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#title(ル/ナ/ド/ン/第三 冒険者×弱気吸血鬼8) |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )一週間たったので投稿しに来ました~。 うーん、と、バルドは考えた。 「なんとなく」 「賭け」 と、夜桜は一言だけ言った。 「負けない…」 「じゃあ俺も言うよ」 ぐ、と、顎を軽くつかみ、目線を合わせる。 バルドは口の端を持ち上げて、自信ありげな顔だった。 八の字の眉毛になって困り果てる夜桜とは正反対だ。 「俺も負ける気がしない」 その夜、ヴァンパイアは落ちているローブをこっそり借りて、家を抜け出し、ダンジョンにもぐった。 都市ダンジョンに依頼はなかったらしく、相変わらず鬼畜な顔ぶれがそろい、目の前をサキュバス系九体がよぎった。 とはいってもここは日倭なので、呼ばれ方は違うが、言葉は大体共通しているので、彼女らの噂話は理解できた。 「あらん」 サキュバスの一人が足を止めて、こちらを見る。 「いい男じゃない、でもちょっと気がよわそー、あなた吸血鬼系ネ、見た目からするとガルズヘイム?」 一人止まれば皆止まる。 一気に九人のサキュバス系に囲まれて、夜桜は戸惑った。 「が、ガルズヘイムヴァンパイアだ、君たちみたいなのを探していた」 「あらあら、この九人のうちだれがターゲットー?」 サキュバス系は一斉に笑い出した。 サキュバス系といえば初心者殺しで有名。 ヴァンパイアと違って、ボスモンスターが九体みっしりいればいいと思えば、どれだけ強いか理解できるだろう。 とは言え彼女らも女の子、ガルズヘイムのサキュバス系と同じく、恋愛話に無理やり持っていった。 「誰もターゲットじゃなくて…、むしろ困っている。人間と今暮らしているのだが」 「え?」 というわけで、越後屋の布団の上に皆で座ると、相談事を始めた。九人のサキュバス系は、興味を持って話を聞いた。 「人間と暮らしてるって、本気?」 「どんな子!?可愛い子!?私たちより可愛かったら許せないわね、うふふ、殺しちゃうかも…」 ゾクッと背中に寒い言葉が走る。 サキュバス系は見た目と違って案外残酷だったのを忘れていた。 それはどこの国も共通しているらしい。 「いや、ただの人間の男だ。多分この国の君たちなら知っている。バルドというガルズヘイムの男だ」 キャー、と黄色い声が上がった。 彼女らも見たことがあるらしく、そうねそうね、と口々に噂話を始めた。 正直テンションの高いこのノリにはついていけない。 「バルドと言ったら財力もあってー」 「案外無邪気な性格でかっこよくてー」 「おまけに強いときた」 「確か善と秩序系の人間よねー」 「私が人間だったらアプローチしてるわー」 「ガルズヘイムの戦士って結構素敵よね、でも、私は日倭戦士が好みー」 サキュバスが、夜桜にもっともっとと話をせがむ。 バルドの名前を出した途端の食いつきようと言ったら。 これで彼女たちに人殺し癖がなければ完璧なのだが、と夜桜は思った。 「私は気が弱い。人間に生まれたかった、戦闘を拒否したら、殴られてここに連れてこられた」 「あらまー、拉致に近いわね」 「人間に生まれたい吸血鬼というのも珍しいわ」 「それで何悩んでるのー?」 「バルドの私生活ってどんなのー?」 「ガルズヘイムの話聞きたいー」 いっぺんに言われても、と、夜桜は戸惑い、かいつまんで話をした。 まず寂しがり屋という自分の性格と、バルドが毎日添い寝してくれていることと、名前をつけてくれていること、話をしたいと言えば話をしてくれる。 「それってほぼ同棲ね」 「うんうん、うふふ、可愛いわ、あなた」 「いいないいなー、私も名前ほしいのに!!」 「添い寝とか!」 「夜桜なんて可愛い名前!でも女の子みたーい」 一気に九人に夜桜と連呼された。 「でもうまくいっているみたいだけど?異世界で人間と吸血鬼が旅するお話あったよねー」 「あったあった、それもうまくいってるみたいだから、悩みごとないじゃない」 とにかく話を聞いてくれ、と、夜桜はいったん彼女らを黙らせた。 彼女たちサキュバス系の目はわくわくと好奇心で満ちていて、今更ながらこの九人に話をしたことを後悔した。 せっかくなら死神系にでも言えばよかった。 馬鹿にされそうだが。 「賭けをしようと言い出した。私が抱いている感情が恋愛ならバルドの勝ち、違ったら私の勝ち、正直負けたくはないけど、バルドは負ける気がしないと言いだした」 「男のほうが趣味なのかあ、バルドもあなたも」 「同性愛者はこの世に何人かいるからねー」 あらあらと九人は話しこみだした。 何度も言うが、この女子の恋愛話好きなノリにはついていけない。 若干疲れながらも、夜桜は続けた。 「それが、恋愛したことないからわからないのだ。それにからかわれているだけで、バルドにはその気がないのではないかと思う」 大丈夫、同性愛に偏見なんてないから、と、何人かが口をそろえて言うが、明らかに恋愛話なら何でもよしな流れだ。 そのうち一人がその話を聞いて、意味深な発言をした。 「添い寝されて寝ちゃったんでしょ。あの吸血鬼系のあなたが。何回も」 「?そうだが?」 「じゃあ負けね!」 「は…」 思わず口をあけて、眉をしかめる。 なぜに負けたのか意味がわかっていない夜桜に、そのサキュバスはにっこり笑った。 モンスターでありながら、笑えば人間の女以上に可愛い。 それはもちろんサキュバス系であるから。 けれど夜桜は心が動じることはなかった。 「今あなたの心にいる人はだーれ?いつも思い浮かぶ人はだーれ?大事な人と言ったらだーれ?添い寝されて、安心して寝ちゃったのだーれ?」 「!!」 その言葉にやっと気付いた。 負けの意味は、つまり自分がバルドが好き、ということだ。 認めたくない。 負けたくない。ただその心があるけれど、いつも心にあるのは、誰か。 「あああああああ」 夜桜は腹の底から苦い声を出した。 そしてその場で頭を抱えて蹲る。 「いくら私たちでも、知らない男に添い寝されたら殺しちゃうわ」 「話してもらって安心とかないよねー」 「だって私たちは、私たちだけいればいいんだもん」 一部百合な関係がいるようで、二人のサキュバス系が抱き合ってきゃっきゃと声を出した。 追い打ちにしかならなかった。 「わ、私がバルドが好きなら、去るしかないのか…、バルドにとっていい迷惑になってしまう。一カ月が過ぎたら、どこかのダンジョンにもぐろう…」 しゅんと落ち込む夜桜に、九人のサキュバス達は一斉に声を張り上げた。 あまりにも小さな部屋に甲高い声が響いて、思わず耳をふさいだ。 が、そのうち一人が怒ったようにその耳をふさぐ手を払いのけた。 「何言ってんの?人間だって、興味ない相手にそんなことしないんじゃないの?」 「相手の心とかちゃんと確認してるのかしら?私たちが言えることじゃないけど、好きな人できたら相手の心まで気にならない?例えばあなたなら、バルドがどう思ってるの、とか」 中々はっきりしない態度に彼女たちも本気になってきた。 若干怖いと思いながら、その言葉に圧倒される。 バルドの心まで知りたい? 「それが普通なのか」 バルドはいつでも笑顔だった。からかってはきたが、添い寝すると言ってきたのもバルドだ。 「バルドは…いつでも優しかった」 「夜桜ちゃん」 一人のサキュバスが、夜桜の頭を軽くなでた。 「今から帰って、彼の本心聞いてみなよ。中々教えてくれないと思うけど!名前まできちんとつけてくれるなんて、相当夜桜ちゃんのことお気に入りよ?」 「日が昇ると人間たちに気付かれちゃうから、早く帰りなさいな」 意外にも彼女達の目は優しかった。 恋愛に関してはプロフェッショナル、同じモンスター関しては優しい。 その言葉に、小さな勇気が芽生えた。 「聞いて、見る…」 夜桜は小さく声に出した。 きっと普通のヴァンパイアや、サキュバス達だったら普通に聞けたであろうことを、彼は小心者すぎて聞けない。 それでも彼女たちが押してくれたおかげで、何とか、聞くことを心に決めた。 