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*530-3 [#r0383a51] #title(530-3) [#r0383a51] 530です。読んでくださってありがとう。 +++ 見開いた瞳は数秒間振動を凝視していたが、やがてぱちりと音のしそうな瞬きを すると表情を整えた。 「重ね重ね失礼。――私は難波大学病院第一外科の剤然といいます」 差し出した右手は白く小さく、指先にはきれいに手入された爪が桜色に並んでいる。 華奢なその手を見て、振動はふと医学生になりたての頃のオリエンテーションで 教官が冗談混じりに「外科と産婦人科は手が小さい方がいい」と言っていたのを 思い出した。 「……江北医大の振動です」 外科医の繊細な商売道具に配慮して軽めに握る。熱くも冷たくもない、空気と同じ 温度を感じた。 「難波大の剤然先生、」記憶をたどる。「――と言うと、昨年大阪府知事の 食道ガンを執刀された……?」 初対面の挨拶用に取り澄ましていた顔が、また一転ぱぁっと華やいだ笑顔になる。 くるくるとよく表情の変わる男だ。 「ご存知でしたか」 「先に報道された病状なら、現職のまま治療するのは難しいと思っていました。 知事を早く復帰させたので驚きましたよ」 「回復が早かったのは知事に体力が有ったからです。私の手柄ではありません」 「それを消耗させない技術が有ればこそでしょう。最初新聞で読んだ時、あまりに 術時間が短かったので、分割手術かと思ったほどです」 #comment