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S-45 の変更点


*郷実×材前 [#re8a826b]
#title(郷実×材前) [#re8a826b]
最近、とみに材前の横顔に陰りが深まった。 
口元にはいつもの笑みをはりつけたまま、目の奥は氷のように冷たい。 
誰にも触れさせず、開かず、心をぴたりと押し込むように閉じ、 
材前は日々を生きていた。 
自分だけしか信じられるものは存在しない。 
彼は崖っぷちを目を閉じて歩いていた。そんな生き方をしていた。 

「なんか最近うちの郷実先生と材前先生、前以上に 
ぎくしゃくしてないか?」 
武内は廊下で楊原を呼び止めると切り出した。 
「…俺もうすうす感じてたんだけど」 
まぁあの二人はつき合いも長いし、俺達にはわからない対立もあるんだろうけど。 
そういうと楊原は目を落とした。 
確かに、最近の郷実と材前は周りが気を使うほどにぎこちなかった。 
業務連絡の際も一切目を合わせようともしないし、口調も堅い。 
横から武内達が合の手をいれようものならギロリと睨まれる。 
「なーんかやりにくいんだよなぁ~~。おかげでこっちが気ぃ使って肩凝るっつの」 
うんざりとした表情で武内はボヤいた。 
「まぁヘタな勘ぐりはよそうぜ。そういうの好きじゃないよ」 
楊原が言い含めると「はいはい」武内は笑って「さ、仕事仕事~」と伸びをした。 


「俺からは以上だ。君からなにかあるか?」 
郷実は机の一点をみつめながらいうと相手の返事をまった。 
時計の秒針の音が妙に響く。 
「いや」材前はそういうと椅子を引いて立ち上がる。 
「それじゃあ」 
カルテを束ねるといつものように目を合わせず 
立ち去ろうとする。 
ふと材前の細い右手の人さし指に絆創膏が貼ってあることに 
気付いた郷実だったが、言葉を飲み込み俯いた。 
材前は立ち上がったまま動こうとしない。 
不審に思った郷実は顔をあげた。 
「どうした?」 
「いや…。」含むように笑うと 
「早く出ていってくれと顔に描いてある」材前はそういって背を向けた。 
何もいえず、郷実はまた机に目を落とした。 



ドアに手をかけた材前はそのままその場に倒れこんだ。 
郷実はスローモーションのようにその様を見ていたがふと我に返り駆け寄った。 
「おい」 
材前の顔は真っ青だった。額にびっしりと汗をかいている。 
貧血のようだ。 
両脇から腕をまわして支えると材前は気を取り戻した。 
目が一瞬郷実の顔あたりを彷徨うと、ぴたりと目があった。 
何週間ぶりかの材前の瞳だった。 
郷実は胸の奥があつくなり抱き締めたい衝動に駆られた。 
「すまんな」材前は細い声でいうとバツが悪そうに俯いた。 
「寝ていないのか」 
答えは沈黙だった。 
「君は……」何かをいいかけたが、いや、いい、と郷実の腕をふりほどき 
材前は立ち上がった。 
「何だ?」郷実は問いかけたが 
「迷惑をかけた」そういうと足早に部屋からでていった。 


この時もう少し二人が大人であったら正常な軸に戻れたのだ。 
しかし、それには幼すぎた。 

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以上です。おつき合いありがとうございました。 
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