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#title(ラルアル) [#ocfa0361]
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
| 悪魔城イ云説ラル...
____________ \ / ̄ ̄ ̄...
| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| >>111-...
| | | | ...
| | |> PLAY. | | ...
| | | | ∧...
| | | | ピッ (´...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(...
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
◆
「とにかく、わたしは総主教にはすべてを話します」
別れ際に、サイファはそう言った。
「いいことも悪いことも、もちろんアルカードのことも、包み隠さ...
るだけだもの。それなら最初から、きちんと事実を出しておい...
はなから存在を許さないような相手から、アルカードのことが伝わ...
「そうだな」
とラルフは答えて、サイファが荷物を背中にくくりつけるのに手を貸...
「気をつけて行けよ、サイファ。道中無事でな」
「あなたこそね、ラルフ。神のご加護を。どこの神様だか知らない...
たくさんの祝福が必要になるはずだから」
そうしてサイファは別れていき、その数日後に、ラルフとアルカードもま...
園のあるシュツットガルトの山岳地帯へ向けての旅路についた。
辺境のワラキアからは馬でひと月半ばかりかかる旅だ。最初はラルフ...
ったが、傷がふさがり、包帯がとれると、めっきり進みも早く...
と、兎や鳥を狩るために足を止める必要もなくなってきた。
ただ、困ることがあった。アルカードである。
まず、目立つ。それもひどく。
やっと入った最初の村で、アルカードを一軒しかない酒場で待た...
家を探しに行った。
ごうつくばりの親爺からやっと買った馬二頭を牽いてむかむ...
か、がやがや騒ぎたてる物見高い村人たちで鈴なりになってい...
仰天して中に入ってみると、座席はがら空きで、そのまん中...
の席にぽつねんと座っている。
酒場の亭主も娘も、壁に貼りついたまま目を丸くして銀髪の...
人たちに混じりあって、ぽかんと口を開いていた。
「私はなにかおかしいだろうか、ベルモンド」
からっぽの席でワインの杯を前にしたまま、アルカードが言った。
「なに?」
「皆が私を見る」
ラルフは頭をかかえたくなった。
とにかくワインの代金を払って、引きずるようにしてそこか...
り引っぱっていって、やっと息をついた。アルカードはほとんど表...
多少の不興の念を抱いたようだった。
「おかしいところがあるなら言ってほしい。黙っていられては...
「……あのな」
どう説明していいか困る。まさか、おまえがあまり綺麗だか...
なにしろ、こんな田舎に女でもそうはいないような美貌の、...
身なりの貴公子が、いきなり出現したのだ。見るな、というほ...
「とりあえず、おまえはここで馬と待ってろ。俺は村へもどっ...
いいか。ここにいろよ。動くんじゃないぞ」
「私は馬ではない」
「やかましい。待ってろと言ったら待ってろ」
アルカードは黙った。
ラルフは一人で村へとって返し、次の村までの食料と水、それに...
長いローブを手に入れた。
途中でさんざん、あのお美しい若君はどこの誰か、何の用で...
いいかげんに生返事をするか、最後には面倒になってじろりと...
体格に、半面に刻まれた深い傷あとが強烈な眼光を倍増しにし...
言葉もうやむやになって、そのまま口をつぐんでしまった。
村はずれへ戻ってアルカードにローブを着せると、「別に寒くは...
「暑い寒いの問題じゃない。とにかく、人前ではそれを着てろ...
なよ。人目の多いところでは特にだ」
「……私は、そんなにおかしいのか」
「なに?」
ラルフは思わず手を止めた。
フードをかぶせられながら、アルカードはわずかに俯き、長い睫...
「人前には顔を出せないほど、私は、どこかおかしいのか。ベル...
「──アルカード」
「私は、醜いか」
「……アルカード。あのな」
あいかわらずのベルモンド呼ばわりにはかちんときたが、どうや...
放っておくわけにもいかない。
ラルフはいったんおろしたフードをはねのけ、うつむいた顔を強...
「おまえは別にどこもおかしくない、アルカード」
顎をつかまれて、驚いたように目を見開いているアルカードにき...
「あいつらがおまえをじろじろ見るのは、おまえがあんまり綺...
ないほど綺麗な貴族の若君が来たってんで、ぞろぞろ見物に来...
い。勝手に見させておけばいいんだ、あんな奴ら。おまえは何...
「ではどうして、こんなもので顔を隠させる」
そう問い返されて、ラルフは返答に窮した。
こんなところで、無駄に人目に立つのは危険だからだ、とい...
ラルフにそう答えさせるのを躊躇させた。
確かに危険は危険なのだ。下手に目立って、サイファがコンスタンティノー...
たら、たちまち手に手に杭や十字架を振りまわした聖職者や村...
りはまだ、魔王ドラキュラの恐怖がなまなましい土地なのだ。アルカート...
どとうていしていられなくなる。
だが、それだけではない、形にならないある感情があった。...
そ言う村人たちのまん中でぽつんと座っているアルカードを見たと...
噴出したのだった。
こんな奴らがこいつに対してつべこべ言う権利はないはずだ...
如きがアルカードを目にすること自体気にくわない、という、理屈...
間を殴り飛ばすところだったのだ。
寸前で理性が勝利を収めはしたが、不快なことに変わりはな...
「……とにかく、他人の前ではそれをかぶってろ。おまえだって...
う。俺と二人の時には取ればいい。いいか。わかったな」
「──わかった」
あまり納得はしていないようだったが、旅の間はラルフに言われ...
聞かせておいたらしい。
また俯いてフードをかぶろうとするので、手を伸ばしてはね...
「俺と二人の時は取ればいいと言っているだろう。取ってろ、...
アルカードは逆らわなかった。
二頭の馬のうち、ほっそりした青毛の牝馬をアルカードに、栗毛...
にまたがったアルカードの柔らかな銀髪が陽を浴びてきらめくのを...
くつわを並べ、額に散りかかった髪をなにげなくかき上げて...
この顔を目にするのも、この髪に手を触れるのも自分だけだ...
てきた。その日一日、馬上でラルフはしごく上機嫌だった。
人里にはいるときにはアルカードにはローブを着せ、フードを被...
消できた。
しかしここでまた、別の問題があきらかになった。
二つめの問題は、金銭的価値というものにアルカードがまったく...
だった。
街道沿いに店を広げていた物売りから馬用の塩や、その他の...
た。アルカードは品物を受け取ると、さっさと品物だけを持って馬...
道中の資金を管理しているのはラルフの方だったので、それを知...
してはあっさりしていすぎる。
その場を離れてから、品物を買ったらその分の代金を支払う...
にはわからないようなわずかな驚きをこめて答えた。ラルフはふた...
「そうだ。いいか、ものを買ったらちゃんと金を払え。これは...
れることになる。追いかけられるのは困るだろう、アルカード」
「それは困る」
アルカードはしごく真面目だった。
「わかった。次からは、きちんと買ったものの代金は払うこと...
本当にわかっているのかどうかはいくらか疑問だったが、と...
思っていた。
しかし、済んでなどいなかったのはその次の村に足を踏みい...
ラルフがいつものように、アルカードを村の広場で待たせておいて(...
もう身についていた)一人で用を済ましにでている間に、ひど...
六つ篭に入れて、広場で腰かけていたアルカードによろよろと近づ...
「ご立派な若君。林檎はいかがでございますか。あたしの農園...
入っていたのは新鮮どころか、十年前に実って以来ずっと木...
ど、しわしわの林檎だった。
アルカードは黙ってその中からひとつ取り、かわりに、マントに...
作にちぎって渡そうとした。
そこでちょうどラルフが戻ってきて、あわてて止めたからよかっ...
に、鎖一本でこの村の地所がまるまる買えるような貴重な宝を...
何枚かやって追いはらい、ラルフはあらためてアルカードに向きなおっ...
「何をやってるんだ、おまえは。あんなとうてい喰えそうもな...
る奴がいるか」
アルカードは蒼い目でラルフを見あげた。
「買い物をしたら代金を払えと言ったのはおまえだ」
「それはそうだが、相場ってものがあるんだよ。おまえのは行...
が。だいたいあんな婆さんが宝石入りの宝物持ってたって、盗...
このあたりは貧しい村が多い。アルカードの金鎖の石ひとつ、上...
っていけるような家がほとんどなのだ。黄金の装飾品など目に...
けたのも無理はない。
返事はない。ラルフはため息をついた。
「もういいから、おまえは買い物はするな。商人が声をかけて...
が買ってくる。おまえに任せておいたら、領地に帰りつくころ...
かねん」
「そうなのか。難しいな、いろいろと」
そう答えて平然としている。ラルフはまたため息が出そうになっ...
しかし、考えてみれば当然かもしれない。どういう幼少期を...
息子に生まれて、公子として魔の城で成長し、自分以外に人間...
まれて暮らしていれば、世間なみの常識など身につかなくてあ...
他人への思いやりや気遣いをなくしていないことのほうが驚き...
おそらく、母親の薫陶のたまものなのだろう。アルカードが、ふ...
ものや小さいものに対して優しい、ということを、ラルフは早くか...
ない林檎を買おうとしたのも、その現れなのだろう。代金の点...
他人の悪意にも、あまり気づかない。というより、悪意を向...
どっていることのほうが多い。
害意や敵意には、さすがに敏感に反応する。しかし、街のち...
にこれ見よがしに唾を吐いてみせたり、聞こえるような大声で...
るだけでなんの反応も示さない。ただ単純に、なぜ相手にそん...
逆に、戻ってきたラルフがちんぴらどもを追い散らしたあとで、...
疑問を蒸し返してくる。ラルフは苛ついた。
「だから言ってるだろう、おまえは何もおかしくないんだ。馬...
ゃいい。悪口が言えりゃあ、相手なんか誰でもいいんだ。おま...
帆かけて逃げ出すに決まってる」
「しかし、ああいうことを言われるということは、私に何か言...
「あるか、そんなもの」言下にラルフは否定した。
「あるとすれば、おまえが奴らより綺麗で、金持ちそうに見え...
じゃなくても、おまえと同じような相手にだったら連中、誰に...
ない。気にするな」
アルカードはまだ何か言おうとしたが、途中で思い直したらしく...
なるほど、サイファが心配するわけだ、とラルフは思った。
この、人間離れした美貌と超絶的な強さを持つ貴公子は、世...
らしい。ラルフがいっしょにいなければ、まさかすぐ殺されること...
追われる身になったに決まっている。
人間がどういうものかに関しても、あまり分かっていないよ...
う。剣のひとつもひらめかすか、ラルフのように眼光ひとつで黙ら...
ひたすら、人に悪く言われるのは自分に何か問題があるからだ...
何にそれほど引け目を感じなければならないのか、ラルフには見...
身体の半分は人間ではないという思いがそうさせるのか?
しかし、たいていの人間よりあいつはよほど上等だぞ、とラルフ...
街の馬鹿者どもは言うに及ばず、これまでベルモンド家や、サイファ...
かかわらず、いったん魔王ドラキュラが現れたとなれば手のひらを...
どと比べたら、アルカードのほうがはるかに高潔で、純粋だ。
彼は自らの父と戦って、その狂気とともに息の根を止めたの...
あろう子としての深い悲しみを察してやらないのか。
むろん、アルカードの素性をさらすことになるのでその事実を天...
あまりにも不当だ、という気がしてならない。
思ったところで世間はどうにもできなくとも、せめて自分く...
いがますますつのった。
早くベルモンドの領地に入りたい。あそこなら、彼を匿う場所も...
過ごさせる余裕もできる。
サイファはもうコンスタンティノープルに着いただろうか、とラルフは思った。...
どう説明するにせよ、彼女ならうまくやってくれるだろう。...
とにかく、教会内にも味方は一人いるわけだ。
少し後ろから馬を進めているアルカードをちらりと振りかえる。
二人の時は取れと言っているのに、また彼はフードをおろし...
いっそう読みにくかった。
「アルカード」ラルフは呼びかけた。
「少し休んで、食事にしよう。あっちに川がある。馬を休ませ...
ないか」
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧...
| | | | ピッ (...
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「とにかく、わたしは総主教にはすべてを話します」
別れ際に、サイファはそう言った。
「いいことも悪いことも、もちろんアルカードのことも、包み隠さ...
るだけだもの。それなら最初から、きちんと事実を出しておい...
はなから存在を許さないような相手から、アルカードのことが伝わ...
「そうだな」
とラルフは答えて、サイファが荷物を背中にくくりつけるのに手を貸...
「気をつけて行けよ、サイファ。道中無事でな」
「あなたこそね、ラルフ。神のご加護を。どこの神様だか知らない...
たくさんの祝福が必要になるはずだから」
そうしてサイファは別れていき、その数日後に、ラルフとアルカードもま...
園のあるシュツットガルトの山岳地帯へ向けての旅路についた。
辺境のワラキアからは馬でひと月半ばかりかかる旅だ。最初はラルフ...
ったが、傷がふさがり、包帯がとれると、めっきり進みも早く...
と、兎や鳥を狩るために足を止める必要もなくなってきた。
ただ、困ることがあった。アルカードである。
まず、目立つ。それもひどく。
やっと入った最初の村で、アルカードを一軒しかない酒場で待た...
家を探しに行った。
ごうつくばりの親爺からやっと買った馬二頭を牽いてむかむ...
か、がやがや騒ぎたてる物見高い村人たちで鈴なりになってい...
仰天して中に入ってみると、座席はがら空きで、そのまん中...
の席にぽつねんと座っている。
酒場の亭主も娘も、壁に貼りついたまま目を丸くして銀髪の...
人たちに混じりあって、ぽかんと口を開いていた。
「私はなにかおかしいだろうか、ベルモンド」
からっぽの席でワインの杯を前にしたまま、アルカードが言った。
「なに?」
「皆が私を見る」
ラルフは頭をかかえたくなった。
とにかくワインの代金を払って、引きずるようにしてそこか...
り引っぱっていって、やっと息をついた。アルカードはほとんど表...
多少の不興の念を抱いたようだった。
「おかしいところがあるなら言ってほしい。黙っていられては...
「……あのな」
どう説明していいか困る。まさか、おまえがあまり綺麗だか...
なにしろ、こんな田舎に女でもそうはいないような美貌の、...
身なりの貴公子が、いきなり出現したのだ。見るな、というほ...
「とりあえず、おまえはここで馬と待ってろ。俺は村へもどっ...
いいか。ここにいろよ。動くんじゃないぞ」
「私は馬ではない」
「やかましい。待ってろと言ったら待ってろ」
アルカードは黙った。
ラルフは一人で村へとって返し、次の村までの食料と水、それに...
長いローブを手に入れた。
途中でさんざん、あのお美しい若君はどこの誰か、何の用で...
いいかげんに生返事をするか、最後には面倒になってじろりと...
体格に、半面に刻まれた深い傷あとが強烈な眼光を倍増しにし...
言葉もうやむやになって、そのまま口をつぐんでしまった。
村はずれへ戻ってアルカードにローブを着せると、「別に寒くは...
「暑い寒いの問題じゃない。とにかく、人前ではそれを着てろ...
なよ。人目の多いところでは特にだ」
「……私は、そんなにおかしいのか」
「なに?」
ラルフは思わず手を止めた。
フードをかぶせられながら、アルカードはわずかに俯き、長い睫...
「人前には顔を出せないほど、私は、どこかおかしいのか。ベル...
「──アルカード」
「私は、醜いか」
「……アルカード。あのな」
あいかわらずのベルモンド呼ばわりにはかちんときたが、どうや...
放っておくわけにもいかない。
ラルフはいったんおろしたフードをはねのけ、うつむいた顔を強...
「おまえは別にどこもおかしくない、アルカード」
顎をつかまれて、驚いたように目を見開いているアルカードにき...
「あいつらがおまえをじろじろ見るのは、おまえがあんまり綺...
ないほど綺麗な貴族の若君が来たってんで、ぞろぞろ見物に来...
い。勝手に見させておけばいいんだ、あんな奴ら。おまえは何...
「ではどうして、こんなもので顔を隠させる」
そう問い返されて、ラルフは返答に窮した。
こんなところで、無駄に人目に立つのは危険だからだ、とい...
ラルフにそう答えさせるのを躊躇させた。
確かに危険は危険なのだ。下手に目立って、サイファがコンスタンティノー...
