手紙
更新日: 2011-04-30 (土) 10:20:39
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| 手紙って萌えるよなあ、という所から妄想がムクムク
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| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 40半ばになった生徒と教師とその息子
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| | |> PLAY. | |  ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ タンパツオリジナル
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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*死ネタを含みます、苦手な方はスルーして下さい。
「 先生、お元気ですか。俺は元気です。って、いつまでたっても文章がガキっぽくてすみま
せん。読んでて分かるでしょうけど、相変わらず本とか学問とは無縁な生活を送っていま
す。手紙だってもう何通書いたか分からないくらいなのに、ちっとも上手くなってませんね。
先生は、相変わらず本に埋もれて学問に励んでらっしゃるんでしょうか。少しは外に出
掛けないと駄目ですよ。先生は昔っから生っちろいから、少しは日々衰えつつある体に鞭
打って肉体労働に励む俺を見習いましょう。なんて。
先月お話した家が完成しました。何年たっても、家の主に受け渡す時は少し寂しい心持ち
になります。」
「 拝啓、日にゝ暖かくなる気候に春の訪れを感じています。そちらはもう暖かくなったでしょうか
お元気そうで何よりです。君は自分の文章が上達していないと言いますが、そんな事はな
いと思います。少なくとも、私は君のくれる手紙をいつも楽しく拝読していますし、かえって分
かり難い表現のない率直な物言いは、君が傍で話をしているように肉と声をもって私に伝わっ
てきます。
家の完成おめでとう御座います。きっと喜んで頂けたことと思います。以前君が建てた家を
見たときはつい涙ぐんでしまい、みっともない姿を見せました。
またそんな機会がある時は、そんな事のないようにしておきます。それでは。
敬具
追伸、丁度庭の桜がきれいに咲いたので、押花をしおりにして同封します。本を読むように。」
「 しおりありがとうございました。先生、俺に文章上手くなってほしいのかそのままでいいのか
どっちなんですか。相変わらず最後に一言棘がありますね。
若い衆にからかわれながら使ってます。あいつら、俺には本も押し花も似合わないなんて
言うんですよ。まあ、確かにそうですけど。
嬉しかったです、本当にありがとうございました。
以前、といってももう10年も前になるんですね。先生にお見せしたのは、ようやく現場を
任されるようになって始めての仕事だったので、あの時は俺もやばかったんですよ。先生は
みっともないなんておっしゃいますが、俺のことで泣いてくれている人がいるなんて、とても有
り難いことです。
先生はそのままでいいと思います。」
「 拝啓、桜も散り、緑の青さを強く感じるこの頃です。
最近、年のせいでしょうか、古い記憶が蘇る事がよくあります。君の建てた家を見に行った
のも、思えばもう10年も前の事でしたね。年を重ねる毎に、月日が早く過ぎていきます。
昔話ついでにもうひとつ思い出しました。初めてあった時、君はずいぶんと個性的な格好をし
ていたように思います。何度注意しても聞かない君につい腹を立て、面談室で脱がせてしまっ
た事がありましたね。あの時は私もずいぶんと未熟でした。今更ながら謝罪しておきます。
それでは、体に気をつけて。」
敬具」
「 先生、お元気ですか。よくそんな昔の事覚えてますね。とか言いつつ、俺も覚えてますが。
あの頃は本当に面倒ばかりかけて、すみませんでした。個性的なんて遠まわしに言わなく
ていいですよ、今思えば馬鹿みたいな格好でした。お恥ずかしい。今では俺のほうが注意
する側にまわりました。あのころの先生の思いを今頃になってしみじみ感じてます。
卒業しても君は私の生徒だからって、悪さしてないか月に一度は手紙よこすようにって言っ
てくれたの覚えてますか。無茶苦茶クサかったけど嬉しくて、多分一生忘れません。
飽きっぽい俺が今まで仕事続けられてんのも、ここで辞めて先生になんて報告すりゃいい
んだ、って思いがあったからです。あれから、30年も経つんですね。
本当に、なんて言えばいいのか言葉がみつからないですが、先生は俺の素晴らしい師です。
なんか、俺も年取ったのか、昔の事を考え始めると際限なく色んな事が思い出されてきます。
逆にここ数年会わなくて、今の先生がどんな風貌か思い出せませんよ。今度休みが取れたら
俺がそっちにお邪魔します。酒でも飲みましょう。それでは。」
その、最後に交わされた数通の手紙を読み終えたところで、私は仏前に座り父の位牌を見つめている男に目を向けた
「・・あの」
「はい」
「ありがとうございました、長いこと読みふけってしまってすみません」
「いいですよ。亡くなったお父さんの手紙だ、好きなだけ読むといい。俺の手紙まで読み比べられるのはさすがに照れますが」
「すみません」
「そんな、本気で謝らんで下さい。まいったな」
先月、父は死んだ。
もともと体は丈夫でなかったし、持病の悪化で定年を前に高校の教師を辞めてからは、あまり外出もせず家に篭っているばかりだった。
60という若さで死んだとしても、ああこの時が来てしまったかと、さほど驚きはしなかった。
それよりも驚いたのは、父の書棚から、差出人が同じ数百通の手紙が詰められた数箱の木箱を見つけた時だった。
父は、28の時母が私を生んで亡くなってから、私を男手ひとつで育ててくれた。
もともと人付き合いが上手でないのに加えて、私の世話に追われここまできた彼に、昔からの仲の良い友人がいたというのは意外なことだった。
といっても、私が知っている父のことなどは僅かで、他にももっと知らない事は多くあるのだろう。
父に反発していた訳ではないが、私達はお互いに寡黙な性質で、15を過ぎた頃から会話らしいをすることは殆どなかった。
少し大げさに言うならば、ここ数年私と父がしっかりと言葉を交わすのは月に一度有るか無いかだった。
病床にある父をほとんど人に任せきりで、父の死を聞いた時、私は仕事をしていた。
恥ずべきことだが、私は父が一体何を思って生きていたのか、死を待つばかりの数ヶ月間何を考えていたのか、全く分からない。
主を失った実家の父の書斎を整理している時になって、その愚かさがようやく押し寄せてきて少し泣いた。
父の手紙を読みたいと思った。連絡先を調べ失礼は承知でお願いした、父から届いた手紙を読ませてくれと。
本当に今更だが、父の思いの一端でも知りたいと。
あの手紙を書いた人に会ってみたいというのもあった。
「今日は、突然の失礼な申し出を聞いてくださって、本当にありがとうございました」
「いえ、俺も焼香しに伺わせて頂こうと思っていたところです。葬儀に出られなくて、・・・本当に残念でした」
こちらに向き直り、そう項垂れる彼の目には涙が滲んでいるとように見えた。
「・・あの」
「はい」
「あなたは、父をどう」
「彼は俺にとって師であり恩人でした。
・・・いや、君の気を損ねるのを承知で言います。私は先生を、あなたの父を愛していました。もちろん、あの人はそんなこと知らなかっただろうがね」
そう言って真っ直ぐに目を見つめられる。
意志の強そうな目に太い眉、髪を短く刈り上げ、窮屈そうに黒いスーツをを着た男。
不思議と、驚きと嫌悪感はなかった。私は彼の気持ちを知っていた気がした。
無骨な字で綴られた手紙が、毎月一通ずつ30年。静かだが確かな愛情。
彼の目をもう一度見て、座布団の脇に置いておいた手紙を取り上げる。
「あの・・・これ、電話ではお話しませんでしたが、父が最後に書いた手紙です。机の引き出しの奥に入っていました」
「そうですか・・・」
「これ、あなたが持っていて下さい」
「いいんですか」
「元々、父があなたに宛てて書いたものです。あなたが持っているべきだ」
「・・・ありがとう」
少し猫背の広い背中を見送りながら思う。
父が逝ってしまった今、あの手紙を渡すべきではなかったかもしれない。
きっと父は机の奥にしまいこんで、そのまま出さずいるつもりだったのだろう。
真っ直ぐな目で父を愛していると言ったあの人は、父が最後に書いた手紙を読んで、何を思うだろうか。
やはり、渡すべきではなかった。
「 拝啓、雨だれの音が耳に響く季節になりました。
実は、君に伝えなければならないことがあります。本当は、このまま伝えずに君の中に
良い印象を残したまま消えてしまいたいと浅ましく思うのですが、そんな風に過大な感謝
を受けて、知らない顔をしていられるほどには、自分が下衆ではないと信じたいのです。
私は、君が思っている様な素晴らしい人間ではありません。君の卒業の日、私が君に言っ
たその言葉は、実のところ保身とエゴによるものでした。教師という立場を自分に言い聞かせ
る事で、君への想いを否定し続けてきました。そのくせ君と完全に関係が絶えてしまうのは嫌
で、自分の想いへの言い訳である教師という立場を利用しました。私は、教師でありながら、
君を愛してしまったのです。
君が入学してきたのは、私が28の時でした。その頃私は妻を亡くし、赤子を育てる勝手も分
からず、悲しみの中途方にくれていました。
ちょうど君もお父様を亡くされて、半ば自棄になっていましたね、
度々授業を抜け出す君を呼び出し、その話を聞かされた時、私は近親の死という、とてもデリ
ケートな出来事を通して、君に強い親しみを覚えてしまったのです。若年にして自分の痛みと似
た傷を抱えている君を、迷いながらも強くあろうとする君を、尊敬と羨望を以って、自然と目で追
うようになっていきました。目をかけていたのは、もちろん教師であるという責任からというのも
あるでしょう、しかしそれはやはりどこまでいっても自分への建前でしかなかった。
その後の三年間、君のいる学校での生活は私をとても心安らかにしてくれました。自分はこの
まま学校に残り延々と回転する季節を繰り返し続けるというのに、それを通り過ぎ卒業していく
君を見送るのが辛かった。手紙を必要としていたのは、私の方なのです。
急にこんな事を言って、君はさぞかし驚いていることでしょうね。いや、嫌悪感の方が強いで
しょうか。君を失望させてしまったであろう事を申し訳なく思います。
もう、君に手紙を出す事はないでしょう。酒を酌み交わせない事が残念です。
私の手紙など無かったとしても、君は十分に立派な人間です。もうずいぶんと前から。
敬具」
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| | □ STOP. | |
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| | | | ピッ (・∀・ )なんてね。
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- 良い… -- 2011-04-24 (日) 15:52:45
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