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オヤジの恋

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                    |  いつだったかのオヤジ話最後
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  前スレ 41-47からとはこれまた豪快な遅さだな
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7時を過ぎ、片付けを始める。
シャッターを閉めて帳簿を付け、のろのろと棚を整理する。その一つひとつの動座が酷く億劫だ。

あの人が店に訪れなくなって一ヶ月が経とうとしている。
いつも彼が来る六時が過ぎ、店を閉める7時になっても来ない、そんな日が一日、二日と続き今日まで。
常連を一人失った、ただそれだけのことだろう。そう考えようとしても、想いの募った頭はそれを上手く受け入れてくれない。
あの時乱暴に手を払ったりしなければ、変わらずにあの人が来る今日があったのだろうか
気を悪くしたのだろうかそれとも分かってしまったんだろうか、好きだと。
もう何度目か分からない考えが頭の中に浮かんでは、喉の奥に溜まりどんよりと重みを増していく。
明かりを落とし暗くなった店内で煙草をふかしていると、俺は何をしてるんだろう何をしてきたんだろうと、虚しさが込み上げてきて少し視界が滲んだ。
暗い中で考え事なんてするもんじゃない。

今日も小さな舌打ちと共に一日が終わる。

乱暴に煙草をもみ消し、家へ続く戸に手をかけたところで
ジリリリ、と店の電話が鳴った。

メモを見ながら、相変わらずの緩慢な動作で酒を運び出す。
季節の変わり目の、学期終わりと始まりは近くの大学に度々呼び出しがかかる。
学部、専攻ごとの簡単な飲み会の一次は、とりあえず、と大学の学食や教室を借りて開いてしまうらしい。
店を閉めてから酒を持ってきてくれなどと頼まれても、お得意様では断れない。
チューハイの箱と数本の強い酒を車に乗せてエンジンをかけた。

手続きを済ませ校内に乗り入れ、食堂近くの駐車場に車を停めていると、学生らしき青年がこちらに走ってきた。
「お電話した方ですか?わざわざすみません!えーと、これですか?一緒に持って行きます」
はきはきとした感じの良い青年だ。どうも、と小さく礼を言いながら酒を運び出す。
こっちです、と少し長い廊下を歩き案内された部屋に入ると、数十人ほどの学生と先生らしき人達が談笑していた。
結構広い部屋に美味そうなツマミと和やかな空気、一心に飯を掻っ込む学生もいれば、真面目な顔で講師らしき人と話し込んでいる人もいる。
いい学校なのだなと、賑やかさを少し羨ましく思う。

注文された商品を全て運び入れ、ではこれで、と部屋を出ようとすると、目の端にこちらを向いたまま止まっている人が映った。

何げなくそちらを振り返ると、瞬間、時間と空気が固まった。
彼、だ。
目を見開き、とても驚いた様子でこちらを見ている。
どうしてここに、お互いそう言いたげな目で見詰め合う。
目は合ってしまった。もう無視はできない、気付いていないふりはできない。気まずい空気が流れる。
先に口を開いたのは俺の方だった、そのことにまた自分で驚いた。
「あ、の。お久しぶりです」
「・・・お久しぶりです」
「です、ね。本当に」
どうしよう、何を話していいか分からない。いち客である彼に、来なくなった理由など聞けるはずがない。
あの時の事を謝ろうか、今更だろうか。
「最近忙しくてなかなか行けなくて、・・・酒も今日久しぶりに飲みましたよ。生徒に誘われて」
ばつが悪そうに彼が言った。俺なんかに言い訳しなくてもいいだろうに。それとも本当に忙しかっただけなのだろうか。
「はあ、・・こちらにお勤めだったんですか。」
「ええ、半年少し前から。言っていませんでしたね」
そう言って、彼が少しぎこちなさを含みつつも微笑む。
その笑顔を見てああ駄目だ、と思う。これ以上ここにはいられない。一ヶ月ぶりに見るこの人は、変わらずに魅力的な男で。
誰にも平等に向けられるであろう笑顔に未だそれ以上を見出そうとしている自分に気付き、この馬鹿野郎、と心中で舌打ちする。
「驚きました。・・・あの、それじゃ、俺はこれで」
そう言って足早に部屋を出た。
一歩踏み出すごとに歩調は早まり、外に出る頃には半ば駆け足になっていた。
空を仰いで乱れた息と動機を整える。5月に入ったとはいえ、夜の空気はまだ涼しくて心地良い。
きっと明日からも彼は来ないだろう。先ほどの張り詰めた空気を思い出してそう考える。

