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振動×剤然(前スレ530 -17)

背中に固く冷たいコンクリートを感じる。胸には人の温かい重み。そして、
微かに煙草の香りのする吐息――
剤然によって壁際に押し付けられ、唇を覆われているのだと頭が理解するより先に
身体が動いていた。自分を拘束した相手の肘を取って強く引きながら、上体を
左に捻って壁から逃れる。
驚いたように大きく目を見開いた外科医の睫毛が振動の頬骨を掠めた。
自由になった腕が、彼を引き剥がすのとは逆の動きをしたからだ。
振動は剤然の小さな頭を抱え込み、もっと深く唇を合わせられるよう角度を付けた。
口を開かせるのに、舌で促すのがもどかしくて顎関節を掴む。
そうやって前歯をこじ開け、少し苦い舌を探り当てると強く吸い上げた。
半ば噛み付き、飲み込まんばかりに貪って、その限界を知ると今度は自分の舌を
剤然の口腔内に突き入れて中を無茶苦茶にかき回す。相手が息を詰まらせようと
咳き込もうとお構いなしだった。こんな口付けをした事は今までに無い。

振動を動かしていたのは、ひどく動物的で切実な衝動だった。
今こうしている相手が誰なのか、そして自分との人間関係ももちろん、ここが
どういった場所か、それどころか自身が何者であるかさえ、その瞬間にはすべて
吹き飛んでいた。
頭の中を占めるのは、つい先刻自分を魅了した冷たい横顔、光る瞳、曖昧な瞬き。
ただそれが欲しかった。それらを含んだ身体全部、目の前の、ここに在る。それを
まるごと、今すぐに、何もかも。

細い肩を抱きすくめていた左腕を互いの身体の間に差し込んで襟元を探る。
上等な手触りのタイを掴むとノットを乱暴に左右に引っ張って緩め、首とシャツの
襟の間に指を4本無理矢理入れて力ずくで下に引いた。ボタンの糸が切れる
鈍い感触が手首の関節に響く。次いで頭を支えていた右手を肩甲骨の下にずらし、
すくい上げるようにしながら相手の膝裏に脚をかけて引き倒そうとした、その時。

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