02特撮 中の人
更新日: 2011-05-01 (日) 15:49:41
物凄い昔に書いた話が発掘されてしまい、途方にくれてしまったので投下させてください。
02トクサシのバイク乗りのほう、の、よりによって中の人(JJ)ですorz
攻Jの初2時間ドラマネタ……だった気がする。
|>PLAY ピッ ◇⊂(´・ω・ ` ) <攻Jの方は地元弁でお送りしております
「……カナメくん、あのさぁ、ひとつ提案があるんだよ。いい?」
珍しく深刻な面持ちで山碕がそんなことを言うので、カナメはざざっと姿勢を正し、ソファの上だというのに正座までして向き直る。
おそるおそる、「どうぞ」と促すと、うん、だかうーん、だか、ともかく唸って、山碕は重い口を開いた。
「キスの練習。しよう」
「……は?」
ぽかん、とだらしなく口を開け、切れ長の目を精一杯見開いて、カナメはうっかり山碕の額に延ばしそうになった手をすんでのところで押しとどめた。
藪から棒に何を言い出すんだこの人は。
やはり口は開いたまま、ゆっくりと首を傾けつつ眉間に皺を刻みながら、カナメは二の句が継げずにいた。
来年、顎が終了した直後に放映される予定の、二時間ドラマの台本を貰ってきた。
年上の女に金で買われたホストの役。こう言ってしまえば身も蓋もないが、脚本自体はとても素直で、綺麗だ。恋をしたい、と思わせるおはなし。美しいラブストーリー。当然ラストもハッピーエンド。ベッドシーンだってキスシーンだってばっちり漏れなくついてくる。
顎以外では初めてのドラマ出演、しかもヒロインの恋人役、カナメするに準主役ということで、やたら興味を持った山碕が台本を見たいとだだをこねたから、うっかり何も考えずにぽんと渡してしまったのだ。
そうしたら、はじめは楽しそうだった山碕の表情がみるみる雲ってゆくではないか。一瞬、ベッドシーンがあることに、ちょっぴり嫉妬してくれちゃったりなんかしたかなーという願望というか希望があったことは否定しない。
しかしそこからいきなり、キスの練習、とは。いや、それはそれで嬉しいが。
「……山碕さん?」
「致命的だと思うんだよ。カナメくん。だってさ、」
語尾にかぶる、まるでこの世の終わりだとでもいわんばかりの溜息は、何を意味するのか。ちょっぴり嫌な予感がしたことは、ここだけの秘密にしておく。
じ、と上目づかいで見上げ、山碕は吐き出したぶんの息を吸い込む。
「下手じゃん。キスもセックスも」
「直接的な発言はやめて下さい!」
「だって本当のことでしょうが! もう、あんな大御所にこんなテクをお出しするなんて申し訳ない! そういうわけで特訓します! いいですね!?」
ぴしゃりと言葉でひっぱたかれ、カナメは眉間を狭めたまま、眉尻をだらんと下げた。山碕さん、ちょっと北條さん入ってます。
落ち込んでいいのか、喜んでいいのか、果てしなく複雑だ。いや、喜びたい。喜び勇んでご教授いただきたい。のだ。
……が。やっぱりちょっと傷ついた。
その傷つき具合を拗ねモードに変換して、カナメは唇を尖らせた。
「練習て、具体的に何したらええんですか」
「そーだな、まず初歩的に、ちょうど都合よくここにあるチュッパチャプスでも舐めてみようか? それともさくらんぼのへた結んでみる?」
「チュッパチャプス、俺齧る派なんですけど」
「君はキスで舌齧る気か。ほら、つべこべ言わずに舐める!」
「……俺、コーラでなくてコーヒー派なんですけど」
「……カナメくん?」
「すんません」
にっこり笑顔で手にしたチュッパチャプスを上下に振る山碕に、ほんのり怯えながら、棒の先についた丸い飴を口に含む。甘ったるい味がいっぱいに広がって、どことなく気恥ずかしい心地になった。
手と飴の棒ぶん先に、至極真剣に観察している顔が見える。正直目のやり場に困る。
「ほらほら! なまけないでちゃんと舌使う! きっちり絡めて吸う! ぜんぜんよくないよそんなんじゃ!!」
「やまさきさ~ん、やっぱひょっとなまなましいれす~こっぱずかしいれすよ~」
「君が恥ずかしかろうがキスシーンは避けて通ってはくれないの!
ベッドシーンは仕方ないよ、あれだけ実地訓練してんのにアレだから今からどうこうしてもどうせ間に合わないし。
でもね! キスシーンは別なの! お話を盛り上げるスパイスなの! つーか砂糖なの! わかる? ちゃんと聞いてる!?」
「……きいれまふ」
ええ、もうあなたの口から飛び出すものなら一語一句漏らさずしっかり聞き止めてます。だから気恥ずかしいんですけど。分かってください。
おそらく無理だろうとはカナメ自身もよく分かってはいたが、期待してしまうのはいけないことだろうか。
だいたいなんだ、自分のキスはそんなに下手か。……いや、まぁ確かに、いまだかつて彼をキスひとつでメロメロにさせたことなどないが。しかし。
「ぷは。……ちゅーか、ええやないですか、別に。……ほんだって俺、山碕さん以外の人とキスしたって、全然楽しなんかないし、こんなアメでや気も入らんし」
「何言ってんの? 仕事でしょうが。画面に出るよ、そんな気持ちで芝居してると」
「だって……そ、それに俺、そんな上手いキスやされたことないからわからんのですもん。知らんもんを想像力で補うゆーても限界があるやないですか」
カナメは気付かなかった。それが地雷であったことに。だからどれで踏んだかもわからなかった。以降、この事件は長くカナメの中で頭を悩ませることになる。いったい、どこで山碕は気分を害したというのだろう?
まぁ、経過がどうあれ、結果として、山碕は見る間に機嫌を低下させた。
「ふーん、なるほど。つまり、カナメくん、お手本がないから上手くできないのであって、お手本があればだいじょうぶと、そう言いたいわけね」
「……そ、そうです」
漂いはじめた不穏な空気を、さすがのカナメも感じ取ったが、しかし偉そうな口をきいた手前、引くわけにもいかないのだった。
はっきりと、だがちょっぴりへっぴり気味にカナメが返すと、山碕は北條ばりの微笑を湛え、カナメの顔を両手でがっちり掴んだ。包んだ、ではない。まさに掴んだのだ。
標準からみても確実に細いはずのその腕が、腕っぷしには結構な自信を持つカナメを押さえ込んでいる。いったいどこにこんな力が秘められているのか、カナメはその数秒で人間の神秘を感じずにはいられなかった。おそるべし元ドラマー。元大工。
カナメの記憶は、どうあっても引き剥がせない、顔を固定する両手とは裏腹な、ひどく柔らかい唇の感触をしばらくしあわせに味わって、フェードアウトした。
気が付くとカナメは床に座り込んでいた。いくつかまばたきをして、目の前にしゃがみこんだ山碕を、少し低い視点から見上げた。
「どーよ?」
く、とあごをあげ、勝ち誇ったように笑う山碕に、すみませんでした、としか言えないカナメなのだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・;)<3年から前のものですみませんですた。
このページのURL: