ページ内容へ
ナビゲーションへ
当サイトをご覧いただくにはブラウザの設定で
JavaScriptを有効に設定
する必要がございます。
ページの一覧
最終更新一覧
ヘルプ
ホーム
使い方
文字サイズ:小
文字サイズ:中
文字サイズ:大
1つ前のページに戻る
14-19
をテンプレートにして作成
開始行:
#title(ラルアル) [#tb21e86a]
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
| 悪魔土成ドラキュ...
____________ \ / ̄ ̄ ̄...
| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 旅から...
| | | | ...
| | |> PLAY. | | ...
| | | | ∧...
| | | | ピッ (´...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(...
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
「ほら、ここだ」
ラルフ・C・ベルモンドは重い扉を押し開けて客人を導き入れた。
「二、三代前の当主の未亡人が、息子に家督を譲るとき隠棲用...
れているし、あまり人と顔を合わせなくてすむ。寝具や調度は...
「いや、かまわない。綺麗なところだ」
アルカードは大きく開け放たれた窓に歩み寄った。
外にはゆるやかに起伏する青々とした丘陵と、そのむこうの...
る。半身を乗り出すようにして目を細めると、そよ風に銀髪が...
ラルフは破顔した。
「今まで使うものもない部屋だったんだが、とにかく、眺めだ...
でいい」
二間続きの部屋は女性のものらしく繊細な意匠に飾られ、東...
天蓋と彫刻に飾られた大きなベッドが据えられている。
場所としてはベルモンド家の屋敷の西側に位置する小塔のてっぺ...
むしろアルカードにはそのほうがいいだろうとラルフは思っていた。ま...
いるわけにはいかない。旅から戻ってきたここでは、ラルフ以外に...
は多々あり、それに関して毎日気にかけていてはきりがないと...
冬がしぶしぶながら春に場所をゆずろうとするころ、ラルフとアル...
帰りついた。
屋敷にたどりつくはるか以前から、ベルモンドの代々家小作をつ...
くる若当主の姿を見つけて、大声で叫びはじめた。
「みんな、御当主が帰ってきたぞ! 若当主がお帰りになった...
たちまち、いくつもの小屋からどっと人があふれ出てきた。...
も我もと集まってきた。あっという間に人垣が周囲を取り囲む...
小作人たちの騒ぎを押しとどめた。
「皆、静かにしてくれ。馬が驚くだろう」
「すんません。で、あの、御当主」
小作人の一人が、轡にすがるようにして必死に声をあげた。
「あの、本当に、魔王はもういなくなったんで……?」
一瞬ラルフは口ごもった。後ろで黙然と立っているアルカードに自然...
アルカードはフードの下で目を伏せたまま、石のように動かなか...
「──ああ、魔王はもういない」
無理にアルカードから視線をそらして、ラルフはきっぱりと答えた。
「だからもう、皆なにも怯えることはない。魔物がやってくる...
て、作業を続けてくれ。俺はいったん屋敷に戻る」
「若様、ばんざい!」
人垣の後ろでだれかが叫んだ。たちまちそれは全員に伝染し...
に抱き合ったりして歓声をあげた。
「御当主、ばんざい! ばんざい!」
「ベルモンドの名に、栄光あれ!」
それ以上我慢していられず、ラルフはもう一度片手を上げただけ...
黙ってついてくる。
陽気に騒ぎながら、興奮した様子で話し合っている村人たち...
か何かだと思ったらしく、ほとんど注意を払わなかった。
「すまなかった」
声の届かない位置まで進んでから、ラルフはアルカードに詫びた。
「ただ、あそこでは、ああ言ってやるしかなかった。ドラキュラの...
俺が魔王の討伐に出たと聞いて、不安もひとしおだったろう。...
やれなかったんだ。すまない」
「おまえが何も謝ることはない、ラルフ」
フードの下から、思ったよりもはっきりした声が帰ってきた。
「彼らが喜ぶのは当然だ。おまえは確かに魔王を倒し、人々の...
りするな。おまえは自分の成すべきことを、見事に成し遂げた...
ラルフは唇をかんで前を向いた。カルンスタインで感じたあの持ってい...
だかまっていた。
すでに先に連絡が行っていたらしく、屋敷の門を入ると、使...
到着を待っていた。
「よくぞご無事でお戻りくださいました、御当主」
「ああ。ご苦労だったな、エルンスト」
鞍から下りて、駆けてきた馬番に馬を渡しながらラルフは言った...
エルンストはラルフの父の代から仕えているベルモンド家の家令で、これ...
家系の人間である。
ベルモンド家がまだ爵位と騎士の称号を得ていたころから従士を...
「誇りあるベルモンド家の者としてふさわしい態度」を要求する。...
うっとうしい人物であり、一昨年、父が病死して自分が当主に...
いても、少々けむたい相手に変わりはない。
いかつい身体に、白髪をぴたりと撫でつけた頑健そのものの...
に、常にするどい目を光らせている。どうかするとその目はラルフ...
異常がないかをさりげなく確かめている。
「俺のいない間に、何も変わったことはなかったか?」
「いえ、これといって悪いことは何も。村で何人か赤ん坊が生...
グリューネ婆さんが老衰で死にました。洗礼と葬儀も滞りなく...
あとでまた記録を持ってお伺いいたします」
「わかった、わかった」
早くも日常の雑事が身近に迫ってくるのを感じて、ラルフはうん...
「それより早く、湯と着替えを用意させてくれないか。それと...
がしたい」
「その前に、若」
反射的に、ラルフはぎくりとした。エルンストが自分を若と呼ぶのは...
諫言とやらの前兆に決まっているからだ。
しかし、エルンストは首をのばしてラルフの後ろを礼儀正しく示した...
「あちらの、黒い馬に乗られた方はどなたですかな」
「あ……、ああ」
少しほっとして、ラルフはアルカードを手招きした。
「こっちへ来て馬を下りろ、アルカード。皆にも紹介しておく、こ...
くれた、俺の友人だ。
しばらくはこの屋敷で滞在してもらうことになる。俺の客人...
よ、アルカード」
アルカードは馬を下りてラルフの横に並ぶと、ゆっくりと、フードを...
誰からともなく、嘆声があがった。
エルンストでさえ、ものに動じない顔をわずかに動かして驚きを示...
「──アルカード、だ」
言葉少なにアルカードは言った。
「ラルフの言葉に甘えさせてもらった。ここの人々には世話になる...
下女や女中のほとんどが、頬を赤らめて何事か囁きあってい...
見惚れている者が多かった。輝く銀髪と白い肌、蒼い瞳、女に...
身なりの優雅な貴公子ぶりなのだ。初めて見た者が、一瞬魂を...
「さあ、もういいだろう」
大勢の凝視を受けて、アルカードが落ちつかなくなりはじめてい...
フードを引き下ろしてやった。
「馬を連れていって、水と飼い葉をやってくれ。それから、俺...
頼む。確か、使っていない部屋がいくつかあったはずだな」
しかしそれから一週間以上、ラルフはアルカードと顔を合わせなかっ...
正確に言えば、合わせる暇もなかった。半年以上も留守にし...
たのに加えて、近在の村や街から早くも噂を聞きつけた商人や...
宴会に招きたがったのだ。
おかげで、ほとんど自分の家で食事をする機会すらなかった...
手渡す書類に仏頂面で目を通し、サインし、印を押したり仕分...
落ちつける暇もなく家作の畑地や果樹園、森林や家畜の放牧地...
宴会の招待に応えて相手の屋敷まで出かけなくてはならない。
宴会は盛大なもので、これまで名前を聞いたこともないよう...
たたいていたはずの相手まで顔を出して、見えすいたお追従顔...
た英雄と近づきになっておけば教会の、ひいては、さらに上の...
適当にあしらってやったが、内心、帰りたくてたまらなかっ...
誰もがドラキュラ征伐と、それに関する冒険談を聞きたがった。...
ベルモンド家の屋敷に滞在中だという、謎めいた美貌の貴公子のこ...
アルカードのことについては、ただ、旅先で知り合った遠国の大...
になったのだと言うにとどめた。女たちは不満そうだったが、...
なったらしい。それ以上ラルフから聞き出すことは不可能そうだと...
こそこそ話し出してくれたのでラルフはほっとした。
男たちのほうは、もっとずっと厄介だった。彼らはラルフが耐え...
まるで吟遊詩人が歌ってみせるバラッドのような、勇壮な物語...
ラルフが言葉少なに仲間たちのこと、ドラキュラとの邂逅と戦闘、そ...
うなずきあい、雇った芸人たちにコインを投げ与えて、おい、...
と怒鳴った。
要求に応えて、さっそく芸人は古びた弦楽器を取り直し、即...
た。その中ではラルフはまったく恐れを知らない鋼鉄の男で、ドラキ...
は神と英雄の前に許しを請いながら、惨めな死にざまをとげて...
馬鹿げているとしかいいようがなかった。ラルフとしては、苛立...
のに精いっぱいだった。
ここでもまた、とラルフは思った。
ここでもまた、カルンスタインと同じことがくり返されているのだ。...
したあの街の人間と同じように、ここでも彼らは、「魔王を殺...
とって正しいと思える物語だけを受け入れて、他のことはなに...
当人であるラルフ自身でさえ、そのための話のタネにすぎないの...
奴らのために命をかけてドラキュラを倒しにいったのではない、と...
何の脈絡もなく、アルカードの顔がまぶたに浮かんだ。
私は人か、それとも魔か、と問うたときの彼の目の色が、傷...
痛いほどに蘇ってきた。抱きしめて眠った夜の、折れそうなほ...
痛切に感じた。
「おや、もうお帰りで」
黙って杯を置き、席を立ったラルフに、当夜のもてなし役だった...
「ああ。申し訳ないが、まだ旅の疲れが残っている。せっかく...
少し休みたい。他の方々には、これで楽しんで貰ってくれ」
ひとつかみほどの銀貨を詰めた袋を手渡す。重みをはかって...
「これはどうも。さすが剛胆なお殿様は、太っ腹でいらっしゃ...
ベルモンド様」
「何か」
「うちには実は、年頃の娘がひとりございましてな」
片手で銀貨の袋をじゃらつかせながら、上目遣いで商人はラルフ...
「この度のあなた様の偉業を耳にいたしまして、たいそうあな...
わたくしが申しあげるのもなんでございますが、これが実に器...
お屋敷のほうに伺わせても……」
黙れ! と怒鳴りつけそうになるのを、ラルフはあやうくこらえ...
「すまないが、今、そういうことを考えているほどの余裕はな...
ぶっきらぼうにラルフは答えた。「失礼する」
あとは誰が話しかけてこようと無視して、ラルフは夜道を馬をと...
ほとんど素面で、しかもずいぶんと早く帰ってきた主人を迎...
は廊下を歩きながら、宴会に出るために着替えた窮屈な服を腹...
追いかける女中があわてて拾って回る。
階段を上がりきったところで、エルンストが待っていた。
「お早いお帰りでございますな、御当主」
「エルンスト」
厳しい声でラルフは言った。「あの、ぶくぶく太った気持ちの悪...
「ヒルシュ様はこのあたりの羊毛と布地交易を一手に引き受けてお...
冷静にエルンストは返した。
「ベルモンドの荘園から出る羊毛やフェルト地も、ほとんどはあの...
「取引だろうがなんだろうが、今後、あいつからの宴会の誘い...
怒鳴りつけるように言って、ラルフは最後のシャツを放り捨て、...
の前を大股に通りすぎた。
「それから、明日以降の宴会の誘いはすべて断れ。俺が旅の疲...
なんなら、ドラキュラの魔法のおかげでトカゲに変わって、そのま...
とにかく、あんな奴らの酒の肴にされるのは、二度と御免こう...
エルンストは眉一つ動かさなかった。「おたわむれを」
「やかましい。なにがなんでも断れ、わかったか」
自分の寝室から首だけ出して、ラルフはまた大声を出した。
「たとえおまえにその鉄のブーツで戸口から蹴り出されたとし...
んからな。いいか。絶対に、だ」
力任せにドアを閉めて、ラルフはやっと一人になった。
長いため息をついて、ベッドに身を投げ出す。
無性にアルカードの顔が見たかった。書類仕事に忙殺されている...
戻る旅の間、カルンスタインの一件を除けば、ほぼ半刻として顔を見な...
ない思いをしていないか、黙って閉じこもって、またおかしな...
もたってもいられない気分になる。
起き上がって、窓を開けた。月が出ている。ラルフの寝室は本館...
と、アルカードのいる西の小塔はやっと尖った屋根の先が屋敷の翼...
部屋を訪ねようかと思ったが、この酒と、女の脂粉の臭いの...
耐えられない気がした。
とにかく眠ろう、と窓を閉めてベッドに戻り、枕に頭を乗せ...
疲れているはずなのに、目は冴えていた。思えば、旅の間は...
いたのだ。
カルンスタイン以来、もう夢は見ないから大丈夫だ、というアルカードを...
毛布に入れて眠った。
アルカードも強くは拒まなかった。華奢な身体の感触と頬にふれ...
これまで感じたこともないほどあたたかいものが胸にあふれた。
明日は一番にアルカードに会いに行こう、と決めた。
エルンストがなんと言おうが構うものか。どちらにしろ、自分のい...
していたのだ。一日もう一度同じことをやるくらい、あの頑固...
からっぽの腕が疼いた。寝返りをうって、誰もいない自分の...
ひどく冷たいような気がした。
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧...
| | | | ピッ (...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| ...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) ...
#comment
終了行:
#title(ラルアル) [#tb21e86a]
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
| 悪魔土成ドラキュ...
____________ \ / ̄ ̄ ̄...
| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 旅から...
| | | | ...
| | |> PLAY. | | ...
| | | | ∧...
| | | | ピッ (´...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(...
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
「ほら、ここだ」
ラルフ・C・ベルモンドは重い扉を押し開けて客人を導き入れた。
「二、三代前の当主の未亡人が、息子に家督を譲るとき隠棲用...
れているし、あまり人と顔を合わせなくてすむ。寝具や調度は...
「いや、かまわない。綺麗なところだ」
アルカードは大きく開け放たれた窓に歩み寄った。
外にはゆるやかに起伏する青々とした丘陵と、そのむこうの...
る。半身を乗り出すようにして目を細めると、そよ風に銀髪が...
ラルフは破顔した。
「今まで使うものもない部屋だったんだが、とにかく、眺めだ...
でいい」
二間続きの部屋は女性のものらしく繊細な意匠に飾られ、東...
天蓋と彫刻に飾られた大きなベッドが据えられている。
場所としてはベルモンド家の屋敷の西側に位置する小塔のてっぺ...
むしろアルカードにはそのほうがいいだろうとラルフは思っていた。ま...
いるわけにはいかない。旅から戻ってきたここでは、ラルフ以外に...
は多々あり、それに関して毎日気にかけていてはきりがないと...
冬がしぶしぶながら春に場所をゆずろうとするころ、ラルフとアル...
帰りついた。
屋敷にたどりつくはるか以前から、ベルモンドの代々家小作をつ...
くる若当主の姿を見つけて、大声で叫びはじめた。
「みんな、御当主が帰ってきたぞ! 若当主がお帰りになった...
たちまち、いくつもの小屋からどっと人があふれ出てきた。...
も我もと集まってきた。あっという間に人垣が周囲を取り囲む...
小作人たちの騒ぎを押しとどめた。
「皆、静かにしてくれ。馬が驚くだろう」
「すんません。で、あの、御当主」
小作人の一人が、轡にすがるようにして必死に声をあげた。
「あの、本当に、魔王はもういなくなったんで……?」
一瞬ラルフは口ごもった。後ろで黙然と立っているアルカードに自然...
