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世界の終わりと始まり

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    |  ギャグθ和のマニアックなキャラ萌えだよ。
 ____________  \         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  オリキャラ×非力バンパイアって…
 | |                | |            \
 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ マニアックスギダロ。
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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その瞬間、俺の世界が終った。
 
しんと静まり返った部屋で棺桶に腰をかけ頭を抱える 
「デビルキラー夢子」が最終回を迎えたのだ。
 
夢子に俺は小松ほど肥えないにしても血を吸わなくても平気な程の力を
貰っていたというのに…
 
これからどうしたらいいんだ…
夢子に俺はもう二度と会えないのか…
 
声も出ずただ涙だけが流れ続ける
小松は「ドラゴンキラー愛子」が終った後
また新たに自分の力の元を「モンスターキラー勇子」に見出したようだが
俺は夢子のかわりを見つける気にはならなかった
 
代わりなど居ない。俺には夢子だけだったんだ
自分で作った同人誌「夢子と俺」を見ながらまた泣いた
 
始めは嫌がっていたけど、今ではその細い鎖骨がステキ!と
言ってくれていたのに、もう夢子には会えないのか…
 

このまま死んでしまうのだろうか?
新たな力の源を見つけないというのなら血を飲むしか自分の命を繋ぐ術は無い
しかし、力は前よりはマシだが泣き続けの毎日でかなり力が消耗しており
今ではカマキリより弱い。

血を吸わなくては死んでしまう、もう夢子は居ないのだ。 
いつもの公園のベンチに腰掛ける
小松には一人にしてくれ、といってあるからここに来ることはないだろう
奴にも少しは俺の気持ちがわかるはずだ、最愛の人を失ったのだから
乗り換えられるだけ、小松の方が精神的に強いのだろうか?いたそれはない。
というかアイツにだけは何も劣りたくない。
どんどんネガティブな方へ行く考えを打ち切るために俺は女に襲い掛かった。
 
ーーーがやはり肋骨を折られてしまった。
 

もう折れていない肋骨の方が少ない
踏んだり蹴ったりだ、もう生きてるのが嫌になった。

…もう帰ろう、、、
 
そう思って歩き始めた
がっくりと項垂れて歩いていた俺は信号が赤だという事に気付かなかった
物凄いブレーキ音の顔を上げると 
目の前いっぱいにバイクと眩しいライトが入り込んできた
 
 
そこで俺の意識は途絶えた。

―――――――――――――――――――――――――
 

「なんだよ、古谷!お前また振られたのかよ」
 
いつもは気のいい友人の声が酷く憎たらしく感じる。肩に手を乗せ
ニヤニヤと笑いながらこっちを覗き込んでくる顔を思わず殴り飛ばしたいと思った。
 
「振られたんじゃない、合意の上で別れたんだ。」
さっきから言っているのに本当にこの男は話を聞かない
本当に彼女とは合意の上で別れたのだ、正直お互いに冷め切った仲だったから彼女に未練があるだけじゃない
  
「でもお前、落ち込んでるじゃん」

そういってまた覗き込んでくる顔を手で押し返すと俺は盛大に溜息をついた
  
「悩みなら聞くぜ? 一回千円で」
そういって笑うこの友人にだけは絶対この悩みを言わないでおこうと思った。
 
これから彼女と夜のデートだ!という友人と別れるとバイクに跨ってぼぅっと前を見つめる。
 
こんな悩み、人には言えないなとまた溜息をついた。
 
 

 
 
 
俺の悩みとは「恋愛」が上手く出来ないことだ。
 
俺は容姿が母から受け継いだブロンドヘアーと外人の様な顔つきで子供の頃よく虐められた
その所為か初めからなのか今でも人と打ち解けるのが苦手だ
只でさえ人と打ち解けるのが苦手なのに恋愛など上手く出来るはずも無い
 
告白されたら断れずに了承したことになり、彼女が無口で無愛想な俺に飽きたら別れる
そんな恋愛を繰り返してきた。 といっても俺はこれが恋愛なのかもわからない
しかも俺に告白してくる子は大体、派手好きで髪を染めたギャルと呼ばれる部類の子達ばかり
(俺の好みはまさにその正反対なんだが)できっと彼女たちにとって俺は派手なブランドバックと同じなのだろう
 
