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#author("2021-05-12T19:04:28+09:00","","")
#title(流石兄弟モノ(弟×兄)) [#u0a0711a]
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 
流石兄弟モノ(弟×兄)で、唐突に思いついた走り書きです 




 あの人の中には色々と負い目があって、だから俺に逆らえない。 
 社会に受け入れられないこと、社会を受け入れられないこと。 
 家族に迷惑をかけてること、家族を迷惑に思っていること。 
 まあ基本的に駄目な人間だから、あの人はいつでも俺に負ける。 
 勝てる要素がゼロパーセント。 
 勘違いして抵抗しても、優しく諭せば大人しくなる。 
 日焼けしない肌がキモイとか、ヒキコモリは生かされてるだけ有り難く思えとか、 
思ってもいないことを並べれば泣き出す一歩手前の愛らしい顔。 
 別に、鼻水たれてるただの不細工な泣き顔なんだけど。 
 俺の言ったことに影響を受けて、俺の言葉で頭がいっぱいになって、タガが外れて 
泣いてるって事実に酔う。 
 俺よりほんの少し早く生まれた兄弟。 
 あんたが先に獲得した時間にすら嫉妬する俺を知ったとき、あんたはどうするんだ 
ろう。 





 学校が終わったら友達と花見に行ってくる。 
 帰りは遅くなるよ、もしかしたら泊まってくるかも。 
 家に連絡したとき電話に出たのは姉者で、そう気をつけてね楽しんでらっしゃいと 
優しく返された。 
「兄者は何してる」 
「ひきこもってる」 
「PC?」 
「そうじゃない? 妹者が遊んでくれないって拗ねてるから……ま、たまには兄者の 
ことは気にせず楽しんでらっしゃいよ」 
 最後にうふふと笑った姉者の声が耳にこびりつく。 
 うふふ。心配かけたくて不安にさせたくて悲しく寂しくさせたくて必死な弟者くん、 
せいぜい兄者の泣き顔を妄想してなさい。 
 言外にそんな風に言われた気がして、背中がむずむずする。笑顔が引き攣ったまま、 
それじゃあバイバイで電話終了。 
 俺の名前を呼ぶクラスメイトの声。 
 花見の席まで、ここから3駅離れてる。講義をサボって席取りしてる友達から非難 
轟々の連絡あり、至急出発されよ。 
 電車の窓からも桜の木が見える。春爛漫を告げる薄紅色の花、そういえば昔は兄者 
も普通に外で遊ぶ子供で、春の桜を楽しみにしていた。 
 今は太陽の変わりに蛍光灯を浴びて、桜の代わりにモニタを眺める毎日。着古した 
スウェットに長袖のTシャツで、痩せさらばえた猫背は触るとゴツゴツして可愛くない。 
「なー、お前も今日ヨーコん家に泊まらね?」 
「友者はヨーコ狙いか」 
「ハ、まさか。たまにゃお兄ちゃん子を鍛えてやろうかと」 
「余計なお世話だ」 



 今ごろどうしているだろう。 
 きっと姉者から聞かされて、強がってフーンとか生意気な態度をとってるんじゃな 
かろうか。どうってことありませんよ、と背中を向けてPCと睨めっこしながら、ぐる 
ぐる考えているに違いない。 
 ブラクラ踏んだらどうしようとか、帰って来ないっていつまでだろうとか、誰と 
会ってるんだろうとか、 
「会えないと分かった途端、会いたいとかー」 
「……友者なにを言っている?」 
「脳内妄想だだ漏れですよ馬鹿弟者」 
「あー……情けない」 
「そんなに兄者好きなのに、なんで優しく出来ないかねお前は」 
「しらね」 
 アナウンスが流れて、到着駅に降り立つ。改札を抜けて公園に入ると満開の桜が迎 
えてくれた、今日は暖かく晴天で、この上ない春の楽園。 
 青空、友達、桜、酒、おつまみ、暖かい風、みんなの笑い声。 
 天井、蛍光灯、締め切ったカーテン、窓を背にしたコタツの定位置、PCのモニタの 
光り、スピーカから流れるデジタルの音。 
 あの人と俺の世界はこんなにも違う。念入りに戸締まりをした兄者と、いつでも開 
くドアを持っている俺。 
 暗い部屋で泣いてたら嬉しいな、と思って俺は酒を飲み干した。 