アルカードはフードの下で目を伏せたまま、石のように動かなか...
「──ああ、魔王はもういない」
無理にアルカードから視線をそらして、ラルフはきっぱりと答えた。
「だからもう、皆なにも怯えることはない。魔物がやってくる...
て、作業を続けてくれ。俺はいったん屋敷に戻る」
「若様、ばんざい!」
人垣の後ろでだれかが叫んだ。たちまちそれは全員に伝染し...
に抱き合ったりして歓声をあげた。
「御当主、ばんざい! ばんざい!」
「ベルモンドの名に、栄光あれ!」
それ以上我慢していられず、ラルフはもう一度片手を上げただけ...
黙ってついてくる。
陽気に騒ぎながら、興奮した様子で話し合っている村人たち...
か何かだと思ったらしく、ほとんど注意を払わなかった。
「すまなかった」
声の届かない位置まで進んでから、ラルフはアルカードに詫びた。
「ただ、あそこでは、ああ言ってやるしかなかった。ドラキュラの...
俺が魔王の討伐に出たと聞いて、不安もひとしおだったろう。...
やれなかったんだ。すまない」
「おまえが何も謝ることはない、ラルフ」
フードの下から、思ったよりもはっきりした声が帰ってきた。
「彼らが喜ぶのは当然だ。おまえは確かに魔王を倒し、人々の...
りするな。おまえは自分の成すべきことを、見事に成し遂げた...
ラルフは唇をかんで前を向いた。カルンスタインで感じたあの持ってい...
だかまっていた。
すでに先に連絡が行っていたらしく、屋敷の門を入ると、使...
到着を待っていた。
「よくぞご無事でお戻りくださいました、御当主」
「ああ。ご苦労だったな、エルンスト」
鞍から下りて、駆けてきた馬番に馬を渡しながらラルフは言った...
エルンストはラルフの父の代から仕えているベルモンド家の家令で、これ...
家系の人間である。
ベルモンド家がまだ爵位と騎士の称号を得ていたころから従士を...
「誇りあるベルモンド家の者としてふさわしい態度」を要求する。...
うっとうしい人物であり、一昨年、父が病死して自分が当主に...
いても、少々けむたい相手に変わりはない。
いかつい身体に、白髪をぴたりと撫でつけた頑健そのものの...
に、常にするどい目を光らせている。どうかするとその目はラルフ...
異常がないかをさりげなく確かめている。
「俺のいない間に、何も変わったことはなかったか?」
「いえ、これといって悪いことは何も。村で何人か赤ん坊が生...
グリューネ婆さんが老衰で死にました。洗礼と葬儀も滞りなく...
あとでまた記録を持ってお伺いいたします」
「わかった、わかった」
早くも日常の雑事が身近に迫ってくるのを感じて、ラルフはうん...
「それより早く、湯と着替えを用意させてくれないか。それと...
がしたい」
「その前に、若」
反射的に、ラルフはぎくりとした。エルンストが自分を若と呼ぶのは...
諫言とやらの前兆に決まっているからだ。
しかし、エルンストは首をのばしてラルフの後ろを礼儀正しく示した...
「あちらの、黒い馬に乗られた方はどなたですかな」
「あ……、ああ」
少しほっとして、ラルフはアルカードを手招きした。
「こっちへ来て馬を下りろ、アルカード。皆にも紹介しておく、こ...
くれた、俺の友人だ。
しばらくはこの屋敷で滞在してもらうことになる。俺の客人...
よ、アルカード」
アルカードは馬を下りてラルフの横に並ぶと、ゆっくりと、フードを...
誰からともなく、嘆声があがった。
エルンストでさえ、ものに動じない顔をわずかに動かして驚きを示...
「──アルカード、だ」
言葉少なにアルカードは言った。
「ラルフの言葉に甘えさせてもらった。ここの人々には世話になる...
下女や女中のほとんどが、頬を赤らめて何事か囁きあってい...
見惚れている者が多かった。輝く銀髪と白い肌、蒼い瞳、女に...
身なりの優雅な貴公子ぶりなのだ。初めて見た者が、一瞬魂を...
「さあ、もういいだろう」
大勢の凝視を受けて、アルカードが落ちつかなくなりはじめてい...
フードを引き下ろしてやった。
「馬を連れていって、水と飼い葉をやってくれ。それから、俺...
頼む。確か、使っていない部屋がいくつかあったはずだな」
しかしそれから一週間以上、ラルフはアルカードと顔を合わせなかっ...
正確に言えば、合わせる暇もなかった。半年以上も留守にし...
たのに加えて、近在の村や街から早くも噂を聞きつけた商人や...
宴会に招きたがったのだ。
おかげで、ほとんど自分の家で食事をする機会すらなかった...
手渡す書類に仏頂面で目を通し、サインし、印を押したり仕分...
落ちつける暇もなく家作の畑地や果樹園、森林や家畜の放牧地...
宴会の招待に応えて相手の屋敷まで出かけなくてはならない。
宴会は盛大なもので、これまで名前を聞いたこともないよう...
たたいていたはずの相手まで顔を出して、見えすいたお追従顔...
た英雄と近づきになっておけば教会の、ひいては、さらに上の...
適当にあしらってやったが、内心、帰りたくてたまらなかっ...
誰もがドラキュラ征伐と、それに関する冒険談を聞きたがった。...
ベルモンド家の屋敷に滞在中だという、謎めいた美貌の貴公子のこ...
アルカードのことについては、ただ、旅先で知り合った遠国の大...
になったのだと言うにとどめた。女たちは不満そうだったが、...
なったらしい。それ以上ラルフから聞き出すことは不可能そうだと...
こそこそ話し出してくれたのでラルフはほっとした。
男たちのほうは、もっとずっと厄介だった。彼らはラルフが耐え...
まるで吟遊詩人が歌ってみせるバラッドのような、勇壮な物語...
ラルフが言葉少なに仲間たちのこと、ドラキュラとの邂逅と戦闘、そ...
うなずきあい、雇った芸人たちにコインを投げ与えて、おい、...
と怒鳴った。
要求に応えて、さっそく芸人は古びた弦楽器を取り直し、即...
た。その中ではラルフはまったく恐れを知らない鋼鉄の男で、ドラキ...
は神と英雄の前に許しを請いながら、惨めな死にざまをとげて...
馬鹿げているとしかいいようがなかった。ラルフとしては、苛立...
のに精いっぱいだった。
ここでもまた、とラルフは思った。
ここでもまた、カルンスタインと同じことがくり返されているのだ。...
したあの街の人間と同じように、ここでも彼らは、「魔王を殺...
とって正しいと思える物語だけを受け入れて、他のことはなに...
当人であるラルフ自身でさえ、そのための話のタネにすぎないの...
奴らのために命をかけてドラキュラを倒しにいったのではない、と...
何の脈絡もなく、アルカードの顔がまぶたに浮かんだ。
私は人か、それとも魔か、と問うたときの彼の目の色が、傷...
痛いほどに蘇ってきた。抱きしめて眠った夜の、折れそうなほ...
痛切に感じた。
「おや、もうお帰りで」
黙って杯を置き、席を立ったラルフに、当夜のもてなし役だった...
「ああ。申し訳ないが、まだ旅の疲れが残っている。せっかく...
少し休みたい。他の方々には、これで楽しんで貰ってくれ」
ひとつかみほどの銀貨を詰めた袋を手渡す。重みをはかって...
「これはどうも。さすが剛胆なお殿様は、太っ腹でいらっしゃ...
ベルモンド様」
「何か」
「うちには実は、年頃の娘がひとりございましてな」
片手で銀貨の袋をじゃらつかせながら、上目遣いで商人はラルフ...
「この度のあなた様の偉業を耳にいたしまして、たいそうあな...
わたくしが申しあげるのもなんでございますが、これが実に器...
お屋敷のほうに伺わせても……」
黙れ! と怒鳴りつけそうになるのを、ラルフはあやうくこらえ...
「すまないが、今、そういうことを考えているほどの余裕はな...
ぶっきらぼうにラルフは答えた。「失礼する」
あとは誰が話しかけてこようと無視して、ラルフは夜道を馬をと...
ほとんど素面で、しかもずいぶんと早く帰ってきた主人を迎...
は廊下を歩きながら、宴会に出るために着替えた窮屈な服を腹...
追いかける女中があわてて拾って回る。
階段を上がりきったところで、エルンストが待っていた。
「お早いお帰りでございますな、御当主」
「エルンスト」
厳しい声でラルフは言った。「あの、ぶくぶく太った気持ちの悪...
「ヒルシュ様はこのあたりの羊毛と布地交易を一手に引き受けてお...
冷静にエルンストは返した。
「ベルモンドの荘園から出る羊毛やフェルト地も、ほとんどはあの...
「取引だろうがなんだろうが、今後、あいつからの宴会の誘い...
怒鳴りつけるように言って、ラルフは最後のシャツを放り捨て、...
の前を大股に通りすぎた。
「それから、明日以降の宴会の誘いはすべて断れ。俺が旅の疲...
なんなら、ドラキュラの魔法のおかげでトカゲに変わって、そのま...
とにかく、あんな奴らの酒の肴にされるのは、二度と御免こう...
エルンストは眉一つ動かさなかった。「おたわむれを」
「やかましい。なにがなんでも断れ、わかったか」
自分の寝室から首だけ出して、ラルフはまた大声を出した。
「たとえおまえにその鉄のブーツで戸口から蹴り出されたとし...
んからな。いいか。絶対に、だ」
力任せにドアを閉めて、ラルフはやっと一人になった。
長いため息をついて、ベッドに身を投げ出す。
無性にアルカードの顔が見たかった。書類仕事に忙殺されている...
戻る旅の間、カルンスタインの一件を除けば、ほぼ半刻として顔を見な...
ない思いをしていないか、黙って閉じこもって、またおかしな...
もたってもいられない気分になる。
起き上がって、窓を開けた。月が出ている。ラルフの寝室は本館...
と、アルカードのいる西の小塔はやっと尖った屋根の先が屋敷の翼...
部屋を訪ねようかと思ったが、この酒と、女の脂粉の臭いの...
耐えられない気がした。
とにかく眠ろう、と窓を閉めてベッドに戻り、枕に頭を乗せ...
疲れているはずなのに、目は冴えていた。思えば、旅の間は...
いたのだ。
カルンスタイン以来、もう夢は見ないから大丈夫だ、というアルカードを...
毛布に入れて眠った。
アルカードも強くは拒まなかった。華奢な身体の感触と頬にふれ...
これまで感じたこともないほどあたたかいものが胸にあふれた。
明日は一番にアルカードに会いに行こう、と決めた。
エルンストがなんと言おうが構うものか。どちらにしろ、自分のい...
していたのだ。一日もう一度同じことをやるくらい、あの頑固...
からっぽの腕が疼いた。寝返りをうって、誰もいない自分の...
ひどく冷たいような気がした。
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧...
| | | | ピッ (...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| ...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) ...
#comment
ページ名:
ページ新規作成
新しいページはこちらから投稿できます。
作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
第57巻
第56巻
第55巻
第54巻
第53巻
第52巻
第51巻
第50巻
第49巻
第48巻
第47巻
第46巻
第45巻
第44巻
第43巻
第42巻
第41巻
第40巻
第39巻
第38巻
第37巻
第36巻
第35巻
第34巻
第33巻
第32巻
第31巻
第30巻
第29巻
第28巻
第27巻
第26巻
第25巻
第24巻
第23巻
第22巻
第21巻
第20巻
第19巻
第18巻
第17巻
第16巻
第15巻
第14巻
第13巻
第12巻
第11巻
第10巻
第9巻
第8巻
第7巻
第6巻
第5巻
第4巻
第3.1巻
第3巻
第2巻
第1巻
ページ新規作成: