Top/16-523

オリジナル 刑事モノ

| PLAY ピッ ◇⊂(・∀・)
オリジナル、刑事モノ?
季節さかのぼってスマソ

真冬の夜、とある北国の林を二人の男が走っている。
木立ちをすり抜け、踝まで埋まる雪に足を取られかけながら、白いコートの男は、黒いコートの男を追いかけていた。
黒いコートの袖口から覗く手が、大型のジェラルミンケースの把手を掴んでいる。中身は、数日前に都心の銀行から盗まれた大量の札束だ。
ニットキャップを目深にかぶった後ろ姿が、時折こちらを見やるかの如く首の角度を変える。
つかず離れずの距離を保ちながら、されど追う男は相手の顔を見る事が出来ない。

逃亡者は、偽りの名と電話ごしの声だけが手がかりの、顔も知らない罪人。
追跡者は、引退した先輩の心残りと意志を引き継いで以来、上司の苦言や昇進話、プライベートの一切合切すらもかなぐった、若い刑事。
何度もしてやられた、姿無き卑怯者…その背中が、今、実体をともなって眼の前にいた。
何ヶ月も周到に網を張り、耐えて待ち続けてきた刑事に、運が最大の好機をもって報いてくれたのである。
向かい風に白いコートの裾を大きく翻し、追跡者は、その偽名を叫ぶことも、止まれと命令することもなく、ただ荒く熱い呼気を吐き出しながら、まだ柔らかな雪原を蹴散らす黒いコートの裾を睨み付けた。

白樺の梢から見え隠れする満月と、雪明かりが、深い闇にあっても逃亡者を見失わせない。
追い込んだ山道の降雪量に互いに車を乗り捨ててから、もうどれくらい走っただろう。
と、唐突に黒い影が傾いだ。減速する足取りを逃す訳もなく、刑事は腕を伸ばしてコートの袖を掴む。
想像より骨張った、細い手首が抗い、刑事を突き放そうとした。
こちらを向かせよう、向くまい、と激しく揉み合った挙句、逃亡者と追跡者はもろともに、もんどりうって地に倒れ伏す。
雪とは違う微かな温かさを感じて、先に刑事が顔を上げた。その首筋へすかさず幅広のナイフが突き付けられる。しかし、彼は冷静に真下で組み敷かれた罪人を見下ろした。
何故なら、その時とうに、彼の拳銃が男の胸をゼロ距離で狙っていたから。
やがて、逃亡者が疲れ切った息で笑い出す。
「へぇ…そんな顔、してたんだ…ケージサン」
幾度も受話器越しに聞いてきた、軽薄そうな声が、いつもの軽々しさで刑事を呼んだ。
転んだ弾みでニットキャップをどこかへ飛ばしてしまったらしく、冴え冴えとした月明りに、仰のいた面差しが曝される。
「本当はね、アンタの顔見るの初めてなんだ」ずっと、逃げ倒してきたから…

「俺もお前の顔を見るのは、初めてだ」
ずっと、背中だけを追っていたから…
「だろうね、今まで人前に顔を出した事、なかったから」
光源のせいか、元からなのか、細い輪郭を彩る肌色は生気が薄い。
見た目からして、刑事と同世代か年下だろう。
「初めまして、って言うべきか…?」
「酷いなケージサン、もう何年追っ駆けっこやってると思ってんの?」そうだな…この男の為に費やした時間を考えれば、初めましてと言うのは余りに白々しい。
「いい男だね、ケージサン。ずっと想像してたよ、どんな顔してるのかなって」
言いざま大きな溜め息をつくと、逃亡者がまじまじと刑事を見上げた。
「いつからかな、たった一人だけ、俺を捕まえようと頑張ってる奴がいるって気付いたんだ」
本当の姿を見せたら、どう動くか知りたくて、だからわざわざ、安全な場所から出てきたのだと言って、罪人はまた笑う。
「やっと、逢えた…」頬を打つ風が、氷の気配を帯び、刑事の手のひらに囚われたままの手首が、小刻みに震える。
「一人でこんな所まで一人で追っかけてくるなんて、結構馬鹿だね、ケージサン」

応援は、呼ばなかった。
立派な規律違反だが、今更、逮捕を諦めた奴等を関わらせたくなかったから。
ただでさえ体温が下がりつつある上に、下手に動けば、かたや頸動脈を切断され、かたや心臓を射抜かれる。
一刻も早く危機回避せねばならない状況下だと理解していながら、刑事もぎこちない微笑を口角に刻んでいた。
「馬鹿は、お前だ。のこのこ出てこなければ、捕まらずに済んだものを」
焦る必要は、ない。
よほどの逆転劇が起こらぬ限り、今日この時間、二人の追い駆けっこは終わる。
「俺を捕まえたら、ケージサン、やっと昇進できるね」
「その前に、今まで上司に迷惑かけたから、降格されるだろうな」
「なんだ、結局はプラマイゼロじゃん」
からかわれて、お前のせいだと言いたかったが、歯の根が合わず声が出せない。
ろくに食事も取らず、長らく走って、雪に埋もれて、このまま…たかだか、罪人一人の為に殉職するのか。
寒い予感が脳裏をよぎった刹那、逃亡者が陶然と囁いた。

「逢いたかった…」
残存する体力をふり絞るかの如く、拘束された手首を解き、そうして、五指を絡め合わせて握り直す。

「ケージサンは、俺に逢いたかった?」

男の一言が、今度こそ捕まえられると確信した時の、虚脱感と切なさを甦らせる。
使命感から根差した執着は、抱いてはならない感情へと形を変えてしまっていた。
追う者と、追われた者、この後に待つのは、当然の別れ。
罪人の笑い声を聞くのも、これで最後だろう。
それでも…
「…俺も、逢いたかった」
それでも、逢える時を待ち焦がれていた。

「よかった…両想いで」
もはや、甘いとしかいいようのない声が、鼻先をかすめた次の瞬間、刑事は沸き上がる衝動に任せて相手の唇を奪る。
男もいきなりな恋情をむしろ、待っていた風情で受け入れ、貪り返した。

互いの凶器は、まだ、血に染まらない。

氷点下に近付く世界で、握り合う手と、交わし合う吐息だけが、次第に熱を帯びていく。
それはまるで、ようやく巡り逢えた恋人同士のように…
首筋にあてられていたナイフが落ち、凍える手から拳銃が転がってもなお、二人はくちづけをやめなかった。

□ STOP ピッ ⊂◇(・ω・)
カウント間違えてた…orz
ちょっとデムパ気味?


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP