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66-98
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#title(はじめての 後編)
>>11-17の続きです。
昨年のタイガードラマ・リョマ伝のお馬鹿弟子⇒堅物師匠です。
以前本スレに投下されたネタを拝借しております。
相変わらず訛りは適当ですので間違いが有ったらすみませんで...
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「先生は悪う無いですき」
伊蔵は唇を尖らせた。何故武知が謝らねばならないのか分から...
「悪いのは上士の奴らと大殿様ですろう」
思った事を素直に言うと、武知は困ったような顔で振り返った。
「そういう事を言うてはいかん」
「けんど先生が謝る理由はないですき」
「おまんは優しいの」
武知は苦笑し、少し表情を和らげた。
「伊蔵、……愛しい女子の姿は浮かんだか」
それがとても大切なことであるかのように、しかと伊蔵を見据...
伊蔵は身を縮めた。結局、武知の命には従えなかったのだ。『...
命令に逆らったのだから、叱られてもおかしくない。
伊蔵は身を小さくしたままそろそろと首を振る。
武知は身を抉られたような顔をして、叱責の言葉ではなく深い...
「……そうか、出来んかったか」
「申し訳ありませんき」
「おまんが謝る理由は無いろう。そうよな、それが当たり前じ...
蒼白な顔をして武知は言った。後半は伊蔵にではなく己に言っ...
武知は一瞬瞠目してから息を吐き、伊蔵の肩を両手で掴んだ。
「伊蔵、これからとても大切なことを言うき、よう聞きや」
こくりと頷いた伊蔵の目を、武知はひたと見据えた。
「この一刻の間におまんの身ぃに起きた事は、全て夢ぜよ。お...
何も、何一つ起きちょらん。おまんはお城でうたた寝をして...
そう優しく言う武知が何かひどい間違いを犯している気がして...
いつも清く正しい武知が間違いを犯すとは思えない。頭の悪い...
けれども、それがもし―――伊蔵の心の内に関する事であったなら...
あるいは伊蔵が正しくて武知が間違っているということも、在...
「じゃから、伊蔵」
その先は聞きたく無かった。
「全て忘れや」
「わ―――忘れられるわけがないですろうッあ……あんな、あんなに...
幸せだったのに。
悲鳴のような自分の声を、伊蔵は何処か遠く聞いた。
「伊蔵っ」
武知は伊蔵の肩を掴む手に力を入れ伊蔵の言葉を遮った。痛ま...
「あんな目に合うておまんが辛いのはよう分かる、忘れられる...
けんど、おまんがこんなことに囚われる事はないがじゃ。無...
「……嫌ですき」
「我儘を言うてはいかんちや伊蔵ッ」
「嫌ですきッ」
強く返すと、武知は信じられないような顔をした。武知に伊蔵...
ほんのわずかな間伊蔵をまじまじと見た後、武知はより一層痛...
「無理は承知で言うておるぜよ。おまんの為じゃ伊蔵」
「せ―――先生は勝手じゃきッ簡単に忘れろなんて言わんでつかあ...
伊蔵の肩を掴む武知の手から、力が抜けてそのまま落ちた。
伊蔵の身を恐怖が包んでいた。
武知は明らかに伊蔵の心の内を捉え違えている。伊蔵の伝えた...
何か言わねばならぬのに、伝えたい事は沢山あるはずなのに、...
頭の悪い伊蔵の頭には的確な言葉が浮かばない。
一方武知の頭は伊蔵の何倍もの速さで働いて武知の口は伊蔵の...
伊蔵がどれだけもがいても、いつも倍の速さで武知は遠ざかる...
「すまんかった」
ぽつんと武知が呟いた。
「わしは勝手じゃち、よう分かっちょるぜよ。あんな目ぇに合...
わし一人で背負わねばならぬのに……おまんを巻き込んでしも...
おまんに累が及ぶ可能性を思い至らなんだは不甲斐ない限り...
せめて愛おしい女子の姿でも想うていてくれればと思うたが...
ほんにすまんちや。―――けんどのう伊蔵。
もうおまんを苦しい目ぇにも嫌な目ぇにも合わせんき。わし...
二度とおまんにこんな事は起こらんき、安心しいや。だから...
……今回だけは忘れてくれ、こんとおりじゃ」
武知は伊蔵に深く頭を下げた。
(違いますき―――)
そうじゃない。
伊蔵は泣きそうになった。往来で涙するなど武士のすることで...
きっと、と伊蔵は思った。
きっと武知は辛くて怖くて苦しくて嫌だったのだ。
今となっては想像できる。伊蔵が呼ばれる前に武知があの城で...
武知が初めて登城したのはいくつの時だっただろうか。
きっとその時から登城した数だけそれは積み重ねられ、これか...
……武知半平太が、土佐の白札である限り。
おそらく武知は、伊蔵も辛くて怖くて苦しくて嫌なのだろうと...
自分が味わった思いを、己の所為で伊蔵にも与えてしまったと...
深い後悔に苛まれて、だから弟子だけでも泥沼から救わねばと...
(違うのに)
今後も武知の身には同じ事が続くのだろう。武知は同じ苦痛を...
身分が低く頭の悪い伊蔵ごときがどう足掻いたところでそれを...
それぐらいは分かっていた。
だから、せめて。
伊蔵との時くらいは、いつもとは全く違うものだったのだと、...
そう、――――思ってほしかったのに。
「ああ、この後に及んでまだ都合のええ事を言うちょるぜよわ...
伊蔵の沈黙をどう捉えたのか、武知は苦笑した。
そしてうろうろと目を彷徨わせ、やがて泣きそうな顔で伊蔵に...
「これはお願いではのうて命令ぜよ、伊蔵。おまんの師匠とし...
これまで武知の命令に伊蔵が逆らった例が無い事も。
これからも伊蔵が逆らう訳が無い事も。
こう言われて伊蔵が頷かないわけにはいかない事も、全て理解...
伊蔵は目を瞑る。深く吐いた息が少し乱れていた。
「……佳緒ですき」
口から洩れでた言葉は他人の物のようだった。武知は二三回瞬...
「佳緒は涼真と相惚れですき、わしが惚れちゅうを先生に言う...
お城ではずうっと、佳緒の事を想うちょりました。
いつもはわしの岡惚れながやきに、今だけは佳緒はわしと居...
佳緒が優しゅうしてくれてわしは―――うんと幸せでしたき」
武知はしばらく黙った後、そうかと呟いた。
「無理に聞きだしてしもうて悪い事をしたの」
苦しそうにそういう武知は、それでも僅かばかり安堵したよう...
伊蔵が嘘をついているなどとは露ほども疑っていない顔だった。
きっとこれで良いのだ。
岡田伊蔵が武知半平太の命令に逆らい嘘をつくことなど、決し...
≪了≫
- うわあああ!結局すれ違ってて美味しいです!ありがとうご...
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#title(はじめての 後編)
>>11-17の続きです。
昨年のタイガードラマ・リョマ伝のお馬鹿弟子⇒堅物師匠です。
以前本スレに投下されたネタを拝借しております。
相変わらず訛りは適当ですので間違いが有ったらすみませんで...
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「先生は悪う無いですき」
伊蔵は唇を尖らせた。何故武知が謝らねばならないのか分から...
「悪いのは上士の奴らと大殿様ですろう」
思った事を素直に言うと、武知は困ったような顔で振り返った。
「そういう事を言うてはいかん」
「けんど先生が謝る理由はないですき」
「おまんは優しいの」
武知は苦笑し、少し表情を和らげた。
「伊蔵、……愛しい女子の姿は浮かんだか」
それがとても大切なことであるかのように、しかと伊蔵を見据...
伊蔵は身を縮めた。結局、武知の命には従えなかったのだ。『...
命令に逆らったのだから、叱られてもおかしくない。
伊蔵は身を小さくしたままそろそろと首を振る。
武知は身を抉られたような顔をして、叱責の言葉ではなく深い...
「……そうか、出来んかったか」
「申し訳ありませんき」
「おまんが謝る理由は無いろう。そうよな、それが当たり前じ...
蒼白な顔をして武知は言った。後半は伊蔵にではなく己に言っ...
武知は一瞬瞠目してから息を吐き、伊蔵の肩を両手で掴んだ。
「伊蔵、これからとても大切なことを言うき、よう聞きや」
こくりと頷いた伊蔵の目を、武知はひたと見据えた。
「この一刻の間におまんの身ぃに起きた事は、全て夢ぜよ。お...
何も、何一つ起きちょらん。おまんはお城でうたた寝をして...
そう優しく言う武知が何かひどい間違いを犯している気がして...
いつも清く正しい武知が間違いを犯すとは思えない。頭の悪い...
けれども、それがもし―――伊蔵の心の内に関する事であったなら...
あるいは伊蔵が正しくて武知が間違っているということも、在...
「じゃから、伊蔵」
その先は聞きたく無かった。
「全て忘れや」
「わ―――忘れられるわけがないですろうッあ……あんな、あんなに...
幸せだったのに。
悲鳴のような自分の声を、伊蔵は何処か遠く聞いた。
「伊蔵っ」
武知は伊蔵の肩を掴む手に力を入れ伊蔵の言葉を遮った。痛ま...
「あんな目に合うておまんが辛いのはよう分かる、忘れられる...
けんど、おまんがこんなことに囚われる事はないがじゃ。無...
「……嫌ですき」
「我儘を言うてはいかんちや伊蔵ッ」
「嫌ですきッ」
強く返すと、武知は信じられないような顔をした。武知に伊蔵...
ほんのわずかな間伊蔵をまじまじと見た後、武知はより一層痛...
「無理は承知で言うておるぜよ。おまんの為じゃ伊蔵」
「せ―――先生は勝手じゃきッ簡単に忘れろなんて言わんでつかあ...
伊蔵の肩を掴む武知の手から、力が抜けてそのまま落ちた。
伊蔵の身を恐怖が包んでいた。
武知は明らかに伊蔵の心の内を捉え違えている。伊蔵の伝えた...
何か言わねばならぬのに、伝えたい事は沢山あるはずなのに、...
頭の悪い伊蔵の頭には的確な言葉が浮かばない。
一方武知の頭は伊蔵の何倍もの速さで働いて武知の口は伊蔵の...
伊蔵がどれだけもがいても、いつも倍の速さで武知は遠ざかる...
「すまんかった」
ぽつんと武知が呟いた。
「わしは勝手じゃち、よう分かっちょるぜよ。あんな目ぇに合...
わし一人で背負わねばならぬのに……おまんを巻き込んでしも...
おまんに累が及ぶ可能性を思い至らなんだは不甲斐ない限り...
せめて愛おしい女子の姿でも想うていてくれればと思うたが...
ほんにすまんちや。―――けんどのう伊蔵。
もうおまんを苦しい目ぇにも嫌な目ぇにも合わせんき。わし...
二度とおまんにこんな事は起こらんき、安心しいや。だから...
……今回だけは忘れてくれ、こんとおりじゃ」
武知は伊蔵に深く頭を下げた。
(違いますき―――)
そうじゃない。
伊蔵は泣きそうになった。往来で涙するなど武士のすることで...
きっと、と伊蔵は思った。
きっと武知は辛くて怖くて苦しくて嫌だったのだ。
今となっては想像できる。伊蔵が呼ばれる前に武知があの城で...
武知が初めて登城したのはいくつの時だっただろうか。
きっとその時から登城した数だけそれは積み重ねられ、これか...
……武知半平太が、土佐の白札である限り。
おそらく武知は、伊蔵も辛くて怖くて苦しくて嫌なのだろうと...
自分が味わった思いを、己の所為で伊蔵にも与えてしまったと...
深い後悔に苛まれて、だから弟子だけでも泥沼から救わねばと...
(違うのに)
今後も武知の身には同じ事が続くのだろう。武知は同じ苦痛を...
身分が低く頭の悪い伊蔵ごときがどう足掻いたところでそれを...
それぐらいは分かっていた。
だから、せめて。
伊蔵との時くらいは、いつもとは全く違うものだったのだと、...
そう、――――思ってほしかったのに。
「ああ、この後に及んでまだ都合のええ事を言うちょるぜよわ...
伊蔵の沈黙をどう捉えたのか、武知は苦笑した。
そしてうろうろと目を彷徨わせ、やがて泣きそうな顔で伊蔵に...
「これはお願いではのうて命令ぜよ、伊蔵。おまんの師匠とし...
これまで武知の命令に伊蔵が逆らった例が無い事も。
これからも伊蔵が逆らう訳が無い事も。
こう言われて伊蔵が頷かないわけにはいかない事も、全て理解...
伊蔵は目を瞑る。深く吐いた息が少し乱れていた。
「……佳緒ですき」
口から洩れでた言葉は他人の物のようだった。武知は二三回瞬...
「佳緒は涼真と相惚れですき、わしが惚れちゅうを先生に言う...
お城ではずうっと、佳緒の事を想うちょりました。
いつもはわしの岡惚れながやきに、今だけは佳緒はわしと居...
佳緒が優しゅうしてくれてわしは―――うんと幸せでしたき」
武知はしばらく黙った後、そうかと呟いた。
「無理に聞きだしてしもうて悪い事をしたの」
苦しそうにそういう武知は、それでも僅かばかり安堵したよう...
伊蔵が嘘をついているなどとは露ほども疑っていない顔だった。
きっとこれで良いのだ。
岡田伊蔵が武知半平太の命令に逆らい嘘をつくことなど、決し...
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