 浅く眠っていたら、ばん、と大きな音がした。 
 一階の方から、笑い声が聞こえる。 
 ぱちぱちと瞬きをして時計を見ると深夜2時を回ったところだった。PCの前でうた 
た寝していたらしい、口元のヨダレを拭ってそっとドアの前に立つ。 
 うっすら開けて耳を澄ますと、友者の声が聞こえてきた。 
 じゃあ気を付けろとか、またガッコで、とか。 
 何の話か分からないが、弟者が帰ってきたらしい。夜遊びなんてと思うが、その大 
半がちゃんと外で生活できる弟者への嫉妬だと分かっているので口にはしない。 
 お帰りと出迎えるべきか、それとも無視してPCに向かうか。 
 おろおろ考えていると階段を登る足音が聞こえてきて、思わずドアから離れた。 
 が、暗くて視界が悪かったため、何かを踏ん付けて思い切りすっ転んでしまう。足 
音はドアのまで止まって、躊躇いもなしに外界との境目は開かれた。 
「なにしてんだ兄者」 
 コケたまま弟者を見上げて、ひらひらと手を振る。 
「ああいや、何でもない」 
「なーに、俺の帰りを待ってたとか?」 
「待ってないよ」 
「はやりのツンデレ? はいこれオミヤゲ」 
「……余ったツマミかよ」 
 コンビニのがさがさした袋を受け取って、溜め息。 
 弟者は酒の匂いをぷんぷんさせながらPCの前に立ち、小さく笑う。そういえばブラ 
クラを踏んで何とか再起動させたはいいが、エラーが出てどうしようもなく、うたた 
寝したのだった。 
 またかよ、と笑う声。 
 画面の文字を追う目元がほんのり赤い、大勢で飲む酒の味などとうに忘れ、酔う感 
覚も忘れて久しいが大分心地よさそうに見えた。 
「お泊りと聞いたが予定変更ですか」 
「そうですよ、寂しい兄者のためにわざわざ帰ってきましたよ」 
「何も寂しくないと――」 
「帰ってきた途端、部屋でどたばた騒いで気を引いたのはどこの誰ですか、と」 



 弟者の指がキーボードを滑って、PCが再起動する。 
 いつものOS起動画面がモニタに映し出される。何はともあれ、立ち上がって礼でも 
言わねば。 
「とりあえずありがとう、弟者――くさ! くさ、お前どんだけ酒……ちょ、寄るな!」 
「PCの救世主に向かってそれはないだろ、桜綺麗だったよー兄者も好きだろ桜」 
 心の中の柔らかい部分を刺されたように、顔が歪む。 
 好きだ、分かってる。好きだった。楽しみだった。待ち遠しかった。きっと来年も 
再来年もこの先ずっと、自分は春を楽しみにするんだと思ってた――。 
 でも今は違う。好きは好きだけど。来年も再来年もこの先ずっと、弟者と前みたい 
に花見に行けない自分をウジウジ悩む春になった。 
 今日だって楽しんでるであろう弟者のことを考えていたら、うっかりブラクラ踏ん 
でしまったのだ。 
「……すき、だけど、」 
 ぼそりと呟くと、ぽかんと目を見開いた弟者が瞬間的に顔を赤くして、え、と言っ 
た。 
 え。え? すき? すきって――。 
「え? なに、桜……だろ? なんだ、もしかしてからかってるのか?」 
「――そりゃないぜ兄者。あーもう、ヒキコモリは春夏秋冬気にするなよ。いーよも 
う。ああいくないよ。違う、ごめん待って」 
「……ヒキコモリ……」 
「事実に傷付いてんじゃねーよ。あ、あった。ハイこれホントのオミヤゲ」 
 弟者がくしゃくしゃになった桜をくれた。花吹雪で落ちたのだろう、五花弁の薄桃 
色はところどころ折れていたけれど綺麗だった。 
「久々に見た……」 
「まーな、去年もヒキってたし。まだあった、はいよ」 
 ポケットからぽろぽろ出てくる桜を両手で受け止めて、照れ臭く思いながらも匂い 
を嗅いでみた。ほんの微かに花の匂いがする、部屋にはない外の匂いだ。 
「兄者」 
 呼ばれて顔を上げる。少し伸びてしまった前髪でよく見えないが、普段にない優し 
い顔がこちらを見ていた。 



