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羽ト秋

 秋レスの邸宅で開かれた宴会の席で、初めて酒を飲んだパトロ
クロスがしたたか酔った。酔いのあまり、子供が駄々をこねるよ
うに秋レスの腰の辺りに抱きつくパトロ黒スを、ミュルミド
ンの兵士たちは苦笑して眺めている。パトロ黒スが少年の頃か
ら彼を知っているエウド口スは、まだまだ子供だなと呟いていた
が、秋レスにしてみれば、内心気が気でない。パトロ黒スが
さっきから身体に触れてくるからだ。こんなふうに身体に触って
くる子供などいるはずがないと言いたくなる衝動を堪えて、アキ
レスは抱きついてくるパトロ黒スの身体を揺さぶった。
 「――パトロ黒ス、水を飲んで酔いを覚ませ」
 「んん?馬鹿だなあ、秋レス、水飲んだら酔いが覚めちゃう
よ…」
 ほんのりと頬を染めて微笑みながら言い返した従兄弟を、アキ
レスは眉を寄せて見つめ返した。
 「だから、覚ませと言ってるんだ。まったく」
 「大人って変なこと言うんだね。酒を飲めって言うから飲んだ
んじゃないか。飲んだら酔うのは道理だよ。それを覚ませなんて」
 笑いながらそう言って、パトロ黒スはひょいと身を乗り出し
た。言いつけどおりに水を飲むのかと思ったが、そうではなくて、
秋レスの右耳にキスをしただけだった。軽く唇が触れたあと、
熱い吐息を肌に感じ、秋レスは身構える。――ここのところパ
トロクロスと共有している快楽を連想してしまったのだった。
 「おやおや、こうしていると、パトロ黒ス様は少年だった頃
と変わりませんね」
 「本当に秋レス様に懐いてらっしゃる。可愛らしいことだ」
 戦場では勇猛果敢な男達も、何故かこのパトロ黒スには甘い。
今も皆が目を細めて、秋レスにべったりと身体を寄せるパトロ
クロスを眺めていた。パトロ黒スはミュルミドソの兵達にとっ
ては、無垢の象徴のようなものだから、皆自分の弟のように可愛
がる。そう仕向けてきたのは他ならぬ秋レスだった。

 だがしかし、再びパトロ黒スと夜を過ごし始めた秋レスに
してみれば、酔ったパトロ黒スが部下達に余計なことを零しそ
うで気が休まらない。しかも今は、秋レスがパトロ黒スを抱
いている回数より、その逆のほうが多いのだ。少年のようなパト
ロクロスに最強の兵と言われる自分が抱かれていると知られれば、
部下達への威信も揺らぐだろう。そんなことを秋レスが考えて
いるというのに、パトロ黒スは相変わらず身体に触れてくる。
 「秋レスの身体ってー、すごいよねえ、僕もこんな身体にな
れるかなあ」
 今も秋レスの太股の筋肉を指でなぞりながら、うっとりと呟く
パトロクロスの声を、秋レスは困りながら聞いていた。早く黙らせない
と面倒なことになりかねない。そう思っていると、エウド口スが
水の入った杯をさりげなくパトロ黒スの前に置きながら、微笑
んで頷いた。
 「いつかはなりましょう。なにしろ、よく似てらっしゃいます
から。パトロ黒ス様は秋レス様に」
 秋レスにしなだれかかっていたパトロ黒スが姿勢を正した。
 「本当?ねえねえ、秋レスが僕くらいの頃ってどんなだった
?」
 「それはもう美しくていらっしゃいましたよ。――今のパトロ
クロス様より華奢で。それでも既に誰よりも強く。かと思えば可
愛らしくて」
 「本当に?でも今だって秋レスは可愛いよ。例えば夜」
 「――パトロ黒ス、そろそろ休め」
 このままだと本当に困ったことになりかねないと思ったので、
秋レスはパトロ黒スの衣を引っ張り、無理やり立たせた。
 「どうもパトロ黒スは酔いが過ぎたようだ。今夜は私の寝台
で寝かせる。行くぞ」
 まだ飲み足りないと、いっぱしの口を利くパトロ黒スを引き
摺るようにして、秋レスは自分の寝室へと向かった。

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