自分でも恋愛に向いてないのはわかっている
どうせ職業は小説家なのだ、誰にも合わずずっと家に篭もって仕事していればいい。
そう思っていたのだが、次の小説の題材に恋愛要素を入れて欲しいと頼まれてしまった
俺は例の如く断れず了承してしまい途方に暮れた。
 
恋愛したことも無いのにどうやって恋愛小説を書けというのか…
普通、恋愛を経験しないと小説なんて書けるわけが無い 

いっそ顔つきは仕方ないにしてもこのブロンドの髪を短く切って黒く染めようかと悩んだが
そうした俺を見たときの母の哀い顔が浮かんでそれも出来なかった(母は俺がこの髪のことで虐めを受けてると
知ったときから責任を感じているようだった俺はそれを否定するためあえてこの髪を染めることはしなかった)
 
恋愛でなくともせめて自分が心から愛しいと思う人ができれば…
でもそれは無いものねだりに過ぎない
 

ここまで考えて気がつくと周りはもう暗くなり始めていた
慌ててヘルメットを被り、エンジンをかけるといつもよりスピードを出して走った。
どうせこの辺り、特にこの時間は人が通ることがないし、、、
 
目の前の信号は青だったから少ししかスピードを緩めなかった
周りの闇にまぎれて黒い服を着た青年が横断歩道を歩いてくるのに気付くと俺は慌ててブレーキをかけた。

 
俺はまるでスローモーションのように目の前の青年が倒れるのを見ていた 
 
 
轢いてしまったのだろうか?
 
怖ろしい不安が胸を過ぎり慌てて青年の方へ向かう
轢いた衝撃は無かった、しかし現に青年は倒れているのだ。
まさか、かすったのだろうか? 
もしかしたらこっち衝撃は無かったが青年には衝撃があったのかもしれない
 
「は、、、早く病院に…!!いや救急車を…」
 
焦ってしまってとっさに何をすればいいのかわからなくなった。
俺は携帯を持っていないし近くに公衆電話も無い。
バイクに乗せて行こうにも青年の意識がなければ二人乗りは出来ない。
このあたりは暗く、民家も無い、電話を借りることも出来ない

「、、びょぅ、ぃん、、は、、駄目、、だ、、、」
  
その時青年が声を洩らした
 
 
「、え?、、」
 
青年の言葉の意味がわからず唖然とする、その間も青年は同じ言葉を繰り返した。
 
とにかく、病院は駄目らしい。
もしかして、いや、もしかしなくてもヤ○ザ関係の人なのかもしれない、黒装束だし…
だとしても自分が轢いてしまったのだ、ほっとけるはずも無い
 
自分のバイクを端に寄せると青年を抱き上げようと力を入れた 
とりあえず表通りまで出られればタクシーが拾えるはずだ。
でも男一人の体重を表通りまでとはいえ自分一人で持ち上げられるだろうか? 
 
「って、うわ、!、、軽ッ…!?」 

しかし、持ち上げた青年は予想を反して異常なくらい軽かったのだった。
これは本当に男なのだろうか?そう思うほど軽かった。
もしかしたら自分がかつて付き合ってきた女性たちよりよっぽど軽いかもしれない
暗くてわからなかったがもしかしたら青年ではなく少年なのかもしれない
病院に行けないのは家出をしているとか事情があるのかもしれない
だとしたらよけい急いで怪我を診てもらわないと…

とにかく、早く表通りに、、、
 
暗い道を走り、表通りに出ると丁度通りかかったタクシーを呼び止めて雪崩れ込む様に乗り込んだ
運転手に自分の家の位置を教えると改めて青年の顔を見る
 
そして、息を呑んだ
 
夜の光に映し出された青年の顔は白いというより青白くさえ感じる肌
痩せこけてはいるものの白く整った顔
閉じられた瞼に長い睫、そして自分が憧れた黒髪が彼には備えられていた
手の方を見ると軽いわけだ、その辺の女性よりよっぽど細く白い腕が見えた。
 
胸が高鳴るのを感じる
彼に触れてみたくてどうしようもなくなる
そんな自分を戒めるため痛いほどぐっと手を握った。
 

俺はその日生まれて初めて恋に落ちたのだった。

 
 
 
…此処は何処だ?
 
目に映った天井はいつも見慣れたものではなかった。
俺は大きめのベッドに寝かされているようで起き上がりたいのだが身体がいうことを聞かない。
ついに起き上がる事すら出来なくなったか?このまま俺は死ぬのだろうか?
身体が動かないため視線だけ動かすと此処は結構広い部屋のようだ
寂しさを感じるほどものが無いがその代わりとでも言うように棚や机の上、さらに床にまでも本が積み重ねられている
 
窓のカーテンを通して薄い光が部屋に差し込んできている
おそらく今は朝か、昼なのだろう。
 
もしかして病院かどこかに連れて行かれて俺が吸血鬼とバレたのではないだろうか?
いやでも部屋の内装は病院の一室という感じではない、
しかし、そうだとしたら逃げ出さなくてはならない、しかし身体がまったくと言っていいほど動かないのだ
 
 
どうしようもなく暫くじっと天井を見つめる
このまま死ぬのか、、どうせ死ぬなら最後に夢子に会いたかった。
自分の同人誌の夢子でもいい、最後に一目だけ…
 
そう考えているとドアをノックする音が部屋に響いた
 
誰か来たのか?
どうせ起き上がれないから視線だけ横にしてドアの方を見る

 
「入りますよ」と声がした、男の声だ
 
男か、、と思ったがどうせ自分には女だったとしても襲って血を飲む力は残ってないのだ。
そう思うとどうでもよくなった
 
 
「目が覚めましたか?」
 
そう訊ねてきた男は背が高くがたいも悪くない。鼻が高く、洋画に出てくる外人のような整った顔をしていた
バンパイアだったら似合うだろう。まずそう思った。それでも、何も感じないからコイツは人なのだろう
コイツが人で小松がバンパイアなのが間違いのように思えた
 
「身体は大丈夫ですか?」
 
そういわれてはっとした。そして一気に質問をぶつけた
 
「此処は何処だ?」
「何故俺は此処で寝ている?」
「何があったんだ?」
「お前は何者だ?」
 
それを聞いた男は少しキョトンとなりそしてすこし困ったように笑った
 
「此処は俺の家の一部屋で、昨日貴方をバイクで轢きそうになったんです。病院に行こうとしたら
貴方がうわ言で病院は駄目だと繰り返していたから俺の家に運んだのですが…」 
  
「そして俺の名前は古谷和輝です」
 

 
そういって手をこちらの伸ばしてきた。握手を催促しているのだろう
しかし俺の身体は腕すら満足に動かせない
 
「悪いが古谷、身体が動かなくてな。」
握手すら出来ないとは情けない、俺はもってあと1日2日で死ぬのだろう。

「やっぱり何処か怪我してたんですか!?」
急に青ざめた古谷という男は救急車を…と言いながら部屋を出ようとした。
救急者など呼ばれては困る、病院に行くわけには行かないのだ。
世間にバンパイアの存在を知られるわけにはいかない、それくらいだったら静かに死んだ方がマシだ
 
「待て古谷、病院は駄目だ!」 
部屋を飛び出そうとしていた古谷はこっちを向き返し、俺のほうを見た
 
「なんでですか!?身体が動かないなんて病院で見てもらわなきゃもしかしたら手遅れになるかもしれない、、
俺が轢いた所為なのだから俺には貴方を病院に連れて行く義務があります」
 
「俺が動けないのはお前の所為じゃない。」
怪我だったらすぐ治るのだから、それに轢かれた形跡や痛みなどが無いという事は
初めから轢かれていないかもう治っているのだろう

「、、、でも」

古谷は納得していないようだった。それはそうだろうもし俺が古谷の立場でも納得など出来ない
バンパイアだと話してしまおうか?救急車を呼ばれて大勢に俺の存在を知られるよりは良いかも知れない
もし古谷が誰かに話したとしても誰も信じはしないだろう、証拠を見せようにも俺はもう死んでいるだろうし
そういえばバンパイアは死ぬとその身体は灰になって散る。
もし俺が死んだら古谷は灰だらけの部屋を片付けなければならなくなる、少し気の毒だな… 
死を前にて俺は冷静だった。それもそうか俺はもう何度も命の危機を迎えているのだから

「俺が病院に行けない理由は俺がバンパイアだからだ。」
 
 
俺はそう一言言うと、古谷の反応を待った。
 
 
 
 
「バンパイアですか、、」
 
古谷の顔からはあきらかに困惑が見えた。
それはそうだろう急にバンパイアですといわれても信じる奴の方が少ないだろう
襲った女にもバンパイアですと言っても痴漢やらなにやらに間違えられてきたのだから
 