 傷んだ花を大事そうに抱えた兄者が呆けた顔でこっちを見ている。 
 ボサボサに伸びた髪が邪魔して、目はよく見えない。 
 ぺろんと前髪を捲ると、ビックリしたらしく身を縮ませた。 
「俺が外に行くと寂しくて悲しくて不安で心配で夜も眠れませんか」 
「……さすが弟者、俺の弟だけあってバカだな。さっきまでうたた寝してたんだ」 
 全然、ヨユーで眠れるっつーの。 
 強がった声に平手を食らわしてやりたい衝動は抑える。 
 花を潰さないよう労わる手を掴んで、ぐいと押す。花はぽろぽろ両手から零れて 
いった。 
 ヒキコモリの筋力じゃ押し返せず、都合よくベッドに追い詰められた途端、目が怯 
えた。 
 最後の一押しで痩せた身体は簡単にベッドに倒れ込む。 
「ヤメロ酔っ払い」 
「酔ってないんだ、実は」 
「酔ってるだろ」 
「全然。なあ兄者ちょっとだけ」 
「ちょっと待て、ちょっとって何だちょっとって」 
 Tシャツの裾から手を突っ込む。 
 ひ、と引き攣った声がして兄者の身体が硬くなる。スウェットをずるずる脱がすと、 
色気もへったくれもない痩せた腰周りがあらわになった。 
「ちょちょちょ、ちょっと、弟者もうシナイって前に――」 
「んー? なんつーか、青白くってキモいな兄者。さすがヒキコモリ」 
「……なら、もう、やめませんか」 
 太ももを撫で上げられて兄者はもう涙目。ぶるぶる震える膝頭。 
 頭に浮かんだのは、前に二人でやったエロゲ。 
 幼女がお留守番で近所のオニイチャンとイタズラするやつ。 
 今回はイタズラされるオニイチャン。 
 兄者の両手をそっと握る。やめてくれまいかと期待を持った目が俺の一挙一動を見 
つめている。 
 その期待を完全無視して、Tシャツの裾をそっと握らせた。 


「……何だこれは弟者」 
「胸の上まで、たくし上げといて」 
「……普通にイヤですが」 
「幼女はやってたのに」 
「何の話だ変態」 
 そう言いながら、手を下ろせないでいる。イヤだヤメロと言いながら、本気の抵抗 
は出来ないでいる。バカだ変態だと罵りながら、太ももを撫でる手を払えないでいる。 
 愚直にTシャツの裾を握る手が震えていたから、キスをした。硬く握られた指先に 
押し当てるだけの他愛ないやつを。それだけで兄者の身体は面白いようにビクつく。 
 挙動不審もいいところだが、悪さをしているのは俺なのだから笑いようもない。 
 笑えない。全く笑えない。 
 本当ならちゃんと待って、ちゃんと許しを貰って、ちゃんと同意を得て、ちゃんと 
求められて、こういうことをしたかった。 
 俺がいなけりゃ外界と簡単に遮断されるこの人は、外界を凄く怖がって嫌いながら、 
外界に嫌われたくなくて引き篭もっているのだ。 
「優しくしますよ」 
 覗き込むように顔を近付けると、震える声で酒臭いと言った。 
 律儀に胸の上までTシャツをたくし上げたまま足を開いて俺に好き勝手されて、最 
後の最後にノーと言えない弱さ。 
 そこに付け込む俺は卑屈で、ヒキコモリじゃないまともな兄者だったら蹴っ飛ばさ 
れるところだろうから、この状況に感謝すればいいのか何なのか分からなくなる。 
「全然、痛くしないし」 
 胸からわき腹に指を滑らせ、背筋をなぞって腰に手を回す。 



 前にしたのは冬だった。熱燗で酔ったふりをして強引に押し倒した。厚着の下の素 
肌はしっとりと暖かくて、汗の匂いに堪らなく興奮した。 
 お互い、今の今まで話題には絶対に出さないようにしてた、真冬の夜のアヤマチ。 
「前も大丈夫だったろ、兄者?」 
「前って、い、痛かっ、た、ぞ」 
 既に半泣きの声で抵抗とも呼べない抗議をするのは、誘ってるだけだと何回言えば 
このPC漬けの脳みそは理解するんだろう。 
 フーンと気のない返事をして、胸の尖りに唇を寄せると引き攣った悲鳴を上げて兄 
者は足を閉じようとした。脊髄反射で身を縮めようとする神経はまだ生きているらし 
いが、とっくに足の間に割り入った俺が見えてないのかこのバカは。 
 そしてまだTシャツを両手でたくし上げたままだこのバカ。 
 俺は最高に優しい笑顔でそっとその手を包む。 
「ごめん、兄者」 
「弟者……」 
 やめてくれるのか、と兄者が顔を綻ばせる。 
 俺は笑顔のままTシャツを一気に脱がす。 
 綻んだ顔のまま兄者はフリーズする。 
「脱いだほうが早いよな兄者、気がきかなくてすまん」 
 そんなだから毎日ブラクラを踏むのだ。 
 肩を押すと呆気なく簡単に兄者の身体はベッドに倒れて、俺はその上に覆い被さっ 
た。 



 引っ繰り返されて2回戦目で、ようやっと悲鳴以外の言葉が出た。 
 しかし、四つん這いで後ろから弟者に犯されてるなんて、どう対処すればいいのだ。 
「や、やめ、もう――弟者ヨッパだからって悪ふざけが、」 
「だから酔ってませんよ兄者」 
 そのままゆさゆさと揺さ振られて、悲鳴を堪えるために歯を食いしばる。弟者が言 
うには悲鳴じゃなく喘ぎ声らしいが、弟にやられて喘いでるなんて思いたくもない。 
 桜の花をくれた顔は優しかったのに。 
 PCエラーを処理してくれた時の口元は優しかったのに。 
 ごめん、と言った声は本当に優しかったのに。 
 そして今だって、自分の少ないリアルな性知識から鑑みても、出来るだけ優しく痛 
くない様に気遣ってくれているのに。 
「兄者」 
 耳元で囁かれる熱っぽい声は正直ちょっと気持ち悪い。征服される対象として見ら 
れていることが、まだ受け入れがたいからだ。 
「兄者」 
 それでも背筋をぞわつかせるのは、何だか熱っぽい以上に切ない感じがするからだ。 
 生まれた瞬間から一緒に居た自分の片割れは、こんなことをしながら、こんな自由 
に好き勝手に自分を弄りながら、何か分からないが切ないらしい。 
 弟者の指が内股をしつこく撫でる。慣れ親しんだ弟の手が、卑猥な動きで自分の足を。 
「あ、あ……弟者、ダメ、だ、そこ――うあっ」 
「エロゲ並みに、ここがイイデスカとか言っていいですか……」 
「バカか……っひ、ああッ」 
 もう一度耳元で兄者、と呼ぶ声が聞こえる。いつも甘やかしてくれる声が、甘える 
ように囁いてくる。それは――悪くない気がした。 
 逃がさないとばかりに肩を掴む手に手を重ねて、首を曲げて後ろを見たのは何故な 
のか、後から考えても分からない。 
「って、手加減、しろ……もう、逃げないから」 
 逃げさせろ、と何故言わなかったのか。 
 弟者の切ないような顔が、一瞬で救われたようにふやけたのは何故なのか。 
 嬉しそうに擦り寄ってきた唇に、自らキスをしたのは何故なのか。 
 衝動、としか今は言い様がない。 
 辛そうな弟を助けるのは兄と相場が決まっている、そう自分に言い聞かせて何が悪い。 



 目が覚めると、隣の自由人はまだ寝ていた。 
 ぐっすり眠り込んだ横顔に朝日は当たらない。カーテンが締め切られているからだ。 
「ヒキには朝もありませんか……」 
 ぼそ、と呟いてみたが反応はない。 
 目が覚めてから、牛みたいに何度も反芻していた。 
 昨日、兄者から「逃げない」と言われたこと。最中に言われたっていうのが重要ポ 
イントだ。 
 それからキスしてくれたこと。アメリカでもイギリスでもない日本国籍の兄弟間で 
唇にキスは重要ポイントだ。 
 その後、頑なだった身体がほんの少し俺に身を任せるように緊張を解いたこと。逃 
げ場を失って自暴自棄と言わばそれまでだが、その前に「逃げない」と「キス」が 
あったことが重要ポイントだ。 
 もしかして多分もしかしたら、まさかのまさかで――兄者も俺のことを。 
「ん?」 
 頬を撫でる指に違和感を感じたのか、兄者が目を覚ました。 
 呆けた顔で俺を見て、数秒停止した後、がばと跳ね起きた。跳ね馬のように乱暴に。 
 あたかもドラマや映画のワンシーンのごとく、眠る恋人に寄り添っていた俺にエル 
ボーを食らわせたのも気付かずに。 
「あー! あー、あー……花が」 
「へ?」 
 顎をさすりつつ身を起こすと、拾ってきた桜がしぼんでいた。 
 そりゃ水もやらず一晩放置すればこうなる。もともと木から自然に落ちた花弁だ、 
これが寿命だ。 
 しかし兄者は悲しいらしい。 
 唯一、割とまだ元気そうな一つを摘み上げて、俺を振り返る。目が必死。 
「弟者、何とかしろ」 
「え。無理」 
「水だ。水持って来い」 
「えー? いや無理じゃないすかね、これはもう。墓なら作るの手伝うが」 
 外には出たくないだろうから、植木鉢持ってきてやるぞ、と付け加えると憤慨した 
顔でベッドから降りた。 



「もういい、弟者には頼まん!」 
「どうでもいいが着るものは着て部屋から出てくださいよ、と」 
「……着るもの……」 
 一歩を踏み出した途端、くたくたくたとその身体がへたばっていく。 
 裸のまま床に倒れこんだ姿はかなり間抜けだ。 
「動けませんか、兄者」 
「お前のせいだ、弟者」 
「声も枯れてますね兄者」 
「だからお前のせい」 
「無理に喘ぐの我慢するからですよ、と」 
 水汲んでくるから、と頭をナデナデして昨日脱ぎ捨てた服を着て、部屋を出た。 
 何だか――普通の恋人同士のような、自然なやり取りだった気がする。思わず顔が 
にやけたところで、うふふ、と声が聞こえた。 
「ヒィ! 姉者!」 
「朝帰り君おはよう。さ、お姉さまから水のお恵みよ」 
「あ、ども。って、え? え? 聞こえて……」 
「朝は水を飲むものよ、違う? あらまあ、何を想像しているのかしら弟者は」 
 大袈裟に驚いた小芝居が憎らしい。 
「……朝帰り、って深夜のうちに帰りましたよ姉者」 
「あらそう。それにしては、寝間着に着替えなかったの? 昨日の服でしょう、それ。 
まあ、どっちでもいいけど。じゃ、これは兄者の分よ」 
 水がなみなみと入れられたコップを2つ持たされて、笑顔が引き攣る。 
「じゃあ、今度から玄関のドアは静かに開けるのよ。真夜中はご近所迷惑だから」 
「朝帰りと思ってたんじゃないんですか」 
「え? 兄者がスヤスヤ寝てるんじゃないかとヤキモキして、乱暴にドアを開けて起 
こした弟者の声が何だか今は聞こえづらいの。もう一度言ってくれないかしら」 
「何でもありませんよ姉者」 
「花は押し花にでもして、しおりにするといいわ――エロ本のしおりに使ったら母者 
にチクるわよ」 
 うふふ。笑う姉者はアルカイックスマイルで去っていく。 



