ページ内容へ
ナビゲーションへ
当サイトをご覧いただくにはブラウザの設定で
JavaScriptを有効に設定
する必要がございます。
ページの一覧
最終更新一覧
ヘルプ
ホーム
使い方
文字サイズ:小
文字サイズ:中
文字サイズ:大
1つ前のページに戻る
42-534
をテンプレートにして作成
開始行:
#title(笑う犬の冒険 てるとたいぞう 「今夜はブギー・バッグ」)
いけそうかも。容量がよくわからないのですが(嫌な予感)様...
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
また見てる。
照が顔を見つめてくるのには、今までずっと気付いていた。そ...
「水商売中心に聞き込みすりゃいいですね」
そう言って、それから初めて目を合わせた。
視線を外すかと思ったら、臆する事無く真っすぐ見つめ返して...
瞳の透明さに心を掴まれた。逆に退蔵の方が目を離せなくなっ...
「ちょっと貸して」
照は退蔵から地図を受け取ると、重要な箇所に書き込みしてい...
退蔵は俯いた照の顔を横から見た。それからペンを走らせる照...
白くて小さい子供っぽい手。深爪し過ぎて余計に幼く見える。
さわりたい。急に触れたくなった。
地図を覗き込むふりで、退蔵は照に顔を寄せた。お互いの髪の...
それだけで、髪の毛の先から柔らかくて温かい体温を感じた。
ふと、照が退蔵の書き込んだ字をじっと見ているのに気付いた...
『退史郎』の時は『退蔵』の字とは変えていた。そこまでした...
退蔵は照の肩に手をまわした。肩が少しこわばるのを手のひら...
「オレは兄貴に似てますか?」
照は何も答えずに、『退史郎』の書いた字に目を落としていた。
退蔵が照に勝手に会いに行ったのを知って、田所は知るなり激...
しかし、ばれる前に前もって警視長に話を通し、元の配置につ...
田所が様々な支障が考えられると配置換えを提案しても、一番...
小会議室の窓際で、田所はイライラとブラインドを閉めながら...
「そもそも身内や血縁者は、同じ部署へ配置しない前提なんだ...
「なんででしたっけ?」
「癒着や汚職の温床になるからだ」
「汚職ねえ?」
退蔵はからかうように顎を上げて田所を見返した。田所はカッ...
「おまえ、この状況をよく考えろよ?おまえが下手打てば誰か...
と退蔵を睨みつけた。退蔵は顔から笑いを消した。
「真面目な話だ。朱龍がおまえをスパイにした事の意味をよく...
田所は窓に背を向けると、退蔵に向き直って言った。
「堕落した元刑事が、かつての仲間にあっさり尻尾振って、組...
「…オレが署内でどう行動するかで、オレの今後を見極めようと...
「そういう事だ。一度黒社会に身を落とした人間が、このまま...
「つまりここで身内とよりを戻したと判断されれば、オレが始...
あっさり言った退蔵に、田所はどこかが痛むかのように表情を...
「おまえが変な行動を起こせば、オレらは3人ともヤバいんだ。...
「……」
「今言っとく。オレはおまえの見張り役だ。朱龍に直に命令さ...
田所はやたらと部屋の中を歩き回っていた。退蔵はそれを黙っ...
「いいか、ここは上手くやれよ。下手に刑事らしくして、何も...
落ち着かない田所を退蔵はじっと目で追って、頷いた。
「山根組の幹部に、朱龍にいいように使われてるヤツがいる。...
「そんな事していいんですか?」
「許可済みだ。上も目をつぶる。おまえは山根組の誰が現れる...
「ファイルは田所さんが持ち出すんですか?」
「照に頼んで、資料一式受け取ってくれ」
退蔵は眉を顰めた。
「…先輩の手まで汚させる気ですか」
「仕方ないだろ。オレは強制捜査自体には噛んでいない。照に...
「…そうしてオレの手も汚させて、一人すっきりした顔でいられ...
「オレがすっきりしているように見えるのかよ?」
田所は自嘲気味に口を歪めて笑い、すぐに表情を失くした。
「来週の火曜にアポを取って、山根組と会え」
「その日はオレ、先輩と現場に出なきゃいけないんですがね」
「オレと大内とで替われるように空けておく。照には週明けま...
田所は腕時計を見ると、そこで話を切り上げた。
退蔵は昼食をとる為に、署内の食堂に行った。そろそろ1時だが...
ここの食堂にはカツ丼がない。刑事と言えばカツ丼じゃないか...
空いた席を適当に探していたら、照と捜査課の千夏が2人で笑い...
聞き耳をたてるわけじゃない、と退蔵は思った。そういうわけ...
「もー私がっかりしましたよー。なんのために早起きしたんだ...
「あるね、そういうの。そーいう時に限って、時間経つの遅い...
どうせたわいのない話だ。だけどやけに楽しそうに喋っている...
味も感じないまま鮭をつついていると、千夏が声の調子を変え...
「照さん、元気出てよかった」
「え?」
「心配してたんですよー、ずっと。安心した。もう大丈夫みた...
照がその言葉にどう反応したのかはわからなかったが、千夏は...
「ねえ、またこの前みんなで行ったとこ、飲みに行きませんか...
「ああ、焼鳥んとこ?」
「あそこのつくね、おいしいでしょ?私ね、あの店からちょっ...
「あーおれ変わってんのはちょっと…」
「照さん、そこはね、本っ当においしいですよ!一度食べてみ...
退蔵はそっと後ろを窺った。千夏は照に向かって、花が咲いた...
可愛らしい笑顔。それを退蔵は、媚びるような笑顔だと感じて...
翌週の水曜日の夕方。誰もいないので好都合だと思い、退蔵は...
「たい、…」
呼びかけようとして、照は口を濁した。
まただ。これで何度目になる?今まで何度も照は、名前を呼び...
気付かなかったふりで画面に現れた文書に目を落としていると...
「…ちょっと待て、退史郎、おまえ何見てんだ?」
「はい?」
「これ田所が編集した資料じゃないか、何嗅ぎまわってる?」
疑われちゃったか、と退蔵は思った。田所に見るように言われ...
照は画面の内容を読み取ろうと身を乗り出した。
「おまえ、まさかまた何か…」
「見てただけですよ。ほら、たいした内容じゃないでしょ?」
退蔵は苦笑いを浮かべて、照に席を譲った。照は画面をスクロ...
その肩に後ろから両手を置いた。顔を寄せると、一瞬照の体が...
「…普通の資料でしょ?」
耳元で低く囁くと、肩が一瞬震えた。肩に置いた手を滑らせて...
さわりたい。なんだかやたらとさわっていたい。
腕に少し力をこめて、照の耳に自分の頬をこすらせた。
照はされるがままになっている。さわり始めると、ずっとさわ...
今までずっと離れていた。こうして触れて体温を感じるだけで...
それと同時に、「なんでこんなに簡単に触らせているんだ」と...
これは『退蔵』じゃなくて『退史郎』なのに。退蔵とは別の人...
「…何を考えてるんだよ」
急に照が左手で退蔵の腕を掴んで、どこか苦しそうに呟いた。
「おまえが何考えてんのかわからない。…情報を売ってるのは前...
退蔵は後ろから抱き締めたまま答えた。
「昨日も言ったでしょ?今の生活に満足してますかって。いつ...
照が自分の顔を見ようと顔を向けたので、肩に指先を残したま...
「考え方ひとつでこの方がうまくいくんです。長い目で見た時...
急に照は立ち上がると、退蔵を見下ろして言い返した。
「…そんなわけない。ヤクザと金で繋がって、何がうまくいくん...
退蔵も立ち上がって、10cm近くある身長差で照を見下ろした。...
「必要悪ってヤツです」
急に下から襟首を掴まれた。
「貴様、それでも刑事か!」
両手で掴んで、下から見上げるように照が睨みつけてきた。そ...
「…はい。そうですよ」
退蔵は両手で照の髪に触れた。
「刑事だって、正義の味方でばかりはいられないんです。先輩...
照は憤ったように、掴んでいた手で思い切り退蔵の手を振り払...