「そうだ、動けないのは血が足りないからだ。もう一年以上飲んでないからな」
 
「え゛、一年、、それって平気なんですか?」
 
「平気じゃないから動けないんだろうが」
 
「あ、そうでしたね」

 
古谷の頭の中は混乱しつつもありえなくは無いな、と思っていた

この人の白すぎる肌も痩せた身体も今の言葉が本当だったら
納得が出来るものだ,そしてあることを思いついてまた彼に声を掛けた。
 

 
「…あの、」
 
「なんだ?」
 
「血って俺の血でも大丈夫ですか?」
 
「……は?」
 
何を言ってるんだこいつは、、一瞬言ってる意味がわからなかった。
俺に血を差し出すというのか?本当にバンパイアかも怪しい俺に?
それとも今の一言で信じたのか?それとも俺が本当にバンパイアなのか試しているのか?
それよりも男の血で大丈夫なのか…気がついた頃から異性の血というイメージがついていたから
男の血など飲んだことが無い。
 
「男の血は飲めるかわからん。」
 
混乱した挙句やっとこれだけ言葉を返した。
 
 
 

「じゃあ、試してみませんか?」

そういって古谷は俺の顔を覗き込んだ
古谷は俺に自分の血を飲ませる気でいるらしい
今まで生きてきたが積極的に血を進めてくる奴は初めてだ。てゆーかまず居ないだろう。
とはいってもこのままじゃ死を待つだけだ、それだったら試してみたい気もする
運がよければ死なずにすむかもしれない

 
「あぁ、」
 
そういって起き上がろうとしたがやっぱり身体は動かなかった。
  
「悪いが起き上がれん、手を貸してくれ」
 
そう頼むしかない自分がやけに惨めに感じる。
古谷は「はい」と短く返事をするとベットに腰を掛けて俺の肩に手を廻した。
 
古谷は結構力があるようだった、軽々と俺を抱き上げると自分の膝の上に座らせた
起き上がっていられない俺は古谷の胸元に寄りかかるような形で何とかもっていた
それを支えて古谷が背中に手を廻している、傍から見れば抱き合っているように見えるだろう
流石に男同士とはいえ気恥ずかしい気がした。
 
「首からでいいですか?」
 
そういって古谷はシャツのボタンを外し首元を晒した
身体を動かせない俺はどうすることも出来ず古谷の背中に手を廻しその肩に牙を挿した
 

首に針を刺したような小さな痛みを感じた後、血を吸い上げられるのを感じる
それは妙な感覚で、痛くもなくむしろ心地よいものだった
 
ちらりと彼を見る、必死で自分の血を吸い上げる彼は何故か色っぽく目に映った
身体を動かせず自分に寄りかかる彼を支えるように抱き締める
自分の顔の温度が上がるのを感じる、おそらく今自分の顔は紅いのだろう
 
恋をするとはこんな様子になるのか
初めて知った感情だった、この腕の中に居る彼が酷く愛おしい
このままもっと強く抱き締めたい、髪を撫でたい、額に唇に口付けたい
今まで付き合ってきた女性に対してもこんなふうに思ったことは無かった
 
相手は男、しかも人ではない、名前も知らないバンパイアだというのに
そんなことは問題にならないほど彼が愛おしかった、一目ぼれとは怖ろしい
  
背中に廻された彼の手に力が入ってくるのを感じた
血を飲んで身体が動くようになったのだろうか?
どうしても彼の髪に触れたくなり彼を支えていた片方の手でそっと彼の髪に触れた

牙を挿したところから口の中に溢れてくる血を必死で飲み干した
口の中に溢れる本当に久々の生暖かい血の味に夢中になる
あまり吸い過ぎてはいけない、古谷が貧血になってしまうかもしれないからだ
彼は何故無償で俺に血を与えたのだろうか?男の血をはじめて飲んだがそれは女性のと何の変わりもなかった
牙を挿した時痛くは無かっただろうか?血を吸われるのは不快ではないのだろうか?
そう考えるが吸われたことはない自分にはわからなかった。
 
もたれた所から伝わってくる体温が心地よかった、おそらく古谷は自分と違って体温が高い
バンパイアとばれないために、俺には人の知り合いが居ない
知り合いといえば小松だけだがアイツの体温はきっと暑苦しいだろう。御免だ。
そういえば小松もあまり人がうちに来ないと言っていたな、バンパイアとは人と関わりをもてないものなのかもしれない
 
