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オリジナル?元・芸能人の卵×アイドル

講義を終えてアパートに帰ってくると、閉めていったはずの鍵が開いていた。
誰やろって、合鍵渡してあるのってアイツだけやしな……。
「おかえりー」
中から聞こえてきたのは予想通り、年下の恋人の能天気な声。
「なぁ、ヒロ。何でこんな時間に俺の部屋に居るん?」
普通の高校生だったら学校がある筈の時間、加えて裕樹は職業・アイドルで忙しさは半端やない。
一年前までは同じ仕事をしていたからその忙しさは身をもって経験している。
ましてや俺のベッドの上でごろごろしている大きな子供は、
あの頃の自分とは比べ物にならないほど売れているんやから忙しくないはずがない。
証明終わり。

「居ったら悪いん? 手持ち豚さんやったから来たんですー」
裕樹は一瞬だけ顔をあげると、拗ねた顔で読んどった雑誌に目を戻す。
あー、なんかひさっしぶりに見たわ、そんな顔。
テレビや雑誌では人形みたいに澄ました顔で写ってるもんな。
けど手持ち豚さんって何やねん。
知性派アイドルで売り出しとるんやなかったか?
「悪ないよ。ただ連絡くらい欲しかったわ」
「した」
「へ?」
「携帯にした。けどな、何度かけても電波の届かないところにって言われたから」
喋れば喋るほどブッサイクな顔になってく。キレーな顔がもったいない。
ちゅーか、電波の届かへんとこに居た記憶ないんやけどな。
ふと一つの仮説に思い当たり、慌てて鞄の中をかき回して携帯を取り出す。

「スマン! 電源切っとった」
「チーズのアホー」
昔のあだ名で呼ぶなー!
裕樹は喧嘩売るとき限定で俺のことをあだ名で呼ぶという変な癖を持っている。
ちゅーか、俺がその程度の挑発に乗らないといつになったら覚えるんやろう。
とりあえず罵声と共にでっかい枕を放り投げてきたから避けずに受け止めてみる。
裕樹専用のでっかい枕はめっちゃ抱き心地がええ。
おまけに裕樹がずっと抱きしめてたからほんのり温かい。
けどな、世界で一番抱き心地のエエ生き物が目の前に居るし。
枕を置いて、いそいそと裕樹を抱きしめる。
クソッ。また背ぇ伸びたんか。でかくなりよって。こっちはもう身長止まっとんじゃ。
抱きしめとるのに、しがみついとるみたいで格好悪いやんけ。

それでも抵抗することなく大人しく抱きしめられた裕樹は少しだけ表情を和らげる。
「ほんまにごめんって」
「反省した?」
「したから、申し訳!」
「ないまで言うてとか言わへんもん」
ぎゅうぎゅうと抱きしめ返してきた裕樹の頬にキス。
相変わらず肌は強いらしい。きっついメイクを物ともせず、つるつる・なめらか・タマゴ肌。
頬に手を添えて唇にキスすると裕樹は幸せそうに笑う。
「寂しかったん?」
「違うわ! 手持ち豚さんやなかったら来ませんでしたー」
かすかに頬を紅潮させて強がる裕樹は、出逢った頃と変わらない寂しがりやなヒロちゃんで。
手持ち豚さんって言う裕樹がアホでカワエエから、もう少しだけ『手持ち無沙汰』て訂正するのは止めてもエエかな。


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