たら、たちまち手に手に杭や十字架を振りまわした聖職者や村...
りはまだ、魔王ドラキュラの恐怖がなまなましい土地なのだ。アルカート...
どとうていしていられなくなる。
だが、それだけではない、形にならないある感情があった。...
そ言う村人たちのまん中でぽつんと座っているアルカードを見たと...
噴出したのだった。
こんな奴らがこいつに対してつべこべ言う権利はないはずだ...
如きがアルカードを目にすること自体気にくわない、という、理屈...
間を殴り飛ばすところだったのだ。
寸前で理性が勝利を収めはしたが、不快なことに変わりはな...
「……とにかく、他人の前ではそれをかぶってろ。おまえだって...
う。俺と二人の時には取ればいい。いいか。わかったな」
「──わかった」
あまり納得はしていないようだったが、旅の間はラルフに言われ...
聞かせておいたらしい。
また俯いてフードをかぶろうとするので、手を伸ばしてはね...
「俺と二人の時は取ればいいと言っているだろう。取ってろ、...
アルカードは逆らわなかった。
二頭の馬のうち、ほっそりした青毛の牝馬をアルカードに、栗毛...
にまたがったアルカードの柔らかな銀髪が陽を浴びてきらめくのを...
くつわを並べ、額に散りかかった髪をなにげなくかき上げて...
この顔を目にするのも、この髪に手を触れるのも自分だけだ...
てきた。その日一日、馬上でラルフはしごく上機嫌だった。
人里にはいるときにはアルカードにはローブを着せ、フードを被...
消できた。
しかしここでまた、別の問題があきらかになった。
二つめの問題は、金銭的価値というものにアルカードがまったく...
だった。
街道沿いに店を広げていた物売りから馬用の塩や、その他の...
た。アルカードは品物を受け取ると、さっさと品物だけを持って馬...
道中の資金を管理しているのはラルフの方だったので、それを知...
してはあっさりしていすぎる。
その場を離れてから、品物を買ったらその分の代金を支払う...
にはわからないようなわずかな驚きをこめて答えた。ラルフはふた...
「そうだ。いいか、ものを買ったらちゃんと金を払え。これは...
れることになる。追いかけられるのは困るだろう、アルカード」
「それは困る」
アルカードはしごく真面目だった。
「わかった。次からは、きちんと買ったものの代金は払うこと...
本当にわかっているのかどうかはいくらか疑問だったが、と...
思っていた。
しかし、済んでなどいなかったのはその次の村に足を踏みい...
ラルフがいつものように、アルカードを村の広場で待たせておいて(...
もう身についていた)一人で用を済ましにでている間に、ひど...
六つ篭に入れて、広場で腰かけていたアルカードによろよろと近づ...
「ご立派な若君。林檎はいかがでございますか。あたしの農園...
入っていたのは新鮮どころか、十年前に実って以来ずっと木...
ど、しわしわの林檎だった。
アルカードは黙ってその中からひとつ取り、かわりに、マントに...
作にちぎって渡そうとした。
そこでちょうどラルフが戻ってきて、あわてて止めたからよかっ...
に、鎖一本でこの村の地所がまるまる買えるような貴重な宝を...
何枚かやって追いはらい、ラルフはあらためてアルカードに向きなおっ...
「何をやってるんだ、おまえは。あんなとうてい喰えそうもな...
る奴がいるか」
アルカードは蒼い目でラルフを見あげた。
「買い物をしたら代金を払えと言ったのはおまえだ」
「それはそうだが、相場ってものがあるんだよ。おまえのは行...
が。だいたいあんな婆さんが宝石入りの宝物持ってたって、盗...
このあたりは貧しい村が多い。アルカードの金鎖の石ひとつ、上...
っていけるような家がほとんどなのだ。黄金の装飾品など目に...
けたのも無理はない。
返事はない。ラルフはため息をついた。
「もういいから、おまえは買い物はするな。商人が声をかけて...
が買ってくる。おまえに任せておいたら、領地に帰りつくころ...
かねん」
「そうなのか。難しいな、いろいろと」
そう答えて平然としている。ラルフはまたため息が出そうになっ...
しかし、考えてみれば当然かもしれない。どういう幼少期を...
息子に生まれて、公子として魔の城で成長し、自分以外に人間...
まれて暮らしていれば、世間なみの常識など身につかなくてあ...
他人への思いやりや気遣いをなくしていないことのほうが驚き...
おそらく、母親の薫陶のたまものなのだろう。アルカードが、ふ...
ものや小さいものに対して優しい、ということを、ラルフは早くか...
ない林檎を買おうとしたのも、その現れなのだろう。代金の点...
他人の悪意にも、あまり気づかない。というより、悪意を向...
どっていることのほうが多い。
害意や敵意には、さすがに敏感に反応する。しかし、街のち...
にこれ見よがしに唾を吐いてみせたり、聞こえるような大声で...
るだけでなんの反応も示さない。ただ単純に、なぜ相手にそん...
逆に、戻ってきたラルフがちんぴらどもを追い散らしたあとで、...
疑問を蒸し返してくる。ラルフは苛ついた。
「だから言ってるだろう、おまえは何もおかしくないんだ。馬...
ゃいい。悪口が言えりゃあ、相手なんか誰でもいいんだ。おま...
帆かけて逃げ出すに決まってる」
「しかし、ああいうことを言われるということは、私に何か言...
「あるか、そんなもの」言下にラルフは否定した。
「あるとすれば、おまえが奴らより綺麗で、金持ちそうに見え...
じゃなくても、おまえと同じような相手にだったら連中、誰に...
ない。気にするな」
アルカードはまだ何か言おうとしたが、途中で思い直したらしく...
なるほど、サイファが心配するわけだ、とラルフは思った。
この、人間離れした美貌と超絶的な強さを持つ貴公子は、世...
らしい。ラルフがいっしょにいなければ、まさかすぐ殺されること...
追われる身になったに決まっている。
人間がどういうものかに関しても、あまり分かっていないよ...
う。剣のひとつもひらめかすか、ラルフのように眼光ひとつで黙ら...
ひたすら、人に悪く言われるのは自分に何か問題があるからだ...
何にそれほど引け目を感じなければならないのか、ラルフには見...
身体の半分は人間ではないという思いがそうさせるのか?
しかし、たいていの人間よりあいつはよほど上等だぞ、とラルフ...
街の馬鹿者どもは言うに及ばず、これまでベルモンド家や、サイファ...
かかわらず、いったん魔王ドラキュラが現れたとなれば手のひらを...
どと比べたら、アルカードのほうがはるかに高潔で、純粋だ。
彼は自らの父と戦って、その狂気とともに息の根を止めたの...
あろう子としての深い悲しみを察してやらないのか。
むろん、アルカードの素性をさらすことになるのでその事実を天...
あまりにも不当だ、という気がしてならない。
思ったところで世間はどうにもできなくとも、せめて自分く...
いがますますつのった。
早くベルモンドの領地に入りたい。あそこなら、彼を匿う場所も...
過ごさせる余裕もできる。
サイファはもうコンスタンティノープルに着いただろうか、とラルフは思った。...
どう説明するにせよ、彼女ならうまくやってくれるだろう。...
とにかく、教会内にも味方は一人いるわけだ。
少し後ろから馬を進めているアルカードをちらりと振りかえる。
二人の時は取れと言っているのに、また彼はフードをおろし...
いっそう読みにくかった。
「アルカード」ラルフは呼びかけた。
「少し休んで、食事にしよう。あっちに川がある。馬を休ませ...
ないか」
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作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
第57巻
第56巻
第55巻
第54巻
第53巻
第52巻
第51巻
第50巻
第49巻
第48巻
第47巻
第46巻
第45巻
第44巻
第43巻
第42巻
第41巻
第40巻
第39巻
第38巻
第37巻
第36巻
第35巻
第34巻
第33巻
第32巻
第31巻
第30巻
第29巻
第28巻
第27巻
第26巻
第25巻
第24巻
第23巻
第22巻
第21巻
第20巻
第19巻
第18巻
第17巻
第16巻
第15巻
第14巻
第13巻
第12巻
第11巻
第10巻
第9巻
第8巻
第7巻
第6巻
第5巻
第4巻
第3.1巻
第3巻
第2巻
第1巻
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