あれほど酷かった空腹も満たされてきて、目を閉じると古谷が頭を撫でてきたのがわかった
それが心地よくてもう血は吸い終わったがしばらくそのままじっとしていた
 
 
「男の血でも大丈夫でしたか?」
 
牙を抜いてから古谷が聞いてきた
アレだけ吸っておいて大丈夫じゃないわけがないだろう。
 
「あぁ、問題は無いらしい」
 
まだ満足には身体は動かないが意識は前よりだいぶはっきりしてきた
 

「よかった。」
そういって古谷が笑んだ、古谷はかなりお人よしな奴だと俺の中で認識された
笑った顔は普通の時の顔よりかなり幼く見えた、もしかしたら20代後半だと思っていたが半ばくらいかもしれない
 
「よかったら、貴方の体調が良くなるまでうちに居てください」
 
どうせ一人暮らしですからと古谷はまた笑った。
本当にお人よしだ、いつか騙されて借金とか背負わされそうだなとこっちが心配になるくらいだ
 
「じゃあ暫く頼む。」
 
そういうと古谷は何故か嬉しそうに笑った。
 
「名のるのを忘れていたな、俺の名は北島だ」
そういって今度はこっちから相手に手を伸ばすと古谷は嬉しそうにその手を握った
 
「よろしくお願いします」
 
 

首元を見ると傷はもう塞がっていてそれが酷く残念に思えた。
まだ血がついていると指摘されたので拭いてきますと部屋を出た。
 
「よっしゃ!」
部屋の戸を閉めると思わずガッツポーズをする、こういう性格じゃなかったはずなのになぜか喜びがあふれ出して止まらない
好きな人と暫く一緒に暮らせるのだ、それが俺を此処まで変えていた
恋愛とはすごいものだと改めて思った
 
しかし、北島さんは身体が治ったらすぐに出て行ってしまうだろう。
もしかしたら何処か遠くへ行ってしまうかもしれない、なんたってバンパイアなのだ、外国とかに行ってしまっても不思議は無い
そしたらもう二度と逢えなくなるかも知れない…
 
身体が治る前に、積極的に攻めれば女の子たちから攻められた時の俺みたいに了承してもらえるかもしれない
北島さんに好かれるように尚且つ積極的に、、頑張ろう
 
濡れたタオルで肩を拭うと酷く勿体無いような気がした
不思議と傷跡もなく、牙を挿した跡も無い。
シャツのボタンを締めると俺はまた彼が居る部屋へ向かった。
 
 
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――

 
 
あれからもう一月経った、俺はまだ古谷の家に居候している
ベッドに仰向けに倒れた状態で天井を見上げるとそれは初めて此処にきた時とまったく変わっていなかった
その天井の様子と違って変わったものもある、それは俺と古谷の関係だ
 
始めてあった時よりもだいぶ親しくなった
古谷は夜仕事をするから俺と生活習慣が合っているし
もともと俺はテレビばかり見ていたから身体が動かなくても不自由はなかった
そのうち身体が動くようになっても外に出る気になれずずっと家に居た所為でよく古谷と会話した
古谷は俺に興味があるようだった
俺というよりはバンパイアに興味があるのかもしれないが
血液以外の食事は出来るのか?(栄養は摂取できないが食べることは出来る)とか
血を吸われたものはバンパイアになるのか?(それじゃあ世界中バンパイアだらけになる、ってかそれじゃお前もなってるだろ)とか
他にも年齢やら趣味やらバンパイアには関係の無いことも聞かれたが 

趣味といえば俺にはテレビを見る趣味ぐらいしかなかったが、今はその代わりに本ばかり読んでいる。俺のじゃない古谷のだ
俺が寝かされていた部屋にも本が大量においてあったがそれは序の口だった。
古谷がよく篭もっている書斎は一面がスライド式の本棚になっていてそれに入るだけ本が詰め込んである
それでも足りないと机の上や他の棚、床にまでとにかく早いっぱいに本が乱雑に置かれている
古谷は本を書くのを仕事にしていて(見た目はそう見えないが)元々趣味が本を読むことだったらしい。
一冊読むとそれに関連する本も読みたくなり、そしてそれにまた関連する本も読みたくなり、、と
どんどん増えていく一方らしい、それとは別に仕事で書く物に必要な資料や冊子も大量にあるのだから
この家の床が抜けるのは時間の問題だと俺は思う

たまたま面白い番組が何もやってなくて外もいやになるくらい太陽が照ってる日にたまたま近くにあった本を読んでみたのが
キッカケで俺も本の虫になってしまった。 
一冊読み終わると古谷がまたそれに関係した本を一冊薦めてくるからわざわざ選ばずにすむのが楽だった
 
古谷が仕事をしている時も俺はよく書斎で本を読む、始めは邪魔になるだろうと遠慮していたのだが、古谷は
別に構わないという、世辞かもしれないが俺がいたほうが安心して仕事が進むと言っていたこともある
真剣な目つきで仕事をする古谷を見ると時々そのまま魅入ってしまう時がある
胸が鳴るのはきっと、染めたのとは違った綺麗な金色の髪に仕事と本を読むときだけかける眼鏡が
夢子に似ているからだろうと思った、それでもあれほど泣くほどに想っていた夢子のことは時々思い出す程度に変わった
 
寝る前にも二人して本を読んでどちらかがキリがついたら一緒に寝る。
こうすると本で時間と寝るのを忘れてしまうことを防げるからと古谷が考案したのだ
俺が来る前は寝るのを忘れてしまいよく徹夜して仕事に支障が出たらしい、まったく仕方の無いやつだ。
古谷は俺より背はでかいが年下でちゃんとしているようで傍についててやらないと結構危なっかしい、お人好しだし。
本人も「北島さんが居てくれるんで安心です」とか言っていた、身体はもう動くけどまだ此処に居てやろう、と思う
 
まるでお互いが空気のようにその空間に在った、と俺は思っていた。
   
 
 
 

この一月でかなり距離を縮めることが出来たと思う。隣で黙々と本を読む彼を見ながらそう考えた
彼の傍に居るためなら多少趣味や性格を曲げることがあっても良いとすら思っていたのに
そんなことをしなくてもむしろ彼が俺の空間へ溶け込んできたのだ
それは彼が無趣味だったおかげかもしれない。
彼が本を読むのにハマってから一気に距離が短くなったように感じた。
そして外見だけで人目惚れした俺に、彼の性格がとどめを刺した。
俺がこの一ヶ月で知った彼のことは、俺より年上だという事、結構几帳面だという事、プライドが高いという事、
自分の意見をはっきり言う人だという事、そして案外抜けてるところがあるという事(これは多分本人は気付いてない)
そして普段は無表情だけど、時に俺に向ける笑顔が優しいという事だ。
 
多分弟や後輩のように見られているのだろう、けど信用はされている自信がある
 
 
「おい、古谷。丁度二章のところまで読んで区切りがついたんだが、お前は大丈夫か?」
 
考え事をしている頭に彼の声が響いた
ふと気付くと北島さんが俺の顔を覗きこむようにこっちを見ている
 
「あ、はい、俺も丁度区切りです」
 
慌てて返事をすると彼の口角が上がった、変に思われたのだろうか?と少し焦る
 
「じゃあ、寝るか」
 
「はい、」

ここからは俺にとって天国であり地獄だ。
俺が布団にもぐりこむとすぐ北島さんが俺の横に入ってくるのを感じた。
この家にはベッドが一つしかない。
始めは他の部屋のソファに毛布をかけて寝てたのだが身体が動くようになった北島さんに
ソファで寝てるのを発見されて酷く怒られたのだ。
お人好しもいいかげんにしろ!といわれ他に布団が無いというと一緒に寝ることを提案された。
変に断るわけにも行かず、それからずっと同じベッドで寝ている
そのベッドは俺がデカイ所為で普通のベッドじゃ足がつくためダブルのサイズだから男が二人で寝ても問題はない
そっちは問題ないのだが、好きな人と同じベッドの中なのだ、緊張しない方がおかしい
俺は性に対する欲求が少ないのか、北島さんを抱きたいとかSEXしたいと思うよりは
むしろ髪を撫でたいと思ったり口付けをしたいと思ったり強く抱きしめたいと思う方が上だ。
 
暫くベッドに身体を沈める。少しだけ触れ合っている肩が熱い
頭を傾け彼の方を見るともうよく眠っているようだった
暗い部屋にうっすらと窓から差し込む光(おそらく月の光だろう)に映し出された彼の顔を見ていると
初めて出会ったときのことを思い出した。
 
