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#title(なる似あ兄弟) [#d3f99760] ナル荷亜国物語の兄弟に萌えたので投下。 弟×兄なのか兄×弟なのか自分でもよくわからない。 多分兄が受け。 ナル荷アで大人になった二人の話です。 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )シ ヤマモオチモイミモナイヨ みかげ石でできた階段を昇り、四つの王笏が象られた象牙の扉を押すと、黄金色の 光がピ-夕ーの瞳を刺した。ケア・パラべルの城でも最上階にある図書室には、東の 海から照り返す夕陽が満ちあふれ、そこここが淡く輝いている。そんななかでピ- 夕ーの弟であり、ここナル二アではピ-夕ーに次ぐ二の王でもあるエドマソドは、光 を避けるように書棚の影に立ち、それに寄り掛かるような姿勢で本を読んでいた。そ れを見てピ-夕ーは思わず微笑んだ。--予想通りだった。 「エドマソド、我が弟よ。世の終わりまでそなたがいる場所は変わらないであろうな --この図書室だ」 ピ-夕ーが軽く両腕を開きながら歩み寄り、そう呼び掛けると、黒髪の弟はやっと視 線を上げて微笑み返した。 「兄上、あなたがここにいらっしゃるのは珍しい。何かあったのでしょうか」 「そなたに判断を仰ぎたい裁判がある。正義の君よ」 ピ-夕ーがそう言いながら弟が持っている本の表紙を覗こうとすると、エドマソドは さりげなく本を閉じ、肩を竦めてみせた。 「私にできることでしたら何なりと。ピ-夕ー、ナル二ア一の王」 エドマソドはいつもこうだった。自分の感情をあらわにせず、常に兄妹の意見に辛 抱強く耳を傾け、冷静で確かな答えを返してくれる。年下ながら分別のある弟を、ピ -夕ーは今日も頼もしく感じながらも、心の内を明かしてくれないことを寂しくも思った。 考えてみれば、この弟に年下らしく甘えられたことなど、もう長い間ない。エドマソド は寡黙なほど思慮深く、めったに自分の意見を口にしてくれない。 「--何を読んでいたのだ?」 森で起きた裁判の話をする前に、何とはなくピ-夕 ーが聞くと、エドマソドは弓形の眉を片方だけ上げ、首を降って見せた。 「何も。まつりごととはほとんど関係のないことです」 「だが、書物の喜びとはそういうものだ。この兄にそれを分け与えてくれぬのか?」 ピ-夕ーが半ば強引に背表紙を押し上げ、題名を見せるように促すと、エドマソド は珍しく動揺したような表情の後で、背表紙に並ぶ文字列を見せてくれた。--『人 間と彼らの世界についての神話』。ピ-夕ーはそれを見て、少なからず動揺した。エ ドマソドは叱られる前の子供のように、目を伏せてじっとしている。 「…これはまた、興味深いな。人間が人間についての神話の本を読むとは」 暫くしてから、低く、絞り出すような、しかし無理矢理笑いを含んだ声でピ-夕ーは呟き、 エドマソドが持っている本の背表紙を指で弾いた。エドマソドは黒い瞳をちらりと上 げたかと思うと、またすぐに伏せて見せる。頬に長いまつげの影が映されるのを見な がら、ピ-夕ーは次の言葉を考えていた。 ピ-夕ーや彼の兄妹が、このナル二アに来たのはもう随分前のことだった。余りにも 前のことなので、彼ら自身にもはっきりと思 い出せないほどだ。確かその頃には、末っ子のル-シィは、膝小僧が見えるほど短いドレ スを着ていたし、例えばエドマソドも半ズボンを履いていた。ずっと昔、彼らがナル二アでは ない世界で暮らしていた頃。だがいつのまにか彼らは成長し、頼もしの君だとか正義の君だと かいう呼び名を冠され、誰もが認める名君になっていたのだった。ここ、ナル二アの国で。 目の前にいる弟は鬚まで生やし、非の打ちどころのない騎士に見える。彼はナル二ア ではピ-夕ーに匹敵するほどの剣の名手であり、またそれと同時に書物を愛する厳格な 知性の持ち主でもある。エドマソドは兄妹のうちでも最もピ-夕ーに忠誠心が強かったし、 また彼の人柄から言ってそれは不思議なことではなかった。--しかし--ピ-夕ーは弟 が後ろめたそうに表紙の文字を隠す本を、ぼんやりと見つめながら思った。しかし、エド マソドは、初めからこうだったろうか?つまり、彼らがこの世界に来た頃から。 「確かに、我々はまごうことなき人間です。しかし、我々は人間とは、どんなものなのか、 十分に知っているでしょうか?」 ぽつりと、沈黙のなかでエドマソドが呟く。ピ-夕ーが驚いてまじまじとその顔を見 つめると、エドマソドは耐えかねたように顔を背け、横顔を見せた。苦し気なその表情 もまた意外に思いながら、ピ-夕ーは言った。 「人間とはアダムの息子とイブの娘、つまり我々のことだ。そうではないか?」 「ええ、そうです。でも、それだけでは十分とは言えません」 エドマソドがはっきりとそう答え、心を決めたように彼自身の瞳と持っていた本の表紙を ピ-夕ーに向けて見せた。挑発するように。 「我々がどこから来て、どこへ行くのか。ナル二アの他の生き物とどう違うのか、兄上は 知りたいと思いませぬか?」 真直ぐに見つめてくるエドマソドの瞳はどこまでも黒く、真摯で、夜の闇のように憂いを 帯びている。弟のこんな側面に気付いたのは初めてだったので、ピ-夕ーは戸惑いながらも 誠実に答えた。 「我々はそもそもナル二アに生まれた者ではない」 「ええ、私達はナル二アの者ではありません!ピ-夕ー、覚えていますか?我々は 別の世界から来ました。あなたはそれを覚えているのですか?」 悲痛と言ってもいい声でエドマソドは叫び、それからすぐに我に帰ったのかまた目を 伏せてみせる。図書室に敷き詰められた冷たい石が夕陽を浴びてきらきらと輝き、 ナル二アの特別な絹糸で織られた二人の装束も輝く。ピ-夕ーは不意に自分の弟が美し いことに気付き、それと同時に彼らが昔いた世界についてもぼんやりと思い出した。 「もちろん覚えているとも…ずっと昔…あそこにも争いがあった…私達は逃げてきた… あの場所から…。あの国…あれはなんという国だっただろう…。…私達の故郷」 口にする内に、ピ-夕ーの胸にはさざなみのように過去の記憶の断片が押し寄せて来た。 以前いた世界の食べ物、嗅いだ花の香り。しかしその記憶は曖昧で、実感を持って思い 出すことはできない。確かに事実なのに、すべてが夢のようにすら感じて、それを驚い ていると、エドマソドは堪り兼ねたように言った。 「私にもその名は思い出せません!私達のいたあの国の名前。私達と一緒に暮らしてい た人たちの--あの愛おしい人たちの名前!何も思い出せない--ときどき、疑わしくな るのです。私達が人の子だということすら。だって、私達自身にすら、人とは何なのか、 もう既にわからなくなっているのですから!ピ-夕ー、あなたは何故そんなに落ち着いて いられるのです?自分達のいた世界を、思い出せなくなっているのに」 一息に言うと、エドマソドは唇を引き結び、それからふいと目を逸らし、持っていた本を でたらめに書棚に押し込んだ。ピ-夕ーは唖然としてそんな弟を見ていた。彼ら四兄妹がナ ル二アの王座についてもう随分長いことになるが、エドマソドがこう感情的になるのを見た ことは、めったになかったのだ。 ピ-夕ーはしばらく弟の張り詰めた横顔を見ていたが、 それからため息を吐いて言った。 