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*530-4 [#a419070c] #title(530-4) [#a419070c] 「きみ――あ、いや、同じ医師であるあなたにそう言って頂けるとは光栄です」 整った顔をにこにことほころばせて、剤然は心底嬉しそうに答える。 腕に覚えのある外科医というものは、自分の技術に並々ならぬプライドを 持っている。それを賞賛されると、ある者は当然とばかりにふんぞりかえり、 もしくは口では謙遜しながら相手を見下すか、逆に妙に卑下してみせたりもする。 たいがいが難しい人種なのだ。 しかし剤然の笑顔は、信頼する大人にほめてもらった小さな子供のように純粋だった。 思わず見惚れていると、大きな目が今度は気忙しく壁の時計を見上げた。 「ああそろそろ僕の番だ、中に入らなくては」 次いで視線は振動の手の紙コップに落ちる。 「振動先生は病院に戻られるのですか」 「いえ、発表聞かせて頂きますよ、ぜひ」 ぬるくなった中身を急いで飲み干し、剤然と一緒に立ち上がる。 ――まただ。 振動は、再び輝くような笑顔に照らされていた。 +++ 今夜はここまで。 #comment