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#title(笑う犬の冒険 てるとたいぞう 「楽園」)
照退つづきです。これまでレスくれた姐さん方、ほんとうにあ...
さるらない程度の文量で書きました。って言ってるそばからさ...
書いてて気づいたんだけど、ここまでの登場人物が全員Tのつく...
多分偶然なんだろうけど、全員て。おかげでやたらとキーボー...
サブタイはヒライケソの曲から。前置き長っ。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマー...
ざわめきの中遠くから、泣きながら歌っているようなラブソン...
さびの部分でつい、頭の中で歌い出しそうになって、退蔵は注...
そんな場合じゃなかった。目の前の男は最初から、明らかにそ...
歓楽街の路上で、麻薬の売人が一般人に薬を売り捌いており、...
それを調べる為、照と『退史郎』とで飲み屋や風俗店を中心に...
男はキャバクラの呼び込みだった。けたたましい音とネオンの...
照が目で退蔵にチラッと合図する。退蔵もそれとわからない程...
照はやんわりと穏やかな言い方で、男の顔を覗き込んだ。
「念のため、所持品検査させてもらえるかな?時間とらせない...
その途端、男は脱兎の如く駆け出した。照はすぐに反応した。...
「逃げた!退史郎!」
退蔵も全速力で走り出す。照は無線で応援を要請しながら追っ...
冷たい夜風を裂いて、退蔵も後ろから追った。
すぐに袋小路に入った。男は地理に詳しくなかったらしい。酔...
追い詰められた男は、右手にダガーナイフを持っていた。荒く...
「…ナイフを離しなさい」
照は落ち着いていた。言い聞かせるように男に言って、ゆっく...
次の瞬間男は、ナイフを持った右手を大きく振り上げると大声...
周りの野次馬が悲鳴を上げる。
「みんな下がって!」
叫ぶといきなり照は、素手のままで男の懐に飛び込んだ。
「先輩!!」
予想しなかった照の動きに退蔵は思わず走り寄る。
男が飛びかかる。照は外側に男をかわすと左足で踏み込んで、...
カシャンと音がしたと思ったら、あっさりナイフは地面に落ち...
次の瞬間、男は地面に打ち倒されていた。
「退史郎!」
照の声に退蔵は、素早く手錠を男の手に嵌めた。追いついた応...
「確保」
照の声はそれほど大きくなかったが、静まり返った夜の空気の...
制服の警官たちが男を取り押さえる中、その場から退蔵は後ず...
同じように一歩離れた照の姿を見ると、左の耳から血が出てい...
「先輩、耳…」
ハンカチを取り出しながら駆け寄ると、照は無造作に自分の左...
「かすった」
聞いた瞬間、退蔵の背筋がスーッと冷えた。冷たい汗が額に浮...
手が細かく震えだすのを、両手を組んで止めようとした。その...
「何動揺してるんだ。しっかりしろ」
すぐに背を向けると、パトカーに乗り込んだ。警官が次に、逮...
その次に乗り込みながら、退蔵は手の震えを止められないでい...
署に着くと、照はそのまま取調室に入ろうとする。コートの肩...
「先輩、手当てしないと」
後ろから肩に手を置いて止めようとすると、照はなんでもない...
「もう出血は止まってる」
「だめです、ちゃんと医務室行ってください。オレも付いてい...
近くに立っていた田所が、その声に振り向くと小走りに駆け寄...
「負傷してんなら手当しに行けよ。こっちは引き継いでおくか...
「…悪い。じゃ、後頼む」
照は田所に頷くと、すんなり取調室から離れて歩き出した。退...
照から無人のエレベーターに乗り込む。退蔵は後から入った。
扉が閉まると同時に、いきなり退蔵は照の両肩を掴むと左耳に...
傷口を舌を這わせるように舐める。照の体がすくんだ。
かすかに血の味がした。前髪が触れるほど近くから顔を覗き込...
「さっきは…」
照は大きく目を見開いて、動けなくなっている。
退蔵はもう一度左耳に唇を寄せると、熱い息を吹き込みながら...
「…寿命が縮まりましたよ…」
それから突き放すように照を壁に押し付けた。照は目を見開い...
ポーンと音がしてエレベーターが停まる。扉が開いた途端、退...
「ちょっと…退史郎…」
途惑いながら照も、退蔵の足に合わせて早足になっている。
医務室の扉を開けると、そこにいた女性の監察医が照に気付い...