「…確かに、私達は過去にいた世界について、だいぶん忘れてしまったようだ。私に も思い出せない。そう、私達は、以前ここではない世界にいた。王でも女王でもなく、 ただの、…ただの子供として。--だが今の私には、私達がどうしてここに来たのか すらも思い出せない」 そしてそのことを不思議にすら思わない。そこまで言おうとして、何故だかそれは 憚られて、ピ-夕ーは口を噤んだ。エドマソドはちらりと視線を上げ、すがるように見 つめてきた。 「本当に思い出せませんか?」 「本当に思い出せない。…そしてそれでいいのだろうという気さえするのだ」 ピ-夕ーが威厳を持って答えると、エドマソドは失望と崇拝が入り交じった表情を浮 かべて見せた。 「…ええ、私もそんな気がするのです」 「ではそれでいいのだ。それがアスランの思し召しなのだろう」 ピ-夕ーが弟の肩を摩るようにして言い聞かせると、エドマソドは困ったような顔を してから、少し笑った。「…そうでしょうか」 「元の世界に帰りたいのか?弟よ」 ピ-夕ーは優しく弟に問いかけた。何故か不意に、 いつもは正義の君として崇められ、ナル二ア一の知性と分別を持つと評されるエドマソドが、 頼り無い一人の少年のように見えた。こんな気持ちには確かに覚えがある。そう感じながら、 怯えたようなエドマソドの肩を抱いていると、間近にいる弟はふと顔を上げて、至近距離で ピ-夕ーの瞳を見つめてきた。それは恐ろしいほど真直ぐで、切実な思いを込めた瞳だった。 エドマソドは細い声で呟いた。 「私にはもうそれすらもわかりません。ただ、…何か、恐ろしいような、寂しい心持ちが するのです。特に、こんな夕暮れ時に。自分が消えていくような…」 そこまで言って、エドマソドは白い整った並びの歯で薄い唇を噛んだ。ピ-夕ーはそれ をぼんやりと見つめていた。自分の弟は確かに美しいのだとも実感したし、それなの に妃をめとっていないことを今さらに口惜しくも感じた。尤も、ピ-夕ー自身も妻を 迎えていなかったが、彼の弟が素晴らしい女性をめとっていないこと、それをことさ ら理不尽なように感じた。 「大丈夫だ。どうなろうと、そなたは消えていかない。永遠に私達と一緒にいるだろう」 宥めるように答えると、エドマソドはきつい瞳で見返して来た。 「その証は?そうと実証できることはあるのですか?」 「そなたは理屈くさいな。…ただ信じればよいと言うに」 思わず笑ってピ-夕ーがエドマソドの鼻を摘むと、エドマソドは罰悪気な表情で口籠った。 「信じるのは苦手です。…おそらく、私は永遠にあなたやル-シィのようにはなれないでしょう」 すいません、予定よ長くなりそうです そう、確かに、理に聡いその性質のせいで、エドマソドは受難に直面したことがあった。彼一人 がクリスマスの贈り物を持たないのも、ナル二アの王座に就く四人のなかでただ一人、 どことなく影を背負っているのも、彼のその性質のせいだ。ピ-夕ーは扱いずらい弟を不憫に 思いながらも、何と返せばいいのかわからず、言葉を探していた。 その時だった。エドマソドがあの黒い瞳を不意に上げて、薄い唇を寄せてきたのは。形 の良い唇がピ-夕ーの金色の睫を掠め、白いまぶたに押し付けられ、広い額に寄せら れ、それから柔らかい唇に擦り付けるように重ねられる。若草の香りのようなエドマ ソドの吐息を感じながら、ピ-夕ーは驚いていた。 暫くして、キスが終わると、ピ-夕ーは慎重に聞いた。 「驚いたな。今のは…どういうつもりなんだ?」 俯いていたエドマソドがくすりと笑った。 「キスだよ、ピ-夕ー。やあ、お互い、昔のような口調に戻っているな」 そう言われてピ-夕ーは、確かに自分と弟の口調が、さっきまでとは違う、しかし どこか懐かしい、気心が知れたものになっているのを感じた。 こんな口調で話した頃もあった。曖昧なそんな記憶を辿っていると、エドマソドの唇 がまたピ-夕ーのそれに舞い戻り、彼の細い指がエドマソドの柔らかい金髪を掻き上 げ、なぞるように項へと下りて、ついには胸元まで落ちていく。エドマソドは驚きを 感じ、しかし弟の指先に宿った火のような官能を、抵抗もなく受け入れていた。 「…あの人たち…そう、パパとママが、寝る前によくしてくれた。唇をこめかみに押 し付けるみたいなキス。…ママからはいつもはいいにおいがした。僕らはいつもいが みあっていた。僕は年上のピ-夕ーが妬ましくて、うっとうしくてたまらなかった。 …覚えてる?ピ-夕ー?」 冷たい石の上で、服を脱ぎあいながら、エドマソドが囁くように問う。夕暮れの光は 少しずつ弱まり、その代わりに夜が押し寄せ、エドマソドの白い肌も闇を受け入れて藍色 に染まる。ピ-夕ーは自分自身すら気付かなかった欲望を暴かれながら、素直に頷いた。 「…覚えてる。どうして忘れていたんだろう?違う、忘れていたわけじゃない。エド。 …違う。でも、忘れてしまうところだった。…すべて…」 元いた世界も。自分達のことも。ピ-夕ーには信じられなかった。自分達がいまナル 二アにいることと同じように、自分達は昔、まったく異なる世界にいたことが。そこに はもの言うけものもいなかったし、自分達はなんの功しも成し遂げられない子供だった。 自分達を保護してくれる存在がいて、それでいながら現実に怯えていた。そんなことを ほとんど忘れていたことに驚きを覚えたし、エドマソドの指先や唇によって、明瞭に 記憶が蘇ることにも驚いた。 ピ-夕ーにはわかった。エドマソドは、ピ-夕ーに過去を思い出してほしいのと同時に、 自分自身もそれを思い出したいのだ。だからこそこんなことをするのだ。 「僕は君を、君たちを裏切った。それがこの国に来て、最初にしたこと。忘れられっこない」 行為の終わりに、エドマソドが薄墨のような瞳を閉じて、静かに呟いた。ピ-夕ーはそれを 聞いて、まじまじと彼の弟を見つめた。理性と法で自らを律した、ナル二ア一の裁判官。常に 落ち着いて物事に相対するエドマソドが、急に幼く見えた。ピ-夕ーは弟を、ナル二アでな い世界にいた頃、よくそうしたように、きつく抱き締め、年上らしく言った。ものも のしいほどの声音、けれどかつてのような幼い口調で。 「それでも、エド。君は僕の弟だ。ナル二アでも。ナル二アでない世界でも。ス-ザン やル-シィにとっても、君はいつだって兄妹だよ。そうじゃないか?」 そう言ってエドマソドの黒髪を撫でると、彼の弟は恐る恐る視線を上げた。いたずらを して、それがばれた後に、怒られることに怯えたような少年の表情。ピ-夕ーは遥かかなたの 過去を久方ぶりに思い出し、喉元に込み上げてくる笑いを噛み殺した。そう、結局のところ、 ナル二アであろうとどこであろうと、エドマソドは彼のかわいい弟なのだ。それはどう なっても変わらないだろう。エドマソドが自分達兄弟を、アスランを裏切った時ですら そうだったのだから。 「ときどき、僕がここにいるということが不思議になる。ピ-夕ー。…罰が当たる かもしれないけど」 拗ねたように言う弟の額にキスをし、ピ-夕ーは服を着ながら上半身を起こした。 窓の外のナル二アの夜は輝き、咲き乱れる花々の香りは城の中にまで漂ってくる。お とぎ話のように美しい国。そう、ここは本当におとぎのなかの国なのかもしれない。 自分達は未だ、かつて異世界でそうであったような子供なのかもしれない。 