「刑事として、信念と誇りを持つのが自分を大事にするって事...
「きれい事だけじゃ潰れちゃいますよ、先輩」
退蔵は首を傾けた。今救いたいのはあんただけ。何が正しくて...
その時、照が見ているのが自分の目ではなく、左耳だと気付い...
左耳を何故?と思ってすぐに、ピアスの孔だ、と気付く。左耳...
今までずっと、退史郎として見られている間、照は『退蔵』と...
退蔵との違いを一つ一つ探しているのかもしれない。そうして...
急に照は目をつぶった。そのまま退蔵と視線を合わさず、何も...
それから30分後、退蔵はディスクを戻しに資料室へと歩いた。
「正直、退史郎をどう思う?」
中から田所の声が聞こえてきて、退蔵はドアノブに伸ばした手...
「いくらなんでも似過ぎだよな。最初に会った時、どう思った...
田所が話しかけている相手はしばらく黙っていたが、やがて一...
「…わからない」
と答えた。照の声だった。
「なんだよ、わからないってことがあるかよ」
「本当によくわからない。そっくりだとは思うんだ。時々、本...
退蔵は扉にもたれかかって、照の声を聞いていた。
「少なくとも、退蔵はヤクザと懇意になったりしなかった」
「…そうだな」
田所が答えるのを聞いて、退蔵は吹き出したくなった。
可笑しくてたまらなかった。田所さん、あんた今どんな顔して...
「…ちょっと待て」
田所の声がして、椅子を引く音がした。次の瞬間、扉が勢いよ...
反射的に退蔵はにやっと笑顔を見せた。
「…退史郎」
声を上げたのは田所ではなく照の方だった。退蔵は部屋に入る...
「オレは兄貴とは違いますか?」
照はどことなくつらそうな顔をして、目を伏せると、
「おれは先に帰る」
と退蔵の脇をすり抜けて、部屋を出て行った。
また逃げるんだ、と退蔵は思った。
照の足音が遠ざかるのを待って、田所が念の為扉を細く開けて...
「どういうつもりだ」
「それはこっちのセリフですよ。田所さん言ってましたよね。...
退蔵は壁に頭をもたれさせて腕を組むと、田所を見下ろして強...
「あんたコソコソ何やってんだ?何を吹き込もうとしたんだよ」
「吹き込もうとしてんのはそっちだろうが。おまえ照に何言っ...
田所は退蔵に近寄ると、至近距離で睨みつけた。すぐにピンと...
「先輩何か言ってましたか」
「とぼけるな。なんか照にオレのこと言ったんだろ!」
山根組の密会の時に、照に言った事だろう。退蔵はストレート...
「田所さんだって同じような事やってるって言っただけですよ...
田所は両手を堅く握り締めて、声を絞り出した。
「おまえ、自分の立場を本当にわかってんのか?自分の首を絞...
退蔵は感情の無い目で田所を見返し、そのまま部屋を出た。
署の外へ出ると、照が立っていた。沈みかけた太陽を背にして...
「もしかして、待っててくれたんですか?」
馴れ馴れしさを装って、近付くと肩に手をまわそうとしたがス...
「これからどこへ行くんだ?」
「このまま帰りますよ。いけませんか?当直明けで昨日からず...
退蔵は首を傾けて答えた。照は口を噤んで、夕焼けの中に佇ん...
空の上にはまだ青空がうっすら残っているのに、底の方は燃え...
群青と藍色と朱と茜色の合間に、雲の白と、山吹と金色の光の...
その真ん中に照がいて、光と影にふちどられていた。
これは、ここでしか見れない景色。ここでしか吸えない空気。
あんたがここにいるってだけで、この世界にも価値があると思...
眩しさで目を細めながら、退蔵は聞いた。
「オレが言った事、田所さんにそのまんま聞いちゃったんです...
「…聞いた」
「ストレートな人だな」
笑いながら手に触れようとすると、後ずさって逃げられた。退...
「田所さんはなんて?」
照は退蔵の目をまっすぐ睨みつけて言った。
「…田所はそんなことするヤツじゃない。おれは信じてる」
「オレより田所さんを信じるんですね」
「当たり前だろ。いきなり現れたおまえをどう信じればいいん...
その言葉に、心のどこか深い部分が本気でえぐられた。
きつい目をしていた照の表情が少し揺らいだ。どこか気遣うよ...
もしかして、自分で思う以上に傷ついた顔をしてしまったんだ...
退蔵はわざと軽薄な表情を作って笑うと、背を向けて歩き出し...
朱龍の『オフィス』から徒歩3分のアパートに『退史郎』の現住...
住民の半分以上が中国人だ。更にその全員が朱龍の下で働く人...
監視されてるのも同然だ。部屋に盗聴器が仕掛けられているか...
寒々しい打ちっ放しの1DKにユニットバスの部屋。退蔵は玄関...
ロケットになっていて、中に写真が入れてある。照の写真。
恥ずかしくてくだらない。だけど会えない間は身に着けずにい...
そんな恥ずかしくてくだらない代物でも、見つかれば命取りだ...
誰にも傷つけさせない。誰にも渡さない。退蔵は祈るようにロ...
もし苦しんでいるのなら、『退蔵』のことは忘れてくれていい。
だけど他の誰にも惑わされないで。心変わりの相手なら『退史...
退蔵はまた靴を履くと、もう一度コートを羽織って朱龍の元へ...
螺鈿細工で鳥が描かれた背もたれの高い椅子に座り、黒いマオ...
「人を殺した事があるか?」
そういう話も出るかもしれないとは思っていた。慎重に答えな...
「まだ、ありません」
「試しに一人、消してみるか?」
朱龍は黒檀の円卓の上に、写真を一枚差し出した。退蔵は視線...
照が写っていた。
退蔵は表情を変えなかった。
「こいつはワタシの弟の人生を終わらせた。そろそろこいつの...
朱龍は身を乗り出して、口元に笑いを浮かべた。退蔵も笑いを...
「死ぬよりつらい事って、なんですか?」
「いきなりだな?」
ニッと笑う朱龍に、写真を指で押し返すと、退蔵はゆっくりと...
「この人ね。正義は正義、悪は悪って思ってます。白か黒。中...
退蔵は笑いを浮かべたまま、静かに話し続けた。
「この前の山根組の強制捜査の情報。この人にファイルを持っ...
朱龍は写真を手に取ると、眺めながらヒラヒラと振った。退蔵...
「この人利用できますよ。まだまだ利用できます。ここからい...
朱龍は笑いを含んだ眼で退蔵を眺めた。その眼から真意は読み...
「面白そうだから、しばらくおまえに任せよう」
そう言って朱龍は楽しそうに写真を裏返すと、椅子に背をもた...
退蔵は写真を目にしてから最後に席を立つまで、ずっと表情を...
外に出て、アパートまで戻る間もそれほど表情を変えなかった。
玄関の鍵を開け、明かりを点ける。靴を脱いで、コートのまま...
思い切り蛇口をひねった。勢いよく水を出して、退蔵はそこで...
前にもこんなふうにいきなり吐いた事があったな。そう思い出...
洗面台に手をついて、目を閉じる。照の姿が残像のように現れ...
淡いネオンの光の中から、薄く影になって、自分へと手を差し...
その残像を退蔵は目を閉じたまま、瞼の裏で、大切に大切に眺...
絶対に守り通す。
あんたがオレの心を守ってくれているように。
ぎゅっとロケットを握る。退蔵は口をぬぐうと、力をこめて蛇...
つづく
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
いろいろとスイマセン。全部入った!ヨカター
話の中に出てくる大内は、久々に藁う戌見た時に「大内?誰?…...
検索避けの伏名にしなくても、このままでいいだろなという理...
また続きを10日前後かけて書いてきます。今度こそもう少し量...
#comment
終了行:
#title(笑う犬の冒険 てるとたいぞう 「今夜はブギー・バッグ」)
いけそうかも。容量がよくわからないのですが(嫌な予感)様...
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
また見てる。
照が顔を見つめてくるのには、今までずっと気付いていた。そ...
「水商売中心に聞き込みすりゃいいですね」
そう言って、それから初めて目を合わせた。
視線を外すかと思ったら、臆する事無く真っすぐ見つめ返して...
瞳の透明さに心を掴まれた。逆に退蔵の方が目を離せなくなっ...
「ちょっと貸して」
照は退蔵から地図を受け取ると、重要な箇所に書き込みしてい...
退蔵は俯いた照の顔を横から見た。それからペンを走らせる照...
白くて小さい子供っぽい手。深爪し過ぎて余計に幼く見える。
さわりたい。急に触れたくなった。
地図を覗き込むふりで、退蔵は照に顔を寄せた。お互いの髪の...
それだけで、髪の毛の先から柔らかくて温かい体温を感じた。
ふと、照が退蔵の書き込んだ字をじっと見ているのに気付いた...
『退史郎』の時は『退蔵』の字とは変えていた。そこまでした...
退蔵は照の肩に手をまわした。肩が少しこわばるのを手のひら...
「オレは兄貴に似てますか?」
照は何も答えずに、『退史郎』の書いた字に目を落としていた。
退蔵が照に勝手に会いに行ったのを知って、田所は知るなり激...
しかし、ばれる前に前もって警視長に話を通し、元の配置につ...
田所が様々な支障が考えられると配置換えを提案しても、一番...
小会議室の窓際で、田所はイライラとブラインドを閉めながら...
「そもそも身内や血縁者は、同じ部署へ配置しない前提なんだ...
「なんででしたっけ?」
「癒着や汚職の温床になるからだ」
「汚職ねえ?」
退蔵はからかうように顎を上げて田所を見返した。田所はカッ...
「おまえ、この状況をよく考えろよ?おまえが下手打てば誰か...
と退蔵を睨みつけた。退蔵は顔から笑いを消した。
「真面目な話だ。朱龍がおまえをスパイにした事の意味をよく...
田所は窓に背を向けると、退蔵に向き直って言った。
「堕落した元刑事が、かつての仲間にあっさり尻尾振って、組...
「…オレが署内でどう行動するかで、オレの今後を見極めようと...
「そういう事だ。一度黒社会に身を落とした人間が、このまま...
「つまりここで身内とよりを戻したと判断されれば、オレが始...
あっさり言った退蔵に、田所はどこかが痛むかのように表情を...
「おまえが変な行動を起こせば、オレらは3人ともヤバいんだ。...
「……」
「今言っとく。オレはおまえの見張り役だ。朱龍に直に命令さ...
田所はやたらと部屋の中を歩き回っていた。退蔵はそれを黙っ...
「いいか、ここは上手くやれよ。下手に刑事らしくして、何も...
落ち着かない田所を退蔵はじっと目で追って、頷いた。
「山根組の幹部に、朱龍にいいように使われてるヤツがいる。...
「そんな事していいんですか?」
「許可済みだ。上も目をつぶる。おまえは山根組の誰が現れる...
「ファイルは田所さんが持ち出すんですか?」
「照に頼んで、資料一式受け取ってくれ」
退蔵は眉を顰めた。
「…先輩の手まで汚させる気ですか」
「仕方ないだろ。オレは強制捜査自体には噛んでいない。照に...
「…そうしてオレの手も汚させて、一人すっきりした顔でいられ...
「オレがすっきりしているように見えるのかよ?」
田所は自嘲気味に口を歪めて笑い、すぐに表情を失くした。
「来週の火曜にアポを取って、山根組と会え」
「その日はオレ、先輩と現場に出なきゃいけないんですがね」
「オレと大内とで替われるように空けておく。照には週明けま...
田所は腕時計を見ると、そこで話を切り上げた。
退蔵は昼食をとる為に、署内の食堂に行った。そろそろ1時だが...
ここの食堂にはカツ丼がない。刑事と言えばカツ丼じゃないか...
空いた席を適当に探していたら、照と捜査課の千夏が2人で笑い...
聞き耳をたてるわけじゃない、と退蔵は思った。そういうわけ...
