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#title(三匹が斬る! 殿様×千石 「続続・じゃじゃ馬ならし Part3」)
[[&gt:>43>61-36]]の続きで、時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。全四回投下のうち三回目。暴力描写あり。 
[[>>43>61-36]]の続きで、時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。全四回投下のうち三回目。暴力描写あり。 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 


暗くなった仏堂で、お小夜は真之介の膝に頭を乗せてすやすやと眠っていた。真之介もうつらうつらとしていたが、鋭く向けられた殺気を感じて、かっと目を開いた。 
夜目をこらすと、闇の中に浪人がうっそりと立っていた。 
どすどすと足音がして、お小夜も目を覚ました。熊と狐が提灯を手に部屋に入ってくると、浪人は目で合図し祭壇の蝋燭に火を移させた。 
ぼうっと薄明るくなった室内を見渡し、真之介は浪人に問うた。 
「こんな夜中にどうした。ひょっとして、寺篭もりはもう終わりか」 
「察しがいいな。事情が変わって、出立せねばならなくなった」 
「そうか。そうすると、俺はいよいよ邪魔になるな」 
「その通りだ。俺としてはもう少し、お前をかわいがってやりたかったのだがな。残念だよ」 
浪人の言葉に、後ろの男達がげらげらと笑った。 
凍るような冷たい笑みを浮かべた浪人が刀をずらりと抜くと、お小夜がやめて、やめてと泣き叫んだ。 
狐に命じ娘を退かせると、睨み付ける真之介に近寄り喉元に刃を突き付けた。 
「今からお前を斬り刻んで、楽しんでから殺してやる。恐ろしくはないか。命乞いはせんのか」 
「けっ、命乞いしたって、どうせ斬り刻むんだろうが。無駄なこった」 
「いい覚悟だ。ますます気に入った」 
浪人は刀を振りかぶると、流れるような早さで振り下ろした。 
真之介を鋭い痛みが襲い、同時に柱に縛り付けていた縄が切れて解けた。 
前かがみになった真之介は、縄と一緒に斬られた着物の下から覗く腹に、一筋の赤い線が走っているのを認めた。 
深くはないその傷を、浪人はわざと付けたのだ。こうやってじわじわとなぶり殺すつもりなのだと悟り、真之介は顔を上げ再び浪人を睨んだ。 

「先生、いいんですかい、縄を切っちまって」 
「縛られたのをただ斬り殺すのでは、つまらんからな。せいぜい悪あがきをしてもらおう」 
「そいつぁいいや。おいおめえ、芋虫みてえに転がって逃げやがれ、はははっ」 
熊は笑い、後ろ手に縛られた真之介の身体を蹴り付けて、横倒しにさせた。狐もお小夜を押さえながら、逃げろ逃げろと囃し立てた。 



浪人が突き下ろした刀から、真之介は身をよじって逃れた。次の瞬間左の二の腕を切り裂かれ、真之介の顔は苦痛に歪んだ。 
愉快そうに刀を振る浪人から必死に逃げ回りながら、真之介は機会を伺っていた。 
ごろごろと転がり狐の近くまで来た真之介に、浪人が刀を振り上げ歩み寄ろうとした。 
すると戒められていた筈の右手が伸び、浪人に向けて何かが放たれた。 
咄嗟に刀で払い落としたそれは、小さな陶器のかけらだった。 

狐と熊が浪人に気をとられた隙に、真之介は自由になった手でお小夜の足首を掴み、力の限り引っ張った。 
「てめえっ、この野郎!」 
上体を起こしてお小夜を背中に庇うと、娘を奪われて怒った狐が、長脇差を抜き放ち襲いかかってきた。 
すかさず落ちていた柱の縄を拾い、狐の目を狙って投げ付けた。 
「うわっ!」 
怯んで動きを止めた狐に足払いをかけると、つんのめり上体をかがめた。真之介は刀を持った手首を掴み、思いきり頬に拳を入れた。 
長脇差を奪うと浪人達に突き付け動きを見据えながら、ぶっ倒れた狐の懐を左手でさぐった。 
「こいつはあの子のだ。返してもらうぜ」 
取り出した銀の簪をとりあえず自分の髪に射すと、後ろのお小夜がありがとうおじちゃん、と嬉しそうに叫んだ。 
「か、返しやがれ!」 
「お小夜、目をつぶってろ!」 
欲と怒りに我を忘れて飛び掛かる狐の胸を、突き出した刀で貫いた。 
ぐぎゃっ、というような声を上げて、狐は絶命した。刃を抜くと身体はどうっと倒れ、真之介は残った男達にまた身構えた。 

