結界師 限→良守
更新日: 2011-05-01 (日) 16:02:25
※ネタバレにつき嫌な人はスルーお願いします。
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| 決壊師の減→芳守だモナ
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| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 本誌思いっきりネタバレしてるので注意!
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――怖いのは、大切な人が傷つくこと。それだけだ。
中等部校舎の屋上は広い。昼休みにのんびりと昼寝でもするにはうって
つけの場所だ。そのまま寝過ごしたことにして授業をすっぽかしてしまう
のもいい、などと不真面目な考えを抱きながら、芳守は屋上へ続くドアを
開ける。
そしてそこに先客が寝そべっていることは、もはや日常の出来事だった。
「……」
「……」
「……何か言えよな」
言葉のやりとりが出来ないのも、いつものこと。それに痺れを切らして
口を開くのが必ず芳守のほうであることも、暗黙の決まりごとだった。
「……『何か』」
「そういうことを言ってんじゃねぇー!」
「賑やかな奴だな」
志士尾はそれきりついとそっぽを向いたが、それがかれの気質なので今
更気に障ることもない。芳守は気を悪くすることもなく愛用の枕をコンク
リに放り、自分もまた横になった。
白い雲が行く。いい天気だ。
「あー……ねみぃ……」
「そういえばお前、いつ寝てるんだ?」
「え? 今」
「……」
「志士尾だって同じじゃんよー」
「それもそうだな」
うなずいて、志士尾は黙って目を閉じる。次の台詞を待っていた芳守は
不意に肩透かしを食らって、少し頬を膨らませた。
「……何でそこで会話が終わるんだよ」
「続ける必要が無いからだろう」
「ちぇー」
そう言われてしまえば返す言葉も見つからない。心地よい沈黙を肌で感
じながら、芳守は目を閉じる。冬の日差しが暖かい。
隣からすうすうと規則正しい寝息が聞こえはじめたのを察して、志士尾
は頭を上げた。学生服についたコンクリの屑を払って、枕にしていた腕を
伸ばす。
必要以上の馴れ合いは、かれの嫌うところだった。人ではないものを宿
した身体のせいで、ただそこにいるだけで疎外され続けてきた。唯一の支
えだった姉を失って(少なくともかれはそう思い込んでいた)数年間、ずっ
と独りで生きてきた。
確かに、傍に人はいる。いるけれど、それだけだ。心を許すことは、か
れにとってこの上なく恐ろしいことだった。
だからかれは思う。こいつは自分とは違う生き物なのだ、と。
はじめのうちは、ただただ煩わしかった。何かにつけて干渉してくるう
るさい奴、という認識だけだった。
最近になって、志士尾はようやっと隅村芳守という少年のことが分かっ
てきたように思う。明確に口にしたことはないけれど、かれは、かれのい
うところの、志士尾にとっての友人なのだ。
なんて平和で、ぬるい関係性だろう。志士尾は半ば本気でそう考える。
けれど、例えばもしかれが死んでしまったりしたなら、芳守は本気で悲し
んでくれるだろうということは、何となく思い浮かべることができた。
授業終了のチャイム音が、芳守の眠りを遮った。昼の終わりの冷たい風
が頬を撫でていく。そろそろSHRが始まるころだろう。
「志士尾ー、そろそろ戻らねーとやばいぞ」
隣に寝転んだ友人の姿を認めて、芳守は声をかけた。そして志士尾はそ
れに答えなかった。
鋭い目線はどこともつかぬ宙を捉えていて、その先には何も無い。「志
士尾?」芳守は志士尾の視線を追いながら、今一度かれの名を呼んだ。
「何だよ」
「何だよ、お前こそさ。ぼーっとしちゃって」
「別に」
つっけんどんないらえだった。
「……そっか」
芳守はしかたがない、とばかりに微笑んだ。かれが胸の内を打ち明けな