「もー私がっかりしましたよー。なんのために早起きしたんだ...
「あるね、そういうの。そーいう時に限って、時間経つの遅い...
どうせたわいのない話だ。だけどやけに楽しそうに喋っている...
味も感じないまま鮭をつついていると、千夏が声の調子を変え...
「照さん、元気出てよかった」
「え?」
「心配してたんですよー、ずっと。安心した。もう大丈夫みた...
照がその言葉にどう反応したのかはわからなかったが、千夏は...
「ねえ、またこの前みんなで行ったとこ、飲みに行きませんか...
「ああ、焼鳥んとこ?」
「あそこのつくね、おいしいでしょ?私ね、あの店からちょっ...
「あーおれ変わってんのはちょっと…」
「照さん、そこはね、本っ当においしいですよ!一度食べてみ...
退蔵はそっと後ろを窺った。千夏は照に向かって、花が咲いた...
可愛らしい笑顔。それを退蔵は、媚びるような笑顔だと感じて...
翌週の水曜日の夕方。誰もいないので好都合だと思い、退蔵は...
「たい、…」
呼びかけようとして、照は口を濁した。
まただ。これで何度目になる?今まで何度も照は、名前を呼び...
気付かなかったふりで画面に現れた文書に目を落としていると...
「…ちょっと待て、退史郎、おまえ何見てんだ?」
「はい?」
「これ田所が編集した資料じゃないか、何嗅ぎまわってる?」
疑われちゃったか、と退蔵は思った。田所に見るように言われ...
照は画面の内容を読み取ろうと身を乗り出した。
「おまえ、まさかまた何か…」
「見てただけですよ。ほら、たいした内容じゃないでしょ?」
退蔵は苦笑いを浮かべて、照に席を譲った。照は画面をスクロ...
その肩に後ろから両手を置いた。顔を寄せると、一瞬照の体が...
「…普通の資料でしょ?」
耳元で低く囁くと、肩が一瞬震えた。肩に置いた手を滑らせて...
さわりたい。なんだかやたらとさわっていたい。
腕に少し力をこめて、照の耳に自分の頬をこすらせた。
照はされるがままになっている。さわり始めると、ずっとさわ...
今までずっと離れていた。こうして触れて体温を感じるだけで...
それと同時に、「なんでこんなに簡単に触らせているんだ」と...
これは『退蔵』じゃなくて『退史郎』なのに。退蔵とは別の人...
「…何を考えてるんだよ」
急に照が左手で退蔵の腕を掴んで、どこか苦しそうに呟いた。
「おまえが何考えてんのかわからない。…情報を売ってるのは前...
退蔵は後ろから抱き締めたまま答えた。
「昨日も言ったでしょ?今の生活に満足してますかって。いつ...
照が自分の顔を見ようと顔を向けたので、肩に指先を残したま...
「考え方ひとつでこの方がうまくいくんです。長い目で見た時...
急に照は立ち上がると、退蔵を見下ろして言い返した。
「…そんなわけない。ヤクザと金で繋がって、何がうまくいくん...
退蔵も立ち上がって、10cm近くある身長差で照を見下ろした。...
「必要悪ってヤツです」
急に下から襟首を掴まれた。
「貴様、それでも刑事か!」
両手で掴んで、下から見上げるように照が睨みつけてきた。そ...
「…はい。そうですよ」
退蔵は両手で照の髪に触れた。
「刑事だって、正義の味方でばかりはいられないんです。先輩...
照は憤ったように、掴んでいた手で思い切り退蔵の手を振り払...
「刑事として、信念と誇りを持つのが自分を大事にするって事...
「きれい事だけじゃ潰れちゃいますよ、先輩」
退蔵は首を傾けた。今救いたいのはあんただけ。何が正しくて...
その時、照が見ているのが自分の目ではなく、左耳だと気付い...
左耳を何故?と思ってすぐに、ピアスの孔だ、と気付く。左耳...
今までずっと、退史郎として見られている間、照は『退蔵』と...
退蔵との違いを一つ一つ探しているのかもしれない。そうして...
急に照は目をつぶった。そのまま退蔵と視線を合わさず、何も...
それから30分後、退蔵はディスクを戻しに資料室へと歩いた。
「正直、退史郎をどう思う?」
中から田所の声が聞こえてきて、退蔵はドアノブに伸ばした手...
「いくらなんでも似過ぎだよな。最初に会った時、どう思った...
田所が話しかけている相手はしばらく黙っていたが、やがて一...
「…わからない」
と答えた。照の声だった。
「なんだよ、わからないってことがあるかよ」
「本当によくわからない。そっくりだとは思うんだ。時々、本...
退蔵は扉にもたれかかって、照の声を聞いていた。
「少なくとも、退蔵はヤクザと懇意になったりしなかった」
「…そうだな」
田所が答えるのを聞いて、退蔵は吹き出したくなった。
可笑しくてたまらなかった。田所さん、あんた今どんな顔して...
「…ちょっと待て」
田所の声がして、椅子を引く音がした。次の瞬間、扉が勢いよ...
反射的に退蔵はにやっと笑顔を見せた。
「…退史郎」
声を上げたのは田所ではなく照の方だった。退蔵は部屋に入る...
「オレは兄貴とは違いますか?」
照はどことなくつらそうな顔をして、目を伏せると、
「おれは先に帰る」
と退蔵の脇をすり抜けて、部屋を出て行った。
また逃げるんだ、と退蔵は思った。
照の足音が遠ざかるのを待って、田所が念の為扉を細く開けて...
「どういうつもりだ」
「それはこっちのセリフですよ。田所さん言ってましたよね。...
退蔵は壁に頭をもたれさせて腕を組むと、田所を見下ろして強...
「あんたコソコソ何やってんだ?何を吹き込もうとしたんだよ」
「吹き込もうとしてんのはそっちだろうが。おまえ照に何言っ...
田所は退蔵に近寄ると、至近距離で睨みつけた。すぐにピンと...
「先輩何か言ってましたか」
「とぼけるな。なんか照にオレのこと言ったんだろ!」
山根組の密会の時に、照に言った事だろう。退蔵はストレート...
「田所さんだって同じような事やってるって言っただけですよ...
田所は両手を堅く握り締めて、声を絞り出した。
「おまえ、自分の立場を本当にわかってんのか?自分の首を絞...
退蔵は感情の無い目で田所を見返し、そのまま部屋を出た。
署の外へ出ると、照が立っていた。沈みかけた太陽を背にして...
「もしかして、待っててくれたんですか?」
馴れ馴れしさを装って、近付くと肩に手をまわそうとしたがス...
「これからどこへ行くんだ?」
「このまま帰りますよ。いけませんか?当直明けで昨日からず...
退蔵は首を傾けて答えた。照は口を噤んで、夕焼けの中に佇ん...
空の上にはまだ青空がうっすら残っているのに、底の方は燃え...
群青と藍色と朱と茜色の合間に、雲の白と、山吹と金色の光の...
その真ん中に照がいて、光と影にふちどられていた。
これは、ここでしか見れない景色。ここでしか吸えない空気。
あんたがここにいるってだけで、この世界にも価値があると思...
眩しさで目を細めながら、退蔵は聞いた。
「オレが言った事、田所さんにそのまんま聞いちゃったんです...
「…聞いた」
「ストレートな人だな」
笑いながら手に触れようとすると、後ずさって逃げられた。退...
「田所さんはなんて?」
照は退蔵の目をまっすぐ睨みつけて言った。
「…田所はそんなことするヤツじゃない。おれは信じてる」
「オレより田所さんを信じるんですね」
「当たり前だろ。いきなり現れたおまえをどう信じればいいん...
その言葉に、心のどこか深い部分が本気でえぐられた。
きつい目をしていた照の表情が少し揺らいだ。どこか気遣うよ...
もしかして、自分で思う以上に傷ついた顔をしてしまったんだ...
退蔵はわざと軽薄な表情を作って笑うと、背を向けて歩き出し...
朱龍の『オフィス』から徒歩3分のアパートに『退史郎』の現住...
