アカギ アカギと市川
更新日: 2011-05-01 (日) 08:56:26
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ア力キ゛の悪鬼と聞きわけのないじじぃ。
原作未読。アヌメ6~10話視聴。
想像補完のため捏造ばかりですまない。だが、私は謝らない。
金は、ある程度纏まったときには大した力を持つ。
強引に毟り取った厭わしい金でも、金は金。煩わしいことは何一つこの身に負うこともなく、尋ね人の居所さえも知ることが出来た。
強力な磁石のように俺をひきつける、盲目の代打ち。ずっと忘れられなかった。
だから、ささやかだけれども重要な情報が記された紙切れが、俺には何にも代え難い宝物のように思えた。もとより、俺に大切なものなんて殆どありもしないから、強くそう感じた。
紙切れをズボンのポケットにしまい込み、珍しく緊張して俺は出掛けた。
週末では家を空けていることも考え、平日の昼を選んで訪ねたというのに、壱河サンの家はあいにく留守のようだ。
質素な平屋。控えめだけれども、きっちり計算されつくられた庭付き。玄関扉の鍵は閉められているし、家人も居るのか居ないのか判明しないほど静かな様子で、戸惑う。
そこらに無造作に配置されていた拳大の石を拾い、玄関扉を破壊するために振り下ろそうかとも思ったが、俺は考え直した。
ひゅうと耳元で風が鳴くような季節、どこかの出先から帰宅して想定外の惨状ときては老体には厳しいものがあるだろう。石を足元に置き直して、表の通りに出た。
暫く近隣を動き回ってみたが、何をしても落ち着かないので、そのまま目的もなく散策する。
往路では周囲を見回す裕りがなかったが、駅や商店は遠くないうえに、路面も平坦で幅がある。じじぃみたいに目が不自由でも、不便ではなさそうだった。
穏やかで落ち着ける土地。
じじぃには似つかわしくない甘ったるい環境だけれど、俺が知っている姿は一面に過ぎない。勝負と離れている時のじじぃは、ここで自然に息をして、日々を過ごすのだろう…。
漫然と考えていただけなのに、なぜか俺の気分は悪くなった。
植え込みのかげで、膝をつく。
無駄に歩いても、消耗するだけ。いっそのこと、駅前で待ち伏せしたほうが確実な気がする。
根拠はないけれども、そこでなら必ずじじぃに会える予感がする。それに、今日まで長く待ったのだから、それと比べるほどもないわずかな時間を待てないと思いたくなかった。
俺は立ち上がり、数区画先の駅を目指して歩き始めた。余計なことは考えないよう、黙々と歩くことに専念した。
改札の見える場所を陣取り、到着する列車を2回ほど見送った頃に、待ち望んでいたじじぃの姿が現れた。
俺は棒のように突っ立ったまま、おおよそひと月ぶりに目にするその姿を見守った。
一番に目に入ったのは、濃い色の入ったサングラスに微かに透ける瞳。どこも無事で五体満足、変わりないようだけれども、何かが違う。それがなんなのかは分からないが、考えるのは後にした。時間が惜しい。
ぼうっとしている俺の前を、じじぃが素通りしてゆく。俯いて、何の関わりもない人の流れにのったまま、ゆっくりと俺から離れてゆく。白い杖が道路を軽く叩く音も、次第に遠のく。
見えないのだから仕方ない。俺に気が付かないのも当たり前。けれども、俺は訳もなく不愉快な気分になった。
普通の人に紛れてしまうようでは嫌だ。あんたは特別なんだ。俺の目も耳も、全て一瞬で奪う。
尊大で誰より強くあってくれないと、許せない。
足が勝手に駆けだしていた。
陰から見るだけで耐えられるはずもない。
俺は何度か人にぶつかったが、一切を無視して、手を伸ばす。
「下向いてるのは似合わないよ」
声を掛け、背後からその細い腕を掴むと逃れられぬよう力をこめ、無理にこちらを向かせた。
じじぃの体が一瞬ふらついたと思ったら、次には凍り付いたように硬直する。
かつん。と、音を立て杖が地に落ちた。
その控えめな音に僅かに視線を寄越す者もいたが、俺の姿を認めると足早に離れていった。
もっと沢山年取っていれば、どうとも思われないのだろうけれど、俺の髪は雪のような色をしているから恐ろしいほど目立つ。普通の人には、それも気味が悪いそうだ。
俺に関わりたくないと言うのなら、それはかえって好都合。今更そんな態度に、感情も動かない。
俺は目の前の人以外に、興味はない。
「壱河サン」
名を呼ぶ。
「!?
誰だ…」
じじぃの誰何の声に、心なしか怯えの色が混じっている。
それを耳にして、俺は泣きたくなった。
縋るものさえ無く、ひとりきり何もない場所に放り出されたように、不安を感じた。
胸が詰まる。
視線をあわせたくなくて、俺は咄嗟に顔を背けた。意味のない行動だと知っていても、そうしないではいられなかった。
「声だけじゃ分からないか?」
溜め息のようにしか言葉が出ない。
ついさっき急に、今まで考えもしなかったような推論に思い至ってしまったからだ。
もし…、もしも…だ。
もしも、じじぃが俺のことなど覚えていなかったら…。忘れられていたならまだしも、悪印象の余り記憶からまるまる排除されていたとしたら、俺のしてきたこと全て馬鹿みたいじゃないか。
滑稽にも独りで盛り上がって、考えなしに動き出してしまった。
「誰でも構わないが、早く手を離せ」
懇願でもなく命令に近い言葉。従ってしまえば逃げられる。と、反射的にそんな考えが浮かんだ。
ようやく捕まえたのに…。
何故、俺のことをどうでもいいように認識するのだろう。
なにも酷いことしていないのに、俺から離れようとするのだろう。
次々わき起こる疑問と恐れに突き動かされて、俺はじじぃを脇道に連れ込んだ。既に人の流れも疎らになっていたから、俺の不審な挙動を見咎める者もいなかった。
「わしをどこへ連れて行く気だ。
やめろ」
声量を押さえた低い声で、鋭く拒絶される。
つらい。
劇的な再会を期待していなかったとは言わない。むしろ期待していたのだろう。
所在が知れるまでの間、もやもやとして過ごした。もう一度会えば、このもやもやの理由も分かると思った。
だけど、じじぃの声を聞く度に俺は胸が痛くて苦しくてたまらなくなる。
会わない方が良かったのか、と後悔し始めている。
服を隔てて感じるじじぃの痩せた腕の感触に目眩を感じながらも、俺は歩み続けた。
「オレだけが悪い様に言うなよ。
あんたが、オレにこうさせているのに…」
ぶつぶつと小さく呟く。
世界がまわる。どこもかしこも、暗く不安定に感じる。
「呆けたまま進むな。
前を見ろ」
じじぃの声に意識を引き戻され、前方に注意を戻すと視界が木目でいっぱいになった。
脇道は袋小路だったらしい。
見えないのによくわかったな、とすこし感心する。
「邪魔が入らないなら、…ここでもいいや」
行き止まりの木板の塀にじじぃを押し付けて、俺はようやく歩みを止める。
腕を開放すると、じじぃは直ぐにそこを庇うような仕草をした。そういえば、俺がずっと掴み回していたのは、利き腕側だったな。
大事な体だから、痛めていなければいいが…。
そうだ、あの勝負のせいで、惨いことをされてはいないだろうか確かめないと…。
相も変わらず無防備に開いた胸元に手を伸ばすと、気配を読みでもしたのか器用な手が迷い無くそれを制す。
あの夜触れた、あたたかな手。同じ熱と感触に、一瞬で俺の手は押し戻される。
瞬きにも満たないほどの接触なのに、じじぃの手は真っ暗な俺の内にあったかいものを注いだ。
痛みと息苦しさが去って、ざわり、と俺の胸が騒いだ。
こんな状況にあるというのに、俺はもっと沢山触れたい、と望んでしまう。
「なんのつもりだ、これは?」
何の思惑もない。触れたいと思った。それだけ。
問われても答えようがない。
「…わからない。
ただ、気になったから、触りたくて」
ひどく混乱していて意味不明な返答だったけれども、俺なりに精一杯返す。
じじぃが俺のことこれっぽっちも覚えていなくても、変わらない。
会いたかったし、心配になったし、触れたかったし、全て見失うくらい欲しくなった。
ひかれるのだ。どうしようもなく。
「ああ、そうか…。そうだったのか…。
オレは、あんたを求めて来たみたいだ」
じじぃの白く長い髪のひとふさを掴み、それを指でゆるく梳いてゆく。
直ぐさま叩き落とされて、俺の行動は阻まれた。
「小僧…止せ。
年寄りをからかうのも大概にしろ」
まただよ。本当に勘が良い。
盲目なんて嘘じゃないかと疑いたくなる。
それにさ…やっぱり、俺のこと覚えてるじゃないか。
あんたこそ何のつもりなんだ?知らんふりしていれば、俺がすんなり身を引くとでも考えてたのかよ?
「なんだよ、オレのこと分かってるじゃないか。
ねぇ、オレの名前呼んでよ。壱河サン…」
ほんの一握りの特別な人にしか呼ばせない。だから、滅多には呼んでもらうことがない俺の名前。
ここで、今、聞きたい。
じじぃの声で、俺をあったかくして欲しい。
いつの間にか俺は渇望で一杯になってしまった。
「…し…っ…知るものか。
貴様のように恐ろしい餓鬼のことなど」
じじぃは、俺を難なく操る。ひとことふたことで、狂喜させるよりも簡単に俺を絶望させる。
暴君だ。
「そこを退け。
二度とくだらない理由でわしを振り回すな」
捨て台詞のように吐き出して、じじぃは俺を押しのけた。抵抗もしてみたが、驚いたことに俺の腕力ではじじぃを留めておくことは出来なかった。
不意打ちがなければ、まだ敵わないということか…。
「壱河サン…」
じじぃが塀に片手を添えながら、道を辿る。未練がましくその背に声を掛けようとも、こちらにはお構いなく去ってゆく。
だからといって、諦めない。
じじぃは、気持ちいい。声も匂いも、思い通りにさせてくれない強情さも気持ちいい。
全部欲しい。残さず俺のものにしたい。
「ククク…。
残念だけど…、オレあんたの居所もう知ってるよ…」
口角がゆるやかに吊り上がり、俺は久しぶりに声を出して笑った。
こうなったら実力行使しかないよなぁ…。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
年末年始の散財でコミック買う余裕なし。デーヴィデーボックス…はやく…届け。
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