いことはおかしなことではない。けれど、それはやはり寂しいことだった。
「少し……考えた」
「え?」
「……俺が死んだら、誰か悲しんでくれるんだろうか」
志士尾がぽそりともらした唐突な台詞に、芳守はきょとんとなった。生
きるだの、死ぬだの、そういう言葉はあまりにもこの温い屋上には似合わ
なかった。
「何お前、死ぬの?」
「死ぬつもりでそんなこと言うかよ」
「そりゃそうだな」
しばらく沈黙があって、次に口を開いたのは芳守だった。
「んー……でも、多分そしたら俺、泣くと思うよ」
んで、時祢もきっと泣くな。かれはそう言ってぼんやりと空を見上げる。
「何でだよ」
芳守の言葉に、志士尾はすぐに疑問符を返した。少し照れくさかった。
そして芳守の返事は、いともあっさりとしていた。
「だって嫌じゃんか、自分にとってさ、大事な奴が死ぬのって」
「大事? 俺が?」
「違うのかよ」
「違わないのか?」
「違わないだろ」
「……そうか」
「うん。だから、志士尾が死んだら俺泣く自信あるよ」
目の前でそう言い切ってみせる友人が、ゆるゆるとした性格の割に意地
っ張りで、決して涙を見せようとしないことを志士尾は知っている。
「嫌な自信だな、おい」
「だから安心して死んでいいぞ」
「阿呆か。死なねえよ」
「うん。……約束な」
言って、芳守が声を立てて笑う。
だからお前はぬるいんだよ、と平素のように志士尾は言おうとして、そ
の苦言は喉につまって出てこなかった。
かれの言葉はどこまでも本気で、馬鹿のように真面目だった。そしてそ
の表情がどこか駄々をこねる幼子のようだったことに志士尾は少し驚いて、
同時に少し嬉しかった。
「……仕方がないな」
さいごの気力を手放した。
色々なことが一度に頭に浮かんできて、ああこれが走馬灯というものか
などとのんきに思う。これから自分は死ぬところだというのに志士尾の心
はやけに穏やかだった。
痛みは不気味なほど感じなかった。ただ猛烈に眠気ばかりが襲ってくる。
ほんの数分前まで騒がしかった校庭がやけに静まり返っていて、とりあ
えず現段階での全てが終わったことが彼にも分かった。
どういうわけかは分からないが敵はいなくなったし、ずたずたになった
グラウンドはいつもどおり直せばすむことだろうし、何よりふたりとも無
事だったのに、なぜ目の前で芳守が泣いているのか、志士尾は一瞬のあい
だ理解できなかった。
そしてそれが自分のためなのだと分かった瞬間、かれは妙な喜びを感じ
た。誰かが自分のことを思って泣いてくれることは、とても気恥ずかしい
ことで、とても嬉しいことだった。
――泣くなよ。うるさいよ。
宥めのための言葉は出てこなかった。
芳守がしゃくりあげながら志士尾の名前を呼ぶ。その声が、少し遠い。
――名前なんか呼ぶなよ。放っとけよ、俺なんか。
死ぬことは何てことのないことだった。少し前までは。今はといえば、
少しだけ残念なことのように思える。
与えられた居場所があって、仲間と呼んでくれる人がいて、面倒を見て
くれる人がいて、そして、心許せてしまえる友人がいる。それら全てを
死ぬことでなくしてしまうのは、少しばかり悲しかった。
自分の名を呼ぶ声が一層強くなって、さいごにもう一度だけ目をあける。
――志士尾が死んだら、俺絶対泣く自信あるよ。
そう言って、縋りつくように笑んだ少年の顔が今、目の前で泣きじゃ
くって歪んでいる。
かれに対する感謝や、そして深い好意の気持ち。それを言葉にしたこと
が無いことを、志士尾はふと思い出した。
――もし次があったなら、今度は、
そこでかれの意識は闇に融ける。
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| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ 今はただ、黙祷
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
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