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62-321 の変更点


#title(Silent Night)
台詞等、基本的にドラマ版準拠ですが、ビジュアルはお好きな方で。 
「監視カメラどこ行ってん」というツッコミはなしでお願いします。

漫画&ドラマ モリのア○ガオ
及川直樹×渡瀬満 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 
*Silent Night [#k4dc7a6e]
 「死刑囚として生きるってことは、過去、現在、未来、その全てを捨て去って生きるってことなんだ」 
 曾て、そのように語った男がいた。 
 その人はぼくにとって、会ったことも話したこともない実の父よりも、ずっと近しい存在だ。その人がいなければ、その人が他人の血で手を汚さなければ、ぼくがこの世に生まれて来ることはなかったのだ。 
 ぼくが生まれて来ることも、満と出会うことも、今、こうして満を抱くことも。 
 そして明日、この手で満を殺すことも。 

 鉄格子の間から差しこむ月光に、満の頬を伝う涙が煌めいた。誰も知らない森の奥深くにひっそりと咲く、朝顔に置いた露のように。 
 彼の裸の右肩に今も惨たらしく残る、赤黒い傷痕にそっと触れる。遠い昔、彼の夢を錆びつかせ、輝かしい将来を断ち切ったあの恐ろしい一撃を思い、その十数年後、篠突く夜の雨の中で、彼の放った死の斬撃を思った。 
 そして、未決囚として、初めてここにやって来た時の彼。見えないボールを介した心のやり取り。 
 庇うように、傷痕の上に置かれたまま、止まってしまったぼくの手に、彼が自分の手を重ねてくる。黒目勝ちの涼やかな目がぼくを見つめて、「どうした?」というように笑っている。明日、確実に死すべき人間の目だとはとても思えないほど、無邪気に、穏やかに。 
 そんな所じゃなく、こっちを構ってくれよ、と言わんばかりに、手がぼくの手を腰から下へ導いて行く。彼にはこれが生まれて初めての――そして生涯最後の――経験になる筈なのに。ぼくの方は、男性は初めてとはいえ、それなりに場数を踏んでいるのに。今やすっかり、彼に主導権を握られた形だ。 
 明朝、必ずやって来る永遠の別れ。そしてその時、彼が耐えなければならない、想像を絶する恐怖と苦しみを思うと、胸が張り裂けそうだ。それなのに、彼が切なそうに上げる声をもっと聞きたくて、喉を反らせて身悶える様をもっと見たくて、その熱く昂った部分を更に強く握りしめ、擦り上げてしまう。そうしながら、尖った乳首を片方ずつ食んで、濡れてますます妖しく色づいたそれを、指先で摘まみ、弄ぶ。 
 固く固く彼を抱きしめ、乱暴とすら言えるやり方で、その唇を貪った。彼も、ぼくの背中に回した腕に力を込め、舌を絡めて、慇懃に、誠実に応えてくれる。 
 ああ満、大事な大事な、ぼくだけの満。暁を知らず、このまま二人一つになって、永遠に闇の中へと堕ちてゆければ、どんなにいいだろうか。 

 語るべきことは、この数年間に語り尽くした。この夜、涙に暮れるぼくに、満が寄り添い、そっと抱きしめてからは、二人とも、もう無言だった。ただ、抱きあい、崩れ落ち、濃やかな愛撫と口づけと、言葉にならない溜め息と、互いの温もりの中に溺れていくだけだ。 
 だけど満。ぼくは満の髪に、濡れた頬に触れる。ぼくはこの先ずっと、悩み続けるだろう。いつか年老いて、病に倒れて、息を引き取るその日まで、「本当にこれでよかったのか」という問いを抱き続け、問いに苛まれ続けて生きるだろう。 
 正義という名の道なき道を探しあぐね、白と黒、二人の自分に引き裂かれ、疲れ果てて、光の差しこまぬ森の奥を、幽鬼のように彷徨い続けるだろう。 
 ごくわずかな苦痛さえ、どんなことがあっても、絶対に与えたくなかった。細心の注意を払って、少しずつ少しずつ、満の中へと押し入った。満はすっかり力を抜き、時々目を開けたり閉じたりしながらも、信頼しきった眼差しでぼくを見つめている。 
 初めて味わう満の内奥。温かく、しっとりと絡みついてくる感触。深く息をつく。身震いをする。歓びと共に、哀しみに似た、得体の知れない何かがぼくの中心を咥えこみ、骨まで溶かす底なしの淵へと引きずりこんでゆく。 
 満の目が、「どう?」と問いかけている。微笑みながら、何度も頷いてそれに答え、もっともっと、満の中を感じたくて、目を瞑った。 
 奇妙なことに、唐突に瞼の裏の闇に浮かんだものは、ぼくら二人のこの一時に、全く似つかわしくも、相応しくもないものだった。鮮やかな色彩と、凛とした佇まい。 
 今はもういないあの人が、死の間際まで、丹精込めて作っていた――未完成のまま旅立ってしまった――あの貼り絵の御仏。 
 それらの美しい作品の数々を寺院に納めるよう、ぼくに言ったのは、間もなく退官を迎えようとしている、ぼくの最も尊敬する人だった。 
 きっと、最後には、あの人の心は澄みきっていたし、彼ら二人の魂は、ぼくと満に劣らないほど、固く結びついていたのだろう。 
 この世界。果てしない苦渋と矛盾と絶望と、「なぜ!?」という憤りの叫びに満ちたこの世界。そこに生まれ落ち、生きて、出会って、別れて、愛して、憎んで、傷ついて、傷つけて、悔い改めて、癒されて、償って、許して、ついに旅路を全うしたその時、その手を掴んでくれる手があるだろうか?その魂を救い上げてくれる何者かが存在するだろうか? 
 「直樹・・・・」 
 満の囁く声がして、我に返った。 
 腕の中の愛しい人に、意識を戻した。彼の手が動き、ぼくの手を掴み、五本の指を絡めて、二度と放すまいというように、しっかと繋ぎ合わされた。 
 満の唇が開き、短く淡々と、しかし、一言一言を噛みしめるような、いつもの言い方で、これだけを伝えた。 
 「直樹。俺は、ここにいるよ。これまでも。今も。・・・・これからも」 

 ネオン輝くきらびやかな大都会の片隅に、誰も知らない、鬱蒼とした森がある。 
 その奥深くに、ぼくと満は、永遠に開けられることのない秘密の壷を埋めた。 
 恋人どうしだった、最初で最後の夜の思い出を封じこめて。 

 その夜、ぼくの愛する人は、何度も何度もぼくの名前を呼びながら、乱れ咲き、歓喜の呻きと共に達し、短い微睡みに落ちた。 
 満ち足りた、天使のような寝顔を見つめながら、もしかしたら、正義なんてどうでもよかったのかも知れない、という思いが胸を過った。 
 贖罪なんて、救いなんて、どうでもよかったのかも知れない。ぼくはただ、満を永遠に自分のものにしたいばかりに、敢て彼に死を突きつけたのかも知れない。 
 そう、あの時、ぼくは確かに、一度、彼を殺したのだ。そして、明日の朝、もう一度。 
 半年前、彼に届けられたあのクリスマスの絵を思い出した。恐らく、十数年ぶりに描かれたであろう、作者の兄の顔。今、ぼくの目の前にあるのと同じ、安らいで、幸せそうな彼の顔だった。 
 いつか、そうした人もあったように、森の外に出ることもできたかも知れなかった。彼女の許へ――あのひたすらに孤独で、ひたすらに不幸な娘の許へ――帰る道もあったかも知れなかった。 
 それを諦めるように諭したのは、このぼくだ。 
 でも、彼だって、ぼくに背き、生きて再び妹を抱きしめるよりも、ここでぼくと過ごし、最後にぼくに抱かれることを選んだのだ。 
 最後にぼくを見て、ぼくの手によって、奈落の底に堕ちて行くことを望んだのだ。 
 明日、朝顔の咲く頃に――。 

 語るべきことは、この数年間に語り尽くした。 
 夜が明けるまで、二人とも、もう無言だった。 

Fin. 
*[#k4dc7a6e]
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 

結局、野球のゲームはできなかったようですが、 
「(最初で)最後の対戦」とは、こういう意味だったのかも知れません。
- 素敵ぃぃぃぃ。表現も露骨すぎず(m)ツボをはずさず好きです。「ただの一夜でもあとは余生で良いと思える -- [[モリおた]] &new{2014-06-07 (土) 11:10:16};
- 「ただの一夜でもあとは余生で良いと思え恋でした」これ、大奥での絵島の最後の台詞。死んでもいいと思える恋なんてほとんどの人が一生巡り会わないよね。うらやましい、続き次ぎの方にまた書くね -- [[もりおた]] &new{2014-06-07 (土) 11:13:09};

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