此処まで近くなれたのだ、それだけで満足しなければならないのかもしれない。 
それでも、自分の中の欲求を抑えきれず彼を起こさないように自分の上半身を起こすとそっと彼の前髪を払った
白く浮かび上がる愛しいひとの顔を見る。眠っている所為で瞼の閉じられた顔は初めて見た彼の顔と同じだ
 
その唇を軽く指で撫ぞると其処に自分の唇を重ねた
そして、彼を起こさないように聞こえないような小さな声で
「好きです」と呟いた。
 
聞かれるわけにはいかない、この関係が崩れてしまう、、(それでも)聞こえていればいいのに…
  
俺はそのまま、また布団に潜り込むと静かに眠りに落ちた。

深く息を吸うと一気にそれを吐き出す
心臓が大きく鳴っているのがわかる、止まれ!いや止まっちゃ駄目だな、静まれ!
唇に手を触れる、この唇に先刻、古谷が口付けをしたのだ
 
これは夢なのではないだろうか?そう思って頬を抓ってみた、やっぱり痛い。
わけがわからなかった、何故、古谷が俺にキスをするんだ?いやそれは最後に聞こえた、と思う一言で解決しているはずだった
確かに聞こえたその一言は俺の冷静さを見事に奪い去って心の中をぐちゃぐちゃに荒らした
友人としてみていた古谷にキスされてそして好きだといわれたのだ
俺は一度もそういう風に古谷を見たことは無かった。
それでも思い出すだけで顔に熱が篭もる、顔が酷く熱い。
古谷が俺をそういう風に見ているなんて全然気がつかなかった。
明日からどんな顔をして話せばいいんだ?、、平然と話すのは、無理だという自信がある
どうしようか、まさかあの時、狸寝入りをしていた。など今更言えるはずもない。

 
考えた挙句、俺は古谷が起きる前にこの家を出ることにした。
置手紙に一言、世話になった。と書いた。玄関をあけると急に此処を出るのが惜しくて立ち止まってしまった。
その時、俺はそうとうこの空間が気に入っていたのだと気付いた。
ここに居てやったのではなく自分が此処にいたかったのだ。もう、二度と来れないのだと思うと涙が出てきた。 
 
情けない、俺はバンパイアだというのにこんなことで泣いてちゃいけない
涙を拭うと苦手な太陽の光が指した道を全力で走った。

起き上がると北島さんの姿が無い。
いつもは俺が起きても寝ているのに珍しい。
 
「、、北島さん?」
 
部屋にも彼は居ないようだった。
だったら書斎だろうか?彼は遠慮しているのか俺がいないときは絶対書斎には入らなかったのに
書斎に行っても彼の姿を見つけることは出来なかった
 
急に不安が過ぎり、彼の名を呼びながら家中の部屋を探した、それでも彼を見つけることは出来なかった
 
外へ出かけたのだろうか?でもわざわざ苦手な昼間に出かけるだろうか?
 
部屋に戻ると机の上においてある紙を見つけた
 
 
 

【世話になった】と一言だけ書いてある紙を見つけて、俺は泣いた。
 
 

あれから何日か経った、久々に帰った家は埃が溜まっていて掃除するのに時間が掛かった
それでも身体を動かしてる間は何も考えずに居られたから楽だった
前はこの家で平然とひとりで生活していたのに、何故か酷く人寂しくなった
 
久々に小松の家を訪ねると小松の部屋の一面にあったドラゴンキラー愛子グッズがモンスターキラー勇子グッズに変わっていた
小松は相変わらず暑苦しい、アップになると気持ち悪そうな顔をしていて俺が居なくなったのを心配していたと言った
そして良い情報があるといってニヤニヤと笑った
 
「いい加減いわないと毛穴に十字架ねじ込むぞ!」
 
「い、言うよ!っていうか変わってないな、君ィ!」
 
「さっさと言え。」
 
「何様!?まぁいいや、あのね、希望者が多かったおかげで君のエンジェル『デビルキラー夢子』がDVD化するんだ!
これでいつまでも夢子ちゃんと一緒に居られるよ!」
 
その言葉を聞いて俺は固まった。
 
いま、俺は何だ、そんなことか…と思わなかったか?あれほど愛していた夢子のことを、、、
思わなかったにしても、俺は夢子にまた会えることよりも古谷のことのほうが遥かに心を占めていた
 
何故だ、俺が古谷を気に入ったのは夢子に似ているからだろう?
それでも夢子を思い出すと逆に古谷のことで頭がいっぱいになる、そして他に何も考えられなくなる
 

「ちょっと君、大丈夫!?」

小松の声が聞こえる。五月蝿い、黙れ。静かに考えさせろ。ただでさえ冷静になれないんだ
俺は確かに古谷に魅かれていた、でもそれは古谷が夢子に似ていたからで…もう一度、古谷の顔を思い浮かべてみる
 
真っ直ぐに伸びた男にしては長めの綺麗な金髪に、時に眼鏡の下に隠れた、それでもわかる優しいくっきりと二重の瞳
何もしていないと言っていたのに整っていた眉、すっとした高い鼻
  
全然、似ていないじゃないか、、同じなのは眼鏡と金色の髪だけだったんだ。
 
俺は夢子のことをここまで思い出せない。それは当たり前だ、夢子は二次元の存在なのだから
安心する心地よい体温もなければ、思い出せるその表情も限られている、その表情すら厚みも無い、薄っぺらなものだけだ
こう考えるまで夢子への気持ちは薄れているのに何故似ているからといって古谷に魅かれるわけがある
俺は夢子に似ているからではなくて、古谷自身に魅かれていたのだ。
 
 
其処まで考えると一気に体温が上がったように感じた
血が逆流するみたいだ、先刻よりもっと顔に熱が集まる、、
 
「ちょ、ホントどうしたの?熱があるんじゃ、、、」
 
顔を覗き込んできた小松を突き飛ばすと(でも突き飛ばせなかったらしい小松は少しも動かなかった)俺は慌ててその部屋を出た
 
気付いてしまった。俺は、古谷が好きなのだ。
 
 

もう五日になるだろうか、彼が目の前から消えてから。
あれほど順調に進んでいた小説はあの日から全然進まないでいた。担当の編集者が俺の様子を見て酷く心配していた。
本当に悪いと思うけど、これ以上書き進める自信がない。
打ち合わせした結末と違ってバッドエンドにするのならかけるかもしれないけれども。
 
数少ない友人からの電話に出ると声だけで状態が良くないのがバレてしまった、付き合いが長いだけはある
好きな子に振られたか~?といわれたので降られるどころか告る前に駄目になったよというと友人は
興味津々に根掘り歯掘り聞いてきた。が答えなかった。当然だ、からかいのネタにされるのは目に見えてる
このことでからかわれたら俺は本当に泣きかねないのだから。
 
「他の男に先取りされたなら告って見ろよ!お前の顔なら案外乗り換えてもらえるかも知れねーぞ!」
相変わらずからかい口調で奴が言う。せめて告白出来ていたら、なにか変わっただろうか?想いを伝えることすら出来なかった
せめてもう一度だけでも逢えたら…
 
からかい口調で話つづける友人を無視して電話を切ると俺は外着に着替えた。
そして路駐していたバイクを取りに行ったあの場所へ、初めて、彼と出会ったあの場所へ向かう。
 
もしもまた、出会えたら今度は絶対後悔などしないように…
 
 

 

何故あのとき逃げてきてしまったのだろう、
いつもの公園のベンチに座りながらそう考える、自然と溜息がこぼれる
女性を襲う気にはならなかった。
今は血が足りているそれも彼の、古谷の血を吸っていたからだ
1年飲まないことすらあったのに週に一回は彼の血を貰っていたのだから
他の血など吸う気にはなれなかった、それくらいならいっそこのまま死んでもいいとさえ思えた
考えてみたらバンパイアにとって血を吸うというのはこの上ない愛情表現なのかもしれない。
だとしたら俺は始めて古谷の血を吸った時にはもう彼に一目惚れしてのかもしれない
でも俺は自らその世界を終らせてしまったのだ。
 
こんなところで考えていても仕方が無い、今さらノコノコと彼の家に訪ねるなんてできないのだから
まわりも薄暗くなってきた、騒がしかった子供たちが親に手を引かれて帰っていく
 
―――――――俺も帰るか、、
 
彼と出会ったあの道を通って。
 
 
 
 
 
 
 
 
二人が出会い、また世界がまた始まるのは数分後のこと。
 

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 | |                | |           ∧_∧ ナガスギダロウ…ホントスンマセン
 | |                | |     ピッ   (・∀・;)
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  • おなに -- 2017-04-30 (日) 12:33:49

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