「・・・帰ろう、そんでさっさと寝ちまおう」
自分に言い聞かせるように呟き、歩き出そうとする。

「・・・って、待って下さい!」
後ろから呼ぶ声にハッとして振り返ると、息を切らして走ってくる彼がいた。どうして。
落ち着いたはずの動機がまた高まる。
「あの、何か」
「・・・嘘です」
「え?」
嘘って、嘘つく間があるほど多く話してもないような。何のことだ。
「忙しくて行けなかったなんて、嘘なんです。
 ・・・好きに、なってしまったんです、あなたが。おかしいのは分かっています、でもどうしようも無くて。
 いつかあなたをどうにかしてしまいそうな自分が恐くて、行くのを、やめたんです」
息つぎもせずにそうまくし立てられた。何を言われたのか良く分からない。
好きになった?恐い?彼が?何を?俺、が?
言葉が、出てこない。体温が上昇していく。
「・・・」
「急にこんな事を言って、どうすればあなたに謝罪できるのか分からないが、・・すまない」
俯いて黙り込む彼は心底苦しそうで、頭はいまだ追いついてきていないのだが、眉間に皺を寄せた彼、そのことにただ心が痛む。
「・・・何であんたが俺に謝罪しなきゃならんのですか」
やっとのことでそう問いかける。まだよく分からない。好き?俺が?
「こんな自分と年も変わらない男に好きだと言われて、不快に思ったのではないかと思って。
 本当は、これも言うべきではなかった。でも今日あなたに会って、自分を止められなかった。情けないです」
駄目だ分からない。
どうして不快に思うなんて、言うべきではなかったなんて、情けないなんて。
俺を好きだと、それだけは信じていいのだろうか。
「どうして男じゃ駄目なんですか」
「どうして年なんか気にするんですか」
「どうして好きになったらいけないんですか!」
混乱に比例してどんどん語気が荒くなってくる。
嬉しいはずなのに、悲しい。

男が男に好きだと言って、はいそうですかと受け入れられると考える人はまずいないだろう。
この人が俺の気持ちを知っていたはずはないし、察してくれなんてのは俺の我侭だ。
でも、こんな風に好きと言われて、訳の分からないまま謝られて、それで、俺は一体どうすればいい。
「・・・どうして、初めから俺が断ると決め付けるんですか」
「それは、どういう」
だから、と言葉を遮る。言ってしまえ。
「俺は、あんたが好きなんです」
半分ヤケでそう口に出す。
ポカンとした顔でこちらを見ていた彼が、そのままの顔で口を開く。
「私は男ですよ」
「あんただって男の、お、俺が好きなんだろう」
何を言わせるんだ、というか何を言っているんだ俺は。
勢いに任せて思うままに言ってしまい、少し落ち着いてきた。冷静な思考が戻ってくると、今度はこの状況の恥ずかしさに逃げてしまいたくなる。
「40過ぎですよ」
「そんなの、俺だって」
彼もどうやら落ち着いてきたようで、顔には優しげな笑みが戻っていて、余裕まで浮かんで見える。それが少し憎い。
きっと俺の顔はまだ赤いままだ。

「また、店にお邪魔してもいいですか」
「・・・聞かんで下さい」

それから、俺達は半年の間こねくり回した互いの想いをゆっくりと打ち明けあった。
酒の力は偉大だ。普段は絶対に言えない事が、少しずつでも口に出来る。
そんなことに今更気付いて、感動した。まったく酒屋失格だ。

おっさん二人が、酒のせいだけではない赤い顔を向かい合わせて話す光景は、さぞかしおかしなものだろう。
酒なら腐るほどあるからと、うちで飲む事にしたのは正解だった。

飲みながら話す。
お互い相手の言葉に、そんな立派な人間じゃないと照れて、赤くなって、少し黙り込んで、また笑った。
彼が俺の家で、いつもは買って帰るビールを飲んでいる。
信じられない状況に、これって嘘なんじゃないかとぼんやり考えてしまう。駄目だ、少し泣けてきた。
大丈夫ですかと渡されたハンカチはパリッと糊付けしてあって、こんな物までいかにもこの人らしい。
「すみません。いや、恥ずかしいな」
言葉を発するとますます涙腺が刺激されて言葉は詰るわ、顔は熱いわ、少し飲みすぎたかなと後悔した。
「・・・私も最近涙もろくなってしまって、いや、人の涙は見るもんじゃないな。すみません、あの、ハンカチお借りしていいですか」
恥ずかしそうにそう言った男の目も少し濡れていて。
いやこのハンカチあんたのじゃないですか、と泣き笑いで渡す。
使っていない方を折り出せばよかったと思い、慌ててこちらに戻そうとすれば手が触れて、またお互い赤面してしまう。
なんだろうこの甘ったるさと恥ずかしさは。

二人共もうしたたかに酔っていて、このまま寝てしまいそうだ。
視界もまだすこし滲んでいて、酔いと熱さでドロドロになって考えもうまくまとまらない。
・・・やっぱりこの状況は嘘じゃないのだろうか
酔いに疑り深さが助長される、悪癖だ
目の前にいる男は本当に俺を好いていてくれるのだろうか
いや、それ以前にこれは本物だろうか
もしかしたら幻でも見てるのかもしれない
取り留めのない考えが浮かんでは消えていく
幸せな気分だしそれでもまあいいか
どうせ夢なら今のうちにじっくり見ておこうか
熱い、あつい・・・ちくしょう、脱いでしまえ
お、幻にしては、表情もリアルに変わりやがる
・・・感触まである
はは、俺の想像力も捨てたもんじゃないなあ

まとまらない思考でそう満足したところで、視界は暗くなった。

疑り深い男に、それが現実だとようやく受け入れさせたのは
二日酔いの頭の痛みと、朝日と共に目に飛び込む夜六時の常連の寝顔。

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 | |                | |           ∧_∧  やたらあまーい 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )  名前付けとけば良かったと少し後悔
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  • 素敵なオヤジ、ご馳走様です! -- 2013-03-23 (土) 02:12:36
  • オッサン二人組可愛いすぎ!! -- 2013-11-26 (火) 02:49:00

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