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雨宿り

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )トアルガクセイノハナシ モノロークナノニ ナガイデス 

この学校には他の学校同様、色々な噂がある。
それは体育館倉庫に出る幽霊の話であったり、誰も居ないのに絶えず
人の気配のある部室の話であったり、夜に学校を徘徊する変質者の話
だったり、正面玄関前に置かれた学校の創立者の像が夜になると
動き出すという話であったり、あの先生と保険医は仲が良い、とか
そんな程度のたわいもない話なのだけれども。
それに混じって、今の数学の先生は実は生徒を食い散らかして
生きている妖怪だ、という噂がある。それも普通に学生生活を
送っている奴なら笑って流してしまうような、ひっそりとした噂
なのだけれども。

妖怪かどうかは置いておくが、その噂は残念ながら事実だ。
件の先生は年齢28歳、数年前、この学校に赴任した頃から、気に
入った生徒を誘っては学校やラブホテルなどでセックスを繰り返
しているらしい。僕が知る限り男、女問わず性癖も余り問わないよ
うだった。
その先生の幾度目か分からない投げ網に引っかかってしまったのが
僕だった。未だ何故先生のセンサーに引っかかったのかは良く
分からない。僕は今年で高校3年生。特にクラブもせず、成績も
とりわけ良いわけではないし、容貌だって背がちょっと高い以外は
大したものではないのだが。ま、人の好みは千差万別だと、この
場合は逃げておく事にしよう。
この先生の餌食、というか体を重ねた生徒はそれなりに居るよう
だった。が、口止めをされているのだろうか、それが噂以上に広まる
という事はなかった。確かに相手は先生だし、ある意味学校に喧嘩を
売るようなものだからな、そういう事を触れ回るのは。

日が暮れてから、教室の一つにて先生と濃密な時間を過ごす。
それを終えて周りを片付け、身繕いを整えてしまうと、先程までの
淫猥な印象を醸し出す男の姿は薄れ、そこに教育者の姿が現れるのは
さすがだと思う。
こういう時に変にからかっても、面白い対応をしてくれないので
つまらない。関係をネタに脅しても、立場が強いのは向こうだから
こちらが最終的に譲歩するしかない。
「先生。明日は何時に学校に来るのですか?」
「明日は用事があるから、6時半には職員室にいる」
それが何か? と云いたげな冷たい視線が浴びせられる。大げさに
僕は肩を竦めてみせると、そちらを見つつ首を傾けてみせた。
「別に…ただ、明日は朝から雨だそうですよ。だから、傘とかを
忘れないようにして下さいね」
掛けた声に小さく頷くと、先生は有り難うと頭を下げてから
教室を出て行った。

僕は先生を抱くのが嫌いではない。ま、これは僕に元々好きな人と
呼べる存在がいないというのが大きいのだろうが。あえて云うなら、
先生が他の人にも媚態を見せまくっているというのがちょっと気に
くわない位だろうか。
感じ易すぎてちょっとした事にも過敏に反応するのにも、喘いでいる
様もある意味可愛らしいと思う。苛めたときの涙目も、ねだるときの
甘い声も好ましいと思う。
思い出した先生の声と共に、先程までの甘い記憶が体の奥で疼く。
それを払うように、僕は縁なしの眼鏡をかけ直すと、パンツの後ろ
ポケットに入っていた携帯を取り出し画面を開く。最新のメール受信は、
先生の「抱いて欲しい」メールなのでそれを消去し、ついでに着信履歴も消す。

しかし、肉体関係がある以外は只の先生と生徒、というのは何処か
つまらない。確かにこちらも盛りたい年頃なのだれども、それでも余り
にもドライだというか。こちらが例えどう思おうとも、彼にとっての
僕は肉体のある玩具でしかない。
こういう関係はあまりに不毛すぎて、雑草や木々が生えても即座に
朽ちてゆきそうだ。いい加減止めるべきなのだろうが、止める直接的な
きっかけがない事と、何処か名残惜しく感じてしまう僕自身の気持ちが
あって、ずるずると続いていた。

僕はバイトの時以外は結構学校に居残りするのが好きで、用が
無くても長い時間教室に居る事が多い。友人も学校にあまり居ないので、
特に訝しがられる事もなく毎日遅くまで残っている。
夕暮が過ぎる頃になると、先生が校庭の隅や出入り口の門近くで、
時々携帯の画面を見ているのに遭遇する事がある。最も、そのまま
声を掛けるとすぐに携帯を仕舞われてしまうので、そういう様を
隠れ見るだけだが。
携帯電話を見ているときの先生は、常にない表情をしている。とても
辛そうな、それでいて嬉しそうな、一言では表現できない顔付き。
多分そういう表情を向けるのは、携帯電話の相手だけなのだろう。
一度、好きな人が居るんですかと聞いてみた事がある。勿論、
ちゃんと答えてくれる事など期待していなかった。だが先生は、
数秒沈黙した後
「遠くに、大事な人が居るんだ」
と答えてくれた。
それ以上の事は誤魔化されてしまって上手く聞き出せなかった

けれども、その時の先生の穏やかな表情は、僕の胸に焼き付いて
しまった。その時までは先生のことを、単なるセフレとしか
見ていなかったのだけれども、それからは、先生のことを考えると
心の奥がちくちくと痛むようになった。

そういえば、肉体を重ねる行為の際、彼は時たま人の名前を呟く
事がある。無意識のせいだろう、発音が不明瞭すぎるのと、単音の
ような音しか発さない所為で、殆ど意味のある音の繋がりをなさない。
多分身代わりにされていると云うことなのだが、それにも腹が
立たない辺り、自分はよほどこの人に対して関心がないか、それとも
受容してしまっているのだろうかと思う。
そして、お誘いのメールが来たら断らずに体を重ねてしまう。
僕もどれだけ馬鹿なのだろう。正直、笑ってしまう。

翌日、教室にて鬱陶しい雨模様の空を見上げていたら、日が暮れたら
保健室で会おう、というメールが来た。
それを、いつものように素早く消去すると、僕は一つ溜息を付いた。
……そして。

保健室で先生と逢瀬を交している間も、別れた後も、雨は止む様子を
見せない。
天気予報では今日一日雨が降り続くと云う事だっだ。
僕は昨日も今日もニュースを見たから、傘を持ってきている。今日の
雨は結構勢いが強い。太い針のような雨が、コンクリートを打ち付け
水滴を弾かせる。
雨を少しでも回避しようと、僕は少しだけ遠回りである商店街を通る
道を歩いた。この商店街は寂れていて、夜になると殆どの店が閉まって
しまう。薄暗くて見るからに胡散臭い半面、人と逢わず今のように雨に
濡れず歩くには最適な所だった。

畳んだ傘を杖のようにつきながら、一見廃墟のような商店街を抜けて
少し歩いた所には、コンビニがある。元々入り組んだ住宅街の中に
位置するという、立地条件の悪さ故余り客が入っていなかったのだが、
今見てみるとシャッターが閉まっている。
コンビニが閉っている、といえば理由は一つしかない。
とうとう潰れたかと感慨深げに思った所で、その前に立ちすくんで
いる姿に気が付いた。人が居るとは思わなかった僕は、咄嗟に身を
隠してしまう。

物陰から、そっと覗き込むとそれは先生だった。
携帯電話を握りしめて、先生が泣いている。
唇を噛みしめて下方に視線を落とす先生の目を、髪が隠す。何故か傘を
持っている様子はなく、軒下にいるのに体はほぼずぶ濡れになっている。
多分、傘は何処かに置いてきたか捨てたかしたのだろう。先生、学校に
行くときはさすがに傘くらい差していただろうし。
折りたたみ式の携帯電話は開かれて、雫のしたたる手に握られている。
ああいう事をすると壊れやすいという事は先生も知っているだろうに。
もしかして、そんな事にかまう余裕がないのだろうか。
耳を澄ませていると、何か低い音が生じた。
「私は…信じていました。貴方が、戻ってきくれると…」
途方に暮れたような調子で、先生が言葉を発している。何もかも無くして
しまった時のように、雨に打たれた姿は弱々しかった。
「……結局は、私は……」
貴方の飾り、でしかなかったのですね。
音では聞えなかった。だが、雨の中、その台詞は僕に不思議と
はっきり感じられた。
ずぶ濡れの先生は、教壇に立っている姿とも抱かれているときとも、
そのどれもと同一人物だとは思えなかった。掴むものがあれば
何にでも縋り付くだろう、迷い子のような顔をして、先生は
雨を茫然と見つめていた。

その光景を見た瞬間、僕は彼への怒りに駆られた。
全く。携帯電話握りしめて涙を堪えるなんて愁傷、貴方には似合い
ませんよ。
誰かの同情なんか欲しくないから、それでも寂しくて耐えきれない
から、貴方は人の体を心の代わりに求めているんでしょう?
学校での評判なんかよりも、自分の心の穴を満たす方が大事だから
生徒を誘いまくって遣りまくっているんでしょう、貴方。
自分自身の為に生徒を平然と喰っている貴方が、何て顔しているん
ですか。
相手の衣服を改めて見る。それなりに高いスーツだろうに、雨でじっとり
と濡れてしまい、色が変わっている。はっきり言って酷い様子だ。
前に家は学校から遠くないと聞いた覚えがあるが、あのまま
家に帰ると、帰宅した頃には体が冷え切ってしまうだろう。

決めた。僕の家はここからだったらそう遠くはないから、
濡れても、今の先生以上には絶対濡れないから。
この傘とハンカチを差し出して、ああ、ちょっとだけ戻って暖かい
コーヒーも買ってこよう。で、それを握らせたら逃げる。
そうしよう。僕と先生、どちらにとってもこの行為に、変に考える
時間なんか遣らなければ良いだけの事だ。
元々、考えるような関係なんか、先生は僕に望んではいないし。
僕だって、望んでは、いけないのだろうから。
そう思い定めると、僕は雨の様子を伺ってから、傘を開き直して
歩き始めた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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