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下町

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    |  調子にのって下町もうひと投下です。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  数年前のあの頃を勝手に妄想してみたヨ…。
 | |                | |            \
 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧  大海のような広い心でドゾー
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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「このところ、松元さん、おかしくないですか?」
スタッフのひとりに打ち合わせを兼ねた夕食の席で囁かれた。
「どういうとこが?」
少し心当たりのあった濱田は低い声で聞き返す。間近でみるこの男の瞳は、何故か少年のような無垢を備えている。スタッフはそんな濱田に気後れしたように、しどろもどろに言葉を選んだ。
「なんか、突っ走ってるっていうか……あ、すいません」
「ええよ」
「ちょっと怖い感じしますよ、実際。偉いさんの言う事とか完全無視ですもん……」
「……」
無言になった濱田に、もう一度スタッフはすいませんと謝り、目の前のつまみを申し訳無さそうに口に運んだ。
心当たり、というか、それは紛れも無い真実だった。確かに最近の松元は少しおかしいような気もする。自分で自分をコントロールできてないというか……。確かにあの男はモンスターだ。俺はあいつの底知れない才能を知っている。その大きさに自身が潰れそうになってることも。
俺はヤツの隣に立っていることしか出来ないんだから。
いや、そうすると決めたのだ。濱田は誰よりも近くで松元を見てきて、才能とはどんなものかを知った。
それは常人には手にできないもの。選ばれた人間だけがもつ、奇跡みたいなものだ。それを幼馴染みの親友が持っていた。そして今があった。しかし。

濱田は奥歯を強く噛むと、苦し気にグラスの酒を煽った。アルコールが枯れた喉を焼き、その刺激に小さく咽せた。
このところ、番組の視聴率が思わしくないとは聞いていた。一時はおかしいくらいに稼いでいたその数字が目に見えて減っていった。昔はそんなものと鼻で笑っていた。しかし、いつのまにか囚われの身分に成り下がっていた。あの男もそうなのだろうか?
数字の減りは松元の狂気じみた暴走と比例していた。松元の考える世界、笑いのスタンス、それがますます洗練されていけばいく程、客は離れていくという皮肉。苦虫を噛み潰したような顔のプロデューサー達。戸惑ったようなスタッフ。そして。
そんな状況に、一番傷付いているのはあの男なんだ。
凝り固まって、でも妥協できないんだ。自分に優しくもできないんだ。どいつもこいつもくだらねえと意地悪く笑う後ろで本当は悔しくて泣きそうなんだ。
濱田は松元の背中を思い出す。冷たいようにみえて本当はあったかい……。
俺だけは、俺だけはアイツの側に立っててやらないと。そう決めた、しかし……。
「このままやと、自滅や。松元……」
濱田は唸るように呟くと、グラスについた水滴をみつめた。それはしばらくの後、テーブルの上のコースターに滲み、奇妙な模様を描いていった。

収録は深夜にも及んだ。いつもの風景だ。
濱田は眠気覚ましのブラックコーヒーの缶を手にスタジオに戻った。誰かしらの話し声が絶えないその場が、何故だか水を打ったような静けさだった。
「……」
またしても嫌な予感が頭をよぎる。そういえば、相方の姿が見えない。
「あれ、撮影は?」
近くのスタッフを呼び止めて聞くと、若者は困ったように笑った。
「なんか中止みたいっす」
「なんかあったんか」
「いや……いつもの、です。松元さんと上が……」
そういって、目線をうえによぎらせた。濱田は何故だか苦い息苦しさが肺に広がっていくような気がした。
「松元は?もう出たのか?」
「ああ。さっきスタジオ出ていっちゃいましたけど。まだ建物んなかにはいるんじゃないすかね」
スタッフはそれだけ言うと「撤収作業があるんで」とそそくさとその場を駆けっていった。その背中には疲労の色が見えた。こういう、演者と関係者のいざこざで犠牲になるのはいつも決まって若い下の者たちばかりなのだ。
松元らしくない。いや、あの男らしいのだろうか?とにかくこんな中途半端で放って帰るのは、奴らしくないと思いたかった。ただ、思いたかった。
楽屋に戻ると、額に汗を浮かべたマネージャーが畳のうえで胡座をかいていた。
「あいつ、帰ったんかい」
聞くと、苦々しく頷いた。濱田は煙草を口に挟むと深くその紫煙を吸い込んだ。じわじわと肺を占領する心地がする。それはいつのまにか形を確かにする。それは……まぎれもない怒り、だった。
「あいつの今の住所、教えてくれるか」
「……行くんですか」
「ああ、少し話、してくるわ」
不安そうなマネージャーの目から視線を外すと、濱田は聞き慣れない建物のメモを受け取った。