「あら、照さん。…出血?」
救急箱を取り出すのを見ながら、退蔵は扉の脇に立ったまま、...
すぐに監察医が退蔵に振り向く。
「ここは禁煙ですよ」
「…すいません」
退蔵は一礼すると、消さずにそのままタバコをくわえて外に出...
医務室を出た退蔵は、携帯で朱龍に連絡をとった。
さっき逮捕した男は覚醒剤を所持していた。山根組の末端の売...
退蔵は、照が関わった内部事情はすべて積極的に朱龍に報告し...
写真を見させられてから、退蔵は憶病になっていた。出来るだ...
『早い情報でありがたいよ』
朱龍は電話の向こうで、麻雀の牌をジャラジャラいわせながら...
『ソレは下っ端の雑魚だが、そのうち口を割れば、最後にウチ...
周は朱龍が信頼している人間の一人だ。今もこの場で共に、麻...
『周の名義で借りているアパートに、今6千万置いてある。強奪...
「金をどこかへ動かさなきゃいけませんよね」
『金はそれほどでもないが、それよりもっと移動させなければ...
電話の向こうから、中国語で笑いあう声が聞こえた。朱龍は低...
『バンブルビーズと揺頭がごっそり置いてある。そこにあるの...
覚醒剤とMDMAだ。6億8千万。退蔵の心臓が跳ねた。動揺が走る...
「凄い宝島ですね」
『言うなよ?』
朱龍の声が電話口からずしりと響いた。
『オマエ言いふらすなよ?田所も知らないことだからな』
「言いませんよ」
退蔵は背筋を伸ばした。電話だから見えないにしても、笑顔で...
「それにしても凄い金額ですね。全部そこに保管されてるんで...
『これは一部だ。他に隠し場所はいくつかある』
「………」
『オマエは今後状況が変わるたび報告してくれ。こっちではク...
退蔵は一言も聞き洩らさないように、気を張り詰めた。
『5千万はいっそ置いていってもいいな。そうだ、オマエが半分...
退蔵は携帯を握り締めながら、息をつめていた。
電話を切るなり、退蔵は田所の姿を探した。同僚に聞くと、照...
照のいる所では話せない。自然とまた離れて2人を観察する形に...
2人は紙コップでコーヒーを飲んでいた。照は耳にガーゼを貼っ...
「あれから進展あった?」
「無い無い。あんなチャラけたヤツなのに、なかなか口割んな...
2人の様子はくつろいでいて、その事に退蔵はなぜか胸が痛くな...
田所と一緒にいる時の照は、どこがどうとはっきり指摘出来な...
少なくとも『退史郎』といる時には見せない顔つきだ。田所も...
それを見ているのは、少しきつかった。
田所は上を向いてコーヒーを飲み干すと、
「そろそろオレ行くわ。お先」
と紙コップをゴミ箱に捨てた。喫煙コーナーを出る前に、思い...
「おまえさ、ケガとかほんと気をつけろよ」
そう言って、自分の左耳を引っ張って見せた。
「んー。わかった」
照はコーヒーを飲みながら、のんびり答えた。
廊下に出てきた田所に、退蔵は今来たように歩きながら近寄る...
「ああ、おまえか」
退蔵は緊張した目で田所を見た。
「使ってない取調室ありますよね、あそこ使えますか?」
「使えるけど、どうした?」
「大事な話があります。他の人に聞かれちゃまずいです」
声を潜めた退蔵の真剣な表情を、田所は訝しげに見ていた。
「6億8千万…」
田所が呆然と口を開いた。
「それは…でかいな…6億8千万…」
下を向いて顎を触りながら、取調室の中をうろうろ歩きだした...
「田所さん、これいけるんじゃないですか?」
「なんだ?」
「これだけでかけりゃ、しょっぴく事が出来るんじゃ?」
身を乗り出して期待した退蔵を田所はぽかんとして見返すと、...
「バカか。誰しょっぴくんだ。朱龍はおろか、その下のヤツも...
「え?だって…」
「朱龍が直におまえに言ったんだろ?今から行ったってもうク...
「……」
「それこそおまえを試してんだろ。そんな事にも気付かないの...
退蔵は額に手を当てて、自分の中で整理しようとした。オレは...
「…最近のおまえは本当に、退史郎という別の人間になったみた...