一連の出来事を顔色も変えず見ていた浪人に、右手に縄を巻き付けたままの真之介は笑いながら告げた。 
「おめえが柱の縄を切ってくれて、助かったよ。手の縄がもうちょっとで切れるってとこで、うたた寝しちまってな。転がりながらなんとか切ったが、冷や汗もんだったぜ」 

厠の床が腐って使えない為、連れ出されたお小夜は中庭の草むらで小用をしろと言い付けられた。 
用を足しながら辺りの様子を窺っていると、草陰に落ちている何かの破片が目に入った。 
括った縄の端を握った狐が自分も用を足しているのを確かめて、お小夜は尻餅をついたふりをして破片を拾った。 
真之介は不自由な手を使い時間をかけて、なんとか縄を切ることが出来たのだった。 



「縛られて手が痺れてたが、こいつを斬ったらあったまったぜ。次は、おめえらの番だ」 
「調子に乗るんじゃねえ、この陰間野郎がっ!」 
喚いて熊が切り掛かった。 
「俺は陰間じゃ、ねえんだよっ!」 
真之介は座ったままで刀を持ち上げ、頭上に振り下ろされた刃をがっきと受け止めた。 
力任せに跳ね退けると、のけ反った熊の腹を斬り裂いた。 
熊が倒れると同時に、真之介の持つ刀が真ん中からぽきりと折れた。 
「くそっ!なまくらが」 
毒づいて熊の取り落とした長脇差を目で探すと、真之介から離れた襖際の床に転がっていた。 
目の前には浪人が立っていて、刀を取る隙などとても与えてくれそうになかった。 
仕方なく折れた刀を構え、浪人を睨み据えた。 

「なかなかやるな。本当にお前って奴は、俺を楽しませてくれるよ」 
「抜かせ!言った通りになったろうが。てめえも、ぶった斬ってやるっ」 
「どうかな。手は動くようだが、脚に力が入らんのだろう。娘を庇って、その折れた刀でどこまでやれるか、見ものだな」 
にやりと笑うと、浪人は前に踏み出した。 

すると急に襖が開け放たれ、ぼんっという音の後からもくもくと煙が舞い込んだ。 
煙の方に一瞬視線をやった浪人を、左右の方角から勢いよく飛んできた物が襲った。 
素早く刀でたたき落とすと一つは石、一つは小柄だった。 
浪人の早業と、障子を突き破った見覚えのある小柄に目を見張る真之介を、耳慣れた呼び名で呼ぶ声があった。 
「仙石!受け取れっ」 
障子ががらっと開き、そこから自分に向かって放り投げられた物を、真之介はがっしりと掴んだ。 
手に馴染んだそれは、男達に掠われてから所在が定かでなかった、真之介の愛刀だった。 
「ありがたい!俺の同田貫!」 
即座に抜き放ち障子に目を戻すと、外に流れゆく煙の中に、やけに懐かしく思える男の姿があった。 

「おっせえぞ、殿様」 
「すまんな仙石。いろいろ段取りを付けていたんだ」抜き身を下げて入って来た八坂兵四郎は、浪人をじろりと見やり真之介に詫びた。 
「やっぱりしぶといね~、馬鹿は死なない。よっ、さすが大馬鹿仙石!」 
石を手の中でぽんぽんと弾ませながら、愛用の槍を手にした鍔黒陣内も、続いて襖から現れた。 
刃を突き付けられながらも浪人はふたりを交互に眺め、不敵な笑みを浮かべていた。 



「うるせえぞ、このたこ!」 
「あっ、そんなこと言うの?陣ちゃんの煙玉で、助かったくせにっ」 
「わかったわかった。殿様、段取りたあ、なんのことだ」 
「今にこの寺に、お客さんが来るのさ」 
「殿様、どうやらおいでなすったようだよ」 
陣内の言葉の後に、どかどかと荒々しい足音が押し寄せた。 
障子や襖を蹴倒して現れたのは、喧嘩支度に身を包んだやくざ者達だった。 
夜空を覆った雲が動き、月明かりの中に、中庭に並ぶ男達と後ろに控えた親分らしき壮年の男、そのかたわらにいる頭巾を被った女の姿が浮かび上がった。 

「やはり来たな、佐平次親分。そして、近江屋のお内儀」 
「なにぃ、近江屋の!?するとお小夜の、二番目のおっかさんか」 
お小夜の身元を本人から聞いていた真之介は驚き、陣内が彼に向かってまくし立てた。 
「そのおっかさんが、義理の娘を掠うように仕向けたんだよっ」 
「なぁにぃ!?本当か、殿様」 
「本当だ。俺が仕掛けた呼び出しに乗ってきたのが、何よりの証だ」 

兵四郎は宿場の入り口で、倒れていたおたみを救った。おたみは宿場一の旅籠、田丸屋の末娘で、掠われた米問屋、近江屋の長女のお小夜とは家ぐるみの付き合いがあり、大の仲良しだった。 
愛娘が掠われたと聞き、嘆いた近江屋は宿場の人々に頼み込んで捜索を頼んだ。 
それを率いたのが近江屋と懇意な、土地の親分でありながらお上から十手を預かる、二足のわらじの佐平次だった。 

おたみ達を助けた浪人が真之介らしいと知り、兵四郎も捜索隊に加わった。 
現場の林に真之介の死体は見当たらず、彼の数少ない持ち物である愛用の刀と、薄汚れた笠が打ち捨てられていた。その状況から、おそらく一緒に連れ去られたのだと兵四郎は見当をつけた。 
生死が気遣われたが、夜になりひとまず捜索から帰った。すると訪れた近江屋で女中として働いているお恵に出会い、気になる話を耳にした。 

近江屋の女房は若く美しい後妻で、亭主との間に三つになる娘がいるが、腹違いのお小夜のことも分け隔てなくかわいがっていた。 
その優しい後妻がお小夜かどわかしの報告を聞いた際、かすかに笑っていたのを見たというのだ。 
お恵は自信がないと言ったが、目がよく聡い彼女の観察眼を兵四郎は信じた。 



翌朝田丸屋を訪れて、おたみから掠われかけた時の様子を細かく聞いた。すると人掠いはまずお小夜の名前を呼び、確かめてきたという。そして逃げたおたみには、目もくれなかったらしい。 
更に田丸屋の主人からは、お小夜の母親である前妻を亡くして塞いでいた近江屋に後妻を紹介したのが佐平次であり、後妻と佐平次は郷里が同じであるらしいと聞いた。 

遅れて宿場に着いた陣内に、兵四郎はふたりの郷里の村での調査を頼み、自分は佐平次一家の家を見張った。 
すると若い三下が、風呂敷包みと酒瓶を手にして出てきた。 
後をつけると山の中にある古い荒れ寺に入り、やがて手ぶらで出てきた。中を窺ったが静まり返っていて様子がわからない。 
近江屋に戻った兵四郎は、店の者に荒れ寺のことを訊いた。そこは悪い霊が出る噂があり、土地の者は滅多に近寄らないところで、捜索が始まると佐平次が子分に命じて真っ先に探させたが、無人だったとのことだった。 

程なく陣内が戻り、後妻と佐平次が実は親子だと判明した。 
このかどわかしが、お小夜を狙ったふたりの企みではないかと兵四郎は推察したが、確たる証拠がない。 
それでお恵を使い、後妻に手紙を渡させた。お小夜かどわかしについてのお前の秘密をばらされたくなければ、今夜山の荒れ寺に来いという内容の物で、これは兵四郎の賭けだった。 
やましいところがなければ、秘密をばらすと書かれた手紙など気にせぬし、素直に亭主に相談しただろう。 
だが後妻は知らせた相手は亭主ではなく、捜索に出ていた佐平次だった。 

早めの夕刻に捜索隊は宿場に戻り、そこに佐平次達が見当たらない訳を、兵四郎は探しに出ていた近江屋の手代を捕まえて尋ねた。 
代官所から火急の呼び出しがあり、佐平次が子分をほとんど引き連れて行ったので、捜索は早めの切り上げになったのだと手代は告げた。 

「知らせを受けてお前達は代官所に行ったと見せ掛け、人掠い達も使った林からの裏道を歩きここに来た。出立を早めろとこの浪人達に告げ、そして様子を窺っていたんだな」 
「俺と殿様が姿を現したもんで、一気に片付けようってんでしょ。ところがどっこい、そうは問屋が……」 
卸さないのよねっと笑い廊下に出た陣内は、仕掛け槍を振るってかちゃりかちゃりと両の穂先を飛び出させ、中腰に構えてやくざ達に向き直った。 



「見つかる筈もない娘を幾日か探させて、ほとぼりが冷めてから人掠いどもを逃がす算段だったのだ、そうだろう」 
「お小夜ちゃんが消えて実の孫娘が跡取りになれば、近江屋の身代を好きに出来ると思ったんだろ。全く、やることが汚い!陣ちゃん、許さないよっ」 
代わる代わる兵四郎と陣内が真相を語ると、真之介は唸り声を上げた。 

「くそっ、そういうからくりだったのか!仮にも娘だぞ、なんてえ母親だっ」 
喚いてからはっとなり、後ろを振り向くと、お小夜は青ざめた顔をして震えていた。 
真之介は刀で手足の縄を切り、頭から抜いた簪を娘の髪に戻してやった。 
お小夜は真之介に縋り付き、しくしくと泣き出した。 

「ふんっ、だから掠うなんて手間ぁかけずに、娘を殺しちまやよかったんだ。おめえがしぶったせいで、このざまだ」 
佐平次が毒づくと、女は不気味に笑った。 
「仕方ないだろ、おとっつぁん。私としちゃ殺してもかまやしなかったけど、何せお千代が、あの娘に懐いてるもんだから……姉の死体を見せて、悲しい思いをさせたかなかったのさ」 
優しい継母の仮面を捨てた女は、とてつもなく醜く見えた。 
新しい母がいてくれるから寂しくないと笑ったお小夜の顔が頭に浮かび、慎之介の胸にはむらむらと怒りが込み上げた。 

「てめえら、ただじゃおかねえ!ふざけやがって、まとめて片付けてやる!」 
「けっ、くたばり損ないが、しゃらくせえ!たかが相手は三匹だ、やっちまえ!」 
佐平次の怒号に、子分達が一斉に長脇差を引き抜いた。 

駆け寄った数人を陣内の槍が素早く突いて仕留め、仏堂に踏み込んだやくざを兵四郎が気合いと共に斬り下げた。 
その隙にすうっと動いた浪人が隣室に身を引くのを、真之介は見咎めた。 
「てめえ、逃げるのか!」 
「逃げはせん。邪魔が入ったから、片付くまで高みの見物をさせてもらうのさ。お前は死ぬなよ、斬り刻むのはこの俺だ」 
「やっかましい!逃げやがったら、ただじゃおかんぞ」 
浪人は笑って姿を消した。 

「仙石、だいぶ痛め付けられたようだが、大丈夫か」 
「ああ、大丈夫だ。手負いだろうが、こんな三下どもに遅れは取らん。娘のことは、任せておけ」 
やくざ達を牽制する兵四郎に笑って請け合うと、真之介は近付いた男の足を薙ぎ払った。 
頷いた兵四郎は、次々と躍りかかるやくざを難無く斬り伏せた。 



侍とはいえ、たかが三人に手下達が翻弄される様を見て、佐平次は大いに焦った。 
「せ、先生!隠れてねえで、手を貸しておくんなさいよ」 
「断る。俺が請け負ったのはあくまで、娘のかどわかしだ。そして俺が斬りたいのは、その仙石とやらひとりきり。他に無駄な力は使わん」 
どこかから聞こえる浪人の声ににべもなく断られ、佐平次はぎりぎりと歯を噛み締めた。 
「ちっ、畜生め!てめえら、何をぐずぐずしてやがる、さっさとぶっ殺せ!」 
やくざ達は応っと威勢よく答えたものの、いかんせん腕が違い過ぎた。 
次々と数を減らす子分達に、色を失った女はその場から逃げようとした。気付いた陣内が腕を掴み止めようとすると、佐平次が娘を助けようと斬りかかってきた。 
咄嗟に避けると、運悪く刀は女を背中から斬り裂いた。ひいっと悲鳴を上げ、女は倒れ動かなくなった。 

娘を手に掛けた佐平次は混乱し、やみくもに刀を振り回した。 
「陣内、そいつは殺すな!」 
兵四郎の叫びにあいよっ、と返し、刃をかわした陣内は佐平次の後頭部に槍の柄を叩き込んだ。 
親分がやられると、残った子分達に動揺が走った。主だった格上の者はほとんど斬られ、戦意を無くしているのがありありとわかった。 

「佐平次は生き証人として、代官所に突き出す。そうしたらお前達もお咎めは免れんぞ。かどわかしに関わった者には、厳罰が与えられる。今のうちに逃げれば、なんとかなるかもな」 
兵四郎は子分達を見渡して言葉を続けた。 
「それとも、俺の刀の露と消えるか。ちょうどここは寺だ、墓を作るのには都合がいい」 
脅す兵四郎に子分達は青い顔を見交わし、刀を捨ててわらわらと逃げ散った。 

陣内は縄を取り出すと、気絶した佐平次をしっかりと縛り上げた。そして、中庭の向こうに声をかけた。 
「旦那、もう出て来て下さってけっこうですよ」 
木陰から姿を現したのは、近江屋の主人だった。後ろには、手代とお恵が付き添っていた。 
「おとっつぁん!」 
父の姿を見つけたお小夜が、真之介の後ろから飛び出した。 
「お小夜、お小夜!よくまあ、無事で……」 
「おじちゃんが、あたしを守ってくれたのよ」 
「そうか、そうか……私に見る目がなかったばっかりに、辛い目に合わせてしまったな。どうか、許しておくれ」 
地面に転がった物言わぬ女を見つめ、親子は涙を浮かべてひしと抱き合った。 



「守ったなんざとんでもない、俺があの子に守られていたんだ。あの子がいなきゃ、とっくに死んでた」 
眩しげに親子を眺める真之介に、兵四郎はそうか、と頷いた。 
ふいに、ふたりは同じ方向に目をやった。暗がりからのっそりと、あの浪人が姿を見せた。 
真之介が生きているのを認めると満足そうに笑った。 
「さすがだな。さすが、俺の見込んだ男だ」 
「うるっせえ!残ったのは、おめえだけだ。殿様、手を出すなよ。こいつだけは俺が、なんとしてもぶった斬る」 
「仙石、しかし」 
「大丈夫だ。だがもし俺がやられたら……後は、頼むぜ」 
「……わかった。気をつけろ」 

傷だらけの真之介を気遣う兵四郎と、兵四郎を信頼しきっている真之介を見やって、得心したように浪人は頷いた。 
「そうか、こいつがお前の……」 
「黙れ!さっさと、かかって来いっ」 
真之介は胡座をかいたまま、愛刀を構えた。浪人は刀を抜き、中段に構えてじりじりと歩を進めた。 
兵四郎は黙って見守りつつ、右手の指をそっと懐に忍ばせた。 
外からは陣内とお恵、近江屋親子達が、固唾を飲んで成り行きを見ていた。 

「刻んでなぶるのはどうやら、無理そうだな。ならばその首を斬り落とし、滴る血を残らず飲み干してやろう。そうすればお前は俺の一部となり、永遠に、俺のものとなる」 
「……つくづく悪趣味な野郎だな、てめえはっ」 
想像して気色悪さに舌を出した真之介は、とんでもない奴に見込まれたと我が身の運の無さを呪った。 


[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン! 
殿様サイドの話も書いていたのですが、それを加えるととんでもない長さになるので、読みづらいだろなあとは思いつつ、纏めさせていただきました。 
それでも長くてすみません、次で終わります。 
あと寝ぼけててナンバリング間違えました、ごめんなさい。 
反応下さった皆様、ありがとうございます。本当に励みになります。 
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