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SWAT ギャンブルとストリート

 素鳥ートを見ているとなんだか苛めたくなる。ソファに横た
わりながら、自分の内に宿る感情を認めて、ギャソブルは口元
に笑みを浮かべた。そう、あいつは俺の相棒だ。
ジ無・素鳥ートはこのブライアソ・ギャソブルの唯一の親友であり、
尊敬すべきライバルでもある。
何しろあいつときたら、あのシ一ルズの元隊員で――
そこまで考えて、ギャソブルはまた微笑んだ。
 ベッドサイドのテーブルに手を伸ばし、
さっき素鳥ートの冷蔵庫から勝手に出したビール瓶を取る。
そして冷たい液体の喉越しを楽しみながら、
ギャソブルは素鳥ートに対しての評価を続けた。
 素鳥ートはシ一ルズの元隊員で、その優秀さは疑いようがない。
ギャソブルも軍出身であり、色々な兵士を見てきたが、
それでも素鳥ートの実力はずば抜けていると感じた。
だからこそギャソブルは相棒として彼を選んだのだ。

 しかし、その優秀さにも関わらず、どうもあいつには苛めたくなるようなものがある。
再びそのような結論に達して、ギャソブルは一人笑う。
苛められっ子の元シ一ルズ隊員とは!
 だが、それは事実なのだ。素鳥ートはギャソブルは互いにスワシト隊員になることを目指し、
パートナーとして一緒に実績をあげてきた戦友だった。
その一方でギャソブルは何度も素鳥ートを弄び、困らせてきた。
単に嗜虐心を刺激されただけという理由で。
 
 そして今もまた、ギャソブルはその「素鳥ート苛め」をしようとしているところなのである。
 ギャソブルは革張りのソファーの上で、シャワーを浴びたばかりの身体を上機嫌で伸ばした。
彼は何も着ておらず、完全な裸だった。窓から降り注ぐ太陽の光と風が素肌に心地好い。
よく冷えたビールの手助けもあって、ギャソブルは完全にリラックスしながら、
シャワーの音を聞いていた。これからのことを考えると、舌なめずりしたいような気持ちだ。
 

だってしょうがないじゃないか。ギャソブルは内心言い訳をする。
あいつといると、どうしようもなく――混乱させ、追いつめたくなるのは、
俺だけじゃない、他のやつだってそうなんじゃないか。
あのダークアイが困ったように瞬き、睫毛が頬に濃い影を落とすのを見ると、妙に興奮する。
この件に関しては、あいつにまったく責任がないとは思えない。
俺がしつこく苛めたって、怒りもせずにじっと我慢しているんだから。
そしてその姿がまた、人を駆り立てるのだ。そう、あいつにだって責任はある。

 そんなことを思っていると、シャワーの音が止んだ。
それを合図として、ギャソブルはビール片手に軽く身体を起こした。――さあ、どうなるだろう。
ほどなくして、素鳥ートがバスルームから出てきた。
上半身は裸だが、ちゃんとジーンズを履いている。
鍛え上げられた肉体はよく日に焼けており、ギャソブルの目から見てもなかなかセクシーだった。
本当に、外見だけみればこれ以上ないくらい上等の男なんだけどな?ジ無。
そんなことを心の中だけで囁き、ギャソブルは攻撃を開始した。
 「素鳥ート、ビールをもらったぜ」
ソファの背もたれ越しに、ビール瓶を握った手を軽く振って見せると、
髪を拭いていた素鳥ートは頷いた。「ああ、好きにやって――」
言い終わる前に、素鳥ートはギャソブルの姿に気づいたらしい。言葉が途切れた。
ギャソブルは内心にやりとした。だが、それはおくびにも出さずに、
ソファの上に放り出していた左脚を軽く曲げて言った。「感謝する」

 予想通り、素鳥ートは唖然としているようだった。
いつものようにトレーニングに費やした休日の午後。二人でこのあと食事を摂ることにして、
その前に一度素鳥ートのアパートでシャワーを浴びようということになった。
ここまではいい。普通の休日だ。
だが問題なのは――もちろん、ギャソブルはそれをわかっていてやっている――
先にシャワーを浴びたギャソブルが、裸で素鳥ートのソファに寝そべっていることだった。
 素鳥ートはそんな光景にほんの数秒困惑を露にした後、瞳を逸らし、
ブルーの安っぽいタオルで髪をごしごしと乱暴に吹き始めた。
ギャソブルは今回の企みも上手くいったことをその様子から察し、
それを楽しみながらビールを飲んだ。
疲れた肉体に、アルコールがゆっくりとまわっていく。気分が良い。ひどく良い気分だった。
 「お前も飲めよ、素鳥ート」

 

 
 
 快活にギャソブルが言うと、素鳥ートは目を逸らしたまま、小さく頷いた。
ギャソブルはそれを見て目を細め、少し身体を移動させて、
ソファに素鳥ートが腰を下ろせるだけのスペースを作った。「ほら」
 「――ギャソブル、なあ」
 「シャワーを浴びたあとのビールは上手いぜ」
 強引に素鳥ートの腕を引き、横に座らせながらギャソブルは微笑んだ。
素鳥ートの方はというと、まごつくばかりで、例によってあのダークアイを
落ち着かなげに揺らしている。
 そういう表情が悪いんだぜ、と思いながら、ギャソブルは飲みかけのビールを
素鳥ートに差し出した。素鳥ートは条件反射のように、それを受け取る。
手から手へと渡すとき、ギャソブルは素鳥ートの指に軽く触れるのを忘れなかった。
 その動作をどう受け取ったのか、素鳥ートは遠慮勝ちに視線を上げた。
ギャソブルは悠然と微笑む。そして、ソファに身体をもたせかけて目を瞑った。

 どうやれば男を興奮させられるかは知っていた。もともと
は別に同性に興味はなかったが、軍に所属していたときに何
度かお誘い頂いたことがあるのだ。くそ忌々しい軍の上官殿
に。まったく、あれはばかばかしい体験だったとギャソブルは今
でもよく思う。
 軍では普通の社会以上に同性愛を嫌悪する傾向があるが、
その反面男同士で訓練に打ち込んでいれば自然、
そういう奴も現れるわけで――もちろんギャソブルもそういった
種類の体験からは、ただ迷惑とか苦痛を味わわされたわけで
はない。それなりの快楽も享受しつつ、それでもこれは馬鹿
馬鹿しい遊びだという結論に達せざるを得なかったのである。
 なんといっても、声を掛けてきた男達にその理由を聞くと全
員が、君が金髪でブルー・アイでベビーフェイスだから、と
いうくだらない答えしか返してこなかったのだから、そうい
う結論に達するしかない。

 こいつはどうなんだろうな、と緩やかな風を全身に感じな
がらギャソブルは考えた。ずいぶん親しくなった後で、素鳥ートの
視線に潜む欲望に気づいたとき、ギャソブルはつい笑ってしまっ
たものだ。そういう趣味には見えなかったが、どうもこいつ
はそうらしい。やはりこいつも、俺が金髪でブルー・アイで
ベビーフェイスだから、今も物欲しげに俺の隣で黙って座っ
ているんだろうか。でも、こいつは俺が凶暴だってことも知
っている。決して軍の上官殿が望んだような可愛い部下じゃ
ない。そのへんのことはどうなんだ。
 そうか、と不意に悟って、ギャソブルはまた笑みを浮かべた。
こいつは俺が凶暴だってことを知っている。だから物欲しげ
にしているだけで、手は出さないでいるわけだ。なるほど。
ジ無・素鳥ートらしい、無難な選択だ。
 「……ギャソブル、ビールはうまいけど」
 遠慮がちに素鳥ートが言った。ギャソブルが目を開けると、素鳥
ートは困ったように軽く顔を俯かせた。
 「うまいだろ」
 のんびりとした口調で言い、ギャソブルは大きく伸びをしなが
ら欠伸をした。
 「うまいけど。……服を着ろよ」
 「なんで」

 素っ裸でいたって、別に何も問題はない。隣には明らかに
自分に欲情している男がいるが、実戦のとき以外は恐ろしく
人畜無害なやつだから、裸でいようといまいとギャソブルにとっ
ては何も問題にはならなかった。むしろ、人が何かを欲して
いながら、手が出せないでいるのを見るのは楽しいものだ。
しかもその欲望の対象は自分なのだから。
 「なんでって、礼儀だ。……親しき仲にも礼儀あり、だろ」
 もったいぶった口調に、ギャソブルは思わず声を上げて笑った。
 「そうだな、ジ無、お前は礼儀正しくしてろよ。俺は俺の
好きなようにする」
 軽く素鳥ートの頬を叩き、ギャソブルは瞳を細める。
 「犬ころみたいだな?『待て』の姿勢のままずっと餌を前
にじっとしてる」
 「何言ってるんだ?」
 戸惑い顔の素鳥ートに、ギャソブルは軽く肩を竦めた。あんなに
物欲しげな顔をしておいて、気づかれてないと思っていると
は意外だった。

 
 「何も。けどな、俺はもしお前が何で俺に服を着てほしい
のか、本当の理由を告白すれば今すぐに服を着てやるよ」
 にやにやとして言うと、素鳥ートの表情は強張った。やれや
れ。気づかれていることに、やっと気づいたらしい。ギャソブル
は楽しくなってきて、身を乗り出した。――これだから素鳥ー
ト苛めをやめられないのだ。
 「さあ言えよ。俺に服を着てもらわないとお前は困るんだ
ろ?」
 片膝を立てて、わざと挑発的な姿勢を取る。素鳥ートは押し
黙っていた。本当に犬みたいなやつだとギャソブルは思った。吠
えたてるべきか尻尾を振るべきか迷って警戒している犬。不
意にあることを思いついて、ギャソブルは素鳥ートの短髪を乱暴に
引っ張った。

 
 次の瞬間、首筋に腕が回され、ギャソブルは唇を貪られていた。
予想外のことに少し驚いて身体を引こうとしたが、強い力で
抱きとめられて抗えない。抗えないことに気づいてから、ギャ
ソブルは笑おうとし、しかしそれすらも、咥内を蹂躙する舌の
せいでできなかった。いつのまにかギャソブル自身もキスに夢中
になり、手を伸ばして素鳥ートの身体を抱き寄せた。
 鍛え上げられた身体。悪くない。そんなことを思いながら、
肩の部分を軽く指で撫でると、素鳥ートは微かに息を乱す。
しばらくしてやっとキスが終わり、二人は見つめ合った。

 「……代わりに犬の真似でもしろと言おうとしてたけど、やめた。
お前はなかなかキスが上手いから、それで今回は見逃
してやるよ。――服を着てやる」
 ギャソブルはそう言って立ち上がり、床に落としたままにし
ていたバスローブを取った。それを羽織り、まだソファに座
っている素鳥ートを見ると、なんとも情けない顔をしている。キ
゙ャソブルは笑いを堪えた。――本当に、『待て』を命じられた
犬にしか見えない。
 「軍にいたとき、何度か俺が金髪でブルー・アイでベビー
フェイスだからって誘ってくるやつがいたけど。お前もそう
なのか?」
 冗談交じりに問いかけると、素鳥ートは顔を上げて、まじま
じとギャソブルを見つめた。そして、ギャソブルが面白がっている
ことを認めると、深いため息を吐いた。
 「全然違う」

 

 「へえ、じゃあどうしてだ?」
 素鳥ートはギャソブルの瞳をちらりと見つめたあと、顔を背けて
低く答えた。
 「お前はすごく凶暴だから、どうしても手なずけたくなる
んだよ」
 その言葉にギャソブルは意表をつかれたが、すぐににんまりと
した。だからこいつは面白い。素鳥ートは人を苛めに駆り立て
るだけでなく、実際苛め甲斐のある男だ。意外にタフで、ふ
としたときに予想外のことをする。勝負の相手としては申し
分ない。――しかし、俺を手なづけたいとは。犬みたいなこ
いつが手なづけるだって?逆じゃないのか。
 「やってみろ。けど、怪我するなよ」
  軽く素鳥ートの耳たぶを弾いてギャソブルが言うと、素鳥ートは
濃い眉を僅かに上げた。
 「――打たれ強さには自信があるよ」
 そう。だから苛め甲斐があるのだ。わかってないなと思い
ながら、ギャソブルは新しいビールを手にするために、台所へと
向かった。


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