「…ら…」 遠くで声が聞こえた。 「!バルド…」 耳のいい夜桜にはその声の主がバルドであることに気付いた。 次々と障子をあけていく音を感じ、サキュバス系の彼女たちは、殺されてはたまらない、と相談しあって逃げることにした。 「じゃあね、夜桜ちゃん。また何かあったらおいでー」 反対側の障子をあけて悠々と去っていく彼女たちに、小さく手を振った。 「夜桜!!」 彼女たちが去っていくと同時に、勢いよく障子が開けられた。 布団の上に座っている夜桜に、バルドは安心たように息をついた。 「いきなりいなくなってるからびっくりしたぞ…」 手を差し伸べてくる。 その手を恐る恐る取りながら、夜桜は小さな声で聞いた。 「怒らないのか?」 「あ?なんでだよ」 「う…」 駄目だ、聞かないと。 でもここはモンスターが多すぎる。 家へ帰ろう、と夜桜が言おうとするより少し早く、バルドが言った。 「家へ帰るぞ!」 「…ああ」 同じことを考えているとわかると、照れてくる。 頷くと、バルドと家へと帰って行った。 時間は午前四時だった。 結構長い間、ダンジョンで話し込んでしまったらしい。 運がよく、人の少ない時間だったせいか、ヴァンパイアだとは気付かれることなく、無事に家に着いた。 バルドの部屋に入ると、バルドが目の前に夜桜を座らせた。 「あれだけ外に出たら危ないと言っただろうが!」 きつい喝に、思わず、びくりと体が震える。 さすがは日倭の血が入っているだけあって、怒ったバルドの威圧感はかなりのものがあった。 「…人間には相談できないから…モンスターたちに意見を聞きに行こうとして…」 しどろもどろになりながら、何とか状況を話した。 都市ダンジョンで、サキュバス系に出会い、話を聞いてもらったことも説明すると、バルドがあからさまにつまらなそうな顔をした。 否、つまらないというより、若干怒っている。 「それで?何か得るもんでもあったのかよ、俺嫌いなんだよ、サキュバス系っつーとこの国では鬼子母神か」 「あ、ああ、彼女たちはうるさいが、親身になって聞いてくれた」 あ、そう。その言葉だけ吐くと、バルドはそっぽを向いて横になった。 「バルド」 「…」 答えてくれないが、それでも何とか勇気を振り絞った。 「賭けは私の負けだ」 「…何?」 「けど、その前に聞きたいことがある、答えてくれないか?」 こちらに向けた顔をちらちらと見ながら、夜桜は手をにぎりしめた。 聞かなければ。 「バルドは…夜桜と名前をつけてくれた私のことを、どう思っている?」 突然の質問に、バルドが大きく目を見開いた。 「面白いとは言ってくれた、だけど、好きだとは聞いたことがない、好きじゃないなら、約束の一カ月たったら、去る」 気がつけば夜桜は泣いていた。ごしごしと手のひらで涙をぬぐいながら、何とか小さな声でつづけた。 「私だけ、好きなのはいやだ、バルドがただの興味本位だけなら、私は、いやだ…」 戸惑ったのはバルドだった。 正直、面白いとしか思っていなかった。 捜しに出かけたのは事実だが、それでもどこかで夜桜が死んでいないか心配になった、それ以外に理由がなかった。 もし恋愛感情抱いていたなら面白い。 「それは…」 バルドは言葉に詰まった。 とりあえず起き上がって、夜桜の涙をぬぐってやる。 いつも以上に悲しそうに顔をしている夜桜を見て、そっと髪をなでてやる。 「そうだなー」 バルドは考えた。 「正直に言うと、面白い程度にしか考えてなかった」 「…」 でも、とバルドは続けた。 「出会ってまだ五日じゃん?そりゃ俺男だって行けるし女だって行けるけど、お前とはな、種族違う。夜桜、確かに俺はお前をからかってたよ。 でもあと一カ月は最低でも期間あるんだ。その間に、何かあるっていう可能性はないのかよ?こんな寂しがり屋で気の弱い夜桜、普通に手放せると思うか?」 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )ちょっと微妙な関係になりました #comment