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#title(音と横顔) 急曲兆陣R 田和場×登坂 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 古いジャズのレコードを、実家からこっそり持ってきて聴くのが好きだった。そんなふうにして音楽を聴いている者は甲賀部にいなそうだったので、あえて口に出すこともなかったが。登坂がちょくちょく家に来るようになったものだから、登坂にだけはこの趣味がばれている。他人の趣味にどうこう言う奴ではないので別に何か話題になることはなかったが、何もかけていなかったりすると今日は聴かないんですか、などと聴くようにはなっていった。 「何か聴きたいなら自由に聴いて構わんぞ」 そう言っておくと、最初こそこちらに許可を取ってレコードをかけていたが、だんだん勝手に聴くことが増えていった。 お互いそこまで熱心な聴衆ではないので、大抵は曲が終わるまでじっとできず、俺はタバコを吸ったり登坂はなにか怪しげな雑誌を読んだりしているのだが、たまに登坂がなにもせずに音楽を聴き続けることがある。その年一番の寒さだとラジオが告げた日の夜のことだった。そんな日にはとても甲賀部に行く気にならず、俺は一日部屋の中に閉じこもり、綿入れ半纏をかぶって、タバコばかり吸って退屈に過ごしていた。ただこの寒い日が早く終わればいい、そんなことを考えながらあっという間に落ちていく日を眺めていた。太陽の光がすっかり消えたのと、登坂がドアを叩いたのはほとんど同時だった。ドアを開けた瞬間こちらは冷気で、あちらは熱と煙で、それぞれ顔をしかめた。登坂のメガネは一瞬で白くなった。 「やさぐれた部屋ですね」 「うるさい」 我が物顔で畳の上であぐらをかき、メガネを吹きながら登坂はぼやいた。改めて見ると天井の下、煙がよどんでいる。確かにこれはあんまりだと思って窓を開けると、冷たい風の代わりに煙が抜け、散っていった。 「今日、寒かったんですよ」 「寒いな」 「おかげで部室で寝れませんでした」 「だから来たのか」 「ええ、まあ」 登坂は曖昧に返事して、勝手にレコードをあさりだした。登坂がそうやって聴きたがるのは決まっている。はっきりと言ったことはないが好きなんだろう。レコードの溝を針が滑る音と、なにかつっかかるような音が二つ三つして、布一枚通したような音色のピアノとサックスが軽やかに響いた。登坂は背を丸め、軽く膝を抱えるようにしてレコードに向かっている。俺はまたこたつに入ってタバコを吸う。ちょうどその位置から右を向くと登坂の後姿が見える。別にそんなものを見ていたところでなにも面白くないので顔を前に向け、窓の向うのもはや飽き飽きした景色をもう一度眺めようとしたが、ガラスがうっすら曇っている上に、暗いせいで外は街灯の明かりがぽつりぽつりと見えるだけだった。ため息をついて、目線を右にずらすとガラスにピンボケのような登坂の横顔が半透明に映っている。横の窓に自分の顔が映っているとは思っていないのだろう、誰かに見られていることを全く意識していない顔だった。普段は反射する眼鏡の中に隠れている眼が、外の街灯と二重写しになっている。何を考えているのかは読めない。だがこうして音楽を聴きたがる時の登坂は少し、元気がない。だからもしかしたら何かを考えているのかもしれない。悩み?登坂にこれほど似合わない言葉があるだろうか。第一、俺の知った事ではない。そう思いながらもなぜだか苛立ちに似たような思いに胸は騒いだ。登坂の顔なんか見なければいいのかもしれない、だが、眼をそらすこともできなかった。だから、 「お前さ」 意味もなく声をかけると、いつものあの眼鏡が振り返る。 「そんなにその曲が好きなら、もうCD買った方がいいんじゃないか?」 登坂は少しだけ考え込んだがその直後に曲が終ったので、レコードににじり寄って針をまた落とし直した。ノイズの中から再びピアノ、サックス、ドラム。先ほどとおなじ響きが部屋の中に満ちた。 「この、針を落とすのと溝の音とクラッチ音が無いと嫌なんです」 ややあって登坂は言った。 「味ですよ、味」 「お前に音楽がわかるのか」 「わたしにわからないものなどありません」 話しているうちに、窓に映っていた登坂の不可思議な表情は消えて、いつも通りの登坂になっていた。考えすぎか、と口のなかでつぶやいて自信満々に中指を立てる登坂の頭を丸めた雑誌ではたいた。レコードは相変わらずあの曲を流す。明るいがどこか感傷的な曲だ。そういえば、なぜ登坂はこの曲が好きなのか。聞いてみたところで「好きに理由はありません」と言われて終るだろうから聞きはしないが、この万年お祭り男がこの曲を好むことが意外だったのは確かだ。 「俺はお前がわからんよ」 考えあぐねてつい口からこんな言葉が漏れた。 「わからないことは素晴しいですよ。好奇心こそが人類の、ひいては世界の発展に帰依し」 「お前、さっきわからないことはないって言ってなかったか?」 「はて?そうでしたか?」 「お前は全くの鳥頭だな」 ほんの数分前のやりとりとすら矛盾しているこいつについて、何か考えるだけ無駄だ。いつもこの調子で、辛い苦しい口に出すことなく、そもそもそんなことは感じていないという顔をして生きる、こいつの内面なんて気にかけ出したらきりがない。 それでも再び登坂がレコードをかけ直し、また背中を丸めだすとどうしても気になって窓を見てしまう。外の闇にまぎれた髪の毛に縁どられ、幾分白っぽく見えるあの横顔。こいつが自分でも見た事がないであろうあの表情。しかし、最早ガラスは曇りすぎていた。もう窓の中に登坂の影は見えず、ただ、街灯の明かりが窓全体を柔らかく照らしているだけだ。俺はつまらない気持ちになって、登坂を引き寄せた。抵抗は、されなかった。ただ、 「もう少し、聴きたかったんですけどね」 眼鏡を外して呟いた登坂の眼の中に、あの街灯の光が揺れているように見えて、少しだけ胸が詰まった。 □ STOP ピッ ◇⊂(□∀□ )凸イジョウ、ジサクジエンデシタ! - このシリーズ大大大好きです!私も胸が詰まりました・・・。 -- &new{2014-01-30 (木) 22:47:29}; #comment
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#title(音と横顔) 急曲兆陣R 田和場×登坂 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 古いジャズのレコードを、実家からこっそり持ってきて聴くのが好きだった。そんなふうにして音楽を聴いている者は甲賀部にいなそうだったので、あえて口に出すこともなかったが。登坂がちょくちょく家に来るようになったものだから、登坂にだけはこの趣味がばれている。他人の趣味にどうこう言う奴ではないので別に何か話題になることはなかったが、何もかけていなかったりすると今日は聴かないんですか、などと聴くようにはなっていった。 「何か聴きたいなら自由に聴いて構わんぞ」 そう言っておくと、最初こそこちらに許可を取ってレコードをかけていたが、だんだん勝手に聴くことが増えていった。 お互いそこまで熱心な聴衆ではないので、大抵は曲が終わるまでじっとできず、俺はタバコを吸ったり登坂はなにか怪しげな雑誌を読んだりしているのだが、たまに登坂がなにもせずに音楽を聴き続けることがある。その年一番の寒さだとラジオが告げた日の夜のことだった。そんな日にはとても甲賀部に行く気にならず、俺は一日部屋の中に閉じこもり、綿入れ半纏をかぶって、タバコばかり吸って退屈に過ごしていた。ただこの寒い日が早く終わればいい、そんなことを考えながらあっという間に落ちていく日を眺めていた。太陽の光がすっかり消えたのと、登坂がドアを叩いたのはほとんど同時だった。ドアを開けた瞬間こちらは冷気で、あちらは熱と煙で、それぞれ顔をしかめた。登坂のメガネは一瞬で白くなった。 「やさぐれた部屋ですね」 「うるさい」 我が物顔で畳の上であぐらをかき、メガネを吹きながら登坂はぼやいた。改めて見ると天井の下、煙がよどんでいる。確かにこれはあんまりだと思って窓を開けると、冷たい風の代わりに煙が抜け、散っていった。 「今日、寒かったんですよ」 「寒いな」 「おかげで部室で寝れませんでした」 「だから来たのか」 「ええ、まあ」 登坂は曖昧に返事して、勝手にレコードをあさりだした。登坂がそうやって聴きたがるのは決まっている。はっきりと言ったことはないが好きなんだろう。レコードの溝を針が滑る音と、なにかつっかかるような音が二つ三つして、布一枚通したような音色のピアノとサックスが軽やかに響いた。登坂は背を丸め、軽く膝を抱えるようにしてレコードに向かっている。俺はまたこたつに入ってタバコを吸う。ちょうどその位置から右を向くと登坂の後姿が見える。別にそんなものを見ていたところでなにも面白くないので顔を前に向け、窓の向うのもはや飽き飽きした景色をもう一度眺めようとしたが、ガラスがうっすら曇っている上に、暗いせいで外は街灯の明かりがぽつりぽつりと見えるだけだった。ため息をついて、目線を右にずらすとガラスにピンボケのような登坂の横顔が半透明に映っている。横の窓に自分の顔が映っているとは思っていないのだろう、誰かに見られていることを全く意識していない顔だった。普段は反射する眼鏡の中に隠れている眼が、外の街灯と二重写しになっている。何を考えているのかは読めない。だがこうして音楽を聴きたがる時の登坂は少し、元気がない。だからもしかしたら何かを考えているのかもしれない。悩み?登坂にこれほど似合わない言葉があるだろうか。第一、俺の知った事ではない。そう思いながらもなぜだか苛立ちに似たような思いに胸は騒いだ。登坂の顔なんか見なければいいのかもしれない、だが、眼をそらすこともできなかった。だから、 「お前さ」 意味もなく声をかけると、いつものあの眼鏡が振り返る。 「そんなにその曲が好きなら、もうCD買った方がいいんじゃないか?」 登坂は少しだけ考え込んだがその直後に曲が終ったので、レコードににじり寄って針をまた落とし直した。ノイズの中から再びピアノ、サックス、ドラム。先ほどとおなじ響きが部屋の中に満ちた。 「この、針を落とすのと溝の音とクラッチ音が無いと嫌なんです」 ややあって登坂は言った。 「味ですよ、味」 「お前に音楽がわかるのか」 「わたしにわからないものなどありません」 話しているうちに、窓に映っていた登坂の不可思議な表情は消えて、いつも通りの登坂になっていた。考えすぎか、と口のなかでつぶやいて自信満々に中指を立てる登坂の頭を丸めた雑誌ではたいた。レコードは相変わらずあの曲を流す。明るいがどこか感傷的な曲だ。そういえば、なぜ登坂はこの曲が好きなのか。聞いてみたところで「好きに理由はありません」と言われて終るだろうから聞きはしないが、この万年お祭り男がこの曲を好むことが意外だったのは確かだ。 「俺はお前がわからんよ」 考えあぐねてつい口からこんな言葉が漏れた。 「わからないことは素晴しいですよ。好奇心こそが人類の、ひいては世界の発展に帰依し」 「お前、さっきわからないことはないって言ってなかったか?」 「はて?そうでしたか?」 「お前は全くの鳥頭だな」 ほんの数分前のやりとりとすら矛盾しているこいつについて、何か考えるだけ無駄だ。いつもこの調子で、辛い苦しい口に出すことなく、そもそもそんなことは感じていないという顔をして生きる、こいつの内面なんて気にかけ出したらきりがない。 それでも再び登坂がレコードをかけ直し、また背中を丸めだすとどうしても気になって窓を見てしまう。外の闇にまぎれた髪の毛に縁どられ、幾分白っぽく見えるあの横顔。こいつが自分でも見た事がないであろうあの表情。しかし、最早ガラスは曇りすぎていた。もう窓の中に登坂の影は見えず、ただ、街灯の明かりが窓全体を柔らかく照らしているだけだ。俺はつまらない気持ちになって、登坂を引き寄せた。抵抗は、されなかった。ただ、 「もう少し、聴きたかったんですけどね」 眼鏡を外して呟いた登坂の眼の中に、あの街灯の光が揺れているように見えて、少しだけ胸が詰まった。 □ STOP ピッ ◇⊂(□∀□ )凸イジョウ、ジサクジエンデシタ! - このシリーズ大大大好きです!私も胸が詰まりました・・・。 -- &new{2014-01-30 (木) 22:47:29}; #comment
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