Top/61-342

61-342 の変更点


*誰も知らないこいの唄 [#tb31cc48]
オリジナルで、人間×人狼の話です。知人さんが見たという夢が元ネタ。 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 


人里に面した森の中、その深くのけもの道に、ひとりの少年が立っていた。子供の柔らかさよりは骨っぽさの方が幾分目につく少年は、背を伸ばして声をあげた。 

「だいちゃん、遊びにきたよ」 

一見、誰もいない木立に向かってかけられた声。しかし、反応は確かにあった。がさがさと葉が擦れ、忙しい足音が聴こえてきたかと思うと、少年の細い身体に誰かが抱きついた。 

「らんちゃん、会いたかった!」 

言葉通りに嬉しそうな、弾んだ声。その持ち主は、らんちゃん、と呼ばれた少年と同年程度の少年だった。ただその頭には、犬科を思わせるけものの耳が生え、腰からは同様の尻尾が覗く。 

「相変わらずストレートだね、だいちゃんは」 

「すとれーと、ってなに?」 

「素直ってことだよ」 

直情的な相手に、少年は苦笑混じりに、しかし柔らかく微笑んだ。らんちゃん―もとい嵐は、森近くの村に住む人間だった。対して、だいちゃんこと大は、この森に住むけもの人―人間曰くの「異形の者」だった。 



本当は互いの住処の掟で、人間とけもの人が会うなどご法度だ。しかし、ふたりはそんなことを大して気にもせず、よく山で遊んでいた。 
人見知りで村に友だちの少ない嵐にとって、いつでも笑顔で接してくれる大は、かけがえのない存在だった。幼いときから森の深くで慎ましく暮らしてきた大にとっても、嵐は人間で唯一の友だちだった。 
ふたりは性格こそ月と太陽のように違ったが、それ故にか不思議とかみ合い、人目を避けて仲を深めた。年を重ねるにつれその縁は強固になり、お互い無意識に恋に似た思いを抱いていた。 



だが、ふたりが十代の半ばも過ぎたある年、嵐の住む村が大飢饉にみまわれた。 
主食である小麦からなにまでの作物が不作となり、雨も降らない。人々は飢えに喘ぎ、苦しみ、いつしか「神の怒りだ」と騒ぎ立てた。 
食糧の奪い合いすら勃発する中、村長は村人たちを我が元に集め、高らかに言い放った。 

「森に住む異形の者を生贄として神に捧げれば、その怒りを鎮められるとの伝承がある」 

統率者である村長の言葉に、藁にもすがりたい思いの村人たちは賛同し、異形どもを狩って神に捧げようと息巻いた。 



その熱狂の中で、嵐は元来白い肌をさらに青白くさせていた。頭に浮かぶのは、けものの耳や尻尾を揺らして笑いかける大の姿だ。 
明朝に大人たちが生贄狩りを行う、と聴かされた嵐は、その夜の内に森へと走った。 
いままでで一番急いでいつもの場所へ辿りつき、息をきらす喉を張り上げ、「だいちゃん!」と呼んだ。夜中に、それもただならぬ様子で来訪した嵐に、現れた大は「どうしたの?」と心配そうに訊ねた。 

「だいちゃん、逃げよう」 

事情を説明した嵐は、大の手をとってその目を見つめた。成長し、嵐よりも背丈の伸びた大は、耳と尻尾をうつむかせ困ったように嵐を見る。だが、「俺の家に隠れればいい」と説得する彼に、やがて大はこくりと頷いた。 
それを確認した嵐は、大の手をしっかりと握り、急いで山を降りた。 



かくして、ふたりの同居生活が始まった。 
嵐の家は村のはずれにあり、彼自身近所との付き合いは薄い。灯台もと暗しというのか、村人たちは大の存在に気付かなかった。しかし、村を覆う飢饉は深刻だった。 
ひとりが食べるものすら難しい最中、嵐は小さなパンを半分割し、大と分け合った。 



そうやってどうにか日々をしのいでいったが、元々細く色も白い嵐が痩せていく姿に、大の胸は痛まずにはいられなかった。 
あるとき、いつものようにパンの片割れを差し出された大は、「俺、今日はお腹空いてないから。らんちゃんが食べていいよ」と言い、そのパンを返そうとした。 
しかし、自分と同様に痩せていく大が、それでも笑って嘘をつく様に、嵐のひとつの思いは強まるばかりだった。 

(だいちゃんを、ころしたくない) 

事実、森に住んでいたけもの人の何人かは、既に生贄として手にかけられていた。生贄を捧げる程に救われると信じている村人たちを見て、嵐は反吐が出そうだった。 
殺させやしない。俺が、守るんだ。そんな思いを噛みしめながら、ひもじい生活を送る日々が続いた。 



そして翌年、村の飢饉はどうにか終結した。作物もある程度は取れるようになり、村人たちは安堵の息をついた。それは嵐も同様だった。 
しかし、彼はあることに気付いてしまった。 
大のことだ。飢饉が終わり危険は去ったのだから、けもの人である彼を山に返さねばならない。 



それは当然のことであったし、嵐も彼を連れ出した当初はそのつもりだった。 
だが、それが出来ない。嵐にとって、大のいる生活はかけがえがなく、大のいない生活など、もはや考えられなくなっていた。 
だから、嵐は嘘をついた。 

「らんちゃん、外はどうなってるかなあ」 

「…まだ、危ないよ。ここにいなきゃだめだ」 

「…そっか」 

そう返すと、大の表情が悲しげに翳る。 
それに胸が痛むのを誤魔化すように、嵐は大に口付けた。そのまま床に押し倒して、抵抗のない身体をまさぐる。 
居住を共にして以来、ふたりはこうしてセックスもするようになった。元より種族も性別も超えた慕情であったため、それは当たり前のように生活にまぎれた。 
らんちゃん、らんちゃん、と濡れた声で呼ばれる度、嵐の胸はいとおしさと罪悪感でないまぜになる。それを消す潰すように、嵐はまた大を掻き抱くのだ。 



そうやって、延長された同居生活が続く最中だった。 
ある日、嵐が外出している間。いつも通り残された大は、珍しく村のはずれを通った村人の声を、その会話を聴いてしまった。 



「今年の麦は、豊作だねえ」 

その嬉しそうな言葉を聴いて、大は初めて、とうに飢饉が終わっていることを知った。それは同時に、ずっと信じていた嵐の嘘を知ることだった。 
ぼう然とする大の元に、嵐が帰ってくる。荷物を降ろすその背中に、大は声をかけた。 

「らんちゃん」 

「なに?」 

「外は、どうなってるの?」 

問いかけた言葉に、嵐の動きが止まる。 
少し間が空いてから、その答えが返された。 

「…まだ危ないよ」 

いつも通りの返事。いつも通りの、嘘。 
それを聴いた大は、 

「…そっか」 

と、いつも通りに頷き、微笑んだ。 
森に住むけもの人であった彼は、故郷よりも、嵐という孤独な青年を選んだ。 
ねえ、らんちゃん。あなたが望むなら、俺はずっと馬鹿な飼い犬でいいよ。だって、そうしたらひとりじゃないでしょう? 
そう微笑む大を囲う小屋の外には、彼の知り得ぬ豊かな秋が広がっていた。 



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ ;)イジョウ、ジサクジエンデシタ! 
元は生物パラレルとしてのネタだったんですが、そのまんまな感じに名前を変えきました。元が分かる人がいたら神。 
しかし自分は人狼ものが好き過ぎる…。 
失礼いたしました。 
#comment

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP