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69-536 の変更点


#title(Flawless)

某スペオペRPGで捏造話。少年編終盤のイベント準拠
黒服兄×弟前提で、兄さんと打ち上げ屋姐さんの色気に欠ける会話
冒頭回想シーンのみ微エロ

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 腕の中の身体が魚のように震えた。

 呼吸することを忘れていたかのように大きく息をつき、弟が私を見上げる。
 快楽に潤んだ瞳の中に、狂気を思わせる光が揺らめく。
 あなたを殺して、死ねたらいいのに。
 その光はそう言っている。それはゆるぎない確信だった。
 私もまた同じ目をしているのだろう。
 ああ、かまわない。
 この不自然な関係は、あらかじめ破綻が約束されているのだ。
 その前に、私を殺せ。
 食い殺せ。
 私も、お前を内側から食い破ってやろう。
 お前がそれを望んでいるのがわかっているから。

 殺し合うような情交の後、私たちは抱き合って眠る。
 そして翌朝、この狂った行為を繰り返すごとに蓄積されていく重い後悔とともに「仲の良い兄弟」に戻るのだ。

***

「さて……それじゃ、そろそろ本音を聞かせてもらおうか」
 ユーリ少年たちを先に帰らせた後、トスカ・ジッタリンダは単刀直入に切り出した。
「そのつもりで残ってもらった。正直なところを言わせてもらおう」
 自席の遮音フィールドを起動し、トスカを招く。
「彼我の戦力のギャップから見て、現状での小マゼランの奪回は絶望的だ。そして……我々はこのままヤッハバッハを大マゼランに行かせるわけにはいかないと思っている」

 我々の策——もはや作戦とは呼べない、まともな軍人なら可能性を考えたとしても即座に選択肢のリストから消去するに違いない禁じ手——を聞き終えたトスカは、力の抜けた声で笑った。
「……まいったね。とんでもないこと考えやがる」
 だが、その顔に見えるのは怯えではなかった。
 生き延びるための、そして守るべき者を生き延びさせるための覚悟だ。
 そのためならどんな状況でも利用してやる、と言わんばかりのその表情は、子を守ろうとする肉食獣の母親を思わせた。
 ゾフィの交易会議で私にヤッハバッハの脅威を訴えたときのあのたおやかな令嬢が銀の鎖だとすれば、今のこの女が纏う空気は鋼の刃だ。
 だがそのあまりに違う二つの姿は、どちらも確かに彼女なのだ。何故かすんなりとそう思えた。

 私がおそらく人類史上最悪の人殺しになるであろうことについては何も言わず、トスカはただこう訊いた。
「向こうに、守りたいものがあるのかい?」
「祖国……と言いたいところだが、弟がいる。唯一の身内だ」
「へぇ」
 トスカが目をわずかに細めた。私の発言の真意を見極めようとしているかのように。
 その瞳に射られ、私は自分でも予想外の台詞を口にしていた。
「その弟を、私は犯した」
「……そりゃまた」
 トスカの反応は一瞬遅れた。
 性に関しては寛容な者が多いとされる0Gドッグであっても、近親相姦は絶対の禁忌だろう。
 もしもその事実がこの女の口から漏れることがあれば、弟に未来はない。それはわかっていた。
 では何故、私はわざわざそんな危険を冒したのか。
 女は「ここだけの話」を共有することで共同体を維持しようとする。
 だがこの女は、その枠の外にいる。そんな奇妙な確信があった。
 思考は言葉にした瞬間に心の中で重さを持つことをやめ、それを受け取った相手の中へと移動する。
 私は背負った重荷に耐えきれず、背骨を砕くであろう最後の藁を肩代わりしてくれる誰かを求めていたのだろうか。
 正確なところは自分でもわからなかった。
「なんで、アタシにそんな話を?」
「……何故だろうな」
 トスカは肩をすくめて窓外に視線を移し、それ以上は何も訊かなかった。

 事が始まる前にユーリ少年やトスカたちを大マゼランに逃がしたい、というのは、これから重ねようとする罪業から目を逸らすための、自らの良心に対する欺瞞にすぎない。
 だがその欺瞞と私のもうひとつの罪を彼女が黙って受け止めてくれたことで、私の心は確かに軽くなった。

「アンタはどうするんだ?」
 不意に私の目をまっすぐ見据えて、トスカが訊いた。
 あのとき、銀河の外から大帝国が攻めてくる、などという突拍子もない話を私に信用させたのは、けなげな令嬢の必死の説得などではなく、この目だ。
 おそらくは私と同じ、誰かを殺したいほど愛してしまったことのある者の目だ。
「残念ながら、軍人という職業を選んでしまったのでね」
 これは彼女の問いへの回答になっているのだろうか、と思いながら答えを返す。

 もしも違う形で出会っていたら、私は彼女に惹かれていたのだろうか。
 そうかもしれないし、そうでないかもしれない。
 確かなのは、今ここでの私とトスカは男と女としての軸線上にはいないということだ。
 それは何故か、とても安らげる関係に思えた。

「……わかった。教えてくれて恩に着るよ」
「ああ。もし生き延びたら、酒でも付き合ってもらおう」
 トスカは口元だけで笑った。
 身を翻してブリッジを出ていく彼女を目で見送る。
 銀色の髪が視界の隅で揺れ、似てはいないはずの人物の記憶と結びついた。

 記憶の中で微笑んだ弟は、病んだ目をしてはいなかった。
 人間の記憶は、ざらついた痛みを砂のように洗い流し、綺麗な部分だけを残してくれるようだ。
 それともあれは最初から、私の罪悪感が見せた幻影だったのか。
 知らず伸ばした指先に、その頬の柔らかな感触が蘇る。

 弟の記憶の中の私は、穏やかな顔をしているだろうか。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

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