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#title(こんないい月を) 急曲兆陣R 田和場×登坂 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! そのころは何かと理由をつけて甲賀部には顔をだしていなかった。 もともと登坂ほど頻繁に通っていたわけでもなく、毎日やることがないわけでもなかった。 それは別としてなぜか甲賀部に行くのがためらわれる、そんな時期もあった。 だからといってこうして完全に足が遠のいて行ってしまうとなると淋しさに耐えられず、 その淋しさがわずらわしさに勝った時にまたいつも通り甲賀部に通いだす。 そして一度行ってしまえばしばらくは楽しく甲賀部で過ごすことが出来る。 そしてまた抵抗が芽生えて足が遠のく、そんな面倒な周期をそのころは繰り返していた。 甲賀部に行かないとなると、自然と登坂には会わなくなる。 まさか実家に電話をかけて呼び出すわけにもいかず、そもそも部室や職場にいる可能性の方がよほど高いので電話ではまず捕まらない。 登坂も部活でもなんでもないときにこちらに来るようなことはなかったから、二週間近く安否すらわからないのもザラだった。 かといって、登坂を呼び出すためだけに甲賀部に行くのもまた嫌だった。それはあまりにも純粋でない気がした。 その上それ目当てで甲賀部に行っているように思われるのは癪に障る。こういう意地を張り、心の片隅に残したもやもやを煙に換えて茫洋とした毎日を過ごしていた。 その日は夜になってからタバコが切れたことに気がついて、近くの自販機に買いに行った。 上着を着ても肌寒く、マフラーもしてくるべきだったかと少し後悔をした。 タバコを買って足元を見ると自販機の明かりとは違う方向にも影が延びている。月だった。 いつもより大きな月が遠い山を黒々とした影にしていた。じっと見つめて目を離すと緑の残像が夜空に浮かぶ、そのくらい明るい満月だ。 あまりに見事な月に見とれていたが、冷たい風が吹いてふと我に返る。とたんに寒さを感じた。 指先は静かに冷えきっていた。月の光はなにも暖めてはくれない。 買ったタバコをポケットに押し込んで、家路を急いだ。ひんやりとした秋の空気だった。 部屋に戻り、買ったばかりのタバコをふかしながら大きな月を眺めた。 先程は黄みの強かった月がもう白白としていた。 時間はあっという間に流れるのだ。そう思うとなんだかたまらなかった。いい月がたまらなく嫌だった。 ぺらっと布をはがされて地の部分まで洗い出してしまうような光だった。 嫌だからずっと見ていた。目をそらしたら負けだ、とまるで登坂のようなことを考えていた。 今ここに登坂がいたら、こんなどうしようもない気持ちはなかったのだろう。 きっとほとんど月になど見向きもしない。たとえ見たとしても深みにはまるような見方はしまい。 月の光など、一人で見るものではない。 タバコは手元で燃え尽きていた。その灰と同じくらい月は白く、やたらとなきじゃくる虫たちの声も、不愉快だった。 数日して甲賀部に顔を出した。日々乱雑になる他何も変わった所はなかった。登坂は相変わらずRに関節技をかけ、Rの首はもげていた。 「これはこれは田和場さん」 「またやってんのか」 「わたしはRをどう扱っても構わないのです」 何故か得意げだった。勝手にやってろ、とつぶやきながら椅子に座ると、 登坂は何かを思い出した様子でRを床に投げ出してアルバムの中をあさり、1枚の写真をこちらによこした。 「これ、なかなかうまく撮れてるでしゃう」 大きな満月だった。モノクロ写真でますます白く見える、あの月だ。 「この前の満月か?」 「ええ」 何気ない様子を装ったが、胸はざわついた。あの冷たい夜が思い出された。でも、登坂もあの時この月を見ていたのだ。 「なあ、これ撮るとき、何考えてた?」 無性に気になって聞いてみた。登坂はしばらく考えているようだったがやがて当たり前のように、 「言葉にできるなら写真なんか撮りません」 と言った。 それもそうだと思った。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! #comment
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#title(こんないい月を) 急曲兆陣R 田和場×登坂 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! そのころは何かと理由をつけて甲賀部には顔をだしていなかった。 もともと登坂ほど頻繁に通っていたわけでもなく、毎日やることがないわけでもなかった。 それは別としてなぜか甲賀部に行くのがためらわれる、そんな時期もあった。 だからといってこうして完全に足が遠のいて行ってしまうとなると淋しさに耐えられず、 その淋しさがわずらわしさに勝った時にまたいつも通り甲賀部に通いだす。 そして一度行ってしまえばしばらくは楽しく甲賀部で過ごすことが出来る。 そしてまた抵抗が芽生えて足が遠のく、そんな面倒な周期をそのころは繰り返していた。 甲賀部に行かないとなると、自然と登坂には会わなくなる。 まさか実家に電話をかけて呼び出すわけにもいかず、そもそも部室や職場にいる可能性の方がよほど高いので電話ではまず捕まらない。 登坂も部活でもなんでもないときにこちらに来るようなことはなかったから、二週間近く安否すらわからないのもザラだった。 かといって、登坂を呼び出すためだけに甲賀部に行くのもまた嫌だった。それはあまりにも純粋でない気がした。 その上それ目当てで甲賀部に行っているように思われるのは癪に障る。こういう意地を張り、心の片隅に残したもやもやを煙に換えて茫洋とした毎日を過ごしていた。 その日は夜になってからタバコが切れたことに気がついて、近くの自販機に買いに行った。 上着を着ても肌寒く、マフラーもしてくるべきだったかと少し後悔をした。 タバコを買って足元を見ると自販機の明かりとは違う方向にも影が延びている。月だった。 いつもより大きな月が遠い山を黒々とした影にしていた。じっと見つめて目を離すと緑の残像が夜空に浮かぶ、そのくらい明るい満月だ。 あまりに見事な月に見とれていたが、冷たい風が吹いてふと我に返る。とたんに寒さを感じた。 指先は静かに冷えきっていた。月の光はなにも暖めてはくれない。 買ったタバコをポケットに押し込んで、家路を急いだ。ひんやりとした秋の空気だった。 部屋に戻り、買ったばかりのタバコをふかしながら大きな月を眺めた。 先程は黄みの強かった月がもう白白としていた。 時間はあっという間に流れるのだ。そう思うとなんだかたまらなかった。いい月がたまらなく嫌だった。 ぺらっと布をはがされて地の部分まで洗い出してしまうような光だった。 嫌だからずっと見ていた。目をそらしたら負けだ、とまるで登坂のようなことを考えていた。 今ここに登坂がいたら、こんなどうしようもない気持ちはなかったのだろう。 きっとほとんど月になど見向きもしない。たとえ見たとしても深みにはまるような見方はしまい。 月の光など、一人で見るものではない。 タバコは手元で燃え尽きていた。その灰と同じくらい月は白く、やたらとなきじゃくる虫たちの声も、不愉快だった。 数日して甲賀部に顔を出した。日々乱雑になる他何も変わった所はなかった。登坂は相変わらずRに関節技をかけ、Rの首はもげていた。 「これはこれは田和場さん」 「またやってんのか」 「わたしはRをどう扱っても構わないのです」 何故か得意げだった。勝手にやってろ、とつぶやきながら椅子に座ると、 登坂は何かを思い出した様子でRを床に投げ出してアルバムの中をあさり、1枚の写真をこちらによこした。 「これ、なかなかうまく撮れてるでしゃう」 大きな満月だった。モノクロ写真でますます白く見える、あの月だ。 「この前の満月か?」 「ええ」 何気ない様子を装ったが、胸はざわついた。あの冷たい夜が思い出された。でも、登坂もあの時この月を見ていたのだ。 「なあ、これ撮るとき、何考えてた?」 無性に気になって聞いてみた。登坂はしばらく考えているようだったがやがて当たり前のように、 「言葉にできるなら写真なんか撮りません」 と言った。 それもそうだと思った。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! #comment
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