田所は口の片側だけを上げて笑った。
「おまえ甘いよ。まだまだ全然甘い」
退蔵は自分の髪をくしゃっと掴んで目をそらした。飛びつこう...
組織を壊滅させる。朱龍を逮捕する。それで全て終わりになる...
壁の掃除。
突然、組織に入って3日目にさせられた壁の掃除を、脈絡も無く...
機械的に、何も考えずにモップで拭いた真っ赤な壁。
バケツの水が、何度変えても赤く濁った。
もし、先輩が。
そう考えついただけで一瞬何かがサブリミナルのようによぎっ...
何も想像したくない、今のこの片鱗だけで胃が捩じれそうだ。
早く、早く終わらせてしまいたい。退蔵は大きく息を吐いた。
逮捕した男はなかなか口を割らない。取り調べで周の名前が出...
覆面車のワゴンで、照と『退史郎』は麻薬の売人が現れるとい...
青空駐車場の端に車を停めてから、まだ10分しか経っていない...
照はチラッとタバコに目をやると、またフロントガラスに目を...
退蔵の時は、タバコを吸う時には必ず一言声をかけていた。多...
照の右手が、座席に投げ出されていた。退蔵はぼんやりそれを...
指先が冷たい。あっためてあげる。
「…なんで、手、握るんだよ…」
照は目を伏せたまま、うろたえたように口ごもった。退蔵は照...
「手つないでちゃだめですか?」
「…変だろ。男どうしで…」
「そりゃそうだ」
右腕を伸ばして灰皿に灰を落としながら、ずっと退蔵は笑顔で...
「それ、一般論ですよね」
「………」
「兄貴のこと、すきだったんでしょ?」
恋人繋ぎに指を絡め直した。照の指が緊張している。退蔵は照...
「兄貴にこうしてもらいたかった?」
「………」
一瞬、照の目に悲痛な色が浮かんだ。
傷ついた顔をしてる。踏みにじられた道端の花みたいだ。
退蔵の中で奇妙な感情が混ざり合った。2つの感情。
そっと庇ってやりたい気持ち。それと同時に、いっそズタズタ...
何故こんな気持ちになるのか、自分でもよくわからない。
次にかけるべき言葉が見つからないまま、ただ、指の感覚にだ...
指先から伝わる体温。柔らかい感触。拳銃を持つ手とは思えな...
照が顔を上げて、初めて退蔵の顔を見てきた。
「…手を離せよ。気が散るだろ」
「イヤです。オレはちゃんと見てます」
「………」
照が指をほどこうとするたび、ぎゅっと掴んでいた。
結局最後まで売人は現れなかった。その間ずっと、退蔵は指を...
「今日か明日あたり、周のアパートがわれると思う。おまえ行...
田所は足を組んで、椅子に背をもたれさせて言った。
「2千万くらい取っとけって言われたんだっけ?派手な使い方す...
「オレが持ち帰れって事ですか?」
「当然だろ、全額署にお持ち帰りじゃ朱龍に怪しまれるだろが...
「2千万なんて大金…」
「車とかいきなり買うなよ?バレないよう地味に使え」
田所は指のさかむけを剥がしながら喋っていた。
「一番人気のない馬に大枚はたいて、オッズを逆転させてから...
「…経験済みですか?」
横目で見ながら聞いた退蔵に、田所は笑って見返してきたが、...
「今回これだけでかいのを見送るのも辛いけどさ、おまえが自...
これを知ったら先輩はなんて思うだろう。田所への厭味ではな...
田所は慰めるように退蔵の腕をポンと叩くと、
「6億8千万かあー…」
と、もう一度他人事のように呟いて、大きく背伸びをした。
田所と別れた退蔵が廊下の角を曲がると、遠くに小動物のよう...
照が何かを拾い集めていた。ただし、その隣にも一緒に拾い集...
千夏だ。2人で散らばった用紙を集めている。
退蔵はそのまま後ずさって、廊下の角まで戻って様子を窺った...
「はい、どうぞ」
「悪い。ありがと」
「照さんて時々こういうの、ありますよね?」
2人でちょっと笑っているような感じがあった。これはなんでも...
なのに2人でいるのを見ると落ち着かない気持ちになる。
耳をすませている自分に嫌気が差してきた時、2人がそれぞれに...
1人はそのまま向こうへ。1人は退蔵のいる方向へ。カツカツと...
