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#title(numb*3rs 工ップス兄×弟) [#s708f7f0] / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | この間投下したnumb*3rsネタだってよ ____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 一応前回と続いてるらしい | | | | \ | | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ | | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ ) | | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| | | °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 萌えが収まらないので懲りずに投下…だってあまりに萌えが… 相変わらず近親相姦で暗いです。過疎ジャンルなのにスマソ 今回も前編・後編に分けるつもりです チャ―リーは昔から弟として扱いにくい存在だったが、恋人としての要素が加わるとその 性質はさらに強まった。少なくともト゛ンにはそう感じた。こんなことはやめよう、とト゛ ンが言うと、震えた声で(それなのに落ち着き張った振りをしながら)、何故と問う。実の 兄弟同士でこんなことをするのは正気じゃない、と告げると、「正気」の定義から議論を始 めようとして、ト゛ンをうんざりさせる。どうしてもやめなければいけないのならもうFBIで の捜査には協力しない、と言ってト゛ンを戸惑わせたかと思えば、お願いだからどんなこと になっても側には置いて、役には立てるはずだからと懇願する。しまいにはこの関係を続け てくれないのなら、これまでのことを父さんにばらすと泣きながら脅してきたりもした。け れどもト゛ンにはそれが本気ではないことはわかっていた。チャ―リーには家族の関係を壊 すようなことなどできはしない。 おかしなことに、そうやってチャ―リーが子供じみた反抗をするたびに、ト゛ンの彼への 愛情は強くなった。ト゛ンは結局いつも、彼の魅力に屈し、望まれた通りにキスをし、彼を 抱き、望まれていないようなことまでした。だが、何度繰り返してもことが終わったあとは 決まって間違いを確信するのだった。だからト゛ンはチャ―リーに妥協案を出した。つまり、 チャ―リーが望むのなら、今のところこの関係は続けよう。しかしそれは永続的なものであ ってはならないし、お互いが持つ唯一の恋愛関係にするべきでもない。ト゛ンもチャ―リー も他に恋人を見つける努力をするべきだし、もしお互い以外に誰か本気で愛する存在が見つ かったなら、この関係はやめようと。チャ―リーは乗り気ではなさそうだったが一応その言 葉に頷き、ト゛ンは手始めにチャ―リーの助手であるアミー夕をデートに誘ったらどうかと 仄めかした。もしそれが嫌なら、ト゛ン以外の男性でも。するとチャ―リーは傷ついた瞳を して、いつかねと言った。 そんなときに、フィラデルフィアに行こう、と言ったのはト゛ンだった。四月の初め、イ ースターの後にでも、三日間ほど旅行しよう。実家のキッチンで昼食を摂っているときに不 意に誘うと、チャ―リーは驚いたようだった。「――旅行?」 ト゛ンはピザのソースで汚れた指を舐めながら頷いた。「ああ。休暇を取ることに成功し たんだ。お前も大学は休めるだろ?」 「もちろん、もちろん休めるよ。有給も消化していないし、講義だって……」 上ずった声でチャ―リーは捲くし立てるのを最後まで聞かずに、ト゛ンは言った。「飛行 機のチケットももう取った。たった2泊だけど、気分転換にはなる」 「二人で行くんだよね?」 瞬きを繰り返しながらチャ―リーが聞く。ト゛ンは自分の指先に視線を落としたまま肯定 した。「ああ」 「――ト゛ン、嬉しいよ」 掠れた声で言われて、ト゛ンはやはり弟を見ないままで頷いた。チャ―リーが喜ぶことは 知っていた。小さな頃からト゛ンは弟に対して、二人で出かけようと提案したことはほとん どなかった。そしてチャ―リーはいつもそれを待っていたのだ。サラダをつついていたフォ ークをかちゃかちゃ音を立てて置いて、チャ―リーは子供みたいな口調で繰り返した。「嬉 しいよ」 「――よかった」 呟くように言い、ト゛ンは水を飲んだ。チャ―リーがそれをじっと見つめる。不安と喜び がないまぜになったあの表情だ。「ト゛ン、嬉しいよ。でも何故突然……フィラデルフィア ?」 「休暇が必要だと思ったんだ。長年働き詰めだった。仕事から離れて遠い場所で少し楽し みたいのさ」 僅かに口元を上げて説明すると、チャ―リーもつられて微笑んでみせる。安心させるため に手を伸ばして弟の肩を叩くと、チャ―リーは一瞬俯いてからすぐに顔を上げて言った。「 ――キスしない?」 ト゛ンは躊躇いながら弟の顔を見た。チャ―リーが瞳を覗き込んでくる。