タクシーで飛ばして30分の距離だった。濱田は無機質なドアの前に立ち尽くしドアホンを鳴らした。
返事は無い。
明かりがついているので、人間がいるのは確かだった。もしかしたら松元ひとりではないのかもしれない。女も一緒なのかもしれない。見知らぬ女。
濱田はじりじりと待った。しばらくして……ドアの向こうからのヤツの視線を確かに感じた。ゆっくりとドアを開ける、松元の顔は恐ろしいくらい青白かった。
「なんで……」
「なんか言うことないんかい」
「なんでお前ここに立っとんねや」
「そっちこそ、何しとんねや」
「あ?」
松元は、突然自分の住処に現れた相方に心底驚いているようだった。濱田の質問にようやく遅れたように気づく。
そしてそのことだけを問いただしに此処にこの男が現れたのだと理解する。
「……寒くないんか」
ギリギリと眉間に皺をよせる濱田に向かって、松元はとぼけたような返事をよこす。
この冬空に相方はコートも羽織っていなかった。
慌てて出て来たんだなと予想させる出で立ちに、何故か苦しい気持ちになる。
話をそらすなとばかりに濱田は目に力を込めた。松元とという男はよっぽどでないと本気にならない。いつものらりくらりと本心を隠す。
昔はそうじゃなかった。いつからだ?いつからこんなに遠く感じるようになったのだと濱田は思う。
この世界が、俺の元親友を何処か遠くて連れていってしまった。
マネージャーから詳しい話は聞いた。構成のオチの部分でどうしても松元は譲らず、コント自体が没になってしまったのだ。ここ最近の珍しくもない流れ、だ。

「途中でほっぽりだして、俺にもなんの挨拶もなしか」
「……」
「何が……」
気に入らないねん……と言いかけて濱田は口を噤んだ。それは、その言葉は言ってはいけない。俺は、俺は最期までこの男の才能を信じると、決めたんじゃなかったのか……。しかし、ここ最近の松元は……。
「濱田……」
「……」
「俺、狂ってんのか」
ボソリと呟いた松元の言葉が冬の乾いた空気に浮かんで消えた。心のなかを見透かされたような気がして、濱田は何も言えず立ち尽くした。
「俺が考えること、言うこと全部が……おかしいんか。俺は……」
違う、そんなことない。お前は俺が信じた才能の……。
そう思ってきたんじゃなかったのか。
濱田は何も言えなかった。焼けた石を飲み込んだみたいに、胃が熱くカッと燃えるような心地がした。言葉が、でてこない。死んだように生気のない松元を前に、俺は阿呆みたいに突っ立っている。
『このところ、松元さん、おかしくないですか?』
先日のスタッフの問いかけに、俺は心の何処かで頷いていたんじゃなかったのか?
俺は……、俺は……。
「濱田……」
松元は呻くように言うと、手を伸ばし濱田の腕を握った。力強いその感触に、濱田は息を飲んだ。
「濱田ぁ!」
松元は涙を詰まらせたような声をだした。その途端、見えない恐怖が濱田の全身を駆け抜けた。
何を切羽詰まっとんねん……。お前はそんな男やない筈やろ……。
「しっかりせえや……!」

濱田は叫ぶと、玄関のなかに押し入り、松元に殴り掛かった。鈍い音がした。
気づけば松元の身体に馬乗りになり、濱田は滅茶苦茶に殴りつけていた。怖かった。この男が初めてみせた弱音に、心底怯えた。同時に、自分がどんなにこの男の才能に頼ってきた意気地なしかを、まざまざと見せつけられたような気がしていた。
「う……う……」
聞こえていた啜り泣きのような声が、自分のものだということに濱田はようやく気づいた。松元は殴られるままにしていた。何の抵抗もみせずに、黙って濱田の激情を受け止めていた。
濱田はようやく疲れたように腕をとめると、松元のうえに崩れ落ちた。冷えきった身体に松元の体温が温かかった。
「俺は。俺は…………。何処までいってもお前のことを信じるって決めたんや……」
「……」
「お前が狂ってるんなら、俺も狂ったる……」
憑かれたように呟き続ける濱田の背中に松元の腕が回った。そして少しの躊躇いの後、強く抱きしめた。
「濱田……」
掠れたような声だった。
そして予感がした。
「抱いてもええか……」
松元の呟きに。濱田は静かな気持ちだった。
いつからだろうか。この男がいつの日かそう言うような気がしていた。感情の問題ではなく、空気を吸って吐くというような当たり前の営みのように。
しかしこんな最低の状況で、とは……。笑えない。
松元は小学生の頃に戻ってしまったみたいな顔をしていた。
永遠にも感じる数秒間の後、濱田は何かに突き動かされるかのように、ゆっくりとその唇に口づけた。

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 | |                | |           ∧_∧ 詳しくないのでかなり設定に自信なし。スマソ
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