人がいないのをいい事に、退蔵はもう少し後ずさって待った。
角から現れたのは千夏だった。退蔵は普通に千夏の方へ歩き出...
すれ違った瞬間、退蔵は千夏を振り返って声をかけた。
「その香水」
「えっ?」
千夏が足を止めて振り返る。退蔵は出来るだけ感じ良く見える...
「凄くいいね。幸せそうな香りがする」
千夏はびっくりしたように退蔵を見て、頬を赤らめると、
「…そうかな。…ありがとう」
と嬉しそうにして、きれいに微笑んだ。退蔵がにっこりすると...
どぎまぎしているような足取り。
それを妙に冷静な気持ちで観察しながら、退蔵は考えていた。
なんだ。簡単なことだ。最初からこうしとけばよかった。
これでこの2人を見て、ざわつく事もなくなるかもしれない。
その日の夕方、キャバクラの呼び込みの男が周の名前を出して...
取り調べを進めるのは田所だった。じわじわと強奪した金の話...
退蔵は照を探していた。デスクワークが山ほどあって、その処...
組織犯罪対策課は明かりが消えていたが、照の机にだけ電気が...
近づくと、照は机に突っ伏して眠っていた。
規則正しい寝息が聞こえる。ライトが当たって、頬が白く照ら...
退蔵はそっと、椅子にかけてあった照のコートを肩に掛けよう...
『退史郎』ではなく『退蔵』の頃、張り込み中眠ってしまった...
今から考えるとあの頃は、贅沢な時間を過ごしていたんだと気...
あの楽園はもう、消えてしまったんだろうか。
コートを掛けると手を離す間もなく、照が身じろぎして目を開...
起こしてしまった。それもあの時と同じだ。
そう思っていたら、照は退蔵の顔を見上げて、やけに明るい表...
「退蔵」
また呼び間違えた。これで3回目。
退蔵はごく普通にそう思っただけだったが、照は違った。
明るい表情がスッと消えた。ゆっくり2回瞬きをした。
だんだん気付いていくようだった。自分が間違えたという事に。
照はゆるく頭を振ると、何も言わずに席を立って、そのまま部...
照のコートを掴んで退蔵も後を追う。
「どうしたんですか、先輩」
照はどんどん歩いて行くと、非常口から外へ出た。退蔵も後か...
「先輩」
燃え切らないまま夕日が沈んだ後の、冷たく蒼い曇り空の下に...
コートを抱えたまま、退蔵は大股で近づいて行った。
「風邪ひきますよ」
雲が闇を連れてくる。冷え切った空気の中で、照の肩はひどく...
コートを広げた退蔵に、照は後ずさって言った。
「いいんだ。頭冷やしたいから」
退蔵はコートを照に押し付けた。
「だめです、着て下さい」
照はコートを受け取ったが、抱えたまま着ようとしない。
空から小さく、何かが光りながら落ちてくる。ひとつ。またひ...
冷たい雨か。今年初めての雪か。
「…兄貴の夢、見てたんですか」
退蔵は少し猫背になって、照の顔を覗き込んだ。
照は黙って立ちつくしている。風で前髪が震えていた。
「オレでよかったら、兄貴の代わりになりますよ」
退蔵は背筋を伸ばすと、少し横柄に言ってみた。また少しだけ...
「いや、いいんだ…わかってるから…」
照はゆっくり瞬きしながら言葉を探していた。前髪が風で煽ら...
目の中で、強く、弱く、光が揺れた。照の言葉が冷たい空気の...
「退蔵は、死んだんだ…」
――驚くほど静かに、涙がこぼれおちた。
消えそうにかすれた声は、実際突風にかき消された。
「もう、どこにもいない…」
考えるより先に、退蔵は腕を伸ばしていた。照の頭と背中を抱...
そのままきつく抱き締めた。腕にぎゅっと、痛いくらい力を込...
オレはここにいる、ここにいる。
きつく抱き締めながら、退蔵の目からも涙が流れ落ちた。
つづく
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ほんとにさるった!最後の最後に!言霊!?その上ナンバリング...
深刻な展開にする一方なんで、独自設定だらけになってるけど...
至らない点が多いかと思いますが、生暖かく見てやって下さい...
辻褄やセリフを合わせる為に、ちょくちょく元ネタの動画を見...
ちょwあんたらwwアホスwwOTLwwwてなる。
(それは言わない約束)
#comment
終了行:
#title(笑う犬の冒険 てるとたいぞう 「楽園」)
照退つづきです。これまでレスくれた姐さん方、ほんとうにあ...
さるらない程度の文量で書きました。って言ってるそばからさ...
書いてて気づいたんだけど、ここまでの登場人物が全員Tのつく...
多分偶然なんだろうけど、全員て。おかげでやたらとキーボー...
サブタイはヒライケソの曲から。前置き長っ。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマー...
ざわめきの中遠くから、泣きながら歌っているようなラブソン...
さびの部分でつい、頭の中で歌い出しそうになって、退蔵は注...
そんな場合じゃなかった。目の前の男は最初から、明らかにそ...
歓楽街の路上で、麻薬の売人が一般人に薬を売り捌いており、...
それを調べる為、照と『退史郎』とで飲み屋や風俗店を中心に...
男はキャバクラの呼び込みだった。けたたましい音とネオンの...
照が目で退蔵にチラッと合図する。退蔵もそれとわからない程...
照はやんわりと穏やかな言い方で、男の顔を覗き込んだ。
「念のため、所持品検査させてもらえるかな?時間とらせない...
その途端、男は脱兎の如く駆け出した。照はすぐに反応した。...
「逃げた!退史郎!」
退蔵も全速力で走り出す。照は無線で応援を要請しながら追っ...
冷たい夜風を裂いて、退蔵も後ろから追った。
すぐに袋小路に入った。男は地理に詳しくなかったらしい。酔...
追い詰められた男は、右手にダガーナイフを持っていた。荒く...
「…ナイフを離しなさい」
照は落ち着いていた。言い聞かせるように男に言って、ゆっく...
次の瞬間男は、ナイフを持った右手を大きく振り上げると大声...
周りの野次馬が悲鳴を上げる。
「みんな下がって!」
叫ぶといきなり照は、素手のままで男の懐に飛び込んだ。
「先輩!!」
予想しなかった照の動きに退蔵は思わず走り寄る。
男が飛びかかる。照は外側に男をかわすと左足で踏み込んで、...
カシャンと音がしたと思ったら、あっさりナイフは地面に落ち...
次の瞬間、男は地面に打ち倒されていた。
「退史郎!」
照の声に退蔵は、素早く手錠を男の手に嵌めた。追いついた応...
「確保」
照の声はそれほど大きくなかったが、静まり返った夜の空気の...
制服の警官たちが男を取り押さえる中、その場から退蔵は後ず...
同じように一歩離れた照の姿を見ると、左の耳から血が出てい...
「先輩、耳…」
ハンカチを取り出しながら駆け寄ると、照は無造作に自分の左...
「かすった」
聞いた瞬間、退蔵の背筋がスーッと冷えた。冷たい汗が額に浮...
手が細かく震えだすのを、両手を組んで止めようとした。その...
「何動揺してるんだ。しっかりしろ」
すぐに背を向けると、パトカーに乗り込んだ。警官が次に、逮...
その次に乗り込みながら、退蔵は手の震えを止められないでい...
署に着くと、照はそのまま取調室に入ろうとする。コートの肩...
「先輩、手当てしないと」
後ろから肩に手を置いて止めようとすると、照はなんでもない...
「もう出血は止まってる」
「だめです、ちゃんと医務室行ってください。オレも付いてい...
近くに立っていた田所が、その声に振り向くと小走りに駆け寄...
「負傷してんなら手当しに行けよ。こっちは引き継いでおくか...
「…悪い。じゃ、後頼む」
照は田所に頷くと、すんなり取調室から離れて歩き出した。退...
照から無人のエレベーターに乗り込む。退蔵は後から入った。
扉が閉まると同時に、いきなり退蔵は照の両肩を掴むと左耳に...
傷口を舌を這わせるように舐める。照の体がすくんだ。
かすかに血の味がした。前髪が触れるほど近くから顔を覗き込...
「さっきは…」
照は大きく目を見開いて、動けなくなっている。
退蔵はもう一度左耳に唇を寄せると、熱い息を吹き込みながら...
「…寿命が縮まりましたよ…」
それから突き放すように照を壁に押し付けた。照は目を見開い...
ポーンと音がしてエレベーターが停まる。扉が開いた途端、退...
「ちょっと…退史郎…」
途惑いながら照も、退蔵の足に合わせて早足になっている。
医務室の扉を開けると、そこにいた女性の監察医が照に気付い...
「あら、照さん。…出血?」
救急箱を取り出すのを見ながら、退蔵は扉の脇に立ったまま、...
すぐに監察医が退蔵に振り向く。
「ここは禁煙ですよ」
「…すいません」
退蔵は一礼すると、消さずにそのままタバコをくわえて外に出...
医務室を出た退蔵は、携帯で朱龍に連絡をとった。
さっき逮捕した男は覚醒剤を所持していた。山根組の末端の売...
退蔵は、照が関わった内部事情はすべて積極的に朱龍に報告し...
写真を見させられてから、退蔵は憶病になっていた。出来るだ...
『早い情報でありがたいよ』
朱龍は電話の向こうで、麻雀の牌をジャラジャラいわせながら...
『ソレは下っ端の雑魚だが、そのうち口を割れば、最後にウチ...
周は朱龍が信頼している人間の一人だ。今もこの場で共に、麻...
『周の名義で借りているアパートに、今6千万置いてある。強奪...
「金をどこかへ動かさなきゃいけませんよね」
『金はそれほどでもないが、それよりもっと移動させなければ...
電話の向こうから、中国語で笑いあう声が聞こえた。朱龍は低...
『バンブルビーズと揺頭がごっそり置いてある。そこにあるの...
覚醒剤とMDMAだ。6億8千万。退蔵の心臓が跳ねた。動揺が走る...
「凄い宝島ですね」
『言うなよ?』
朱龍の声が電話口からずしりと響いた。
『オマエ言いふらすなよ?田所も知らないことだからな』
「言いませんよ」
退蔵は背筋を伸ばした。電話だから見えないにしても、笑顔で...
「それにしても凄い金額ですね。全部そこに保管されてるんで...
『これは一部だ。他に隠し場所はいくつかある』
「………」
『オマエは今後状況が変わるたび報告してくれ。こっちではク...
退蔵は一言も聞き洩らさないように、気を張り詰めた。
『5千万はいっそ置いていってもいいな。そうだ、オマエが半分...
退蔵は携帯を握り締めながら、息をつめていた。
電話を切るなり、退蔵は田所の姿を探した。同僚に聞くと、照...
照のいる所では話せない。自然とまた離れて2人を観察する形に...
2人は紙コップでコーヒーを飲んでいた。照は耳にガーゼを貼っ...
「あれから進展あった?」
「無い無い。あんなチャラけたヤツなのに、なかなか口割んな...
2人の様子はくつろいでいて、その事に退蔵はなぜか胸が痛くな...
田所と一緒にいる時の照は、どこがどうとはっきり指摘出来な...
少なくとも『退史郎』といる時には見せない顔つきだ。田所も...
それを見ているのは、少しきつかった。
田所は上を向いてコーヒーを飲み干すと、
「そろそろオレ行くわ。お先」
と紙コップをゴミ箱に捨てた。喫煙コーナーを出る前に、思い...
「おまえさ、ケガとかほんと気をつけろよ」
そう言って、自分の左耳を引っ張って見せた。
「んー。わかった」
照はコーヒーを飲みながら、のんびり答えた。
廊下に出てきた田所に、退蔵は今来たように歩きながら近寄る...
「ああ、おまえか」
退蔵は緊張した目で田所を見た。
「使ってない取調室ありますよね、あそこ使えますか?」
「使えるけど、どうした?」
「大事な話があります。他の人に聞かれちゃまずいです」
声を潜めた退蔵の真剣な表情を、田所は訝しげに見ていた。
「6億8千万…」
田所が呆然と口を開いた。
「それは…でかいな…6億8千万…」
下を向いて顎を触りながら、取調室の中をうろうろ歩きだした...
「田所さん、これいけるんじゃないですか?」
「なんだ?」
「これだけでかけりゃ、しょっぴく事が出来るんじゃ?」
身を乗り出して期待した退蔵を田所はぽかんとして見返すと、...
「バカか。誰しょっぴくんだ。朱龍はおろか、その下のヤツも...
「え?だって…」
「朱龍が直におまえに言ったんだろ?今から行ったってもうク...
「……」
「それこそおまえを試してんだろ。そんな事にも気付かないの...
退蔵は額に手を当てて、自分の中で整理しようとした。オレは...
「…最近のおまえは本当に、退史郎という別の人間になったみた...
田所は口の片側だけを上げて笑った。
「おまえ甘いよ。まだまだ全然甘い」
退蔵は自分の髪をくしゃっと掴んで目をそらした。飛びつこう...
組織を壊滅させる。朱龍を逮捕する。それで全て終わりになる...
壁の掃除。
突然、組織に入って3日目にさせられた壁の掃除を、脈絡も無く...
機械的に、何も考えずにモップで拭いた真っ赤な壁。
バケツの水が、何度変えても赤く濁った。
もし、先輩が。
そう考えついただけで一瞬何かがサブリミナルのようによぎっ...
何も想像したくない、今のこの片鱗だけで胃が捩じれそうだ。
早く、早く終わらせてしまいたい。退蔵は大きく息を吐いた。
逮捕した男はなかなか口を割らない。取り調べで周の名前が出...
覆面車のワゴンで、照と『退史郎』は麻薬の売人が現れるとい...
青空駐車場の端に車を停めてから、まだ10分しか経っていない...
照はチラッとタバコに目をやると、またフロントガラスに目を...
退蔵の時は、タバコを吸う時には必ず一言声をかけていた。多...
照の右手が、座席に投げ出されていた。退蔵はぼんやりそれを...
指先が冷たい。あっためてあげる。
「…なんで、手、握るんだよ…」
照は目を伏せたまま、うろたえたように口ごもった。退蔵は照...
「手つないでちゃだめですか?」
「…変だろ。男どうしで…」
「そりゃそうだ」
右腕を伸ばして灰皿に灰を落としながら、ずっと退蔵は笑顔で...
「それ、一般論ですよね」
「………」
「兄貴のこと、すきだったんでしょ?」
恋人繋ぎに指を絡め直した。照の指が緊張している。退蔵は照...
「兄貴にこうしてもらいたかった?」
「………」
一瞬、照の目に悲痛な色が浮かんだ。
傷ついた顔をしてる。踏みにじられた道端の花みたいだ。
退蔵の中で奇妙な感情が混ざり合った。2つの感情。
そっと庇ってやりたい気持ち。それと同時に、いっそズタズタ...
何故こんな気持ちになるのか、自分でもよくわからない。
次にかけるべき言葉が見つからないまま、ただ、指の感覚にだ...
指先から伝わる体温。柔らかい感触。拳銃を持つ手とは思えな...
照が顔を上げて、初めて退蔵の顔を見てきた。
「…手を離せよ。気が散るだろ」
「イヤです。オレはちゃんと見てます」
「………」
照が指をほどこうとするたび、ぎゅっと掴んでいた。
結局最後まで売人は現れなかった。その間ずっと、退蔵は指を...
「今日か明日あたり、周のアパートがわれると思う。おまえ行...
田所は足を組んで、椅子に背をもたれさせて言った。
「2千万くらい取っとけって言われたんだっけ?派手な使い方す...
「オレが持ち帰れって事ですか?」
「当然だろ、全額署にお持ち帰りじゃ朱龍に怪しまれるだろが...
「2千万なんて大金…」
「車とかいきなり買うなよ?バレないよう地味に使え」
田所は指のさかむけを剥がしながら喋っていた。
「一番人気のない馬に大枚はたいて、オッズを逆転させてから...
「…経験済みですか?」
横目で見ながら聞いた退蔵に、田所は笑って見返してきたが、...
「今回これだけでかいのを見送るのも辛いけどさ、おまえが自...
これを知ったら先輩はなんて思うだろう。田所への厭味ではな...
田所は慰めるように退蔵の腕をポンと叩くと、
「6億8千万かあー…」
と、もう一度他人事のように呟いて、大きく背伸びをした。
田所と別れた退蔵が廊下の角を曲がると、遠くに小動物のよう...
照が何かを拾い集めていた。ただし、その隣にも一緒に拾い集...
千夏だ。2人で散らばった用紙を集めている。
退蔵はそのまま後ずさって、廊下の角まで戻って様子を窺った...
「はい、どうぞ」
「悪い。ありがと」
「照さんて時々こういうの、ありますよね?」
2人でちょっと笑っているような感じがあった。これはなんでも...
なのに2人でいるのを見ると落ち着かない気持ちになる。
耳をすませている自分に嫌気が差してきた時、2人がそれぞれに...
1人はそのまま向こうへ。1人は退蔵のいる方向へ。カツカツと...
人がいないのをいい事に、退蔵はもう少し後ずさって待った。
角から現れたのは千夏だった。退蔵は普通に千夏の方へ歩き出...
すれ違った瞬間、退蔵は千夏を振り返って声をかけた。
「その香水」
「えっ?」
千夏が足を止めて振り返る。退蔵は出来るだけ感じ良く見える...
「凄くいいね。幸せそうな香りがする」
千夏はびっくりしたように退蔵を見て、頬を赤らめると、
「…そうかな。…ありがとう」
と嬉しそうにして、きれいに微笑んだ。退蔵がにっこりすると...
どぎまぎしているような足取り。
それを妙に冷静な気持ちで観察しながら、退蔵は考えていた。
なんだ。簡単なことだ。最初からこうしとけばよかった。
これでこの2人を見て、ざわつく事もなくなるかもしれない。
その日の夕方、キャバクラの呼び込みの男が周の名前を出して...
取り調べを進めるのは田所だった。じわじわと強奪した金の話...
退蔵は照を探していた。デスクワークが山ほどあって、その処...
組織犯罪対策課は明かりが消えていたが、照の机にだけ電気が...
近づくと、照は机に突っ伏して眠っていた。
規則正しい寝息が聞こえる。ライトが当たって、頬が白く照ら...
退蔵はそっと、椅子にかけてあった照のコートを肩に掛けよう...
『退史郎』ではなく『退蔵』の頃、張り込み中眠ってしまった...
今から考えるとあの頃は、贅沢な時間を過ごしていたんだと気...
あの楽園はもう、消えてしまったんだろうか。
コートを掛けると手を離す間もなく、照が身じろぎして目を開...
起こしてしまった。それもあの時と同じだ。
そう思っていたら、照は退蔵の顔を見上げて、やけに明るい表...
「退蔵」
また呼び間違えた。これで3回目。
退蔵はごく普通にそう思っただけだったが、照は違った。
明るい表情がスッと消えた。ゆっくり2回瞬きをした。
だんだん気付いていくようだった。自分が間違えたという事に。
照はゆるく頭を振ると、何も言わずに席を立って、そのまま部...
照のコートを掴んで退蔵も後を追う。
「どうしたんですか、先輩」
照はどんどん歩いて行くと、非常口から外へ出た。退蔵も後か...
「先輩」
燃え切らないまま夕日が沈んだ後の、冷たく蒼い曇り空の下に...
コートを抱えたまま、退蔵は大股で近づいて行った。
「風邪ひきますよ」
雲が闇を連れてくる。冷え切った空気の中で、照の肩はひどく...
コートを広げた退蔵に、照は後ずさって言った。
「いいんだ。頭冷やしたいから」
退蔵はコートを照に押し付けた。
「だめです、着て下さい」
照はコートを受け取ったが、抱えたまま着ようとしない。
空から小さく、何かが光りながら落ちてくる。ひとつ。またひ...
冷たい雨か。今年初めての雪か。
「…兄貴の夢、見てたんですか」
退蔵は少し猫背になって、照の顔を覗き込んだ。
照は黙って立ちつくしている。風で前髪が震えていた。
「オレでよかったら、兄貴の代わりになりますよ」
退蔵は背筋を伸ばすと、少し横柄に言ってみた。また少しだけ...
「いや、いいんだ…わかってるから…」
照はゆっくり瞬きしながら言葉を探していた。前髪が風で煽ら...
目の中で、強く、弱く、光が揺れた。照の言葉が冷たい空気の...
「退蔵は、死んだんだ…」
――驚くほど静かに、涙がこぼれおちた。
消えそうにかすれた声は、実際突風にかき消された。
「もう、どこにもいない…」
考えるより先に、退蔵は腕を伸ばしていた。照の頭と背中を抱...
そのままきつく抱き締めた。腕にぎゅっと、痛いくらい力を込...
オレはここにいる、ここにいる。
きつく抱き締めながら、退蔵の目からも涙が流れ落ちた。
つづく
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ほんとにさるった!最後の最後に!言霊!?その上ナンバリング...
深刻な展開にする一方なんで、独自設定だらけになってるけど...
至らない点が多いかと思いますが、生暖かく見てやって下さい...
辻褄やセリフを合わせる為に、ちょくちょく元ネタの動画を見...
ちょwあんたらwwアホスwwOTLwwwてなる。
(それは言わない約束)
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