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冒険クラブ 船長と順

変な関係だった。
全く毛色の違う人種が四人。
共通点はバカなことだけ。
放課後こうして屋上に集まって会話にならない会話をして暗くなったら帰る。
青春。
そこから何か小難しい問題が生まれそうだったので船長は考えるのをやめた。
難しいことは考えたくない。頭が割れそうになる。
「船長」
自分を呼ぶ声に振り返ると、屋上の出入り口から順が覗いていた。
「おう」
金網に寄り掛かってぼうっとしていた船長はやる気なく手を上げて答える。
「何よ、ぼけっとしちゃって」
「別に」
訝しげな顔で近づいてくる順から顔を背けて、グラウンドの方に視線を向ける。
もう一度何よ、と呟いて、順は船長の隣に並んで同じようにグラウンドの覗きこむ。
会話が途切れる。
「みやけと大仏はどうしたんだ」
「わかんない」
「そうか」
また、会話が途切れた。
黙っていると順の香水のにおいがやけに鼻について、妙な気分になる。
ちら、と船長は順の横顔を盗み見た。
きれいな顔だと思う。男から見ても格好良い。
髪の毛はさらさらだし、服のセンスも良いし、文句のつけようもない。
そこまで評価して、船長はやめた。
男の横顔をまじまじ見て格好良いやらどうやら言って何が楽しいものか。
急に順がこっちを向いた。
「何よ」
見ていたのがバレてたらしい。
「変よ」
船長が黙っていると、順は深い溜め息をついた。

「船長さ」
数分の沈黙の後、順が口を開いた。
きっついことでも言われるのかと、船長は肩をすくませる。
「童貞だよね」
順は何とも言えない真剣な顔で呟いた。
ある意味きっつい。きっつい。
「何だ急にみやけみたいなこと言い出し」
最後まで言い終わらない内に、順の掌が船長の顎の辺りを掴んで、
金網に後頭部を押し付けた。
後頭部が金網に激突した際に生じた痛みの呻き声を出すための息を吸う暇もなく、
順の唇が船長の唇を塞ぐ。
俺は順とキスしている。船長は事態を冷静に受け止めた。
冷静になっている場合じゃない。受け止めている場合ではない。
船長はバカだから一度に沢山のことが出来ないのだ。
まず初めに台詞の続きを言って、その後呻き声を出して、この状況に気が付いて、
びっくりして、そして順を撥ね退けなければ。
それから順の長い睫毛と香水のにおいと細い腕と白いシャツと
「ほら抵抗しない」
何時の間にか順の顔は遠くにあった。
船長は金網に不安定な角度で寄り掛かって、放心したように順を見詰める。
「この童貞!鈍感!(放送禁止用語)!」
「あんたあたしのことが好きなのよ!何でわかんないんだよバーカ!」
好き勝手叫ぶと、順は砂煙を立てる勢いで屋上から走り去った。
出入り口のドアが閉まる激しい音で、船長の頭の奥でうじゃうじゃに
なっていた小難しい考えの正体が目の前に飛び出してきた。
青春。
「熱いねん」
順が去った後の出入り口から、みやけが覗いている。
何時から居たのだろうか。疑問に思ったが今の船長に問い掛ける気力はない。
「良いんじゃん。順ちゃん可愛いし」
ずるずると地面にへたり込むと、緩んだバンダナが視界を隠した。
何でだか泣きたくなった。


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