 Uターンで部屋に帰ると、さっそくPCの前に座った兄者が鷹揚に出迎えてくれた。 
「腰も立たないのにPCですか、さすがだな兄者」 
 布団に包まった団子状態で、熱心にPC画面を見ている面を張り飛ばしてやりたい。 
「直ってる直ってる~。桜の花を長持ちさせるには、と……」 
「……だから、無理だって兄者。姉者が押し花にでもしたらどうかと言ってたぞ」 
「押し花か、まあ……それも悪くないかな。おしばな、と……あったあった」 
 積み上げられた雑誌タワーに伸びる手は青白い。友人たちの多少なり男らしい筋肉 
の付いた腕とは、やはりちょっと違う。 
 モニタに映し出された作り方を何度も確認しながら、布団で際どいとこだけ隠した 
ヒキコモリが丁寧に桜の押し花を作っていく。全裸で。 
 不器用な手が懸命に花びらを整える様子がたまらなく愛しくて、傷んだ花ひとつを 
大事にしなきゃいけないこの人の生活が悲しくて、思わず手が出た。 
 さっと綺麗に花びらを広げ、素早くティッシュを被せて雑誌で重しをする。 
 ぽかんと見ていた兄者が、おおーとか馬鹿みたいな歓声を上げて喜んだ。 
「やっぱり弟者は頼りになるな」 
「……あのさ、全面的に信頼してくれるのは構わんのだが……あんまり無防備だと、 
また襲うぞ」 
「え。あ、うわ、ちょっとそれは」 
 もたもたと布団ごとベッドに非難して、服を探す姿は間抜けだ。 
 馬鹿なオニイチャン。そんなに俺を信頼するな。しかも昨日の今日で信頼しちゃう 
なんて、どうかしてる。 
 俺は人でなしだから、今のこの状況にある意味満足している。俺がいなけりゃ駄目 
なんて、それなんてエロゲだ馬鹿兄。 
 でもやっぱり、元気に外でデートもしてみたいから、いつか一緒に花見にいこう。 
 次の春がきたら誘ってみよう。いつか春に二人で花見に行こう。 
 何度でも誘うし、いつまでだって待つし、その間はずっと桜を拾ってきてやる。 
 こんなんで満足するなら、お安いもんだ。 



「……な、兄者」 
「なんだ寄るな」 
「タンスはあそこにあるわけだが」 
「だから寄るな。ちょっと待てお前、なんでベッドに上がってくるんだ」 
「兄者とタンスの間には今、俺という障害物があるわけで」 
「いやいやいやおかしい、おかしいぞ弟者。うん、えっと、服を取りに行かせてくだ 
さい」 
「――いかせて下さい?」 
「そこだけ抜き出すな!」 
 薄暗い部屋で布団の引っ張り合い。 
 まだ蛍光灯がついてないから、この部屋は夜のままだ。 
 いつか告白、出来るだろうか。ちゃんと、目を見て真剣に、酒も飲まずに誤魔化さ 
ないで。 
「まだ酔ってるだろ、弟者目を覚ませー!」 
 半泣きで布団にしがみ付く兄者はもう必死だ。 
「分かった、分かった。もうシナイ」 
「……ほ、ほんとだな? もうシナイな?」 
「とりあえず、今はしない」 
「今は?! 今は、ってお前、」 
「それでダメなら今する、俺は腰を痛めた兄者に無理をさせたくないがどうする」 
「う。……え、ええ? お前、俺を気遣ってるのか何なのか分からんぞ……」 

 俺の中には色々と負い目があって、だからあんたに逆らえない。 
 気持ちを告げないまま抱いたこと、気持ちを聞かないまま抱いたこと。 
 本当はずっと昔からこうしたかったこと、本当はずっと昔からこうはしたくなかっ 
たこと。 
 まあ基本的に惚れた側だから、俺はいつでもあんたに負ける。 

end. 



あああエロ有無の注意喚起忘れてるし!(´・ェ・`) 
うっかりもいいとこだ、長いしゴメン 

ほんとゴメン
- gj!お陰で流石兄弟に目覚めた! --  &new{2010-12-08 (水) 02:40:20};
- 兄者 弟者 --  &new{2011-02-27 (日) 23:06:42};
- ありがとう、数年ぶりに再熱した --  &new{2015-08-17 (月) 13:40:00};
- 何回読んでもいいわぁ.... --  &new{2015-10-08 (木) 01:31:29};
- 何度読んでもいいな --  &new{2021-05-12 (水) 19:04:28};

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