彼は小さな、け れども断固とした声で繰り返した。「ト゛ン、キスしない?今」 ト゛ンは視線をさ迷わせた。父親は外出していて、ここには自分とチャ―リーしかいない。 だから二人きりだ。誰も見ていない。けれどいつも誰かに見られているような気がする。 「ト゛ン」 弟の囁きにト゛ンはため息を吐いて腰を上げた。そして柔らかい頬に唇を押し当てた。巻 き毛がくすぐるように鼻先を掠め、ト゛ンは一瞬目を瞑ってから、すぐに唇を離した。 視線が絡み合う。弟が望んだのはこんなキスではないことはよく知っていた。 「ト゛ン」。咎めるような声でチャ―リーが名前を呼んでくる。無言のまま見返すと、巻 き毛の数学者は唇を噛んでから言った。「……キスしてもいい?」 ト゛ンは黙って頷いた。断ることなどできるわけがない。安堵と失望が入り混じった表情 をしたチャーリが、身を乗り出してテーブル越しにキスをしてきた。柔らかい唇がト゛ンの 唇に触れ、すぐに温かい舌が滑り込んでくる。長いキスの後で、チャ―リーは震えた声で囁 いた。「旅行、楽しみにしてる」 ト゛ンはまた頷いた。頷くしかなかった。彼にはこの後どうなるかがわかっていた。二階 に上がり、チャ―リーの寝室で服を脱ぎ、抱き合う。実の弟と。そして父親が帰ってくる頃 までには身支度を整え、何事もなかったかのように三人でディナーをする。もう何度も繰り 返したことだ。 「……父さんが帰ってくるまでまだ時間があるよ」 案の定チャ―リーがおずおずと言い、ト゛ンは反応に迷った。数学においては一度の過ち が決定的なものになる、といつかチャ―リーが言っていたことを思い出した。一つの答えを 間違うと、それを利用して導き出した次の式も誤ったものとなり、その過ちは連鎖していく。 世界が理性的なものではなくなり、混乱に満ちたものになる。だから数学者は注意深く一つ 一つの答えを見つけていかなければならないと、いつか弟は言った。数学だけの話じゃない、 とト゛ンは思った。自分たちもそうだ。 「嫌?」 悲しげな呟きにト゛ンはかぶりを振った。「嫌じゃない」 そうして立ち上がり、弟を二階にある彼の寝室まで誘った。望まれているとおりに。 彼らが住んでいるカリフォルニアに比べて、フィラデルフィアは気温も低く、日の光も弱 かった。父親に嘘を吐いて外出した挙句(チャ―リーは学会でボストンに行くと言い、ト゛ ンは南部に釣りにでも行くと言った)、飛行機の狭い椅子に6時間も座り続け、たどり着い たのが殺風景なビル群が並ぶ、曇り空の都市だったのだから、普通なら楽しい旅とは言わな いのかもしれない。けれどもチャ―リーははしゃぎっぱなしで、普段は興味を示さない歴史 的建築物――独立記念館やウォルナット・ストリート劇場でも積極的に探索していた。ト゛ ンはチーズステーキが気に入り、チャーリはウォーターアイスを褒めそやした。チャ―リー が腕を組んで歩きたい、と言うので、ト゛ンはそれを許した。ト゛ンもチャ―リーもこの街 に知り合いはいない。少なくともお互いが兄弟だと知る者はいないはずだ。だからト゛ンは 弟の願いを聞きいれ、チャ―リーはそれでも遠慮がちに腕に触れてきた。ホテルのレストラ ンにもそうやって入ると、ウェイターが彼らをゲイカップルのように扱って、一際ロマンチ ックな席に案内したので、チャ―リーは笑い転げた。 「僕たちが兄弟だって知らないんだよ!僕らを恋人同士だって思ってる」 テーブルで声を潜めながらチャ―リーが言ってきたので、ト゛ンは肩を竦めた。 「それはそうだろうな」 普通いい年をした兄弟は腕を組んで歩いたりしないだろう。ゲイカップルだと考えた方が 自然だ。そう思って肯定すると、チャ―リーはまだ笑ったまま片手で顔を覆った。「信じら れない!ねえ、ト゛ンがこの街に行こうって言った理由がわかった。誰も僕たちを知らない からだ!家を出てたった六時間で僕たちは自由になれる」 「――仕事からも解放される。どうせ携帯を鳴らされても駆けつけることなんてできやし ないから、電源を切る思い切りがついた」 オフにした携帯電話を手の中でちらつかせると、チャ―リーは瞳を輝かせた。 「グレイト!正しいよ。ト゛ンはいつだって仕事に打ち込みすぎる」 「そうかもな」 ト゛ンは軽く受け流した。私生活を犠牲にしてFBI捜査官としての仕事に打ち込みすぎるの を、以前の恋人にも非難されたことはあった。だがト゛ンからしてみればそれは当然なこと だった。人が殺されたりレイプされたりして、その犯人が捕まえられずに野放しにされてい るときに、自分の楽しみを優先させることなどできない。だからこんなに完全な休暇は就職 をしてから数えるほどしか取っていない。ト゛ンの簡潔な答えに、チャ―リーは敏感に何か を察したらしく、すぐに真顔に戻って言った。「もちろん、それは素晴らしいことだけど。 皆を助けているんだもの」 「とにかく、今日から三日間は仕事はしない」 ト゛ンの宣言にチャ―リーはまた微笑んだ。そして子供のように無邪気な様子で明日のプ ランなどを話し始めた。二人とも家族や友人のことは話題には出さずに、カリフォルニアで の日常を忘れて他愛ない話をした。 ディナーを終え、ホテルの部屋に戻ると、無言のままで抱き合った。二人がこんなに時間 をかけてセックスするのは初めてだった。いつも父親とチャ―リーが住むあの家や、ト゛ン のアパートでせわしなく抱き合い、ことが終わるとト゛ンはなるべく早く弟から離れた。恋 人同士のように睦み合い、行為に慣れるのが怖くて、毎回ト゛ンは名残惜しそうなチャ―リ ーを置いてシャワーを浴びたり仕事に戻ったりした。けれども今日はなるべく時間をかけて、 ゆっくりと丁寧に抱いた。 二度目の繋がりを解いた後で、上半身を起こしたト゛ンにまたがるような姿勢でキスを繰 り返していたチャ―リーが囁いた。「ト゛ン、僕の兄さん」 ト゛ンはそのときチャ―リーの太ももを撫でていたが、それを聞いて手を止めた。間近に あるチャ―リーの瞳は潤んでいて、彼はト゛ンに猫のように鼻を擦り付けてもう一度呟いた。 「兄さん」 それはト゛ンが今まで聞いた中で、一番柔らかで幸せそうなチャ―リーの声だった。にも 関らずト゛ンは胸が痛むのを感じ、めまいを覚えた。歯を食いしばってそれに耐えていると、 チャ―リーが顔を上げて瞳を覗き込んできた。「ト゛ン?」 「――なんでもない。ちょっと……」 掠れた声で答えて額に手をやると、チャ―リーは唇を引き結んだ。そして沈黙の後でぽつ りと言った。「やっぱり、こんなときでもつらいんだね」 「違う。ただ――」 「ごめんねト゛ン。全部僕のせいだ。ト゛ンは悪くないよ」 静かな声でそんなことを言うので、ト゛ンは弟の身体を押しのけて立ち上がった。チャ― リーはベッドに座り込んだままで、苛々と歩き回るト゛ンを見上げていた。 「ト゛ン?」 甘ったるい呼び方。彼はまだ子供だ。30歳を過ぎていても。きっと永遠にそうなのだろう。 チャ―リーはおそらく一生無邪気な天才のままだ。この弟に罪を被せることなどできはしな い。もしそんなことができるのなら、どれほど楽だったろう。けれどもチャ―リーはト゛ン が知っているなかでも最も無垢で、保護すべき存在だった。 ト゛ンはもうやめよう、と幾度となく繰り返した言葉をまた言おうとした。だがチャ―リ ーの怯えたような目に気づいて、すぐに口を閉ざした。その代わり微笑んで、弟を安心させ ようとした。チャ―リーはそれを見てぎこちなく微笑み返しながら、続ける?と小さく聞い てきた。ト゛ンは知っていた。彼がこんなふうに疑問形を使うのは、そうしてほしいという ことなのだ。だがト゛ンはかぶりを振り、シャワーを浴びてくると丁寧な口調で言った。チ ャ―リーは目を伏せた後無言で頷いた。 お互いがシャワーを終えて、眠る準備が整うと、ベッドの中でチャ―リーはおずおずとト ゛ンの首筋に腕を巻きつけてきた。そして肩の辺りに顔をうずめ、こんなふうに眠ることを ずっと夢見ていたと囁いた。 翌日は車で少し遠出をしてアトランティックシティのビーチまで出かけた。まずいことに、 二人で屋台の飲み物を買おうとしているときに、ト゛ンは昔の知り合いに会った。FBIの研修 生だったころのクラスメイト。もう10年も会っていない仲間だったが、ト゛ンを目ざとく見 つけて話しかけてきた。 もっと別の場所での再会だったならト゛ンも喜んだだろう。だが彼はチャ―リーと繋いで いた手をさりげなく解くことに必死で、友人との会話を楽しむ余裕がなかった。興味深そう にチャ―リーを見る友人に、ト゛ンは嘘を吐き、チャ―リーのことをただの友達だと言った。 そして屋台から飲み物を受け取らないままで、慌しくその場を去った。 チャ―リーがト゛ンの嘘に傷ついたことはわかっていた。それどころかト゛ンはその後、 チャ―リーに腕を組むことも手を繋ぐことも許さず、普通の兄弟のように接しようとした。 それでもチャ―リーは何も言わず、ト゛ンより少し遅れてついて来て、彼が話すフィラデル フィア・フィリーズの逸話などに大人しく耳を傾けていた。 けれども日が沈み、ビーチサイドのレストランに入ると、それまで言葉少なだったチャ― リーが不意に口を開いた。「踊りたい」 ト゛ンはぎょっとして弟の顔を見た。二人はせっかく海辺のレストランにいるというのに、 昨日のような景色のいい席ではなく、普通のカウンター席に並んで座っていた。ト゛ンが、 ましてやチャ―リーがそれを望んだわけではなく、自然にその席に案内されたのだった。 「皆踊ってる。僕らも踊りたい」 サラダを食べるというよりフォークでつつきまわしながら、チャ―リーは固い声で言った。 ト゛ンはカウンターからフロアの方を振り向いた。ジャズバンドの生演奏に合わせて、何組 もの客が踊っている。けれどもその中に兄弟はいないようだった。いるのはドレスアップし た男女のカップルがほとんど。それからゲイのカップル。男同士や女同士。どう見ても自分 たちとは違う組み合わせばかりだ。先ほど会った友人の顔が脳裏を掠めた。彼がこのレスト ランに来ているとしたら?それとも、もっと別の知り合いが。ト゛ンとチャ―リーが兄弟だ と知っているような近しい人物が。ト゛ンは戸惑い、それからかぶりを振った。 「チャ―リー、冗談だろ?」 「人の目が気になる?」 チャ―リーは横顔を向けたままそう言って微かに笑った。ト゛ンは答えあぐねて、ただ弟 の横顔を見ていた。 「チャ―リー……」 「プロムのあの女の子とそうしたみたいに踊ってよ。でも僕はト゛ンが絶対頷かないこと も知ってる。だけど踊りたいんだ。――もうこんなのは嫌だ」 チャ―リーはフォークを持ったままのこぶしをまぶたに押し付け、俯いた。そして震えた 声で続けた。「フィラデルフィアに来たのだって、単に知り合いがいないからってだけじゃ ない。そうだろ?ト゛ン。昔僕たちはここに来た。家族で――僕が三つのときだ。父さんと、 母さんとト゛ンとで……」 ト゛ンは目を見開いた。チャ―リーが一瞬視線を上げ、すぐにまた目を伏せる。確かに小 さな頃、家族でフィラデルフィアやアトランティックシティに来た。でもそれは本当に昔の ことだから、チャ―リーは忘れているだろうと思っていた。驚いているト゛ンに構うことな く、チャ―リーは言葉を続けた。 「僕がハイアリー・ギフテッド・スクールに入る前の、一番最後の旅行だ。フィラデルフ ィア・フィリーズの試合も皆で観に行ったね。スコアだって覚えてる。母さんは管弦楽団の 演奏を聞けないのを残念がってた。こういう海辺のレストランで食事をして、僕はテーブル と椅子の数を数えて、それを掛け算したりして完全数を見つけ出した。ト゛ン、僕だってち ゃんと覚えてるんだよ。最初は突然旅行に行こうなんて言われて不思議だったけど――ちゃ んと思い出した」 勝ち誇ったようにチャ―リーは言う。そしてまた挑戦的にト゛ンを見つめてきた。神経が 冴えているときの彼の常で、まなじりが微かに釣りあがっている。ト゛ンは答えに困り、そ れから苛立ちを覚えた。いつものように。 そうだ。確かにここに来たことはある。チャ―リーが天才児のための学校に入る前、彼ら がまだ「普通」だった頃の、一番最後の旅行。旅行を終えてカリフォルニアに帰り、半年後 にチャ―リーは数学の才能を伸ばすために特別教育を受け始め、両親、特に母親はそれから ずっとチャ―リーにつきっきりになった。そうなる前の一番最後の思い出がこの街にある。 それを思い出したくてト゛ンはチャ―リーをこの旅行に誘った。二人が普通の兄弟だった 頃のことを思い出したかった。 「ト゛ンは昔に戻りたいんだろ?僕が天才だって言われる前に。だからここに来たんだ。 恋人同士みたいに振舞うためじゃない」 チャ―リーはそう言って、乱暴にフォークを置いた。ト゛ンはそれを見て眉を顰めた。「 チャ―リー」 「ト゛ンは、ト゛ンはいつも僕を傷つける。僕は自分が間違ってることをト゛ンといると 思い知らされるんだ。だけど正しいことを確信するにも、ト゛ンの存在が必要だ。必要なん だ。なのに……」 震えた息を吐き、呼吸を整えるために黙り込んでから、チャ―リーはにらみつけるように 見つめてきた。彼の目は真っ赤だった。「踊ってよ、ト゛ン」 ト゛ンはそんな弟を見返してから、また首を横に振った。「できない」 自分の存在がいつも弟を傷つけると聞いて、ト゛ンは傷ついていた。そんなことを率直に 言うチャ―リーに腹立たしさも感じた。けれどどこかでそれを知っていたことも事実だ。チ ャ―リーはよくト゛ンの前で悲しみと苛立ちをまじえた瞳をする。理解されていないことを 自覚している人間の目。少年の頃、チャ―リーにそんな表情をされるのが嫌で、ト゛ンはあ まり弟と話さなかった。 ト゛ンはため息を吐き、しばらく考えてから口を開いた。「俺がお前を傷つけるっていう なら、なおさらこんなことは続けるべきじゃない」 その言葉にチャ―リーがぐらりと身体を揺らすのがわかった。ト゛ンはなるべくそれを見 ないように、前を向きながら続けた。「お前と俺の関係が不健康だっていう証拠じゃないか。 俺はお前に幸せになってもらいたいんだ。傷つけたいわけじゃない。お前にはわかりにくい かもしれないけど、俺はお前にまともな幸せを見つけてもらいたいんだ。わかるだろ?いつ までも俺との少年時代を引きずっているんじゃなくて、もっと前向きで発展性がある、そう いう……」 「ト゛ン、僕が望んでいるのはト゛ンとの関係なんだ。ト゛ンから見れば後ろ向きで発展 性がないかもしれないけど、僕にとってはそれが一番なんだ。――わかってない。だから僕 は傷ついてるのに」 掠れた、高い声で早口で言うと、チャ―リーはナプキンをテーブルに置いて席を立った。 そして足早にレストランを出て行った。ト゛ンは追いかけることもできずに、呆然としてそ の背中を見つめていた。 ____________ | __________ | | | | | | | [][] PAUSE | | | | | | ∧_∧ 前編オワリ | | | | ピッ (・∀・ ) | | | | ◇⊂ ) __ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| | | °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || | 萌えすぎてもうダメポ。なんだこの萌え兄弟… 前回感想くれた皆さんアリガトン このドラマは1月から狐本家でもやってくれるらしいので 観られる方はぜひ。お薦めです。 #comment
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#title(numb*3rs 工ップス兄×弟) [#s708f7f0] / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | この間投下したnumb*3rsネタだってよ ____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 一応前回と続いてるらしい | | | | \ | | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ | | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ ) | | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| | | °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 萌えが収まらないので懲りずに投下…だってあまりに萌えが… 相変わらず近親相姦で暗いです。過疎ジャンルなのにスマソ 今回も前編・後編に分けるつもりです チャ―リーは昔から弟として扱いにくい存在だったが、恋人としての要素が加わるとその 性質はさらに強まった。少なくともト゛ンにはそう感じた。こんなことはやめよう、とト゛ ンが言うと、震えた声で(それなのに落ち着き張った振りをしながら)、何故と問う。実の 兄弟同士でこんなことをするのは正気じゃない、と告げると、「正気」の定義から議論を始 めようとして、ト゛ンをうんざりさせる。どうしてもやめなければいけないのならもうFBIで の捜査には協力しない、と言ってト゛ンを戸惑わせたかと思えば、お願いだからどんなこと になっても側には置いて、役には立てるはずだからと懇願する。しまいにはこの関係を続け てくれないのなら、これまでのことを父さんにばらすと泣きながら脅してきたりもした。け れどもト゛ンにはそれが本気ではないことはわかっていた。チャ―リーには家族の関係を壊 すようなことなどできはしない。 おかしなことに、そうやってチャ―リーが子供じみた反抗をするたびに、ト゛ンの彼への 愛情は強くなった。ト゛ンは結局いつも、彼の魅力に屈し、望まれた通りにキスをし、彼を 抱き、望まれていないようなことまでした。だが、何度繰り返してもことが終わったあとは 決まって間違いを確信するのだった。だからト゛ンはチャ―リーに妥協案を出した。つまり、 チャ―リーが望むのなら、今のところこの関係は続けよう。しかしそれは永続的なものであ ってはならないし、お互いが持つ唯一の恋愛関係にするべきでもない。ト゛ンもチャ―リー も他に恋人を見つける努力をするべきだし、もしお互い以外に誰か本気で愛する存在が見つ かったなら、この関係はやめようと。チャ―リーは乗り気ではなさそうだったが一応その言 葉に頷き、ト゛ンは手始めにチャ―リーの助手であるアミー夕をデートに誘ったらどうかと 仄めかした。もしそれが嫌なら、ト゛ン以外の男性でも。するとチャ―リーは傷ついた瞳を して、いつかねと言った。 そんなときに、フィラデルフィアに行こう、と言ったのはト゛ンだった。四月の初め、イ ースターの後にでも、三日間ほど旅行しよう。実家のキッチンで昼食を摂っているときに不 意に誘うと、チャ―リーは驚いたようだった。「――旅行?」 ト゛ンはピザのソースで汚れた指を舐めながら頷いた。「ああ。休暇を取ることに成功し たんだ。お前も大学は休めるだろ?」 「もちろん、もちろん休めるよ。有給も消化していないし、講義だって……」 上ずった声でチャ―リーは捲くし立てるのを最後まで聞かずに、ト゛ンは言った。「飛行 機のチケットももう取った。たった2泊だけど、気分転換にはなる」 「二人で行くんだよね?」 瞬きを繰り返しながらチャ―リーが聞く。ト゛ンは自分の指先に視線を落としたまま肯定 した。「ああ」 「――ト゛ン、嬉しいよ」 掠れた声で言われて、ト゛ンはやはり弟を見ないままで頷いた。チャ―リーが喜ぶことは 知っていた。小さな頃からト゛ンは弟に対して、二人で出かけようと提案したことはほとん どなかった。そしてチャ―リーはいつもそれを待っていたのだ。サラダをつついていたフォ ークをかちゃかちゃ音を立てて置いて、チャ―リーは子供みたいな口調で繰り返した。「嬉 しいよ」 「――よかった」 呟くように言い、ト゛ンは水を飲んだ。チャ―リーがそれをじっと見つめる。不安と喜び がないまぜになったあの表情だ。「ト゛ン、嬉しいよ。でも何故突然……フィラデルフィア ?」 「休暇が必要だと思ったんだ。長年働き詰めだった。仕事から離れて遠い場所で少し楽し みたいのさ」 僅かに口元を上げて説明すると、チャ―リーもつられて微笑んでみせる。安心させるため に手を伸ばして弟の肩を叩くと、チャ―リーは一瞬俯いてからすぐに顔を上げて言った。「 ――キスしない?」 ト゛ンは躊躇いながら弟の顔を見た。チャ―リーが瞳を覗き込んでくる。彼は小さな、け れども断固とした声で繰り返した。「ト゛ン、キスしない?今」 ト゛ンは視線をさ迷わせた。父親は外出していて、ここには自分とチャ―リーしかいない。 だから二人きりだ。誰も見ていない。けれどいつも誰かに見られているような気がする。 「ト゛ン」 弟の囁きにト゛ンはため息を吐いて腰を上げた。そして柔らかい頬に唇を押し当てた。巻 き毛がくすぐるように鼻先を掠め、ト゛ンは一瞬目を瞑ってから、すぐに唇を離した。 視線が絡み合う。弟が望んだのはこんなキスではないことはよく知っていた。 「ト゛ン」。咎めるような声でチャ―リーが名前を呼んでくる。無言のまま見返すと、巻 き毛の数学者は唇を噛んでから言った。「……キスしてもいい?」 ト゛ンは黙って頷いた。断ることなどできるわけがない。安堵と失望が入り混じった表情 をしたチャーリが、身を乗り出してテーブル越しにキスをしてきた。柔らかい唇がト゛ンの 唇に触れ、すぐに温かい舌が滑り込んでくる。長いキスの後で、チャ―リーは震えた声で囁 いた。「旅行、楽しみにしてる」 ト゛ンはまた頷いた。頷くしかなかった。彼にはこの後どうなるかがわかっていた。二階 に上がり、チャ―リーの寝室で服を脱ぎ、抱き合う。実の弟と。そして父親が帰ってくる頃 までには身支度を整え、何事もなかったかのように三人でディナーをする。もう何度も繰り 返したことだ。 「……父さんが帰ってくるまでまだ時間があるよ」 案の定チャ―リーがおずおずと言い、ト゛ンは反応に迷った。数学においては一度の過ち が決定的なものになる、といつかチャ―リーが言っていたことを思い出した。一つの答えを 間違うと、それを利用して導き出した次の式も誤ったものとなり、その過ちは連鎖していく。 世界が理性的なものではなくなり、混乱に満ちたものになる。だから数学者は注意深く一つ 一つの答えを見つけていかなければならないと、いつか弟は言った。数学だけの話じゃない、 とト゛ンは思った。自分たちもそうだ。 「嫌?」 悲しげな呟きにト゛ンはかぶりを振った。「嫌じゃない」 そうして立ち上がり、弟を二階にある彼の寝室まで誘った。望まれているとおりに。 彼らが住んでいるカリフォルニアに比べて、フィラデルフィアは気温も低く、日の光も弱 かった。父親に嘘を吐いて外出した挙句(チャ―リーは学会でボストンに行くと言い、ト゛ ンは南部に釣りにでも行くと言った)、飛行機の狭い椅子に6時間も座り続け、たどり着い たのが殺風景なビル群が並ぶ、曇り空の都市だったのだから、普通なら楽しい旅とは言わな いのかもしれない。けれどもチャ―リーははしゃぎっぱなしで、普段は興味を示さない歴史 的建築物――独立記念館やウォルナット・ストリート劇場でも積極的に探索していた。ト゛ ンはチーズステーキが気に入り、チャーリはウォーターアイスを褒めそやした。チャ―リー が腕を組んで歩きたい、と言うので、ト゛ンはそれを許した。ト゛ンもチャ―リーもこの街 に知り合いはいない。少なくともお互いが兄弟だと知る者はいないはずだ。だからト゛ンは 弟の願いを聞きいれ、チャ―リーはそれでも遠慮がちに腕に触れてきた。ホテルのレストラ ンにもそうやって入ると、ウェイターが彼らをゲイカップルのように扱って、一際ロマンチ ックな席に案内したので、チャ―リーは笑い転げた。 「僕たちが兄弟だって知らないんだよ!僕らを恋人同士だって思ってる」 テーブルで声を潜めながらチャ―リーが言ってきたので、ト゛ンは肩を竦めた。 「それはそうだろうな」 普通いい年をした兄弟は腕を組んで歩いたりしないだろう。ゲイカップルだと考えた方が 自然だ。そう思って肯定すると、チャ―リーはまだ笑ったまま片手で顔を覆った。「信じら れない!ねえ、ト゛ンがこの街に行こうって言った理由がわかった。誰も僕たちを知らない からだ!家を出てたった六時間で僕たちは自由になれる」 「――仕事からも解放される。どうせ携帯を鳴らされても駆けつけることなんてできやし ないから、電源を切る思い切りがついた」 オフにした携帯電話を手の中でちらつかせると、チャ―リーは瞳を輝かせた。 「グレイト!正しいよ。ト゛ンはいつだって仕事に打ち込みすぎる」 「そうかもな」 ト゛ンは軽く受け流した。私生活を犠牲にしてFBI捜査官としての仕事に打ち込みすぎるの を、以前の恋人にも非難されたことはあった。だがト゛ンからしてみればそれは当然なこと だった。人が殺されたりレイプされたりして、その犯人が捕まえられずに野放しにされてい るときに、自分の楽しみを優先させることなどできない。だからこんなに完全な休暇は就職 をしてから数えるほどしか取っていない。ト゛ンの簡潔な答えに、チャ―リーは敏感に何か を察したらしく、すぐに真顔に戻って言った。「もちろん、それは素晴らしいことだけど。 皆を助けているんだもの」 「とにかく、今日から三日間は仕事はしない」 ト゛ンの宣言にチャ―リーはまた微笑んだ。そして子供のように無邪気な様子で明日のプ ランなどを話し始めた。二人とも家族や友人のことは話題には出さずに、カリフォルニアで の日常を忘れて他愛ない話をした。 ディナーを終え、ホテルの部屋に戻ると、無言のままで抱き合った。二人がこんなに時間 をかけてセックスするのは初めてだった。いつも父親とチャ―リーが住むあの家や、ト゛ン のアパートでせわしなく抱き合い、ことが終わるとト゛ンはなるべく早く弟から離れた。恋 人同士のように睦み合い、行為に慣れるのが怖くて、毎回ト゛ンは名残惜しそうなチャ―リ ーを置いてシャワーを浴びたり仕事に戻ったりした。けれども今日はなるべく時間をかけて、 ゆっくりと丁寧に抱いた。 二度目の繋がりを解いた後で、上半身を起こしたト゛ンにまたがるような姿勢でキスを繰 り返していたチャ―リーが囁いた。「ト゛ン、僕の兄さん」 ト゛ンはそのときチャ―リーの太ももを撫でていたが、それを聞いて手を止めた。間近に あるチャ―リーの瞳は潤んでいて、彼はト゛ンに猫のように鼻を擦り付けてもう一度呟いた。 「兄さん」 それはト゛ンが今まで聞いた中で、一番柔らかで幸せそうなチャ―リーの声だった。にも 関らずト゛ンは胸が痛むのを感じ、めまいを覚えた。歯を食いしばってそれに耐えていると、 チャ―リーが顔を上げて瞳を覗き込んできた。「ト゛ン?」 「――なんでもない。ちょっと……」 掠れた声で答えて額に手をやると、チャ―リーは唇を引き結んだ。そして沈黙の後でぽつ りと言った。「やっぱり、こんなときでもつらいんだね」 「違う。ただ――」 「ごめんねト゛ン。全部僕のせいだ。ト゛ンは悪くないよ」 静かな声でそんなことを言うので、ト゛ンは弟の身体を押しのけて立ち上がった。チャ― リーはベッドに座り込んだままで、苛々と歩き回るト゛ンを見上げていた。 「ト゛ン?」 甘ったるい呼び方。彼はまだ子供だ。30歳を過ぎていても。きっと永遠にそうなのだろう。 チャ―リーはおそらく一生無邪気な天才のままだ。この弟に罪を被せることなどできはしな い。もしそんなことができるのなら、どれほど楽だったろう。けれどもチャ―リーはト゛ン が知っているなかでも最も無垢で、保護すべき存在だった。 ト゛ンはもうやめよう、と幾度となく繰り返した言葉をまた言おうとした。だがチャ―リ ーの怯えたような目に気づいて、すぐに口を閉ざした。その代わり微笑んで、弟を安心させ ようとした。チャ―リーはそれを見てぎこちなく微笑み返しながら、続ける?と小さく聞い てきた。ト゛ンは知っていた。彼がこんなふうに疑問形を使うのは、そうしてほしいという ことなのだ。だがト゛ンはかぶりを振り、シャワーを浴びてくると丁寧な口調で言った。チ ャ―リーは目を伏せた後無言で頷いた。 お互いがシャワーを終えて、眠る準備が整うと、ベッドの中でチャ―リーはおずおずとト ゛ンの首筋に腕を巻きつけてきた。そして肩の辺りに顔をうずめ、こんなふうに眠ることを ずっと夢見ていたと囁いた。 翌日は車で少し遠出をしてアトランティックシティのビーチまで出かけた。まずいことに、 二人で屋台の飲み物を買おうとしているときに、ト゛ンは昔の知り合いに会った。FBIの研修 生だったころのクラスメイト。もう10年も会っていない仲間だったが、ト゛ンを目ざとく見 つけて話しかけてきた。 もっと別の場所での再会だったならト゛ンも喜んだだろう。だが彼はチャ―リーと繋いで いた手をさりげなく解くことに必死で、友人との会話を楽しむ余裕がなかった。興味深そう にチャ―リーを見る友人に、ト゛ンは嘘を吐き、チャ―リーのことをただの友達だと言った。 そして屋台から飲み物を受け取らないままで、慌しくその場を去った。 チャ―リーがト゛ンの嘘に傷ついたことはわかっていた。それどころかト゛ンはその後、 チャ―リーに腕を組むことも手を繋ぐことも許さず、普通の兄弟のように接しようとした。 それでもチャ―リーは何も言わず、ト゛ンより少し遅れてついて来て、彼が話すフィラデル フィア・フィリーズの逸話などに大人しく耳を傾けていた。 けれども日が沈み、ビーチサイドのレストランに入ると、それまで言葉少なだったチャ― リーが不意に口を開いた。「踊りたい」 ト゛ンはぎょっとして弟の顔を見た。二人はせっかく海辺のレストランにいるというのに、 昨日のような景色のいい席ではなく、普通のカウンター席に並んで座っていた。ト゛ンが、 ましてやチャ―リーがそれを望んだわけではなく、自然にその席に案内されたのだった。 「皆踊ってる。僕らも踊りたい」 サラダを食べるというよりフォークでつつきまわしながら、チャ―リーは固い声で言った。 ト゛ンはカウンターからフロアの方を振り向いた。ジャズバンドの生演奏に合わせて、何組 もの客が踊っている。けれどもその中に兄弟はいないようだった。いるのはドレスアップし た男女のカップルがほとんど。それからゲイのカップル。男同士や女同士。どう見ても自分 たちとは違う組み合わせばかりだ。先ほど会った友人の顔が脳裏を掠めた。彼がこのレスト ランに来ているとしたら?それとも、もっと別の知り合いが。ト゛ンとチャ―リーが兄弟だ と知っているような近しい人物が。ト゛ンは戸惑い、それからかぶりを振った。 「チャ―リー、冗談だろ?」 「人の目が気になる?」 チャ―リーは横顔を向けたままそう言って微かに笑った。ト゛ンは答えあぐねて、ただ弟 の横顔を見ていた。 「チャ―リー……」 「プロムのあの女の子とそうしたみたいに踊ってよ。でも僕はト゛ンが絶対頷かないこと も知ってる。だけど踊りたいんだ。――もうこんなのは嫌だ」 チャ―リーはフォークを持ったままのこぶしをまぶたに押し付け、俯いた。そして震えた 声で続けた。「フィラデルフィアに来たのだって、単に知り合いがいないからってだけじゃ ない。そうだろ?ト゛ン。昔僕たちはここに来た。家族で――僕が三つのときだ。父さんと、 母さんとト゛ンとで……」 ト゛ンは目を見開いた。チャ―リーが一瞬視線を上げ、すぐにまた目を伏せる。確かに小 さな頃、家族でフィラデルフィアやアトランティックシティに来た。でもそれは本当に昔の ことだから、チャ―リーは忘れているだろうと思っていた。驚いているト゛ンに構うことな く、チャ―リーは言葉を続けた。 「僕がハイアリー・ギフテッド・スクールに入る前の、一番最後の旅行だ。フィラデルフ ィア・フィリーズの試合も皆で観に行ったね。スコアだって覚えてる。母さんは管弦楽団の 演奏を聞けないのを残念がってた。こういう海辺のレストランで食事をして、僕はテーブル と椅子の数を数えて、それを掛け算したりして完全数を見つけ出した。ト゛ン、僕だってち ゃんと覚えてるんだよ。最初は突然旅行に行こうなんて言われて不思議だったけど――ちゃ んと思い出した」 勝ち誇ったようにチャ―リーは言う。そしてまた挑戦的にト゛ンを見つめてきた。神経が 冴えているときの彼の常で、まなじりが微かに釣りあがっている。ト゛ンは答えに困り、そ れから苛立ちを覚えた。いつものように。 そうだ。確かにここに来たことはある。チャ―リーが天才児のための学校に入る前、彼ら がまだ「普通」だった頃の、一番最後の旅行。旅行を終えてカリフォルニアに帰り、半年後 にチャ―リーは数学の才能を伸ばすために特別教育を受け始め、両親、特に母親はそれから ずっとチャ―リーにつきっきりになった。そうなる前の一番最後の思い出がこの街にある。 それを思い出したくてト゛ンはチャ―リーをこの旅行に誘った。二人が普通の兄弟だった 頃のことを思い出したかった。 「ト゛ンは昔に戻りたいんだろ?僕が天才だって言われる前に。だからここに来たんだ。 恋人同士みたいに振舞うためじゃない」 チャ―リーはそう言って、乱暴にフォークを置いた。ト゛ンはそれを見て眉を顰めた。「 チャ―リー」 「ト゛ンは、ト゛ンはいつも僕を傷つける。僕は自分が間違ってることをト゛ンといると 思い知らされるんだ。だけど正しいことを確信するにも、ト゛ンの存在が必要だ。必要なん だ。なのに……」 震えた息を吐き、呼吸を整えるために黙り込んでから、チャ―リーはにらみつけるように 見つめてきた。彼の目は真っ赤だった。「踊ってよ、ト゛ン」 ト゛ンはそんな弟を見返してから、また首を横に振った。「できない」 自分の存在がいつも弟を傷つけると聞いて、ト゛ンは傷ついていた。そんなことを率直に 言うチャ―リーに腹立たしさも感じた。けれどどこかでそれを知っていたことも事実だ。チ ャ―リーはよくト゛ンの前で悲しみと苛立ちをまじえた瞳をする。理解されていないことを 自覚している人間の目。少年の頃、チャ―リーにそんな表情をされるのが嫌で、ト゛ンはあ まり弟と話さなかった。 ト゛ンはため息を吐き、しばらく考えてから口を開いた。「俺がお前を傷つけるっていう なら、なおさらこんなことは続けるべきじゃない」 その言葉にチャ―リーがぐらりと身体を揺らすのがわかった。ト゛ンはなるべくそれを見 ないように、前を向きながら続けた。「お前と俺の関係が不健康だっていう証拠じゃないか。 俺はお前に幸せになってもらいたいんだ。傷つけたいわけじゃない。お前にはわかりにくい かもしれないけど、俺はお前にまともな幸せを見つけてもらいたいんだ。わかるだろ?いつ までも俺との少年時代を引きずっているんじゃなくて、もっと前向きで発展性がある、そう いう……」 「ト゛ン、僕が望んでいるのはト゛ンとの関係なんだ。ト゛ンから見れば後ろ向きで発展 性がないかもしれないけど、僕にとってはそれが一番なんだ。――わかってない。だから僕 は傷ついてるのに」 掠れた、高い声で早口で言うと、チャ―リーはナプキンをテーブルに置いて席を立った。 そして足早にレストランを出て行った。ト゛ンは追いかけることもできずに、呆然としてそ の背中を見つめていた。 ____________ | __________ | | | | | | | [][] PAUSE | | | | | | ∧_∧ 前編オワリ | | | | ピッ (・∀・ ) | | | | ◇⊂ ) __ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| | | °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || | 萌えすぎてもうダメポ。なんだこの萌え兄弟… 前回感想くれた皆さんアリガトン このドラマは1月から狐本家でもやってくれるらしいので 観られる方はぜひ。お薦めです。 #comment
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