもなければ肯定でもない。曖昧な回答にMACィーンはぽかんとしている。
 間抜けな表情で何やら考えているようだった。しかし、その胸の内を八ドソンはすっかり予想できていた。
 ここで諦めてしまうようなら、もっと手酷い回答をしている。
「……え? え? ――えーと、それって、いいって事かな?」
聞きながら何故か接近してくる。近い、近すぎる。視界にどんどん入ってくる、燃え上がらんばかりに情熱的な赤。

 ……これは。

 近寄ってくるMACィーンの口を暫し眺めた後、八ドソンは素晴らしいスピードでバックした。
「んなっ!? 何で逃げるんだよ、八ドソン!?」
「どこまでお前はステレオタイプなんだ! 最新なのは外見だけか!」
夕暮れの荒野で告白し、曖昧な回答もポジティブな方向へ取って次にねだるのは――キス。
天才ルーキーだろうが何だろうが、内面はまだまだ子どもという事か。
「情緒というものが分からん奴においそれと許せるか!!」
それだけ言い放つと、八ドソン・ホーネットはかつての勇姿そのままに素早くハンドルを切り、
MACィーンを後にラヅエーター・スプリングスへ、愛すべき我が家へと全力疾走を始めた。
遥か後ろでMACィーンが何か叫んでいるが、聞いてやる義理はない。

 分かっている、自分はただ混乱しているのだ。
 ……老いらくの恋、という奴に。

 ネイビーブルーのフロントが熱を持っているように感じられるのは、太陽のせいではない。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 車は難しいね
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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早くノベライズ出ないかな……最後の方無理に詰め込んだので見苦しくなった……orz


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