住民の半分以上が中国人だ。更にその全員が朱龍の下で働く人...
監視されてるのも同然だ。部屋に盗聴器が仕掛けられているか...
寒々しい打ちっ放しの1DKにユニットバスの部屋。退蔵は玄関...
ロケットになっていて、中に写真が入れてある。照の写真。
恥ずかしくてくだらない。だけど会えない間は身に着けずにい...
そんな恥ずかしくてくだらない代物でも、見つかれば命取りだ...
誰にも傷つけさせない。誰にも渡さない。退蔵は祈るようにロ...
もし苦しんでいるのなら、『退蔵』のことは忘れてくれていい。
だけど他の誰にも惑わされないで。心変わりの相手なら『退史...
退蔵はまた靴を履くと、もう一度コートを羽織って朱龍の元へ...
螺鈿細工で鳥が描かれた背もたれの高い椅子に座り、黒いマオ...
「人を殺した事があるか?」
そういう話も出るかもしれないとは思っていた。慎重に答えな...
「まだ、ありません」
「試しに一人、消してみるか?」
朱龍は黒檀の円卓の上に、写真を一枚差し出した。退蔵は視線...
照が写っていた。
退蔵は表情を変えなかった。
「こいつはワタシの弟の人生を終わらせた。そろそろこいつの...
朱龍は身を乗り出して、口元に笑いを浮かべた。退蔵も笑いを...
「死ぬよりつらい事って、なんですか?」
「いきなりだな?」
ニッと笑う朱龍に、写真を指で押し返すと、退蔵はゆっくりと...
「この人ね。正義は正義、悪は悪って思ってます。白か黒。中...
退蔵は笑いを浮かべたまま、静かに話し続けた。
「この前の山根組の強制捜査の情報。この人にファイルを持っ...
朱龍は写真を手に取ると、眺めながらヒラヒラと振った。退蔵...
「この人利用できますよ。まだまだ利用できます。ここからい...
朱龍は笑いを含んだ眼で退蔵を眺めた。その眼から真意は読み...
「面白そうだから、しばらくおまえに任せよう」
そう言って朱龍は楽しそうに写真を裏返すと、椅子に背をもた...
退蔵は写真を目にしてから最後に席を立つまで、ずっと表情を...
外に出て、アパートまで戻る間もそれほど表情を変えなかった。
玄関の鍵を開け、明かりを点ける。靴を脱いで、コートのまま...
思い切り蛇口をひねった。勢いよく水を出して、退蔵はそこで...
前にもこんなふうにいきなり吐いた事があったな。そう思い出...
洗面台に手をついて、目を閉じる。照の姿が残像のように現れ...
淡いネオンの光の中から、薄く影になって、自分へと手を差し...
その残像を退蔵は目を閉じたまま、瞼の裏で、大切に大切に眺...
絶対に守り通す。
あんたがオレの心を守ってくれているように。
ぎゅっとロケットを握る。退蔵は口をぬぐうと、力をこめて蛇...
つづく
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
いろいろとスイマセン。全部入った!ヨカター
話の中に出てくる大内は、久々に藁う戌見た時に「大内?誰?…...
検索避けの伏名にしなくても、このままでいいだろなという理...
また続きを10日前後かけて書いてきます。今度こそもう少し量...
#comment
ページ名:
ページ新規作成
新しいページはこちらから投稿できます。
作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
第57巻
第56巻
第55巻
第54巻
第53巻
第52巻
第51巻
第50巻
第49巻
第48巻
第47巻
第46巻
第45巻
第44巻
第43巻
第42巻
第41巻
第40巻
第39巻
第38巻
第37巻
第36巻
第35巻
第34巻
第33巻
第32巻
第31巻
第30巻
第29巻
第28巻
第27巻
第26巻
第25巻
第24巻
第23巻
第22巻
第21巻
第20巻
第19巻
第18巻
第17巻
第16巻
第15巻
第14巻
第13巻
第12巻
第11巻
第10巻
第9巻
第8巻
第7巻
第6巻
第5巻
第4巻
第3.1巻
第3巻
第2巻
第1巻
ページ新規作成: