ページ内容へ
ナビゲーションへ
当サイトをご覧いただくにはブラウザの設定で
JavaScriptを有効に設定
する必要がございます。
ページの一覧
最終更新一覧
ヘルプ
ホーム
使い方
文字サイズ:小
文字サイズ:中
文字サイズ:大
1つ前のページに戻る
43-38
をテンプレートにして作成
開始行:
#title(イソップ寓話 アリとキリギリス)
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
照りつける太陽の下、私は一歩、また一歩と砂の上を歩いて...
どく重かった。膝が重さに耐えかねて微かに震えている。私は...
歩を進める。肩に食い込む重みは徐々に鈍い痛みへと変わって...
降ろして休みたかったが、後ろにはまだ仲間たちが続いている...
訳にはいかない。眼前には陽炎が揺らぎ、前を歩く仲間たちの...
めどなく流れ落ちてくる額の汗を手の甲で強く拭い、私は荷物...
砂と石だけだった周囲の景色に、少しずつ緑の草木が混ざり...
色の花々が咲いているのも見える。この辺りからは日陰も多く...
歩きやすくなってくる。このままあと少し進めば、私たちの住...
ールにほっと気が緩んだ瞬間、地を蹴った筈の一歩がずるっと...
「っ、あ」
前のめりにバランスが崩れる。まずい――と思う間もなく、私...
臥していた。
「っ……」
急いで体を起こそうとするが、疲弊しきった足腰と痛む膝に...
く動けない。仲間たちは自分の荷物を運ぶのに精一杯で、勝手...
いる暇はないだろう。なんとかして起きあがろうと顔を上げた...
射った。
「平気?」
陽光に透けてきらきらと輝くそれは、私の傍にしゃがんでい...
かそうな金髪に、茶色の大きな瞳もやや金を帯びて輝いている...
グリーンのシャツに包まれた細長い腕を、舞台俳優の如き優雅...
べた。
この派手な青年には、見覚えがある。一度も話したことはな...
することなどないだろうと思っていたが。
「キ、キリギリス君……」
「どーも、アリさん。どこもケガはしてないよな。荷物背負っ...
「あ、ああ」
「よし、じゃー行くよー。せーのっ」
キリギリスは私の手を強く掴むと、そのまま勢いよく引っ張...
軽くなった気がして、次の瞬間、私は自分の足で地面に立って...
「ん、ちゃんと立てた?良かったね」
キリギリスは屈託なく笑う。私は少し顔が熱いのを感じなが...
らったのはありがたいが、よく知らない男に転んでいるところ...
こされたというのは大分気恥ずかしい。
「……ありがとう。助かったよ」
「いいよ、たまたま通りかかっただけだし。つーかさ、こんな...
しょ」
キリギリスは脇に置いていたらしい四角い鞄を肩にかけると...
組んでしげしげと私の姿を見つめる。私の爪先から頭まで無遠...
「しっかしご苦労さんだよね、そんな重い荷物背負って真っ黒...
しかもアリさんたち毎日そうやって働いてるでしょ?やばいよ...
できない」
キリギリスは笑いを含んだ声で言った。先刻とは別の意味で...
リギリスの美しい服と引き比べて己の砂にまみれた黒い服が恥...
にも不躾な物言いが頭にきた。私だって好きで毎日重い荷物を...
第一、今食料を蓄えておかなければ冬を越せないのはキリギリ...
唇を噛んで、キリギリスの顔を睨みつけた。
「冬に飢え死にしてもいいのなら、私もあなたみたいに遊んで...
私はごめんですから」
口に出してしまってから、助けられた身で少し言い過ぎたか...
スは意に介した風もなく鼻先で笑って、肩にかけた四角い鞄を...
「そんな先のこと俺には分かんないから。それにさ、俺は働い...
その中から現れたのは、優美な曲線を描くバイオリンとその...
光を受けたバイオリンは、何ともつややかな飴色に輝いている。
「弾かないと、すぐ下手になるし」
キリギリスはバイオリンと弓を手にして呟くと、鞄を肩にか...
近くの葉の上に飛び乗った。バイオリンを構えながら顔だけを...
の中、唇の端でにっと笑う。
「じゃあね、アリさんも早く行列に戻りなよ。置いてかれるぜ...
振り向くと、列の最後尾の仲間がこちらを振り返り振り返り...
私は慌ててその後に続く。
土を踏みしめ、再び住処に向かって歩き始めた私の耳に、遙...
優雅な旋律が降ってきた。私は思わず足を止めて空を仰ぐ。キ...
が、音の連なりは絶え間なくきらきらと降り注いでくる。
どこまでも明るく澄みきった音に、ふとあの陽に透ける美し...
と、同時にあの嘲るような声も耳によみがえり、私はそれを振...
る。次の一歩を踏み出した私の足下で、小枝がぱき、と音をた...
◆
私たちにとって冬とは、絶え間ない閉塞感と共にある季節だ...
だろうが昼間だろうが常に薄暗く、四方を土に覆われている圧...
になる。しかしこの住処は暖かく、夏の内に蓄えた食料は一冬...
肌を刺すような冷たい風も、鼻の奥が痛くなるような冷えきっ...
る限りは味わうことがない。それだけで充分だった。
くらく、あたたかい土の中、私は住処の入り口近くで壁に背...
一応見張りという役割でここにいるものの、敵など来たことが...
休んでいる時とそう変わりない。少し前から右の肩が熱を持っ...
夏の間に酷使しすぎたからだろうか。仲間の中にも膝や腕を痛...
しかしそれも、また春が来る頃にはきっと癒えているだろう。...
きれを引き寄せ、膝にかけて瞼を閉じる。
何分経ったのだろうか。うとうとと微睡んでいた私の耳に、...
「アリさん……?」
はっと目を開ける。外だ。振り向いた私の目に、入り口にも...
せた青年の姿が飛び込んできた。乱れた金色の髪、泥に汚れた...
「キリギリス君……!?」
私は目を疑った。華やかな輝きを放っていた金髪は以前のよ...
伸びた毛先は乾いたような砂色になっている。羽織った外套の...
ーンのシャツは汚れて色褪せ、元々が鮮やかな色だった分だけ...
以前から細かった体はもう病的な程に痩せており、シャツと薄...
いる。ろくな物を食べていないのは一目瞭然だった。
「……よかった、会えて」
キリギリスはほっとしたように息を吐き、乾いた唇で弱々し...
「あなた、は……」
咄嗟に言葉が出ない。あの、自信に満ち溢れた美しく不遜な...
なっているのか。
――いや、私は知っている。その理由を、私は既に知っている。
「あなたは――本当に蓄えをしなかったんですか!?こうなるのは...
とでしょう!私に、あんな風に言っておいて、そんな姿になっ...
んでくれなんて頼みに来たんじゃないでしょうね……!?」
立ち上がって矢継ぎ早に言った私にキリギリスはちょっとの...
すぐに笑って目の前でひらひらと手を振った。
「ああ、違う、違う。いくら俺でもそこまで図々しくないよ。...
のはそうだけどね」
キリギリスは肩にかけていた四角い鞄から、例のバイオリン...
ギリスの見窄らしい身なりと対照的に、バイオリンは以前と変...
放っており、丁寧に手入れが施されているのがよく分かる。キ...
オリンを愛おしむように軽く撫でてから、弓と一緒に私の胸の...
私は反射的に両手でそれを受けてしまう。
「こいつさあ、アリさんにもらってほしいんだ。とりあえず、...
もいいんだけど。誰か弾く人がいたらその人にあげていいから...
「は――?でも、このバイオリンは……」
キリギリスはふっと目を伏せて、大きく、大きく溜息をつい...
に影を落としている。
「相棒、だったんだけどね。でも俺もうバイオリンは諦めたん...
くて、ずっと、ずうっと練習してきたし、怠けてたつもりはな...
い。人様に聞いてもらえるぐらいにはなったけど、じゃあ俺の...
かって言ったらそれはもう全然レベルの違う話でさ」
キリギリスは下を向いて少しの間沈黙してから、突然ぱっと...
「俺さあ、多分もうすぐ飢え死にすると思うんだ」
そう、明るく言い放った。
心臓に熱い塊を突き立てられたような衝撃が走る。怒りとも...
り場のない感情が胸にせり上がってくる。
絶句している私を無視して、キリギリスは続ける。
「相棒抱いて心中ってのも悪くないけど、俺のせいで道連れに...
しさあ。こいつ、結構いいやつなんだぜ。低音がよく鳴って、...
キリギリスは私が持っているバイオリンの表面を中指の関節...
ンコンという音は場違いなほどに暖かく響き、土の壁に微かな...
「誰か音楽好きな人が買うかもらうかしてくれたら良かったん...
なくて。どうしようかと思ってたとこでアリさんのこと思い出...
って暖かそうだし、土の中だから外と違って乾燥してないだろ...
つかるまで預かってもらえれば嬉しいなって。あ、できればな...
なところに置いてくれるともっと嬉しい。強風直撃とかはまず...
気が向いたらたまに柔らかい布で拭いてくれるとありがたいな...
痛々しいほど痩けた頬に穏やかな笑みを浮かべて、キリギリ...
の手入れについて話し続ける。
キリギリスの言葉は、半分も私の耳に入っていなかった。バ...
手が震える。頭の中が煮えたぎるように熱い。脈の音が体に響...
「そうそうあとね、弦のことなんだけど、当分誰も弾く人がい...
「――あんたは、」
キリギリスがぴたりと言葉を止めた。
驚いたようにこちらを見つめるキリギリスの顔を見返しなが...
を吸う。止めて、一気に言葉を吐き出す。
「あんたは何を考えているんだ!馬鹿か、馬鹿だなあんたは本...
キリギリスがびくっと目を閉じて肩を竦める。自分でも思っ...
驚きながら、それでも私の口は止まらない。
「私の寝覚めのことも考えろ!どこにそんなことを言われては...
れるやつがいるんだ!いやどこかにはいるかもしれないが私は...
バイオリンは諦めた?だからもうすぐ飢え死にする?勝手なこ...
値があるかどうか決めるのはあんたでなくて客だ!」
私は両手にぐっと力を込めて、バイオリンと弓をキリギリス...
「――弾いて下さい」
キリギリスの、金を帯びた瞳が揺らぐ。私はその眼を睨み据...
「私があんたの客になる。今死なせるには惜しいと思うだけの...
食べ物でも何でも差し上げますよ。ずっと練習してたなら、夏...
でしょう?」
キリギリスが息を飲むのが分かった。
堅く拳を握っていたキリギリスの指が、ゆっくりと開かれて...
いるがしなやかな白い指が、バイオリンに、弓に触れる。
キリギリスは、それをしっかりと握った。
一歩、二歩と下がり、キリギリスはバイオリンを肩に構える...
し、糸巻きに触って音を調える。
それからキリギリスはこちらを向き、すっと腰をかがめて何...
薄暗い住処にそこだけ光が差し込んだように、バイオリンを構...
きりと浮かび上がって見える。私は壁を背に座りなおし、ただ...
土の壁に柔らかく響いた拍手の残響が消えた瞬間、キリギリ...
息を吸う音と共に、張りつめた弦に弓が触れた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
#comment
終了行:
#title(イソップ寓話 アリとキリギリス)
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
照りつける太陽の下、私は一歩、また一歩と砂の上を歩いて...
どく重かった。膝が重さに耐えかねて微かに震えている。私は...
歩を進める。肩に食い込む重みは徐々に鈍い痛みへと変わって...
降ろして休みたかったが、後ろにはまだ仲間たちが続いている...
訳にはいかない。眼前には陽炎が揺らぎ、前を歩く仲間たちの...
めどなく流れ落ちてくる額の汗を手の甲で強く拭い、私は荷物...
砂と石だけだった周囲の景色に、少しずつ緑の草木が混ざり...
色の花々が咲いているのも見える。この辺りからは日陰も多く...
歩きやすくなってくる。このままあと少し進めば、私たちの住...
ールにほっと気が緩んだ瞬間、地を蹴った筈の一歩がずるっと...
「っ、あ」
前のめりにバランスが崩れる。まずい――と思う間もなく、私...
臥していた。
「っ……」
急いで体を起こそうとするが、疲弊しきった足腰と痛む膝に...
く動けない。仲間たちは自分の荷物を運ぶのに精一杯で、勝手...
いる暇はないだろう。なんとかして起きあがろうと顔を上げた...
射った。
「平気?」
陽光に透けてきらきらと輝くそれは、私の傍にしゃがんでい...
かそうな金髪に、茶色の大きな瞳もやや金を帯びて輝いている...
グリーンのシャツに包まれた細長い腕を、舞台俳優の如き優雅...
べた。
この派手な青年には、見覚えがある。一度も話したことはな...
することなどないだろうと思っていたが。
「キ、キリギリス君……」
「どーも、アリさん。どこもケガはしてないよな。荷物背負っ...
「あ、ああ」
「よし、じゃー行くよー。せーのっ」
キリギリスは私の手を強く掴むと、そのまま勢いよく引っ張...
軽くなった気がして、次の瞬間、私は自分の足で地面に立って...
「ん、ちゃんと立てた?良かったね」
キリギリスは屈託なく笑う。私は少し顔が熱いのを感じなが...
らったのはありがたいが、よく知らない男に転んでいるところ...
こされたというのは大分気恥ずかしい。
「……ありがとう。助かったよ」
「いいよ、たまたま通りかかっただけだし。つーかさ、こんな...
しょ」
キリギリスは脇に置いていたらしい四角い鞄を肩にかけると...
組んでしげしげと私の姿を見つめる。私の爪先から頭まで無遠...
「しっかしご苦労さんだよね、そんな重い荷物背負って真っ黒...
しかもアリさんたち毎日そうやって働いてるでしょ?やばいよ...
できない」
キリギリスは笑いを含んだ声で言った。先刻とは別の意味で...
リギリスの美しい服と引き比べて己の砂にまみれた黒い服が恥...
にも不躾な物言いが頭にきた。私だって好きで毎日重い荷物を...
第一、今食料を蓄えておかなければ冬を越せないのはキリギリ...
唇を噛んで、キリギリスの顔を睨みつけた。
「冬に飢え死にしてもいいのなら、私もあなたみたいに遊んで...
私はごめんですから」
口に出してしまってから、助けられた身で少し言い過ぎたか...
スは意に介した風もなく鼻先で笑って、肩にかけた四角い鞄を...
「そんな先のこと俺には分かんないから。それにさ、俺は働い...
その中から現れたのは、優美な曲線を描くバイオリンとその...
光を受けたバイオリンは、何ともつややかな飴色に輝いている。
「弾かないと、すぐ下手になるし」
キリギリスはバイオリンと弓を手にして呟くと、鞄を肩にか...
近くの葉の上に飛び乗った。バイオリンを構えながら顔だけを...
の中、唇の端でにっと笑う。
「じゃあね、アリさんも早く行列に戻りなよ。置いてかれるぜ...
振り向くと、列の最後尾の仲間がこちらを振り返り振り返り...
私は慌ててその後に続く。
土を踏みしめ、再び住処に向かって歩き始めた私の耳に、遙...
優雅な旋律が降ってきた。私は思わず足を止めて空を仰ぐ。キ...
が、音の連なりは絶え間なくきらきらと降り注いでくる。
どこまでも明るく澄みきった音に、ふとあの陽に透ける美し...
と、同時にあの嘲るような声も耳によみがえり、私はそれを振...
る。次の一歩を踏み出した私の足下で、小枝がぱき、と音をた...
◆
私たちにとって冬とは、絶え間ない閉塞感と共にある季節だ...
だろうが昼間だろうが常に薄暗く、四方を土に覆われている圧...
になる。しかしこの住処は暖かく、夏の内に蓄えた食料は一冬...
肌を刺すような冷たい風も、鼻の奥が痛くなるような冷えきっ...
る限りは味わうことがない。それだけで充分だった。
くらく、あたたかい土の中、私は住処の入り口近くで壁に背...
一応見張りという役割でここにいるものの、敵など来たことが...
休んでいる時とそう変わりない。少し前から右の肩が熱を持っ...
夏の間に酷使しすぎたからだろうか。仲間の中にも膝や腕を痛...
しかしそれも、また春が来る頃にはきっと癒えているだろう。...
きれを引き寄せ、膝にかけて瞼を閉じる。
何分経ったのだろうか。うとうとと微睡んでいた私の耳に、...
「アリさん……?」
はっと目を開ける。外だ。振り向いた私の目に、入り口にも...
せた青年の姿が飛び込んできた。乱れた金色の髪、泥に汚れた...
「キリギリス君……!?」
私は目を疑った。華やかな輝きを放っていた金髪は以前のよ...
伸びた毛先は乾いたような砂色になっている。羽織った外套の...
ーンのシャツは汚れて色褪せ、元々が鮮やかな色だった分だけ...
以前から細かった体はもう病的な程に痩せており、シャツと薄...
いる。ろくな物を食べていないのは一目瞭然だった。
「……よかった、会えて」
キリギリスはほっとしたように息を吐き、乾いた唇で弱々し...
「あなた、は……」
咄嗟に言葉が出ない。あの、自信に満ち溢れた美しく不遜な...
なっているのか。
――いや、私は知っている。その理由を、私は既に知っている。
「あなたは――本当に蓄えをしなかったんですか!?こうなるのは...
とでしょう!私に、あんな風に言っておいて、そんな姿になっ...
んでくれなんて頼みに来たんじゃないでしょうね……!?」
立ち上がって矢継ぎ早に言った私にキリギリスはちょっとの...
すぐに笑って目の前でひらひらと手を振った。
「ああ、違う、違う。いくら俺でもそこまで図々しくないよ。...
のはそうだけどね」
キリギリスは肩にかけていた四角い鞄から、例のバイオリン...
ギリスの見窄らしい身なりと対照的に、バイオリンは以前と変...
放っており、丁寧に手入れが施されているのがよく分かる。キ...
オリンを愛おしむように軽く撫でてから、弓と一緒に私の胸の...
私は反射的に両手でそれを受けてしまう。
「こいつさあ、アリさんにもらってほしいんだ。とりあえず、...
もいいんだけど。誰か弾く人がいたらその人にあげていいから...
「は――?でも、このバイオリンは……」
キリギリスはふっと目を伏せて、大きく、大きく溜息をつい...
に影を落としている。
「相棒、だったんだけどね。でも俺もうバイオリンは諦めたん...
くて、ずっと、ずうっと練習してきたし、怠けてたつもりはな...
い。人様に聞いてもらえるぐらいにはなったけど、じゃあ俺の...
かって言ったらそれはもう全然レベルの違う話でさ」
キリギリスは下を向いて少しの間沈黙してから、突然ぱっと...
「俺さあ、多分もうすぐ飢え死にすると思うんだ」
そう、明るく言い放った。
心臓に熱い塊を突き立てられたような衝撃が走る。怒りとも...
り場のない感情が胸にせり上がってくる。
絶句している私を無視して、キリギリスは続ける。
「相棒抱いて心中ってのも悪くないけど、俺のせいで道連れに...
しさあ。こいつ、結構いいやつなんだぜ。低音がよく鳴って、...
キリギリスは私が持っているバイオリンの表面を中指の関節...
ンコンという音は場違いなほどに暖かく響き、土の壁に微かな...
「誰か音楽好きな人が買うかもらうかしてくれたら良かったん...
なくて。どうしようかと思ってたとこでアリさんのこと思い出...
って暖かそうだし、土の中だから外と違って乾燥してないだろ...
つかるまで預かってもらえれば嬉しいなって。あ、できればな...
なところに置いてくれるともっと嬉しい。強風直撃とかはまず...
気が向いたらたまに柔らかい布で拭いてくれるとありがたいな...
痛々しいほど痩けた頬に穏やかな笑みを浮かべて、キリギリ...
の手入れについて話し続ける。
キリギリスの言葉は、半分も私の耳に入っていなかった。バ...
手が震える。頭の中が煮えたぎるように熱い。脈の音が体に響...
「そうそうあとね、弦のことなんだけど、当分誰も弾く人がい...
「――あんたは、」
キリギリスがぴたりと言葉を止めた。
驚いたようにこちらを見つめるキリギリスの顔を見返しなが...
を吸う。止めて、一気に言葉を吐き出す。
「あんたは何を考えているんだ!馬鹿か、馬鹿だなあんたは本...
キリギリスがびくっと目を閉じて肩を竦める。自分でも思っ...
驚きながら、それでも私の口は止まらない。
「私の寝覚めのことも考えろ!どこにそんなことを言われては...
れるやつがいるんだ!いやどこかにはいるかもしれないが私は...
バイオリンは諦めた?だからもうすぐ飢え死にする?勝手なこ...
値があるかどうか決めるのはあんたでなくて客だ!」
私は両手にぐっと力を込めて、バイオリンと弓をキリギリス...
「――弾いて下さい」
キリギリスの、金を帯びた瞳が揺らぐ。私はその眼を睨み据...
「私があんたの客になる。今死なせるには惜しいと思うだけの...
食べ物でも何でも差し上げますよ。ずっと練習してたなら、夏...
でしょう?」
キリギリスが息を飲むのが分かった。
堅く拳を握っていたキリギリスの指が、ゆっくりと開かれて...
いるがしなやかな白い指が、バイオリンに、弓に触れる。
キリギリスは、それをしっかりと握った。
一歩、二歩と下がり、キリギリスはバイオリンを肩に構える...
し、糸巻きに触って音を調える。
それからキリギリスはこちらを向き、すっと腰をかがめて何...
薄暗い住処にそこだけ光が差し込んだように、バイオリンを構...
きりと浮かび上がって見える。私は壁を背に座りなおし、ただ...
土の壁に柔らかく響いた拍手の残響が消えた瞬間、キリギリ...
息を吸う音と共に、張りつめた弦に弓が触れた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
#comment
ページ名:
ページ新規作成
新しいページはこちらから投稿できます。
作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
第57巻
第56巻
第55巻
第54巻
第53巻
第52巻
第51巻
第50巻
第49巻
第48巻
第47巻
第46巻
第45巻
第44巻
第43巻
第42巻
第41巻
第40巻
第39巻
第38巻
第37巻
第36巻
第35巻
第34巻
第33巻
第32巻
第31巻
第30巻
第29巻
第28巻
第27巻
第26巻
第25巻
第24巻
第23巻
第22巻
第21巻
第20巻
第19巻
第18巻
第17巻
第16巻
第15巻
第14巻
第13巻
第12巻
第11巻
第10巻
第9巻
第8巻
第7巻
第6巻
第5巻
第4巻
第3.1巻
第3巻
第2巻
第1巻
ページ新規作成: