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#title(オリジナル えせ時代劇風 遊郭の番頭×化粧師)
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマー...
オリジナル。遊郭の番頭さん化粧師さんの続き。
途中でさるったらすみません。
九尺二間よりはましだが、長屋の土間は狭かった。邪魔するぜ...
狭く、どこへ足を踏み入れて良いか逡巡する。ようやく瓶と転...
する。
見れば板戸を開け放って、化粧師はただ絵筆で細工ものを舐め...
あんたかい、何用だ。
「しばれるな」
どの口が言う。
あまりに幽玄にその月夜を浴びているので、瞬間時が止まった...
に、いや飲まれまい、飲まれてたまるかと下腹に力を入れる。...
「俺が冷えるから、閉めてくれねえか」
頼むと、化粧師は妙な顔をしつつがたがた戸板を閉めた。此方...
化粧師は怪訝な顔をした、ようだ。月明かりがなくなると明か...
濃く、そして複雑になる。
「あんた、あの娘の髪結いに行ったんだってな」
まずは一言間においた。
誰それを指すのかは黙っている。化粧師の反応を見た。
それが用事かよ、であの娘ったァ誰だ、予想通りの返事が返っ...
娘の嫁入りと息子の情死が重なるなんざ、それこそ草子書きの...
どこかで繋がる何かが在る。
あんたしかねえだろう。
「だからどしたい。祝言に呼ばれりゃ、化粧にも髪結いにも行...
それが生業だからよ、と化粧師。ここまではわかる。ああそれ...
ただ俺が腹を立てているのはその先の一点だと、それを一番効...
と、月夜の道すがらそればかり考えていた。
夜半にひとの長屋に乗り込んどいて、手土産も無しかと化粧師...
の中、熱く握り締めていた櫛のかけらを叩きつける。派手な音...
中、それは滑って化粧師の手前で止まる。
菊紋を彫り付け絵付けして、振袖新造になった櫛だった。新造...
派手でないのが粋なンだと、化粧師は鼻で笑って(冗談と自慢...
てんだすまねえなとまた笑っていた。
焼け残りは、その一番端の歯が無い。間違いなかった。
「知ってたんだろう」
そして目の前にして、疑いは確信へ変わった。直感だ。
こんなもの、見なきゃよかった。
叩きつけられた櫛の半分を見て、二呼吸して化粧師の息の音が...
どこで、口がそう動いた。
「あんたの細工だ」
「待ちな旦那、何の」
「うるせえ」
それが引き金だった。取り乱すまい、我を忘れるまいとしてい...
上がる何かで声が震えた。
惚れたはれただの、色街では叶うわけないと嘯いたのは誰だ。...
二つある。化粧師の櫛が二つある。ならば何故か、理由はひと...
「あんた、逃がしたな」
逃がそうとした。
最初から手引きも何もしていない、あの夜あの場に居なかった...
たった一つ、川へぽんと投げ込んだだけなのだろう。
わかっていたから唇を噛んだ。たったそれだけのことだ。
だが情死と足抜けなら事情は違ってくる。こちらがわあわあ川...
と逃げ延びたと思えば、さらにはらわたが煮えくり返った。
その怒りはこの男に向く。足抜けの罪も、責め苦を負うべきも...
男は櫛を投げ捨てたその足で、芯から何事も無かったかのよう...
それが許せぬ。血が滾った。あんたもあのあまもと、同じく叶...
身が震えるほど思うのは、何故あの女の肩を持つのかと。むし...
俺には何故、叶わぬままと言うのか。
「あのあま、勝ち逃げじゃねえかよ」
それに叶わぬなら叶わぬまま、ばっさり斬って捨ててくれ。苦...
のは止めてくれ。吐き気がしやがる。
声を殺して言うくらいなら、最初からぶちまけてくれたら。
「俺は何だ!」
言うなら言え。
俺は突っ立ってるだけだ。畳に上がりこむこともしないし出来...
それすら出来ねえで固まる男だ。
「った、んじゃねえか」
しかし不意に聞こえた声が呻くようで、怒気がそがれた。驚い...
化粧師の声はとおる。檜や竹の清々しい硬さを髣髴とさせるそ...
だが、これは誰の声かと思った。
呻きであったり断末魔であったり、そういった疼めく感情に飲...
まで救いの無いのは。
「この、俺がよ」
いや、やはり化粧師の呻きだ。あの櫛の半分の前、ぐっと首を...
さは無い。
ひとを化かし笑うのが生きがいの、揺ら揺らゆれているだけの...
は初めて見る。血を吐く、血にまみれる、どちらもあった試し...
「何で拾うんだ」
その娘の祝言の仕度を頼まれたのは、以前の縁からだった。
この化粧師、当代きっての腕利きとまではいかぬが、噂をすれ...
し、花嫁とも顔見知りだ。その兄と例の新造のごたごたで廓仕...
めでたい席だ、一丁損得抜きで(いや祝儀ははずむだろうとわ...
出かけていった。
その娘のことは化粧師は好きだった。ころころとよく笑いそれ...
強く、仕度しつつ遊郭通いの兄の様子をからかえば(もう既に...
より大事があって、と笑った。
肝が据わっている。ただ父親と兄のすったもんだもよく知って...
と言う。あにさんはあれで思いつめる性質だからと、おとさん...
感心のため息をついたものだ。
仕度がひと段落して、茶の一杯も出されたとき化粧師は若旦那...
姿を、縁から見とめたのだ。ああ昼は親父と諍って、夜は廓に...
拍車、とは口には出さぬが。
「妹の祝言に、冴えない顔してんじゃないよ」
からかえばほとほと困ったと、思わず同情してしまいそうな笑...
さまもご機嫌斜めだ、せっかくの晴れの日に景気が悪い。
今はまだ小雨だが、こりゃ酷くなるなと煙管をくゆらしていた...
これを、と何かを差し出した。見れば小さな紫の、上等の袱紗...
から頂くぜと返したら、また若旦那はあの心底弱ったとでも言...
大事な妹です、綺麗にしてやって下さいと。言われなくともそ...
言うと若旦那ははははと空虚に笑って(そのように見えた)、...
おいて、せっかくの晴れ姿であるからとまた笑った。
昨今己のせいで、妹に心労をかけているとわかっているのだろ...
弱い。もともと顔と人の良さが売りのような男だが、やつれは...
以上の何かを感じる。
あにさんは思いつめる性質だという妹の弁を思い出す。こうい...
か、化粧師は廓で散々見聞きしてきた。やばい予感が、はねた...
どこか今生の別れのように話している。
若旦那は知ってか知らずか、あんたにも世話になりましたとま...
妹の仕度云々のことだろうが、なりましたときている。過去の...
ぴんと来た。
「あんた、余計なことは考えねえほうがいいぜ」
するり押し殺した声を吐けば、若旦那はその饒舌を止めた。二...
「死んだら元も子もねえ」
ええいくそ、もうちょっと気の利いた台詞は吐けぬものかと己...
これじゃあ無粋だ。
無粋も無粋、この二人もそうだ。叶わねえことにじたばたとし...
純粋で、健気で、ああ畜生、俺は褒めてねえ、断じて褒めてる...
もう会わねえつもりなんだろうとカマをかけると、若旦那は押...
と言われても、こちとら何の関わりも無い。
そうだ。権利もなければ義務も無いのだ。
叶わぬと斬って捨てる義理も無い。
「その覚悟があるなら」
俺は何を言おうとしてるんだと、己が煙管の先端を見ながら思...
煙は、風にもまれてふっと掻き消えた。ああ、こうなりゃ良い...
今日は、おあつらえの天気になりそうだぜ。
「何も残すな、足がつく」
傍も見ずに立ち上がる。素足に北風はすっかり染みていた。誰...
いた。否、思おうとしていた。
そしてそれを忠実に、あの二人は守ったわけだ。否これも、守...
婚礼支度の化粧台、飾り細工を、下女が静々と抱え過ぎようと...
だったのか。
「ああ、待っておくんな」
下女の手中の、飾り櫛をひとつ取る。
黒柘植でよく光った新品だ。花飾りがついているだけのものだ。
「かんざし一つのが、粋だぜ」
そう言って勝手知ったる問屋の中、仕立て部屋の絵付け道具と...
をむしりその櫛を、まるであの櫛のように。
全く同じものを二つ、そしてその二つともを何故か、この男が...
「何であんたなんだ」
どっちの櫛も、と。
「そんな訳あるかって、その程度のほんの、ほんの少しだけの」
化粧師は苦しげに、そんな可能性を何故拾うのかと言う。問わ...
か、何を賭けたのかこちらから問うた。
「叶えたく、なったんじゃねえかよ!」
すると化粧師は、そう嗚咽して髪を掻き抱いた。
がり、絵筆を齧る音すらした。その八重歯のことを、場違いに...
みるみる肩が震えて、吐露するものが、その体からずるり抜け...
して、化粧師の影も己の影も揺れた。
その何かがごうおと、見えぬ嵐のようにその場を凪ぐ。
「あんたさえ拾わなけりゃ、気づかなけりゃと、俺はずっと」
ぽんと、闇夜に川にひとつの櫛。
「ずっとだ」
まさか、な。
たったそれだけくらい、冗談のような賭けだ。若しや新造が躊...
だけのこと。いやそれ以前に、これが今日の日でなければ、全...
も何も起こりはせぬ。
罪滅ぼしの意味も、己の良心の呵責もあった。手に手を取って...
折檻、拷問が待っている。それをも知っていた。
逃げ延びたのかは知らぬ。もしかしたら本当に、川底に沈んだ...
どうでもいい。
叶うわけねえよ、叶わねえよ。ああそりゃそうだろう。だがも...
あんたさえ拾わなけりゃ、気づかなけりゃ。
だがもしあんたが拾ったなら、うまくいったならそれは。
ああ逆だ、何でもかんでも嫌がらせみたいにかちりかちり、噛...
目を逸らすなと、そういうことか。俺は目を逸らせやしないの...
畜生。
やがて、ふうふうと息を吐ききって、ようやっと顔を上げた化...
あばれ狂った後の、その目はやたらつめたかった。
狭い、この距離なんざ僅かだ。
結わえきれぬ髪も好い。伸ばした手のひらに触れ掴める。
そのまま仰向けに押しやっても、化粧師は冷静だった。いつぞ...
と絵皿へ戻すこともする。
目は逸らさず真っ直ぐのままだ。
畳のまんまはちょいとつらいなと言うので、押しやられていた...
がいに掛けた指を化粧師は好きにさせておく。
喰らいつくように口付け貪っても、もれるのは継ぐ息の音だけ...
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
やっとここまで来ました。
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オリジナル。遊郭の番頭さん化粧師さんの続き。
途中でさるったらすみません。
九尺二間よりはましだが、長屋の土間は狭かった。邪魔するぜ...
狭く、どこへ足を踏み入れて良いか逡巡する。ようやく瓶と転...
する。
見れば板戸を開け放って、化粧師はただ絵筆で細工ものを舐め...
あんたかい、何用だ。
「しばれるな」
どの口が言う。
あまりに幽玄にその月夜を浴びているので、瞬間時が止まった...
に、いや飲まれまい、飲まれてたまるかと下腹に力を入れる。...
「俺が冷えるから、閉めてくれねえか」
頼むと、化粧師は妙な顔をしつつがたがた戸板を閉めた。此方...
化粧師は怪訝な顔をした、ようだ。月明かりがなくなると明か...
濃く、そして複雑になる。
「あんた、あの娘の髪結いに行ったんだってな」
まずは一言間においた。
誰それを指すのかは黙っている。化粧師の反応を見た。
それが用事かよ、であの娘ったァ誰だ、予想通りの返事が返っ...
娘の嫁入りと息子の情死が重なるなんざ、それこそ草子書きの...
どこかで繋がる何かが在る。
あんたしかねえだろう。
「だからどしたい。祝言に呼ばれりゃ、化粧にも髪結いにも行...
それが生業だからよ、と化粧師。ここまではわかる。ああそれ...
ただ俺が腹を立てているのはその先の一点だと、それを一番効...
と、月夜の道すがらそればかり考えていた。
夜半にひとの長屋に乗り込んどいて、手土産も無しかと化粧師...
の中、熱く握り締めていた櫛のかけらを叩きつける。派手な音...
中、それは滑って化粧師の手前で止まる。
菊紋を彫り付け絵付けして、振袖新造になった櫛だった。新造...
派手でないのが粋なンだと、化粧師は鼻で笑って(冗談と自慢...
てんだすまねえなとまた笑っていた。
焼け残りは、その一番端の歯が無い。間違いなかった。
「知ってたんだろう」
そして目の前にして、疑いは確信へ変わった。直感だ。
こんなもの、見なきゃよかった。
叩きつけられた櫛の半分を見て、二呼吸して化粧師の息の音が...
どこで、口がそう動いた。
「あんたの細工だ」
「待ちな旦那、何の」
「うるせえ」
それが引き金だった。取り乱すまい、我を忘れるまいとしてい...
上がる何かで声が震えた。
惚れたはれただの、色街では叶うわけないと嘯いたのは誰だ。...
二つある。化粧師の櫛が二つある。ならば何故か、理由はひと...
「あんた、逃がしたな」
逃がそうとした。
最初から手引きも何もしていない、あの夜あの場に居なかった...
たった一つ、川へぽんと投げ込んだだけなのだろう。
わかっていたから唇を噛んだ。たったそれだけのことだ。
だが情死と足抜けなら事情は違ってくる。こちらがわあわあ川...
と逃げ延びたと思えば、さらにはらわたが煮えくり返った。
その怒りはこの男に向く。足抜けの罪も、責め苦を負うべきも...
男は櫛を投げ捨てたその足で、芯から何事も無かったかのよう...
それが許せぬ。血が滾った。あんたもあのあまもと、同じく叶...
身が震えるほど思うのは、何故あの女の肩を持つのかと。むし...
俺には何故、叶わぬままと言うのか。
「あのあま、勝ち逃げじゃねえかよ」
それに叶わぬなら叶わぬまま、ばっさり斬って捨ててくれ。苦...
のは止めてくれ。吐き気がしやがる。
声を殺して言うくらいなら、最初からぶちまけてくれたら。
「俺は何だ!」
言うなら言え。
俺は突っ立ってるだけだ。畳に上がりこむこともしないし出来...
それすら出来ねえで固まる男だ。
「った、んじゃねえか」
しかし不意に聞こえた声が呻くようで、怒気がそがれた。驚い...
化粧師の声はとおる。檜や竹の清々しい硬さを髣髴とさせるそ...
だが、これは誰の声かと思った。
呻きであったり断末魔であったり、そういった疼めく感情に飲...
まで救いの無いのは。
「この、俺がよ」
いや、やはり化粧師の呻きだ。あの櫛の半分の前、ぐっと首を...
さは無い。
ひとを化かし笑うのが生きがいの、揺ら揺らゆれているだけの...
は初めて見る。血を吐く、血にまみれる、どちらもあった試し...
「何で拾うんだ」
その娘の祝言の仕度を頼まれたのは、以前の縁からだった。
この化粧師、当代きっての腕利きとまではいかぬが、噂をすれ...
し、花嫁とも顔見知りだ。その兄と例の新造のごたごたで廓仕...
めでたい席だ、一丁損得抜きで(いや祝儀ははずむだろうとわ...
出かけていった。
その娘のことは化粧師は好きだった。ころころとよく笑いそれ...
強く、仕度しつつ遊郭通いの兄の様子をからかえば(もう既に...
より大事があって、と笑った。
肝が据わっている。ただ父親と兄のすったもんだもよく知って...
と言う。あにさんはあれで思いつめる性質だからと、おとさん...
感心のため息をついたものだ。
仕度がひと段落して、茶の一杯も出されたとき化粧師は若旦那...
姿を、縁から見とめたのだ。ああ昼は親父と諍って、夜は廓に...
拍車、とは口には出さぬが。
「妹の祝言に、冴えない顔してんじゃないよ」
からかえばほとほと困ったと、思わず同情してしまいそうな笑...
さまもご機嫌斜めだ、せっかくの晴れの日に景気が悪い。
今はまだ小雨だが、こりゃ酷くなるなと煙管をくゆらしていた...
これを、と何かを差し出した。見れば小さな紫の、上等の袱紗...
から頂くぜと返したら、また若旦那はあの心底弱ったとでも言...
大事な妹です、綺麗にしてやって下さいと。言われなくともそ...
言うと若旦那ははははと空虚に笑って(そのように見えた)、...
おいて、せっかくの晴れ姿であるからとまた笑った。
昨今己のせいで、妹に心労をかけているとわかっているのだろ...
弱い。もともと顔と人の良さが売りのような男だが、やつれは...
以上の何かを感じる。
あにさんは思いつめる性質だという妹の弁を思い出す。こうい...
か、化粧師は廓で散々見聞きしてきた。やばい予感が、はねた...
どこか今生の別れのように話している。
若旦那は知ってか知らずか、あんたにも世話になりましたとま...
妹の仕度云々のことだろうが、なりましたときている。過去の...
ぴんと来た。
「あんた、余計なことは考えねえほうがいいぜ」
するり押し殺した声を吐けば、若旦那はその饒舌を止めた。二...
「死んだら元も子もねえ」
ええいくそ、もうちょっと気の利いた台詞は吐けぬものかと己...
これじゃあ無粋だ。
無粋も無粋、この二人もそうだ。叶わねえことにじたばたとし...
純粋で、健気で、ああ畜生、俺は褒めてねえ、断じて褒めてる...
もう会わねえつもりなんだろうとカマをかけると、若旦那は押...
と言われても、こちとら何の関わりも無い。
そうだ。権利もなければ義務も無いのだ。
叶わぬと斬って捨てる義理も無い。
「その覚悟があるなら」
俺は何を言おうとしてるんだと、己が煙管の先端を見ながら思...
煙は、風にもまれてふっと掻き消えた。ああ、こうなりゃ良い...
今日は、おあつらえの天気になりそうだぜ。
「何も残すな、足がつく」
傍も見ずに立ち上がる。素足に北風はすっかり染みていた。誰...
いた。否、思おうとしていた。
そしてそれを忠実に、あの二人は守ったわけだ。否これも、守...
婚礼支度の化粧台、飾り細工を、下女が静々と抱え過ぎようと...
だったのか。
「ああ、待っておくんな」
下女の手中の、飾り櫛をひとつ取る。
黒柘植でよく光った新品だ。花飾りがついているだけのものだ。
「かんざし一つのが、粋だぜ」
そう言って勝手知ったる問屋の中、仕立て部屋の絵付け道具と...
をむしりその櫛を、まるであの櫛のように。
全く同じものを二つ、そしてその二つともを何故か、この男が...
「何であんたなんだ」
どっちの櫛も、と。
「そんな訳あるかって、その程度のほんの、ほんの少しだけの」
化粧師は苦しげに、そんな可能性を何故拾うのかと言う。問わ...
か、何を賭けたのかこちらから問うた。
「叶えたく、なったんじゃねえかよ!」
すると化粧師は、そう嗚咽して髪を掻き抱いた。
がり、絵筆を齧る音すらした。その八重歯のことを、場違いに...
みるみる肩が震えて、吐露するものが、その体からずるり抜け...
して、化粧師の影も己の影も揺れた。
その何かがごうおと、見えぬ嵐のようにその場を凪ぐ。
「あんたさえ拾わなけりゃ、気づかなけりゃと、俺はずっと」
ぽんと、闇夜に川にひとつの櫛。
「ずっとだ」
まさか、な。
たったそれだけくらい、冗談のような賭けだ。若しや新造が躊...
だけのこと。いやそれ以前に、これが今日の日でなければ、全...
も何も起こりはせぬ。
罪滅ぼしの意味も、己の良心の呵責もあった。手に手を取って...
折檻、拷問が待っている。それをも知っていた。
逃げ延びたのかは知らぬ。もしかしたら本当に、川底に沈んだ...
どうでもいい。
叶うわけねえよ、叶わねえよ。ああそりゃそうだろう。だがも...
あんたさえ拾わなけりゃ、気づかなけりゃ。
だがもしあんたが拾ったなら、うまくいったならそれは。
ああ逆だ、何でもかんでも嫌がらせみたいにかちりかちり、噛...
目を逸らすなと、そういうことか。俺は目を逸らせやしないの...
畜生。
やがて、ふうふうと息を吐ききって、ようやっと顔を上げた化...
あばれ狂った後の、その目はやたらつめたかった。
狭い、この距離なんざ僅かだ。
結わえきれぬ髪も好い。伸ばした手のひらに触れ掴める。
そのまま仰向けに押しやっても、化粧師は冷静だった。いつぞ...
と絵皿へ戻すこともする。
目は逸らさず真っ直ぐのままだ。
畳のまんまはちょいとつらいなと言うので、押しやられていた...
がいに掛けた指を化粧師は好きにさせておく。
喰らいつくように口付け貪っても、もれるのは継ぐ息の音だけ...
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