だが、 だからといってナル二アの価値は損なわれないだろう。ここで過ごした夢のような時 間の意味も消えない。ピ-夕ーとエドマソドが、兄弟だという事実も変わらない。そ れでいいではないか? ピ-夕ーは身なりを整え、しゃんと立ち上がると、さっき までとは違う、ナル二ア一の王に相応しい威厳を持って答えた。エドマソドはまだ装束 も着ないまま、そんな兄を見上げている。 「ここはナル二ア。気高きアスラソの統べる国。そなたは我が弟。ナル二ア一の知性と 分別を備えた、正義の君。固き絆によって我らは四つの王座を守ってきた。それ以上に どんな真実があろう?」 そう答え、弟に手を差し伸べると、エドマソドは戸惑ったような表情のあと、その手を 握ってきた。ピ-夕ーは微笑み、エドマソドもはにかんで見せると、呟いた。ええ兄上、 いつまでも、いつまでも、この幸せな夢が続かんことを。私はそれを願います。 終 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・;)改行ちょっとおかしいかも… お目汚しすまんです #comment
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は珍しく動揺したような表情の後で、背表紙に並ぶ文字列を見せてくれた。--『人 間と彼らの世界についての神話』。ピ-夕ーはそれを見て、少なからず動揺した。エ ドマソドは叱られる前の子供のように、目を伏せてじっとしている。 「…これはまた、興味深いな。人間が人間についての神話の本を読むとは」 暫くしてから、低く、絞り出すような、しかし無理矢理笑いを含んだ声でピ-夕ーは呟き、 エドマソドが持っている本の背表紙を指で弾いた。エドマソドは黒い瞳をちらりと上 げたかと思うと、またすぐに伏せて見せる。頬に長いまつげの影が映されるのを見な がら、ピ-夕ーは次の言葉を考えていた。 ピ-夕ーや彼の兄妹が、このナル二アに来たのはもう随分前のことだった。余りにも 前のことなので、彼ら自身にもはっきりと思 い出せないほどだ。確かその頃には、末っ子のル-シィは、膝小僧が見えるほど短いドレ スを着ていたし、例えばエドマソドも半ズボンを履いていた。ずっと昔、彼らがナル二アでは ない世界で暮らしていた頃。だがいつのまにか彼らは成長し、頼もしの君だとか正義の君だと かいう呼び名を冠され、誰もが認める名君になっていたのだった。ここ、ナル二アの国で。 目の前にいる弟は鬚まで生やし、非の打ちどころのない騎士に見える。彼はナル二ア ではピ-夕ーに匹敵するほどの剣の名手であり、またそれと同時に書物を愛する厳格な 知性の持ち主でもある。エドマソドは兄妹のうちでも最もピ-夕ーに忠誠心が強かったし、 また彼の人柄から言ってそれは不思議なことではなかった。--しかし--ピ-夕ーは弟 が後ろめたそうに表紙の文字を隠す本を、ぼんやりと見つめながら思った。しかし、エド マソドは、初めからこうだったろうか?つまり、彼らがこの世界に来た頃から。 「確かに、我々はまごうことなき人間です。しかし、我々は人間とは、どんなものなのか、 十分に知っているでしょうか?」 ぽつりと、沈黙のなかでエドマソドが呟く。ピ-夕ーが驚いてまじまじとその顔を見 つめると、エドマソドは耐えかねたように顔を背け、横顔を見せた。苦し気なその表情 もまた意外に思いながら、ピ-夕ーは言った。 「人間とはアダムの息子とイブの娘、つまり我々のことだ。そうではないか?」 「ええ、そうです。でも、それだけでは十分とは言えません」 エドマソドがはっきりとそう答え、心を決めたように彼自身の瞳と持っていた本の表紙を ピ-夕ーに向けて見せた。挑発するように。 「我々がどこから来て、どこへ行くのか。ナル二アの他の生き物とどう違うのか、兄上は 知りたいと思いませぬか?」 真直ぐに見つめてくるエドマソドの瞳はどこまでも黒く、真摯で、夜の闇のように憂いを 帯びている。弟のこんな側面に気付いたのは初めてだったので、ピ-夕ーは戸惑いながらも 誠実に答えた。 「我々はそもそもナル二アに生まれた者ではない」 「ええ、私達はナル二アの者ではありません!ピ-夕ー、覚えていますか?我々は 別の世界から来ました。あなたはそれを覚えているのですか?」 悲痛と言ってもいい声でエドマソドは叫び、それからすぐに我に帰ったのかまた目を 伏せてみせる。図書室に敷き詰められた冷たい石が夕陽を浴びてきらきらと輝き、 ナル二アの特別な絹糸で織られた二人の装束も輝く。ピ-夕ーは不意に自分の弟が美し いことに気付き、それと同時に彼らが昔いた世界についてもぼんやりと思い出した。 「もちろん覚えているとも…ずっと昔…あそこにも争いがあった…私達は逃げてきた… あの場所から…。あの国…あれはなんという国だっただろう…。…私達の故郷」 口にする内に、ピ-夕ーの胸にはさざなみのように過去の記憶の断片が押し寄せて来た。 以前いた世界の食べ物、嗅いだ花の香り。しかしその記憶は曖昧で、実感を持って思い 出すことはできない。確かに事実なのに、すべてが夢のようにすら感じて、それを驚い ていると、エドマソドは堪り兼ねたように言った。 「私にもその名は思い出せません!私達のいたあの国の名前。私達と一緒に暮らしてい た人たちの--あの愛おしい人たちの名前!何も思い出せない--ときどき、疑わしくな るのです。私達が人の子だということすら。だって、私達自身にすら、人とは何なのか、 もう既にわからなくなっているのですから!ピ-夕ー、あなたは何故そんなに落ち着いて いられるのです?自分達のいた世界を、思い出せなくなっているのに」 一息に言うと、エドマソドは唇を引き結び、それからふいと目を逸らし、持っていた本を でたらめに書棚に押し込んだ。ピ-夕ーは唖然としてそんな弟を見ていた。彼ら四兄妹がナ ル二アの王座についてもう随分長いことになるが、エドマソドがこう感情的になるのを見た ことは、めったになかったのだ。 ピ-夕ーはしばらく弟の張り詰めた横顔を見ていたが、 それからため息を吐いて言った。 「…確かに、私達は過去にいた世界について、だいぶん忘れてしまったようだ。私に も思い出せない。そう、私達は、以前ここではない世界にいた。王でも女王でもなく、 ただの、…ただの子供として。--だが今の私には、私達がどうしてここに来たのか すらも思い出せない」 そしてそのことを不思議にすら思わない。そこまで言おうとして、何故だかそれは 憚られて、ピ-夕ーは口を噤んだ。エドマソドはちらりと視線を上げ、すがるように見 つめてきた。 「本当に思い出せませんか?」 「本当に思い出せない。…そしてそれでいいのだろうという気さえするのだ」 ピ-夕ーが威厳を持って答えると、エドマソドは失望と崇拝が入り交じった表情を浮 かべて見せた。 「…ええ、私もそんな気がするのです」 「ではそれでいいのだ。それがアスランの思し召しなのだろう」 ピ-夕ーが弟の肩を摩るようにして言い聞かせると、エドマソドは困ったような顔を してから、少し笑った。「…そうでしょうか」 「元の世界に帰りたいのか?弟よ」 ピ-夕ーは優しく弟に問いかけた。何故か不意に、 いつもは正義の君として崇められ、ナル二ア一の知性と分別を持つと評されるエドマソドが、 頼り無い一人の少年のように見えた。こんな気持ちには確かに覚えがある。そう感じながら、 怯えたようなエドマソドの肩を抱いていると、間近にいる弟はふと顔を上げて、至近距離で ピ-夕ーの瞳を見つめてきた。それは恐ろしいほど真直ぐで、切実な思いを込めた瞳だった。 エドマソドは細い声で呟いた。 「私にはもうそれすらもわかりません。ただ、…何か、恐ろしいような、寂しい心持ちが するのです。特に、こんな夕暮れ時に。自分が消えていくような…」 そこまで言って、エドマソドは白い整った並びの歯で薄い唇を噛んだ。ピ-夕ーはそれ をぼんやりと見つめていた。自分の弟は確かに美しいのだとも実感したし、それなの に妃をめとっていないことを今さらに口惜しくも感じた。尤も、ピ-夕ー自身も妻を 迎えていなかったが、彼の弟が素晴らしい女性をめとっていないこと、それをことさ ら理不尽なように感じた。 「大丈夫だ。どうなろうと、そなたは消えていかない。永遠に私達と一緒にいるだろう」 宥めるように答えると、エドマソドはきつい瞳で見返して来た。 「その証は?そうと実証できることはあるのですか?」 「そなたは理屈くさいな。…ただ信じればよいと言うに」 思わず笑ってピ-夕ーがエドマソドの鼻を摘むと、エドマソドは罰悪気な表情で口籠った。 「信じるのは苦手です。…おそらく、私は永遠にあなたやル-シィのようにはなれないでしょう」 すいません、予定よ長くなりそうです そう、確かに、理に聡いその性質のせいで、エドマソドは受難に直面したことがあった。彼一人 がクリスマスの贈り物を持たないのも、ナル二アの王座に就く四人のなかでただ一人、 どことなく影を背負っているのも、彼のその性質のせいだ。ピ-夕ーは扱いずらい弟を不憫に 思いながらも、何と返せばいいのかわからず、言葉を探していた。 その時だった。エドマソドがあの黒い瞳を不意に上げて、薄い唇を寄せてきたのは。形 の良い唇がピ-夕ーの金色の睫を掠め、白いまぶたに押し付けられ、広い額に寄せら れ、それから柔らかい唇に擦り付けるように重ねられる。若草の香りのようなエドマ ソドの吐息を感じながら、ピ-夕ーは驚いていた。 暫くして、キスが終わると、ピ-夕ーは慎重に聞いた。 「驚いたな。今のは…どういうつもりなんだ?」 俯いていたエドマソドがくすりと笑った。 「キスだよ、ピ-夕ー。やあ、お互い、昔のような口調に戻っているな」 そう言われてピ-夕ーは、確かに自分と弟の口調が、さっきまでとは違う、しかし どこか懐かしい、気心が知れたものになっているのを感じた。 こんな口調で話した頃もあった。曖昧なそんな記憶を辿っていると、エドマソドの唇 がまたピ-夕ーのそれに舞い戻り、彼の細い指がエドマソドの柔らかい金髪を掻き上 げ、なぞるように項へと下りて、ついには胸元まで落ちていく。エドマソドは驚きを 感じ、しかし弟の指先に宿った火のような官能を、抵抗もなく受け入れていた。 「…あの人たち…そう、パパとママが、寝る前によくしてくれた。唇をこめかみに押 し付けるみたいなキス。…ママからはいつもはいいにおいがした。僕らはいつもいが みあっていた。僕は年上のピ-夕ーが妬ましくて、うっとうしくてたまらなかった。 …覚えてる?ピ-夕ー?」 冷たい石の上で、服を脱ぎあいながら、エドマソドが囁くように問う。夕暮れの光は 少しずつ弱まり、その代わりに夜が押し寄せ、エドマソドの白い肌も闇を受け入れて藍色 に染まる。ピ-夕ーは自分自身すら気付かなかった欲望を暴かれながら、素直に頷いた。 「…覚えてる。どうして忘れていたんだろう?違う、忘れていたわけじゃない。エド。 …違う。でも、忘れてしまうところだった。…すべて…」 元いた世界も。自分達のことも。ピ-夕ーには信じられなかった。自分達がいまナル 二アにいることと同じように、自分達は昔、まったく異なる世界にいたことが。そこに はもの言うけものもいなかったし、自分達はなんの功しも成し遂げられない子供だった。 自分達を保護してくれる存在がいて、それでいながら現実に怯えていた。そんなことを ほとんど忘れていたことに驚きを覚えたし、エドマソドの指先や唇によって、明瞭に 記憶が蘇ることにも驚いた。 ピ-夕ーにはわかった。エドマソドは、ピ-夕ーに過去を思い出してほしいのと同時に、 自分自身もそれを思い出したいのだ。だからこそこんなことをするのだ。 「僕は君を、君たちを裏切った。それがこの国に来て、最初にしたこと。忘れられっこない」 行為の終わりに、エドマソドが薄墨のような瞳を閉じて、静かに呟いた。ピ-夕ーはそれを 聞いて、まじまじと彼の弟を見つめた。理性と法で自らを律した、ナル二ア一の裁判官。常に 落ち着いて物事に相対するエドマソドが、急に幼く見えた。ピ-夕ーは弟を、ナル二アでな い世界にいた頃、よくそうしたように、きつく抱き締め、年上らしく言った。ものも のしいほどの声音、けれどかつてのような幼い口調で。 「それでも、エド。君は僕の弟だ。ナル二アでも。ナル二アでない世界でも。ス-ザン やル-シィにとっても、君はいつだって兄妹だよ。そうじゃないか?」 そう言ってエドマソドの黒髪を撫でると、彼の弟は恐る恐る視線を上げた。いたずらを して、それがばれた後に、怒られることに怯えたような少年の表情。ピ-夕ーは遥かかなたの 過去を久方ぶりに思い出し、喉元に込み上げてくる笑いを噛み殺した。そう、結局のところ、 ナル二アであろうとどこであろうと、エドマソドは彼のかわいい弟なのだ。それはどう なっても変わらないだろう。エドマソドが自分達兄弟を、アスランを裏切った時ですら そうだったのだから。 「ときどき、僕がここにいるということが不思議になる。ピ-夕ー。…罰が当たる かもしれないけど」 拗ねたように言う弟の額にキスをし、ピ-夕ーは服を着ながら上半身を起こした。 窓の外のナル二アの夜は輝き、咲き乱れる花々の香りは城の中にまで漂ってくる。お とぎ話のように美しい国。そう、ここは本当におとぎのなかの国なのかもしれない。 自分達は未だ、かつて異世界でそうであったような子供なのかもしれない。 だが、 だからといってナル二アの価値は損なわれないだろう。ここで過ごした夢のような時 間の意味も消えない。ピ-夕ーとエドマソドが、兄弟だという事実も変わらない。そ れでいいではないか? ピ-夕ーは身なりを整え、しゃんと立ち上がると、さっき までとは違う、ナル二ア一の王に相応しい威厳を持って答えた。エドマソドはまだ装束 も着ないまま、そんな兄を見上げている。 「ここはナル二ア。気高きアスラソの統べる国。そなたは我が弟。ナル二ア一の知性と 分別を備えた、正義の君。固き絆によって我らは四つの王座を守ってきた。それ以上に どんな真実があろう?」 そう答え、弟に手を差し伸べると、エドマソドは戸惑ったような表情のあと、その手を 握ってきた。ピ-夕ーは微笑み、エドマソドもはにかんで見せると、呟いた。ええ兄上、 いつまでも、いつまでも、この幸せな夢が続かんことを。私はそれを願います。 終 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・;)改行ちょっとおかしいかも… お目汚しすまんです #comment
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